吾郎の妹ポジになった転生者 作:とくめいです
平穏無事な安らぎの空間。
そんな幼稚園に嵐がやってきた。
「今日から一緒に学んでいく、新しいお友だちが二人もやってきましたー」
「年中に入ります。有馬かなよ」
「あ、あの。しらぬい、ふりる、です。年少、です」
対照的な二人の美幼女が並んで立っている。背の高さはあまり変わらない……これはフリルが大きいのかかなが小さいのか。あ、たぶんかなが小さいんだな。
かなは凛とした雰囲気を纏ったまま背筋を伸ばして威嚇するように。フリルは逆に人見知りからおどおどとしていて、庇護欲をそそる。
両者とも狙ってる訳でもないのだけど、幾人かの性癖を歪ませる可能性は十分にあった。それだけ整った容姿をしている子どもたちなのだ。
隣りにいるルビーが顔を近づけてこそっと聞いてくる。
「かなちゃん来るって聞いてた?」
「いんや」
アイやハルナからは何も聞いてない。だけど社長が奥歯に物が挟まったような態度はしていた。
推理とも呼べない(ニチャア…)
「ちょ、悪い顔してる」
「む、スマン」
俺がかなを苦手にしてる事を奴は知っている筈。なのに有馬のおばさんに情報を売ったのだな? 万死に値すると殺意を滾らせていた所をルビーが止めてくれた。感謝。
後から知ったのだけど、情報を流したのは不知火のおばさんにだったそうだ。
でも、二人が知り合いだと知ってたなら筒抜けになるのは自明の理なんだよなぁ……やっぱギルティだな。
休み時間に、かながやってきた。
それぞれカリキュラムが違うので、他学年との交流は休み時間がもっぱらなのだ。
「来てあげたわよ、アクア」
「いや頼んでないし。なんなら帰ってもいいよ?」
「なんでよっ!?」
相変わらず尊大な態度のかなにそう答えるとなかなかに良いツッコミをかましてくる。こういう所は面白くていいのだけどな。
「で。あんたはやっぱり女のコひっかけてるのね」
「人聞きが悪いっ」
俺の側にいるフリルを睨みつつ言うかな。やはり口が悪い。
「あくあ。こわいよぅ」
「あー、よしよし。平気だぞ〜」
「うん……」
頭を撫でてやると安心したように目を瞑るフリル。それを眺めるかなとルビーの冷たい視線。
「で。どういう状況なのコレ?」
「フリルちゃんとは、あの試写会の時に会ってたんだって。人見知りらしいから、少しでも知ってる顔のお兄ちゃんに付き添ってもらう……てな感じ」
「へえ……あんときに居たんだ」
ルビーの説明にかなの目がジト目に変わる。おう、いい目つきだ。少しゾクッとするね(笑)
「あくあ。やさしい。すき」
そして天然な天使がさらに爆弾を投げ込む。ここは戦場かな? ハハハ、と乾いた笑いが周りに空しく響く。もちろん、俺である。笑ってるのは俺しかいない。
「お姉ちゃんもあくあ、すき、だって。ふりるもいっしょ♡」
「へっ、へえっ。それは嬉しいなぁっ!」
「姉の方にも粉かけてたの? 手が早すぎない?」
「それは、私も初耳だなぁーw」
かなとルビーが二人してジト目だ。幼女に責められる性癖の人間にはご褒美でしかないだろうけど、あいにくと俺にそんな性癖はないっ!
針の
「あくあくん。きょうもごほんよも?」
「は?」
「あちゃ〜」
「ふあ?」
「……」
そこに割って入ったのは、絵本を持った勇者、あかねだった……え、おれ保険入ってたっけかなぁ?
・・・・
うちの幼稚園は設立自体は二十年ほど前で、歴史自体はあまりないらしい。
けど、普通の幼稚園かというとそうではない。
設立に当たって関わった人たちに多くの芸能人がいるため、芸能界に関わる人たちの子供の割合が多いのだ。
それは職員にも当てはまる。
芸能界の荒波に乗り切れずに辞めていった人間が第二の人生を歩むための場でもあった。
芸能界というのはほんの一握りの成功者しか残らない弱肉強食の世界。そこから落ちこぼれれば、やはり普通に生きるしかない訳である。
かくいう私もそうしたうちの一人だった。歌手を夢見て、夢破れて。専門学校に通って得た資格を手にここへの就職が決まった。
ちなみに紹介してくれたのは元のレーベルの社長。芸能界出の人を優先するというのは、本当だった。
何年か経ってようやく一人前になれたと思った頃。お出迎えの中に見知った顔が居たので驚愕した。
『うっそ』
森本ケンゴ君の母親は、憧れだった。私はためらいながらも聞いてみた。
『あ、あの。早坂ささめさん、ですよね』
『あら。もう森本なんですよ』
ケンゴ君を乗せて自転車を駆る姿に、かつて世界を席巻した天才ピアニストの面影はない。
それでも、私にとっては憧れであって。
在りし日の幻影でもあった。
この件を園長先生に知られてしまい、私は呼び出しを受けた。激しい叱責を受けるかと思ったけど、彼女はやれやれといった眼差しで静かに語った。
『知ってる人に会ってテンション上がるのは分かるけど、基本そういうのには触れないのがルールだからね』
そしてくすりと笑った。
『でも、分かるわぁ。私がここを受けたのも似たような理由だったもの』
園長先生も実は推しの人がいたそうで、その人に誘われて来たのだとか。そう話す彼女は、年齢的にはかなり差はあったけど。
やはり私と同じような目をしていた。
ケンゴ君は父親の森本康太郎よりはささめさんに似てる。将来はどんな子供になるのか、すごく楽しみである。
そのケンゴ君にも推しが出来たみたい。新しく年少組に入ったルビーちゃんを見る目には、まだまだ恋にもならない淡すぎる感情が揺らめいている。この二人の今後とか見て暮らしたい……
それとは別に、もう一人。推しとは言わないけど恐ろしい子供が来た。先程のルビーちゃんの双子の兄、アクアくん。(本当は
ルビーちゃんの双子だけあって容姿はすこぶる良いのだけど、頭が良い事の方が目立っている。芥川全集とか京極夏彦のサイコロ本とかを持ち込んで読み耽る様は、とても幼稚園児には見えない。
ちなみに、感化された年中のあかねちゃんが朗読をせがんでいたのだけど、きちんと説明とか注釈とかを入れてるので理解しているのは間違いない。驚くべき天才児だ。
そして、さらに驚くことが起こっている。
なんと。『十秒で泣ける天才子役』との呼び声の高い有馬かなちゃんと、不知火花緒の娘、フリルちゃんが編入してきたのだ。
フリルちゃんは人見知りが激しいようだけど、アクアくんには懐いていた。
それを面白くないかなちゃんが妹のルビーちゃんと結託してアクアくんに詰め寄っている……何だかドラマのようなものを見せられてるわたし達。
「アクア、すげえな」
いつの間にか近くに来ていたケンゴ君が感心したように言った。そう言えば、アクア君と彼は友達だ。私は思い切って聞いてみた。
「アクア君て、どんな子かな?」
「頭すごくいいよ。あと、女の子と仲良くなんのすごくうまい」
……ああ。子供視点でもそう思えちゃうほどなのか。
「アイねーちゃんとかハルねーちゃんとか、ミヤコママさんとか。きれーなお姉ちゃんばっかりいるよ?」
……たしか。ミヤコさんはお母さんだよね。ということはお姉さん二人とも美人、てわけだ。そんな家庭環境だと、女の子にモテるのもなんとなく分かるけど。
「ねーちゃんも気に入ってるみたいだし」
「? ケンゴ君のお姉さん?」
「うん。やすみねーちゃん。ハルねーちゃんとどーきゅうせい?なんだって」
……ケンゴ君のお姉さんがいくつなのかは知らないけど。少なくとも年上の女の子に気に入られてるわけか。これはとんでもない逸材なのかも。
退屈な日常だったけど、少しは面白くなりそうな予感がしたのだった。
星野アクア
今から入れる保険はありません(笑)
有馬かな
口の悪さが目立つけど、ちゃんと挨拶はできます
。アクアの交友関係の広さを知って少々驚いてますが、本人的にはなし崩しなケースが多いので不本意かも。
不知火フリル
子供の頃は人見知りということにしてます。怖がりだから人を観察する事が多くなったという感じにしてみようかな、と。子供の頃から天才的なマルチタレントでは無いですからね。
星野ルビー
アクアにジト目をむけるルビー……いいですねー(笑)
黒川あかね
空気を読まずに突撃するあかねちゃん。そういうとこやぞw
幼稚園の先生
芸能界から滑り落ちた人。そんな人達の受け皿でもある幼稚園に勤めてます。
早坂ささめ
ケンゴとやすみのお母さん。早坂家の傍流の出です。