吾郎の妹ポジになった転生者 作:とくめいです
はじめはクリスマス企画のつもりだったのですが、いつも通りになってしまいました。
目が覚めたと同時に枕元に置いてある着替えを済ませます。長い間続けていた習慣なのでほぼ自動的にするのですが、その最中に僅かな違和感を感じます。
『この服……廃棄しなかったかな?』
子供というのはみるみるうちに成長してしまうものです。あまり背の高くない私でも、幼児の頃の服は着られないのです。
たしかこれは七〜八歳くらいに着ていたお気に入りのパーカー……着られなくなって、雑巾に作り直したのだから間違いありません。
トントン
「はい」
襖を叩く音にそう答えます。
違和感を覚えることすら無くそう返事をしていました。
「起きてたかい」
「……!」
そこにいたのは、紛れもないあの人でした。
「あの、ハルナさん? そろそろ離してもらっていいですかね」
「……だめです」
遠慮がちに聞いてくる彼に、私は顔を合わせずにそう答えます。
彼のお腹にあたりに顔を埋める……吾郎吸いとでもいいましょうか。
懐かしい匂いと感触に包まれて、至福の時を満喫しています。我儘を言っている自覚はありますが、こんな事は滅多にしてません。本当ですよ? 何なら手を繋ぐなんてほぼしてなかったですし。そう考えると、なんて勿体ないことをしていたのかと、今更ながらに思います。こんな心地好い事をしていなかったなんて。子どもの特権というものを浪費していたと嘆くべきだったのです。ああ、それにしてもなんて芳しい匂いなのでしょうか。これを匂い袋に詰めて容れておけたら、いつまでも彼と一緒にいられるのに。ああー、成分分析とか出来ないかな? 無理か、機材とか無いし、知識も足りないし。でも、すごぉくあんしんするぅー。もうこのまま一生抱きついてたい。ふしだらな子だと思われてもかまわない。むしろ、そうだと思ってくれていい。そしたら、
だから、しなないで。
「だいじょうぶ? ハルねー」
「ぅぅ……平気ですよ、アーくん」
お昼寝してる最中でした。
アーくんを抱き締めてしまっていて、彼はちょっと苦しそう。
腕を離すと彼に謝ります。
「ごめんなさい、アーくん。強くて痛かったんじゃないですか?」
「そ、そんなことないよ? ……ほんとはちょっといたかったけど」
「夢にうなされてしまって……本当にごめんなさい」
小さな身体に縋り付いていただなんて、なんてみっともない。気恥ずかしさにベッドから身を起こします。
寝室を見回すとアイさんはおりませんし、ルビーちゃんは隣ですやすやと寝ています。
ちなみにベッドはダブルサイズです。アイさんはお二人とお休みになるのでこのサイズでないといけないのだとか。
おかげで私もお休みさせて頂いてます。アイさんはこの辺りは気にしないタイプなのか、私が使っても全然問題にしてません。大らかな人だと、つくづく感心します。
「疲れてる? ハルねー」
「そうですね。ほんの、ちょっと」
アクア君に少しだけ本音を語ることで自分の気持ちを落ち着かせます。下手に嘘を付くと、見破られるかもしれません。
「人のこと言えた義理じゃないけど。仕事や勉強ばっかりじゃ息が詰まるよ? もっと遊んだほうがいいよ、ハルねー」
私を絆すように言うアクア君。
その姿も、彼に重なって見えてしまう。
わたしは──
「せ……」
私の声に、彼がきょとんとしていました。
「先日のブリの照り焼きは如何でした?」
「え? ……いや、美味しかったよ? ハルねーは料理上手でありがたいよ。また食べたいな」
「また、お持ちしますね」
思わず確認したくなった衝動を、からくも抑えつけます。
「ふあ〜……あれ、ハルちゃん?」
「おはようございます、ルビーちゃん」
眠そうに目を擦るルビーちゃん。その姿に病床から起き上がる彼女の姿を幻視してしまいます。
「さ……」
「どしたの、ハルちゃん」
「先ほどまで、よく眠ってましたね。体調が悪いとかは無いですか?」
「ううん、だいじょぶだよ?」
私の額に当てる手を、左目を眇めて受け入れるルビーちゃん。まるで撫でられる猫が甘えているように見えてしまいます。
アイさん譲りの左目が隠れています。残る右目には、あの子のキラキラとした輝きが満ちていて……
「むー? ハルちゃん?」
「熱は無さそうですね。安心です」
ずっと額に手を当ててたせいか、ルビーちゃんが訝しんでしまいました。反省。
「お遊戯の発表会もあるもん。風邪なんてひいてらんないよ? ママとミヤコママも来るし、がんばんないとっ!」
今週の金曜日にはお遊戯会が催されるらしいです。私も参加したいけど、学校があるので断念するしか無い……無念です。映像は残してくださるそうなのでそれで我慢しましょう。
ルビーちゃんはアイさんとの特訓を経て完璧なダンスを披露すると言ってましたけど、アクア君に『みんなとやるんだからうますぎるのはダメだろ』とダメ出しされてました。
「フリルちゃんやケンゴ君も踊るんですか?」
「フリルは同学年だからね。ケンゴは年長だから別の日なんだ」
アクア君の返答には安定感があります。要点をちゃんと押さえて簡潔な説明をする。さすがです。
それはさておき。今日はアイさんも少し遅いのでお夕飯の支度は任されております。そろそろ買い物に行かないといけません。
「さて、それでは今日のお買い物に行きますが。ついて来れますか?」
「もちろん♪」
「ついて来れるか、じゃねえ。てめえの方こそ、ついてきやがれ」
左腕を前に出してそう呟くアクア君。たぶん意図せずにやってるんだけど、隠す気あるのかな? と疑問に思ってしまいます。まあ、そういうお茶目な所もいいのですが。
「アンタ、またアニメの真似? いい歳して」
「お、お前に言われたくねー」
ルビーちゃんのツッコミに慌てるアクア君。とっても仲良しな二人。マズイですね、ずっと見てられますよ、このコンテンツ。
とはいえ、本当に眺めているわけにもいきません。二人のお着替え(アクア君にはやっぱり断られた)をして、いざ出陣。
「ハルちゃん。ウィッグ忘れてるよ?」
ルビーちゃんに指摘されましたが、アレって急ぐときにはなかなか面倒なんですよね。纏めてキャップ被って固定して、と。なので今日はそのまま行きましょう。眼鏡と帽子があれば、なんとかなるでしょう。
「お二人も眼鏡は掛けてますね」
アクア君は小さめのスクエア型。ルビーちゃんは少し特徴的な三角形……なんというか独特な形です。
「バッチリよ♪」
にっこり笑顔が満点なルビーちゃん。そこにアクア君がツッコミを入れます。
「前々から思うんだけど、お前のセンスちょっとおかしいよな?」
「なにぃー?」
ああ、この二人は本当に癒やされますね。流れるようなコントが唐突に繰広げられるという、なんと贅沢な環境でしょうか。
その日は商店街の肉屋さんで鶏の胸肉が安かったので、チキンステーキにしてみました。
多めに買ったので社長やミヤコさんの分もちゃんと取れます。ハーブとお塩を染み込ませてからじっくりと焼き上げます。
「やっぱ肉だよなぁ」
「だよねぇ〜。テンション上がるぅ♪」
アクア君とルビーちゃんも愉しげに待ってくれてます。
出来上がって二人に給仕をしていたら、アイさんも帰ってきました。
「うっわ。テンション上がるぅー♪」
くすくす。
ルビーちゃんとおんなじ事を言うアイに、私とアクアが同時に笑いました。ルビーちゃんは『ママ、真似っ子しないでー』と苦情を言ってますが、アイさんはよく分かんないという顔です。
三人と食事をして、暫くしてから家に帰宅します。社長とミヤコさんのご飯も用意しないといけませんからね。二人とも帰るのは午前様近くになる事も多いのですが。これはまあ、仕方ありません。
お風呂を頂いてから、さっと今日の復習をして床につきます。
ああ。
幸せな日でした。
雨宮ハルナ
夢の中で久しぶりに吾郎に会えて幸せ絶頂のハルナ。なんか少しおバカになってるのも仕方ないかも(笑)時々吾郎が漏れても見て見ぬふりをしてます。彼や彼女が言い出すまでは、そっと閉まっておくつもりです。
星野アクア
寝ぼけて抱きしめられて嬉しいやら苦しいやら。ちなみに、何度も言いますがこの作品の吾郎はオタク度がかなり高めです。サブカル的なネットミームなんかもかなり知ってます……褒められたことではないなw
星野ルビー
アイとの特訓を経てお遊戯なんて目じゃないほど動けるようになってるルビー。手を抜かないとガチでララライに引き抜かれそう…… なお、お歌の方はまるで練習してません(笑)
星野アイ
ハルナは完全に妹として扱ってるのでお昼寝に使うのは全然気にしてません。ハルナはちゃんとベッドメーキングしてますし、汚れたら洗いますからね。