吾郎の妹ポジになった転生者   作:とくめいです

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皆様、今年は拙作をお読みいただきありがとうございました。来年も続きますので、何卒お願いいたします。

今回はアクア視点です。時間はとんで年の瀬です。


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 年の瀬は何かと忙しい。例年通りといえばアレだけど、アイも連日居ないし、帰りも遅い。高校の授業も最近は受けられてないみたいだけど、通信制のいいのはこういう時期を外すことが出来るところか。

 

 俺やルビーはそんな忙しさからもほぼ無縁だ。幼稚園も早くに閉まり、世間的には冬休みという時期になると家にはハルナが常駐するようになった。今年は高校受験ということもあり芸能活動は自粛してるのだが、その分を家事に割り振ってしまうのが彼女の恐ろしいところである。今も彼女はキッチンで作業をしている。

 

「ハルちゃん、コレなに?」

「鉄玉というものです。南部鉄器なんですよ」

 

 鉄玉ということは黒豆か。昔からのやり方を続けてるのはハルナらしい。あれって婆様のモノだったけど、持ってきてたんだな。

 

「これと一緒に煮るとお豆が黒くなるんです。まあ、真っ黒という感じじゃないですけど」

「へえ」

 

 ちなみに俺は、それを横目に本を読んでいる。今日読んでいるのはドストエフスキーの『白痴』。恋愛を扱ってはいるが、当時のロシアの世相とラストの物悲しさから不思議な読後感を感じる物語だ。まあ、好き嫌いはあると思うけどね。

 

「うわっ、これ……虫?」

「これは草石蚕(チョロギ)といいます。虫さんではなくて植物ですよ?」

 

 ああー……煮る前のチョロギは確かに虫っぽいな。そう言われても未だに虫だと思っているフシがルビーの横顔から見受けられる。

 

「シソ科の植物で根っこのあたりにこれが出来ます。じゃが芋とかと似たような感じですね」

「ええー……ほんとう? ウソついてない?」

「ええ、本当ですとも。コオロギやスズメバチとかは出してないでしょう?」

「ぴっ!?」

 

 ……婆様お手製のアレ、思い出しちゃったじゃねえか。あの地方も山ん中だから、よく食うんだよなぁ。不味くないけど、好んで食べたくはない、かな。

 

「これも一旦塩で煮て、それから梅のお酢で漬け込んでいきます」

「えー、と。梅酢漬けってこと?」

「そうですよ。すごいですね、ルビーちゃん。よく憶えてましたね」

「えっへん♪」

 

 カブの梅酢漬けを出した時の事を憶えてたらしい。あれはなかなかに旨かった。今度また作ってほしいな。

 

 ちなみにウチの婆様のぬか床はこっちに持ってきたら傷んでしまったのでハルナは泣く泣く処分したそうだ。場所によってはこういう事はよくある。向こうとこっちじゃ環境が違うからまあ仕方ない。

 その代わり、梅干しとらっきょうは大丈夫だったのできちんと保管してあるそうだ。

 

「さすがに蒲鉾は作るわけにもいかないので買ってきました。あと、栗きんとんも」

「栗きんとん、甘くておいし~♪」

 

 かまぼこも婆様は自分で作っていた。ガキの頃は正月によく食べていたけど、市販のよりざらついててお世辞にも上品な味とは言えなかった。いつかは作るとハルナは意気込んでいたけど、今年もやはり難しいらしい。

 まあ、おせちをガチで作ろうとすると手間がかかり過ぎて学生とか仕事持ってる人には辛いとは思う。多少の手抜きは必須だ。

 

「こっちのお魚は? しらす?」

小女子(こうなご)といいます。本当はゴマメというカタクチイワシの稚魚を使うのですが、お二人は小さいので柔らかい質感のこちらを使って田作りを作ります」

「う、うん?(半分くらい分かってない)」

 

 この小魚の煮物が田作りと呼ばれる所以は、カタクチイワシが田んぼの栄養源として使われていたからだとか。

 

 イカナゴという魚の稚魚をシンコと呼ぶのだけど、関東の方では小女子と呼ばれている、らしい。俺はシンコとくるみの佃煮が好物だったので、これは嬉しい。

 

「たたきごぼうは出来てますし、昆布巻きも出来てます。焼き物の準備はしてありますが、それは大晦日でもいいでしょう」

「じゅんびおっけー♪」

「はい、準備OKです♪」

 

 ルビーを傍においての作業は気を遣うだろうに、なんだかんだと終わらせてしまうのだから脱帽だ。今年もミヤコの出番は無し。まあ、日頃の料理とかはするけどおせちとか作りそうにはないからそれでいいのかもしれない。

 

 世の中には宅配のおせちなんかもあるけど、やはり家族の手ずからのおせちは格別だと思う。

 これはハルナの身びいきだとは思うから、あまり深くは考えてはならない。どこの家庭にも事情はあるのだ。大学に通ってた頃はおせちなんて食わなかったし。そんなものだよ。

 

「アーくん」

 

 ハルナが小皿をお盆に乗せてやって来る。当然ルビーも一緒にうきうきとした足取りだ。

 

「ししょくだって」

「ああ……ていうか多いね」

 

 小皿に乗ってるのは田作りと筑前煮、昆布巻きとたたきごぼうだ。どれも幼児の俺達が食べやすいように小さくカットされている。

 

「少し作り過ぎましたから」

「ふぅん」

 

 生返事で返すけど、それも既定路線である。田舎の料理というわけではないけど、何かと量が多くなるのがハルナの悪い癖だ。そんなとこまで婆様に似なくていいっての。

 おそらく、三が日を過ぎても残る料理はあるだろう。

 

 俺は箸を手に取り、田作りに手を伸ばす。

 

「うん、うまい」

 

 小女子は少し柔らかいので食べやすい。味もいい塩梅だし、砕いてある胡桃もいい食感だ。

 

「こっちの昆布の、おいしいっ」

「おお、シブいなお前」

「ルビーちゃんは昆布巻きがお気に入りですか」

 

 

 

 三人で開いたおせちの試食会は、なかなかにボリュームがあった。

 

 

「ううーん、どう考えても入らない〜」

「美味いからって食いすぎだろ」

 

 おやつのシフォンケーキに手が伸びなくて、ルビーは悲しみの涙に暮れていた。

 

「残しておきますよ?」

「いいから食べちゃって。賞味期限もあるんだし」

「でも……」

 

 ルビーの分の皿をハルナに渡す。物欲しそうな顔をしてるけど、お腹には入らないのだから仕方ない。今の俺達はまだ胃も小さいのであまり多くは食べられないのだ。大人と同じような感覚で食べてたアイツが悪い。

 

「ぐす……これが孔明の罠か……」

 

 いや、諸葛亮はそんな罠張らねえよ。

 

 結局、おやつのシフォンケーキはハルナのお腹へと消えた。そのかわりに明日は蒸しケーキを作ってもらうと約束を取り付けるルビーは、やはり狡い。

 

「アーくん、ほっぺに付いてますよ?」

 

 言うやいなや、頬に手を伸ばしたハルナは拭い去ったクリームを口に入れた。お、おまえ……

 

「お行儀悪かったですね、反省です」

 

 ぺこん、と自分の頭を叩いて誤魔化すハルナ。

 

 ぱたぱたと台所に戻るハルナを見送るおれたちは。

 

「ハルちゃん……やるようになったね」

「女のコって、こええ……」

 

 乙女の成長に、震えたのだった。

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