吾郎の妹ポジになった転生者   作:とくめいです

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前回の次の日。学校からの帰宅途中のハルナです。


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 ふう。

 

 夏も過ぎて少しだけ過ごしやすくなってきた初秋。半袖の夏服も少しだけ心もとなくなる時期に、私は公園で黄昏れていました。

 

『いいね〜♪ 高校卒業資格取れるんだ。私、やってみるよ』

 

 そう嬉しそうに言ったアイさんの笑顔は、たぶん本心からだと理解してます。

 

 だからこそ、その次の言葉は分かりませんでした。

 

 

 

『でも、ハルちゃんはちゃんと学校に行ったほうがいいと思う。私に付き合う必要は無いよ?』

 

 

 梯子を外された、というのでしょうか。

 自身は通信制の高校を受けるけど、私には全日制の高校に行けとはどういうことなのでしょう。

 

『そうだな。アイに付き合う必要はない』

 

 社長もそう言いました。

 

 アイさんは学歴が足りないことを悔いていた事は知っています。高卒認定を受けても最終学歴は『中卒』となるので、就職という面に不利になるのは分かります。

 

 なので、この手段があると分かった時は天啓だと思いました。

 

 なのに、なんで……。

 

 

 『アイさんと学校に通う。』

 

 それを思いついたとき、私はとても喜びました。

 

 通信制とはいえスクーリングという授業では学校のように通学するし、尚且つ勉強の殆どはネットを利用した個人授業です。

 芸能活動をしつつ行うには適切なスタイルと言えます。現にアイさんも乗り気でしたし。

 

 何故なのでしょう。

 

 

 

 

 ──もしかして。

 

 私と学校に通うことが嫌、なのかも。

 

 否定したかった。

 

 あの日、暖かく受け入れてくれた事を思い出す。

 

 自らのせいであの人を死に追いやってしまったと悔いて涙したアイさん。私を引き取ってと社長に懇願したと聞いた時は、ありえないことだと思っていた。

 

 双子ちゃんを養う姿は、確かに頼りなさは感じたものの母としてやるべきことをしていこうとする姿勢が見受けられた。

 

 私は彼女をサポートしてはいたが、それも次第に要らなくなっていた。物覚えが悪いとは言われていたけど、それはどうも後天的な要因であったようで、おそらく生来の彼女は頭もよく、ずっと賢いと思える。

 

 彼女が習熟する事に忌避感があるというのは、ひょっとしたら学校自体に忌避感があるからなのか、とも思えた。

 

 それならば納得もいく。

 というか、そうであって欲しいと望んでいた。

 

 もし、自分と学校に行くことが嫌だと言われたら。

 

 私を認めてくれるひとは、

 もうこの世に居ないということになってしまう。

 

 

 

 

 

「こんなところで何をしてますの?」

 

 深く考えすぎていたのか。

 ボンヤリとしていた所に声がかけられました。

 

「……九条さん」

「え、ちょっと。本当にどうなさいましたの?」

 

 九条さんが慌てています。

 どうかなさったのでしょうか?

 

「あ、芦原っ」

「はい、お嬢さま」

「車を回しておいて」

「はい」

 

 そう言うと。

 彼女は私に肩を貸す形で立ち上がります。

 

「なにをなさってるのですか?」

「そんな死にそうな顔をしてるの、ほっとけませんわよ」

 

 死にそうなかお?

 

 そうなのでしょうか。

 言われてみれば、お腹も少し痛いですし。

 

 

 ――死ぬの、かな?

 

「それでも、いいです……」

「何をおっしゃいますの?」

 

 九条さんは否定してくれます。

 

 ですが、私にはそんな価値はありません。

 

 あの人を失い。

 アイさんにも見限られれば。

 

 残るわたしに、価値はありません。

 

 せめて、あのひとに会えるなら。

 

 この、胸に残る疼きも。

 

 この切ないような苦しみも。

 

 如何様(いかよう)にでも耐えられるのに。

 

「あう……っ」

「ちょ、もう少しですわよ」

 

 お腹の痛みが強くなり、いよいよもって意識がはっきりしなくなります。九条さんの泣きそうな顔が、見えますが。

 

 ああ。

 

 あの時の貴方も、こう見えたのですか。

 

 九条さんの声が薄く、遠くに聞こえています。

 

 

 

 

・・( *¯ ꒳¯*)・・

 

 

 

 送迎の車をハルナの家の近くへと回させる。運転手の芦原ももう慣れた様子だ。

 

 雨宮ハルナは、私の幼なじみである。

 

 

 

 

 

 最初の印象は、消え入りそうな薄幸の美少女だった。私も自分には自信はあったけど、彼女と比べるとどうしても劣るということが幼いうちに分かってしまった。

 

 小学校のクラスで、一人で浮いていた彼女は孤高であり。誰も近寄ろうとはしなかった。

 そもそも、友達を必要としていたわけでもなさそうだった。浮世離れした容姿と相まって、彼女は一人でも生きていけると勝手に思っていた。

 

 その印象が変わったのは小学校四年生の学芸会のとき。 私たちのやった演目は『シンデレラ』。私がシンデレラでイジワルな姉が彼女で。演技自体はイヤミな姉というか無関心な姉という解釈で好演でしたけど、舞台袖からキョロキョロと客席を眺めていたことが気になり『集中出来てないわよ』と注意をしたことがある。

 

『す、すみません』

『ちゃんとしてよね』

 

 自分の(主演)舞台ということもあり、少しキツく言ってしまったけど。彼女はそれからきちんと集中してくれた。お陰で東京から来ていたパパに良いところを見せられた。

 

 舞台が終わって。みんなが親たちと会話している最中に、わたわたと走り込んできた親がいた。少し若い男性は、ハルナを見つけてその側にしゃがみ込んで抱きしめていた。

 

 その時の彼女の表情は、今でもわすれられない。

 

 薄い氷が溶けていって、春を思わせるような。

 そんな嬉しさのこみ上げてくる笑顔だった。

 

 あんな笑顔が出来るなら、シンデレラは彼女がやるべきだ。家に帰ってからママにそう言った。

 ママは彼女のことを知っていた。ママはこの町で唯一の総合病院に通っていたから。

 

『一華は、パパとママがいなくなったらかなしいでしょう?』

 

 その言葉を聞いただけで、私はとても悲しくなった。一番好きなママと会えないなんて考えられないし。たまにしか会えなくても、おヒゲが痛くても、パパと会えないなんて辛すぎる。

 

『あの子の本当の親御さんは、もう居ないの』

 

 それは、飼っていた文鳥が動かなくなった時に言われた言葉。聴いただけでも震える程に怖くなった言葉。死という概念は、この頃の私には恐怖でしかなかった。

 

 死を身近で体験していた。

 それは私には到底信じられないことであり。

 同時に興味の対象へとなった。

 

 そして、あの事件。

 あのひとの良さそうな保護者の男性も亡くなってしまい、天涯孤独となってしまった彼女。

 

 寄り添ってあげないといけない。

 あの人に抱きしめられた時に見せたあの笑顔を、曇らせてはいけない。

 

 そう心に決めて、中学校ではなるべく一緒に居てあげようと心に誓った。

 

 

 そして、彼女は居なかった。二クラスあるどちらにもいなかった。私は携帯に電話をかけた。

 

『えっと、実は東京に引っ越しまして』

 

 はあっ!?

 聞いてないですわよ?

 

『あのあと、急に決まったんです。忙しくて連絡出来なくて、申し訳ありません』

 

 電話口で謝る彼女に、それ以上は追求など出来なかった。

 

 その後、色々と複雑な事情というものが彼女によって開示されていった。引き取られたのが芸能事務所の社長だということ。B小町というアイドルグループのアイ(こういう知識は無かった)と義理の姉妹となったこと。社長夫妻のふたごの子供のお世話をしていること。

 

『あなた、騙されてるんじゃありませんの?』

『そんなこと無いですよ? みなさん良い方ばかりで』

 

 他の方ならいざ知らず。人の良いハルナをだまくらかすような人非人は、いくらでもいる。労働力として搾取されて、しかも別の意味でも搾取されているかもしれないと思うと居ても立っても居られなくなった。

 

『パパ、お願いがあるの』

『一華のお願いなら何でも叶えるよ?』

 

 

 パパの雇った探偵からの返答は『事実』だった。ただ、性的な搾取に関しては不明とあった。

 

 そりゃあそうか。

 そんな個人的な内容までは調べられないよね。

 その探偵の私見では『そうは見えなかった』とあるけど、そんなもの信用はできない。

 

 私は決心した。

 

『ママ、わたし東京に行くわ』

『やりたいことをやりなさい。私のことは心配いらないし。パパの監視も宜しくね』

 

 それはたぶん平気だと思うけど。パパはママにZOKKONだし(笑)

 

 

 こうして、私は東京に行くことになった。

 

 学校は秀知院の中等部。パパ曰く、あそこならセキュリティも万全だそうだ。編入試験もなんとか合格。あとから知ったけど、外部生にはやたらと門戸が狭いところらしい。

 

 ここが凄いのは、車での送迎が普通に行われているところ。お陰で私も自家用車での通学と相成っている。芦原というのはその運転手である。(ちなみにパートタイムらしい)

 

 つまり、こういう時に役に立つわけよ。

 

 

 

「お、お嬢様? こういうときは救急車なのでは?」

「馬鹿おっしゃい。そんな事したら私が同行できないじゃありませんの」

「は、はあ……」

 

 体調の優れぬハルナさんを担いで車へと運ぶ私。芦原が代わると言いますけど、無論断る。ハルナの身体を男性に触らせるものですかっ!

 

 ああ、それにしても。

 軽いですわね。ちゃんと食べてるのかしら。

 それにいい香り。これは柔軟剤とかではない、彼女自身から溢れ出る香り……クンカクンカ

 

 そこに、僅かな異臭が交じっていた。

 

「こ、これは……」

「大丈夫ですか、かなり青褪めてますけど」

「家へ回して。大至急」

「びょ、病院じゃないんですか?」

「よかけん早うしなっせっ!!」

「は、はいいっ!」

 

 ふふふ。

 

 ハルナは私が守りますわっ!




雨宮ハルナ

とかく悩みがちなハルナ。もう面倒くさいなぁと思います(笑)でも、こういうすれ違いって多いと思いますね。相手の真意を全員が見抜けるのなら、戦争も起きないでしょうか。そんな事は無いんですよね……

九条一華

自称ではないハルナの幼なじみ。少々想いが加速しがちですが、悪い子ではないです。一般人から見れば彼女だって可愛いのですが、比較対象がちょっとズルいので色々と拗らせてますw

一華のママ

存命中。空気の良い実家での生活をしてて吾郎のいた病院にかかってます。なので、その辺の事情はよく知ってるわけです。

一華のパパ

存命中。ロマンスグレーの美丈夫で、ママと一華にデレデレしてるときの崩れ方はハンパないらしい。秀知院への編入をあっさり承諾するとかかなり上澄みな感じですね。

雨宮吾郎

故人。一華的には優しそうでハンサムな男性としか知りません。なお、手の離せない状況であったため学芸会の演劇は見られなかった模様。その場面を見られてた訳ですね。
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