吾郎の妹ポジになった転生者   作:とくめいです

4 / 68
次の日、診察室にて。というかここの病院おかしくない? というのはスルーでお願いします。


04

 次の日の午後。私は苺プロの斉藤社長と引き合わせられた。先方は怪訝そうな顔でこちらを伺う。スキャンダルに人一倍気を遣う立場なのだから、その対応は当然だろう。

 

「こちらはアイの後見人の斉藤壱護さん。斉藤さん、こちらは雨宮ハルナ。うちで預かっている子です」

 

 彼の紹介にぺこりとお辞儀すると、ご丁寧にどうも、と返された。社会的な常識はアイさんよりもありそうだ。さすが社長。

 

「先生、これはどういう……」

「実はこの子にアイを目撃されましてね」

「私も挨拶したよー♪」

「なっ?!」

 

 絶句する社長……まあそうなるよね。

 

「先生ェ……外部には漏らさないって言ってたじゃないですか」

「不可抗力だったので。ですが、まだ最悪なケースではありません」

 

 そういうと、彼は私の背中に手を置いた。

 

「私は先生の管理下にある子どもとして病院に認知されています。有り体に言えば、関係者と言えます」

「……え?」

「先生の守秘義務に抵触しそうな情報は一切漏らしません。保護者の不利になるような行動は、自らの生活基盤を揺るがしかねないと理解しているからです」

「……はあ」

「もし、信用出来ないとあれば誓約によって縛ることも許容する所存です。先生が後見人として署名してくれますし」

「いや、いやいや。ちょっと待ってくれ」

 

 社長が慌てて会話をとめる。

 ふーっ、と溜め息をついてからこちらを見た。

 

「お嬢ちゃん、幾つだっけ?」

「今年で十二になります」

「……うちのアイよりシッカリしてるなぁ」

「照れるねぇ(-д☆)キラッ」

「褒めてねぇよ」

 

 社長さんのやる気のないツッコミ。たしかに褒めてないですよね。

 

「先生、一つ聞いていいですかい?」

「どうぞ?」

「……この子。実は成人してるとかないよな?」

「必要なら戸籍も用意しますが」

「……いや、マジかよ」

 

 暫し嘆息したあと、「未成年と秘密保持誓約書とか書けねぇよなぁ」と呟いていた。見た目に寄らず、いい人なのかも。

 

「アイが問題ないなら、俺に異存はない。どうだ、アイ?」

「なんにもないよ? てか佐藤社長もハルちゃんも難しいこと話してるね。なんのはなし?」

 

 最強で無敵のアイドル……たしかにその通り。問題を認識しなければ問題にはなり得ない。まさに強者の理論ですね。それと社長の名字は斉藤だったはず。わたしの名前は、まあさりなちゃんも略していたし構わないけど。

 

「あー、おーらいおーらい。もういいや。先生の子供だから目溢せって事でいいッスよ」

「恐縮です」

「私は子供じゃないですよ」

 

 そこは譲れないところだ。

 彼が私の頬をつついてから話を続けた。そんなに怒ってたかな?

 

「社長はずっと付き添いは出来ないそうなので、彼女にはアイさんの介助をお願いしようかと思います」

「かいじょ?」

 

 アイさんが首を傾げてる……介助、という言葉が浮かんでないのかもしれない。

 

「それは……コッチは願ったりだけど、いいんですかい?」

 

 私に視線を送ってから彼に話しかける社長。

 

「看護師が出来ない私物の買い出しが主になります。当人もアイのファンでして、一助になりたいと思ってます」

「学校があるので夕方にしか伺えませんが、メールか電話でお伝え頂ければその日にお持ちできます」

 

 長期の入院となるので、私物は足りなくなる可能性が高い。姿をなるべくさらさないようにするには、誰かが買い物をするしかないし、そもそも臨月近くは出歩くのも難しくなる。本来ならヘルパーとかを頼むのがスジではあるけど。

 

「見ての通り出来た子なので、外部に漏らすことは無いと断言出来ます」

「いや、でもなぁ……年頃の女の子って口が軽いから」

 

 社長がアイさんを眺めながらそう呟く。彼女は「?」と首を傾げた……なんか話に関わろうとしてないな。

 

「友達も居ないので、話す相手もいませんし」

「いや、友達は作ろうよ……」

「ホントだぞ、ハルナ……」

 

 二人してうつむいちゃった……なんか、ごめんなさい。

 

「! じゃあ、なろうよ。ともだちっ♪」

「え」

 

 すると。アイさんがいきなり手を握ってきた。

 

「私もファンと友達になりたかったんだ! ほら、社長はファンとはあんまり近づくな〜って言うし」

「そりゃ当たり前だろ」

 

 うん、それは社長の言う事のほうが正しいと思う。ファンというのは基本的には崇拝してくるもので、友達という関係にはならない。

 

 でも……ともだち、か。

 

 ちらり。彼の方を見る。頷いている。社長に視線を向けると、こちらはどう答えたものかと思案顔だ。

 

「よろしいのですか? 私はその……世間一般的な女子児童では無いですし」

「私だって、フツーじゃないよ? アイドルやってるし、こどももできちゃったし」

 

 ああ、社長さんがうつむいちゃった。

 

「それに私も友達ってあんまり……というか全然いないし」

「え……」

 

 スターダムを駆け上がるB小町のアイさんに、友達がいない? イメージから言うとかなり社交的で……それに同じグループのメンバーは……友達ではないの?

 

「それとも。いっそB小町に入っちゃったらどう? 妹分とか欲しかったんだよねー♪」

「そ、そちらは遠慮します」

「ありゃ、即決? はっきり言うな〜」

 

 さすがにこんな軽いノリでアイドルなんて出来ない。いや、丁寧に言われても断るけど。

 

「こらアイ。俺を差し置いて勧誘とかすんな」

「はーい。じゃあ、友達から。ヨロシク♪」

 

 手を握られて、キラキラした星の輝きのような瞳に見つめられる。こ、これはなんともすごい、威力だ。めったに動揺しないとの自負はあるのだけど、これはムリだ。

 

「ともだちからで……おねがいしますぅ……」

「うんっ♪」

 

 

 

 こうして。

 私はアイドルと関わるようになった。

 

 それまでの平穏な日々から一転だ。なんとも不安が()ぎるのだけど、それも子供が生まれるまでのことだ。彼のためにもなるし。

 

 

 

 次の日。

 

 

 

「ですからこんなにアイス食べちゃダメですよ」

「え〜っ! だって、せっかくハルちゃんが買ってきてくれたんだよ?」

「あと、ラムレーズンは控えて下さい。微量でもアルコール入ってますから」

「がーんっ!」

 

 某高級アイスを十個買ってきてと頼まれたのですが……先に彼に問い合わせるべきだったようですね。反省。

 

「んじゃ、これはみんなで食べよ♪ はい、先生。はい、ハルちゃん」

 

 そう言って私たちに渡しつつ、自分はチョコクッキー味の蓋を外していた。これは買収……いや、賄賂か?

 

「やれやれ……次からはもっと少なく購入して下さい。ハルナも、先に連絡してくれよ」

「はい、先生」

「ん〜、おいしーい♪」

 

 仕方ないなぁ、と彼は病室に備え付けの椅子を二脚取り出して座り込むと、おもむろにアイスを食べ始めた。私に目配せをしてきたので、それに倣うことにする。

 

 めったに食べない高級アイスはとっても固く、なかなか匙が入らない。薄いプラスチックの匙はなんだか折れそうである。彼はよくもまあ器用に食べているなと感心する。

 そこにアイさんが何かを差し出してきた。

 

「これ使ってみて。簡単に食べられるよ♪」

 

 彼女がくれたのは、未開封のスプーンだ。でも、なんだか形がちょっと違うような。なんだか切り出した板みたいである。

 

「おおっ」

 

 それはすんなりとアイスの中に滑り込んでいった。先ほどの匙とは比べようもない。

 

「これ固くって食べづらくてさ〜、美味し〜んだけど。そしたら社長がコレ教えてくれてね」

 

 なるほど。伝導率の高い金属なのか。ケーキを切る時に温めるのと同じだね。

 

「あ」

 

 パキン、という音と共に彼の声。

 手の中には折れた匙の手元だけ。そしてアイスに突き刺さったままの切れ端。

 

「はい、先生もどうぞ♪」

「すいません……て、幾つ持ってるんです?」

「あと、三本あるよー。無くしちゃうと困ると思って。お近づきの印に、どぞー♪」

 

 そんなに予備を持ち歩く人はあまりいないと思いますが。意外と慎重派なのかな?

 

 

 

 最終的に、私と彼の分のアイス代はちゃんとアイさんに返還された。ただ、匙に関して代金を払おうとしたら固辞された。

 

「これで一緒にアイス食べてくれるでしょ?」

 

 なんとも。

 食えない人物だなと思った。

 

「斉藤社長も奥さんも付き合ってくれないんだ。太るからって。私、二個くらいぺろっと食べても全然太らないんだけどなー」

「それはレッスンとかで消費してるからだよ。基礎代謝もあるけど、過度な運動は出来ないのでこれからは制限されますよ」

「がーんっ!」

 

 彼にツッコまれて涙目になるアイさんも、それはそれで可愛いなと思った。




雨宮ハルナ

お買い物ヘルパーに就任する。さらに友だちもできるという、ほんのり満たされた感じ。『アイスは一回二個まで』『がーんっ!』

星野アイ

友だちとしての認識の付き合いはおそらく初めて。B小町メンバーは仲の良い知り合いくらい。たぶん似た者同士という共感があった。『じゃあ、チョコとかお願い♪』『カロリー的にダメだそうです』『がーんっ!』

雨宮吾郎

わりとマジメな仕事をしてる。ま、子供にカッコ悪いところ、見せたくないだろうし。

斉藤壱護

アイとは別な意味で逸材を発見する。『見た目イケるし、B小町の妹分か……少し熟考してみよう』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。