吾郎の妹ポジになった転生者 作:とくめいです
次の日の午後。私は苺プロの斉藤社長と引き合わせられた。先方は怪訝そうな顔でこちらを伺う。スキャンダルに人一倍気を遣う立場なのだから、その対応は当然だろう。
「こちらはアイの後見人の斉藤壱護さん。斉藤さん、こちらは雨宮ハルナ。うちで預かっている子です」
彼の紹介にぺこりとお辞儀すると、ご丁寧にどうも、と返された。社会的な常識はアイさんよりもありそうだ。さすが社長。
「先生、これはどういう……」
「実はこの子にアイを目撃されましてね」
「私も挨拶したよー♪」
「なっ?!」
絶句する社長……まあそうなるよね。
「先生ェ……外部には漏らさないって言ってたじゃないですか」
「不可抗力だったので。ですが、まだ最悪なケースではありません」
そういうと、彼は私の背中に手を置いた。
「私は先生の管理下にある子どもとして病院に認知されています。有り体に言えば、関係者と言えます」
「……え?」
「先生の守秘義務に抵触しそうな情報は一切漏らしません。保護者の不利になるような行動は、自らの生活基盤を揺るがしかねないと理解しているからです」
「……はあ」
「もし、信用出来ないとあれば誓約によって縛ることも許容する所存です。先生が後見人として署名してくれますし」
「いや、いやいや。ちょっと待ってくれ」
社長が慌てて会話をとめる。
ふーっ、と溜め息をついてからこちらを見た。
「お嬢ちゃん、幾つだっけ?」
「今年で十二になります」
「……うちのアイよりシッカリしてるなぁ」
「照れるねぇ(-д☆)キラッ」
「褒めてねぇよ」
社長さんのやる気のないツッコミ。たしかに褒めてないですよね。
「先生、一つ聞いていいですかい?」
「どうぞ?」
「……この子。実は成人してるとかないよな?」
「必要なら戸籍も用意しますが」
「……いや、マジかよ」
暫し嘆息したあと、「未成年と秘密保持誓約書とか書けねぇよなぁ」と呟いていた。見た目に寄らず、いい人なのかも。
「アイが問題ないなら、俺に異存はない。どうだ、アイ?」
「なんにもないよ? てか佐藤社長もハルちゃんも難しいこと話してるね。なんのはなし?」
最強で無敵のアイドル……たしかにその通り。問題を認識しなければ問題にはなり得ない。まさに強者の理論ですね。それと社長の名字は斉藤だったはず。わたしの名前は、まあさりなちゃんも略していたし構わないけど。
「あー、おーらいおーらい。もういいや。先生の子供だから目溢せって事でいいッスよ」
「恐縮です」
「私は子供じゃないですよ」
そこは譲れないところだ。
彼が私の頬をつついてから話を続けた。そんなに怒ってたかな?
「社長はずっと付き添いは出来ないそうなので、彼女にはアイさんの介助をお願いしようかと思います」
「かいじょ?」
アイさんが首を傾げてる……介助、という言葉が浮かんでないのかもしれない。
「それは……コッチは願ったりだけど、いいんですかい?」
私に視線を送ってから彼に話しかける社長。
「看護師が出来ない私物の買い出しが主になります。当人もアイのファンでして、一助になりたいと思ってます」
「学校があるので夕方にしか伺えませんが、メールか電話でお伝え頂ければその日にお持ちできます」
長期の入院となるので、私物は足りなくなる可能性が高い。姿をなるべくさらさないようにするには、誰かが買い物をするしかないし、そもそも臨月近くは出歩くのも難しくなる。本来ならヘルパーとかを頼むのがスジではあるけど。
「見ての通り出来た子なので、外部に漏らすことは無いと断言出来ます」
「いや、でもなぁ……年頃の女の子って口が軽いから」
社長がアイさんを眺めながらそう呟く。彼女は「?」と首を傾げた……なんか話に関わろうとしてないな。
「友達も居ないので、話す相手もいませんし」
「いや、友達は作ろうよ……」
「ホントだぞ、ハルナ……」
二人してうつむいちゃった……なんか、ごめんなさい。
「! じゃあ、なろうよ。ともだちっ♪」
「え」
すると。アイさんがいきなり手を握ってきた。
「私もファンと友達になりたかったんだ! ほら、社長はファンとはあんまり近づくな〜って言うし」
「そりゃ当たり前だろ」
うん、それは社長の言う事のほうが正しいと思う。ファンというのは基本的には崇拝してくるもので、友達という関係にはならない。
でも……ともだち、か。
ちらり。彼の方を見る。頷いている。社長に視線を向けると、こちらはどう答えたものかと思案顔だ。
「よろしいのですか? 私はその……世間一般的な女子児童では無いですし」
「私だって、フツーじゃないよ? アイドルやってるし、こどももできちゃったし」
ああ、社長さんがうつむいちゃった。
「それに私も友達ってあんまり……というか全然いないし」
「え……」
スターダムを駆け上がるB小町のアイさんに、友達がいない? イメージから言うとかなり社交的で……それに同じグループのメンバーは……友達ではないの?
「それとも。いっそB小町に入っちゃったらどう? 妹分とか欲しかったんだよねー♪」
「そ、そちらは遠慮します」
「ありゃ、即決? はっきり言うな〜」
さすがにこんな軽いノリでアイドルなんて出来ない。いや、丁寧に言われても断るけど。
「こらアイ。俺を差し置いて勧誘とかすんな」
「はーい。じゃあ、友達から。ヨロシク♪」
手を握られて、キラキラした星の輝きのような瞳に見つめられる。こ、これはなんともすごい、威力だ。めったに動揺しないとの自負はあるのだけど、これはムリだ。
「ともだちからで……おねがいしますぅ……」
「うんっ♪」
こうして。
私はアイドルと関わるようになった。
それまでの平穏な日々から一転だ。なんとも不安が
次の日。
「ですからこんなにアイス食べちゃダメですよ」
「え〜っ! だって、せっかくハルちゃんが買ってきてくれたんだよ?」
「あと、ラムレーズンは控えて下さい。微量でもアルコール入ってますから」
「がーんっ!」
某高級アイスを十個買ってきてと頼まれたのですが……先に彼に問い合わせるべきだったようですね。反省。
「んじゃ、これはみんなで食べよ♪ はい、先生。はい、ハルちゃん」
そう言って私たちに渡しつつ、自分はチョコクッキー味の蓋を外していた。これは買収……いや、賄賂か?
「やれやれ……次からはもっと少なく購入して下さい。ハルナも、先に連絡してくれよ」
「はい、先生」
「ん〜、おいしーい♪」
仕方ないなぁ、と彼は病室に備え付けの椅子を二脚取り出して座り込むと、おもむろにアイスを食べ始めた。私に目配せをしてきたので、それに倣うことにする。
めったに食べない高級アイスはとっても固く、なかなか匙が入らない。薄いプラスチックの匙はなんだか折れそうである。彼はよくもまあ器用に食べているなと感心する。
そこにアイさんが何かを差し出してきた。
「これ使ってみて。簡単に食べられるよ♪」
彼女がくれたのは、未開封のスプーンだ。でも、なんだか形がちょっと違うような。なんだか切り出した板みたいである。
「おおっ」
それはすんなりとアイスの中に滑り込んでいった。先ほどの匙とは比べようもない。
「これ固くって食べづらくてさ〜、美味し〜んだけど。そしたら社長がコレ教えてくれてね」
なるほど。伝導率の高い金属なのか。ケーキを切る時に温めるのと同じだね。
「あ」
パキン、という音と共に彼の声。
手の中には折れた匙の手元だけ。そしてアイスに突き刺さったままの切れ端。
「はい、先生もどうぞ♪」
「すいません……て、幾つ持ってるんです?」
「あと、三本あるよー。無くしちゃうと困ると思って。お近づきの印に、どぞー♪」
そんなに予備を持ち歩く人はあまりいないと思いますが。意外と慎重派なのかな?
最終的に、私と彼の分のアイス代はちゃんとアイさんに返還された。ただ、匙に関して代金を払おうとしたら固辞された。
「これで一緒にアイス食べてくれるでしょ?」
なんとも。
食えない人物だなと思った。
「斉藤社長も奥さんも付き合ってくれないんだ。太るからって。私、二個くらいぺろっと食べても全然太らないんだけどなー」
「それはレッスンとかで消費してるからだよ。基礎代謝もあるけど、過度な運動は出来ないのでこれからは制限されますよ」
「がーんっ!」
彼にツッコまれて涙目になるアイさんも、それはそれで可愛いなと思った。
雨宮ハルナ
お買い物ヘルパーに就任する。さらに友だちもできるという、ほんのり満たされた感じ。『アイスは一回二個まで』『がーんっ!』
星野アイ
友だちとしての認識の付き合いはおそらく初めて。B小町メンバーは仲の良い知り合いくらい。たぶん似た者同士という共感があった。『じゃあ、チョコとかお願い♪』『カロリー的にダメだそうです』『がーんっ!』
雨宮吾郎
わりとマジメな仕事をしてる。ま、子供にカッコ悪いところ、見せたくないだろうし。
斉藤壱護
アイとは別な意味で逸材を発見する。『見た目イケるし、B小町の妹分か……少し熟考してみよう』