吾郎の妹ポジになった転生者 作:とくめいです
ルビーのトラウマの件です。
「やだっ わたしやらないっ!」
子供っぽい事を言って保母さんを困らせる、わたしは悪い子だ。
でも、しょうがないじゃない。
おゆうぎのダンスなんて、私にできるはずないもの。
私の前世は、天童寺さりなという女の子。
とても難しい病気にかかり、十二歳で死んでしまった。
そんなわたしも今くらいの頃はまだちゃんと動けていた。発病した時も、まだ命の危険が及ぶような病だとは知らなかった。
でも、徐々に身体は思うように動かなくなって。頭痛や吐き気が強くなっていった。その頃には、運動なんてやりたくなくなっていた。そんな事をしても、なんにもならないと気付いてしまっていた。
私がアイドル、特にB小町のアイに傾倒していったのは、病院で知り合ったお医者さんがきっかけだった。
『はじめまして。雨宮吾郎です』
父の実家からの紹介で入った病院にいた、少し格好いい、お兄さんのようなお医者さん。
私は呟くように自己紹介をした。
当時は慢性的に続く頭痛や嘔吐感のせいで、気持ちは落ち込んでいた。
東京よりも空気がいいとは言うけど、こんな田舎にたった一人で入院とかありえないと思った。
お母さんもお父さんも引っ越してくるわけにはいかないと言ってたけど、それならなんでこんな所にしたのか本当に意味がわからない。
お見舞いに来るのにわざわざ飛行機に乗らないといけないようなところだよ? まるで一人きりにされた気分も相まって、先生の事なんかどうでもいいと思っていた。
『良くないね』
『良くないのは当たり前だよ。私はビョーキなんだから』
先生の言葉にそうやって反発する。でも、彼は思いもかけない事を言った。
『いや。可愛いのに不貞腐れてるのはよくない』
『え?』
……このひと。何言ってるんだろう。ナンパ? お医者さんが、患者に? 全く意味が分からなかった。
でも、可愛いと言われたのは嬉しかった。
子供の頃から、両親からは『可愛い』『かわいい』と褒められていたから。
最近はあんまり言ってくれなくなってたから、余計に嬉しくなった。表には出さなかったけどね。
『可愛いもの、美しいはいい。心が癒やされる。君もそうは思わないかい?』
『え……?』
『そんな君に、是非とも見てもらいたい物があるっ!』
そう言って出してきたのは一枚のDVD。特に何も印字されてない、自分の家で使うタイプのものだ。
彼はそれをテレビに繋いであるデッキへと滑り込ませる。
何を見せたいのだろう。
少し興味が湧いてきた。
この病気になってから、テレビやDVDなどを見るのが私の日課だ。
アニメや歌番組などは幾らでも見てきた。
でも、そこに映るのはそうしたものに似てるけど少し違った。
画面は粗くて、薄暗くて。
ステージだけは明るいけど、そのせいで人物もほとんどボヤけていた。
でも。
その中のセンターにいた子だけは、光り輝いていた。
『いっくよーっ! サインは、ビーッ!!』
うわあっと、サイリウムの海が広がる。コンサート会場とは言えない、狭い空間にひしめき合う光の渦。その中に輝く不動のセンター。
私が、アイを知った初めての瞬間だった。
子供ゆえなのかもしれないけど、私もアイドルは好きだった。
でも、こんな体になってしまったからコンサートやライブなんかに出掛ける訳にもいかなかった。
見て満足するだけ。
それが私の楽しみ方だった。
『ほら』
そう言って渡してきたのは一本のサイリウム。ぽかんとしている私を置いて、彼はサイリウムを振って応援し始めた。
『いいぞぉっ! アイっ! 最高だぁッ!』
……え。何この人。
さっきまでのちょっと格好いいお兄さんが、完全なアイドルオタクになってた。
『無理にやらなくてもいいけどさ。一緒に応援すると楽しくなってくるぞ?』
……ええ。
意味が分からなかった。
アイドルを応援して何が楽しくなるの? 私にはなんにも関係ないし。
でも。少しだけ振ってみた。
音楽と歌に合わせて、振ってみただけだ。
それでも、少し。
ほんの少しだけ、楽しくなった。
楽曲との一体感とか、応援する喜びとか。
そういうのとは違うなにか。
先生の方を見ると、彼はボルテージが上がりすぎてすごい動きをしていた。
そんなに夢中になれるものなの?
後から考えたら。
それが今の私に足りないものだったと気付いた。
──何故か思い出してしまった。
せんせとの初めての思い出。
あのあと婦長さんが怒鳴り込んできてこってり絞られて。
それでも悪びれずにこちらを見てピースとかしちゃって。
いたずらが成功したみたいな笑顔が眩しく見えた。
私にとって、それはとても大事なもの。
「やっぱここか」
その声に振り返る。
そこにいたのは今生における双子の兄。やれやれといった顔をしている。
思い出に水をさされたせいもあって、私は顔を背けた。
「何しに来たの」
「いや、あんな逃げ方したら追いかけるだろ」
実際、彼は追いかけようとした保母さんを制して自分が言い聞かせると言ったらしい。
本当に、出来の良い兄で困る。
それにひきかえ、わがまま言って迷惑をかける私は悪い子だ。
だから、お母さんにも捨てられちゃったんだろう。
そう思ったら、余計に落ち込んでしまった。
生まれ変わっても、私は周りに迷惑をかけてばかりだ。
兄にこんな事させて。
双子だからアイも大変だろうし。
ハルちゃんにだって迷惑かけてる。
私なんていないほうが良かったんだ、たぶん。
なんで私なんか生まれ変わらせたのかな、神様は。
世の中の無情を嘆く私をよそに、兄はこちらを伺う。
「まあ、やりたくないなら無理強いはしないよ」
「……」
「でもさ。お前の人生はまだ長いんだぞ? ずっとそうしてるつもり?」
いい子な発言。
間違ってないから余計に腹が立つ。
何でもそつなくこなすアンタと一緒にするなと怒鳴りたくなった。
でも、それも出来ない。
こんな私の、たぶん最後の味方であるはずのひとに、嫌われたくなかったから。
だから彼の呟いた言葉の意味を、私はすぐには理解出来なかった。
「お遊戯なんて、俺達のオタ芸に比べたらなんでもないのに」
……
……
……
「えっ?」
「いや、お前。動けてたじゃん。ハルナのPV撮ってた時に、俺と一緒にやってたじゃん」
そう言えば。
最初の時は座ったままだったけど。
あの時は立って、やってた。
確かにあの時はやれてた。
幼稚園でやるお遊戯なんて目じゃない動きを、この人と。
「まあ、オタ芸ってあんまり動かないけど俺とのフォーメーションだってバッチリ決まってたし。あれよりは簡単なダンスだろ? 余裕だって」
言葉で言うのは簡単だ。
けど、実際にやれてたのだ。
それはつまり、彼の言う事のほうが正しいということだ。
それから彼についていって、みんなと保母さんに謝って。みんなと練習をしてみた。
……動ける。
全然、問題なく。
むしろ他の子達よりものびのびと踊れる。
私の頭の中には、アイやB小町のみんなの踊る姿が焼き付いている。
数え切れないほど見て、憧れて。
寸分の狂いもなく、覚えている。
それに比べたら、この程度は本当にお遊戯だ。彼がぽそりと「少し手を抜いてやれ」と言うほどに。
そして後ろ手でピースを出す姿は、まるでせんせのように見えた。
──まさかね。
あの人はいま、異国の地に居るはず。その医術を困ってる人のために、その心を疲れきった人のために捧げている。
そんなあなたに観てもらうために、私はアイドルを目指すつもり。
それは、私の今生における最大の目標。お嫁さんは……どうかな? 覚えてくれてたらいいんだけど。
目下のライバルは……やっぱ、ハルちゃんだよなぁ。再従兄弟って、結婚出来るんだもんね。
でもハルちゃん、アクアにメロメロなとこもあるし。押し付けちゃえばいいかもしれない。
そうすれば、せんせへの障害は無いもどーぜんっ!
「よーし、がんばるぞー」
・・(‘~`;)・・
『いきなりテンション上がってんな。ま、
前世が引きこもりの厄介オタク女子でも、今は妹だ。それに見た目はすごく可愛い。そんな子がずっと顔を俯かせてるなんて勿体ない。
「ハルちゃんと仲良くしてね」
「え?」
そう言って、下手なウインクをバチンとしてきた。
……なんやねん。
星野ルビー
満足に動けなかったから起こってたトラウマですが、こちらではすでに限界バリバリな動きを立ってこなしてた実績がありました。(26話参照)
なのでアイの手助け無く、踊ることへの抵抗を克服してしまいました。
ちなみに、ルビーは保母さんと言ってますけど正式には幼稚園教諭が正しいです。保母さんは保育士さんですね。
ハルちゃんとアクアをくっつけて邪魔者を排除する!……なんか、邪な成分増えてません?
星野アクア
(可愛い)子が悩んで沈んでるのは勿体ない。吾郎の基本スタンスはこんな感じ。だからああなるんですね(笑)ちなみに回想シーンで見せてたのはネットで流れてた伝説の地下ライブ。もちろん非公式に撮られたものです。それを堂々と見せてるのだからなかなかに強いw ちなみに最初に見せたのはハルナの方です。