吾郎の妹ポジになった転生者 作:とくめいです
今回は少しシリアスな内容です……たぶん。
その日のスポーツ誌の芸能面ですっぱ抜かれた記事に、苺プロは大いに揺れていた。
『今をときめくアイドルグループのメンバーが飲酒、か?。未成年が夜のお店から出てきた疑惑の写真を独占公開ッ!』
いつかは起こるような気がしていた事件とも言い難い報道。
撮られた写真は隠し撮りなのは明白なアングルかつ露光も足りない。夜間用ではないデジカメなのは間違いない。
そしてそこに映るのはメガネを掛けた女性。正直言うとこれだけで確信は持てない人も多いはず。
だが、当のメンバー達には渡辺だと分かった。社長やミヤコも当たり前のように渡辺だと理解していた。
“店側への取材は断られてしまったが、知人を介して従業員へとアポを取ることに成功した。情報提供者Bさん(仮名)によると『Wさん(仮名)と会っていたのは同世代と思しき男性。個室での歓談だったので内容に関してはノーコメント。注文にはアルコールは無かった』とのこと。挨拶では親密、という印象は無かったようである。”
記事の内容はこんなところだ。
有り体に言うと、飲酒の事実はなく、責められる点は夜のお酒を出す店での密会というところか。
ちなみにグループ名も出さず、当事者もWという仮名である。ゴシップとしてもやる気があるのか疑問に思える記事であり、紙面を埋めるための粗悪なものと言えた。
念の為に言うと、個室とはいえいかがわしい行為に及んでいたなら店側だって気付く。おそらくそういうことにはなってないはずである。
これはメディア側もそこの辺りを理解して仕掛けた釣りであり、迂闊に動けば逆にボロを出しかねない。
他の編集部からの取材依頼も来てはいるが、あくまで意見として聞きたいとのスタンスらしい。確たる証拠があってのネタでない事は分かりきっているのだ。
現状必要なのは情報の精査。事実かそうでないか。どこまでが正しくてどこからが虚偽なのかを調べないと始まらない。
緊急で招集されたメンバーたちの中で、当の渡辺自身は泣きそうな顔で沈み込んでいた。
「なんだってそんなところに行ったのっ!」
「ぴぃっ」
部屋に木霊する高峯の声。
言っている高峯自身も泣きそうな顔であるのは意外とも思えるが、高飛車な態度の裏にあるメンバーへの愛情が人一倍強いことは知られている。
その声に小さく嗚咽を漏らす渡辺。他のメンバーはそわそわとしているが、問い詰めるような様子はない。
「まあ待て、高峯。……渡辺。これはお前か?」
デスクに座る社長が、そう聞いてくる。ちなみにデスクだ。椅子じゃない。威圧感がハンパない。
長い沈黙の後に、渡辺は肯定の意を示した。
他のメンバーからざわっと声が上がる。社長は、事情は自分とミヤコで聞くと他のメンバーを部屋から追い出した。
「それで。相手は誰なんだ」
「な、名前はミキさんです」
「ミキ? ミキ、なんてんだ?」
「その……ミキさんとしか聞いてなくて」
「はあっ?」
社長は顎が外れんばかりに驚いた。事情を聞くと、匿名掲示板で知り合ったのだという。どうしてそんな男と会ったのか。理解に苦しむ。
「それで。何の話をしてたんだ?」
「……その」
「怒らんから。まあ、内容によってはその限りでは無いけど」
「社長。男には言いづらい事もあるでしょう? 私が」
「んじゃまあ、頼むわ」
夫人であり、マネージャーのミヤコが聞き取り役を引き受けた。元々そうするつもりだったようで、社長は退室することにした。他のメンバー達のケアも必要なのだ。
残された二人は対話を始めた。ミヤコはまず、彼女の身体に及んだ被害から伺う。マネージャーとして行ういちばん大切な事は在籍するメンバーのケアだ。
「それで。身体の方は求められてはないのね?」
「えっ? は、はい。私なんか、彼は興味無いですから」
渡辺の言い方に妙なものを感じたミヤコ。
「……あなた。そういうつもりで会ったわけじゃないの? その、出会い的な」
「えっ……ええ? そんなわけありませんっ! 私なんて……」
どうやらそういった被害は本当に無いようだ。元々自己評価が低めの子だけど。でも、周囲の目からは十分に整っている顔立ちだし、大人しめで清楚な雰囲気を持つ彼女を推すファンだって皆無ではない。
「あのね。どういう経緯でなったかはともかく。夜のああいうお店は危険なことも多いのよ? まして貴女はアイドルなんだから。軽率な行動は慎むべきよ」
「……もうしわけ、ありません」
切々と説かれると彼女は涙をぽろぽろと零す。ミヤコとて虐めたいわけでもないのだ。
でも、こういった誘惑に絡め取られる女の子は多い。業界から去る原因の多くは異性関係のトラブルであり、彼女はそこに留意する事を怠った。被害が無くて幸いだったが、下手をすれば性的な被害を受けて誹謗中傷に晒されるのだ。
「それじゃあ、なんでそんなところに行ったの?」
「……ア、星野さんのことで……」
「?」
ここにアイが関わってくる?
ミヤコは内心焦った。アイはB小町には無くてはならない存在であり、言ってはアレだけど渡辺とは比べるべくもない。
「そ、それで?」
先を促すミヤコ。彼女は躊躇いながらも口を開く。そこから飛び出てきた言葉に、彼女は一瞬、思考を止めた。
「はあ? アイのことを語らってた、だあ?」
社長室にてミヤコからの報告を聞いた壱護は、オウム返しにそういった。理解が追い付かなかったのだ。
「……私もそう思ったわ」
宇宙の真理を聞かされた猫のような表情といえばいいのか。彼女の感想も同じだった。
「ナベだってアイのこと、煙たがってたじゃねえか」
少し前はB小町全体の空気はかなり悪かった。売り出すためにアイを主軸にした戦略を、アイへの贔屓だとやっかむメンバーが大半を占めていた時期もあった。渡辺もそのうちの一人だったはずだ。
「それもポーズだったんだって」
渡辺自身の告解によると。
『私だけが擁護したら、いじめられるから、空気を読んでいただけなんです。アイちゃんを嫌うなんて、私はしたことはありません』
確かに渡辺自身は文句を言ったりしたことはなかった。
『本当にアイちゃんは凄くて。近くで見てられるだけで嬉しくて……』
そう呟く彼女は、確かにファンの目をしていた。まさかグループ内に信者のような存在が居たとは二人とも思わなかったのである。
「……んで? 匿名掲示板でファン同士のオフ会しませんかって、乗っかったのか?」
「どうも、そうみたい」
はぁーっ、と二人してため息をつく。危機意識の無さに頭痛がしてくる。
「それで、そのミキ某って奴は誰なのか。分かったのか?」
「中肉中背で黒髪、アンタみたいに室内でもサングラス掛けてたけど、とても紳士的な人だったらしいわよ?」
「まるで俺が紳士的じゃねえ言い方ありがとよ」
その辺はただの僻みなのでミヤコはスルーした。彼女は書き取った書類を読み上げていく。
「アイのファンだっていうのは間違いなさそうね。最初期の頃のライブの話とかしてたらしいし。この頃は私も知らないもの」
「そうだったな」
ミヤコが結婚を前提に事務所に入ってきたのは一年くらい後の話。その辺りの事を知ってるというのなら古参のファンなのは間違いない。
「しかし、ファンとの交流とは言ってもこいつは頂けないなぁ」
他者を介さない場所でのオフ会など後ろ指さされても文句は言えない。その辺の危機意識は有るものだと思っていたのだが、実際はこうだ。もう一度徹底的に教え込まないといけない。
B小町の今後のスケジュールなどの情報漏洩も問題だ。
公式発表される予定の物ばかりなのが救いではあるが、これも事務所に属する人間にしては意識が低すぎる。
さらにその人物から金銭を受け取っていたというのも問題だ。お金は使ってないとは言うけど、そういう問題じゃない。
新たにミーティングをしなければならない事に頭を悩ませるが、同じことが何度も起きないとも限らない。手を抜くわけにはいかなかった。
それはそれとして、壱護にはもう一つ、懸念すべき事があった。ためらいがちにそれを口にする。
「その、ミキ某か。アイのファンとか言ってたけど……まさかアイツらの父親、なんてことはあるまいな?」
呟いた疑念。
それは部屋にいるミヤコをも侵食していく。それは考えられ得るべきことである。
アイは頑なに双子の父親に関して黙秘を続けている。もし、その人物ならどうするのか。壱護としても決めかねてはいるが、どういった人間なのかを知らないと対処のしようもない。
事はアイ本人のみに留まらない可能性もあった。有耶無耶にしておいていいことではなくなったのだ。
「一度、アイの意見も聞いておくべきかもね」
「そうだな。ちっと呼び出すわ」
ミヤコの意見に、壱護が携帯を取り出し電話を掛けた。
渡辺さん
原作では初期メンで唯一語られてない子、だと思います。そんなわけで困った時の独自設定発動(笑)我の強いB小町の中ではあまり自分の意見を言わない地味系女子。どこか自分に自信が無くて、代わりに自信の塊(のように見える)アイのことを心酔してます。でもそれを主張するとB小町の中で浮いちゃうから言えなかった。そんな子です。
ミキさん
誰だろうな(笑)
ちなみにアイドルたちが変装するように彼も変装します。自分の見た目が目を引くのは重々承知してますので。
すっぱ抜かれた写真
こういうのはふつう週刊誌とかの領分な気もします。スポーツ誌の芸能面なんて信憑性が薄い記事が多いという偏見によるものです(笑)
社長
問題がよく起こる事務所だなぁ。まあ、今までこういったゴシップを飾らなかったのは運が良かっただけなのかもしれません。アイとかハルナとかは身近に居ますけど、他の子達はてんでんバラバラに生活してますから。全部に監視の目はつけられません。
ミヤコ
ミヤコさんの宇宙猫、見てみたいw