吾郎の妹ポジになった転生者 作:とくめいです
新年あけましておめでとうございます。一部の地域ではそんなこと言ってられないと思いますが、それはそれとして節目なので言っておかないとマズイと思いまして。
アクア視点で新年会の様子です。
「今年のB小町は、全国縦断ライブ・ツアーが控えている。最終日は東京ドーム開催だ、こらぁっ!」
狭い事務所を離れてやって来たのは都内某所のレンタルスペース。規模としてはそこまで大きくはない。せいぜい三十人規模のホールにテーブルとかソファー、椅子などが並べてある。オードブルや軽食などと共にお菓子なども並んでいて、業界の集まりというよりはより親密な間柄のパーティーに近い。
それもそのはず。今日は苺プロの新年会である。今年は俺とルビーも参加することが出来た。いちおう、あのアニメでの仕事が評価されたと考えるべきか。
「おにいちゃん」
こうして見ると事務所にも色んな人が居るのが分かる。事務員やなんの仕事かも分からない人もいる。
特にあのマッチョな人とか……ダンサー? 振付師とかかな? ここに呼ばれるってことはかなり親密な間柄の人間なんだろう。
こちらが見ていると分かるとにこやかに笑って手を振ってくれた。なので、こちらも振って返す。なんかいい人っぽいな。笑顔がなんか和む。
「おにいちゃんのオトコ好きっ!」
「おまえ言葉はちゃんと使えよな」
「全然聞いてないんだもんっ!」
ルビーの言葉に周りの大人たちから笑い声がくすくす上がる。ちなみにマッチョな人も笑っていた。
「んで。なんだよ」
「フリルちゃん、なんでいるの?」
ルビーは自分の横を指差して言う。俺とルビーの間にいるのは艶々とした黒髪に翡翠色の瞳が眩しい美幼女、不知火フリルだった。
「るびー、わたし、いちゃ、だめ?」
「う……」
ルビーの左腕に縋り付くフリルは甘え上手である。同年代とはいえルビーの中身は(自称)大人の女性だ。
「全然いいんだよぉ」
「わぁい♪」
二人ともにっこり笑顔だ。優しい世界である。
「フリルはすっかり君らに懐いたね。嬉しいよ」
その呟きは俺のすぐ後ろから聞こえてきた。幼い声なのにどこか蠱惑的な印象を残すその声色。俺は少しだけ顔を向けて挨拶をする。
「久しぶりだね。ころもさん」
「ふふ。変わらず、クールだね♡」
そう言って後ろからハグしてきた。もう少し歳がいってたらマズかったかもしれないけど、今のところ薄いあばら骨の感覚しか無かった。
「ああっ!」
「おおぅ、あねじゃ、だいたん」
「んー、やっぱりいい感じ」
「お、おい。離せって」
こっちを見てる視線に剣呑なものもある。具体的には不知火夫人とか、ハルナとか。アイはむしろ喜んでるみたいだ。大物だなぁ。
「姉者って、どこで憶えたのよ、それ」
「うー、あくあ?」
「正確にはルビーだからなっ 俺は解説しただけだっ!」
ルビーが俺のことを「兄者」って呼んできたのを解説しただけである。俺は悪くない。
「アクア、ルビー、こっち来いっ!」
わちゃわちゃし過ぎたか、社長に呼び出されてしまった。フリルところもを置いてルビーに手を差し出す。
「え、と」
なんか、躊躇いがちに手を乗せるルビー。こういうのは照れられると伝染するからやめてほしいんだが。
パチパチパチ……
社長の前まで行く間に起こる控えめな拍手に緊張を覚えた。
「えー、みなさんもご存知かと思いますが、わたくしどもの息子と娘、アクアとルビーです。歳も改まり、新たな門出としてここに正式にご挨拶をさせたいと思います」
この言葉を聞いてるアイはどうだろうか……いつもと変わらないように見えるけど。でも、気持ちは伝わってくる。
『その子達は私の子供だよっ』
そう叫んでいるのが分かる。
アイは本当に嘘が上手いので誰も気づかないだろうけど。当事者の俺達は理解している。
ぎゅ……
ルビーも同じ気持ちらしい。なるべく優しく握り返してやると、彼女はハッとしたあと、顔を俯かせる。
『俺も同じだよ』
と、こころの中でだけ呟いておく。挨拶もあるからな。
「ご紹介に預かりました、アクアです。こちらはルビー。斉藤壱護氏とミヤコ夫人の子として生を受けました。浅学菲才の身なれば、先達の皆様方のご指導ご鞭撻は私と妹を表す玉石よりも貴重であると心得てます。より一層の精進を重ねると共に、健やかなる成長を望む所でもありますれば、皆々様にも……」
「あー、もういい。親より長く喋ってんじゃないよ」
ありゃ、社長からストップかけられちった。まあいいや。見てる連中の顔を見れば、してやったりと内心でほくそ笑む。
「つぎ、ルビー」
「え、あ、その……よろしくお願いしますっ!」
ルビーに微笑ましい拍手が送られる。
これくらいでいいんだよ、とは思ってたけど……まあ、同じこと二人してやるのもどうかと思ったしね。決して、ルビーのために道化になった訳じゃないから(念の為)
「次に、今年からの新部門の設立についてだ。ミヤコ、頼む」
「承知しました」
後ろに控えていたミヤコが前に出て挨拶をする。いちおう名目上は俺達の母なので俺は控えめに、ルビーは目一杯手を振っている。それに顔をほころばせるミヤコ……うん、普通にお母さんのように思えてくるから不思議である。
「かねてより弊社ではweb上における展開をしておりましたが、それはあくまでアイドル部門の宣伝を主とした活動に限定しておりました」
『まるごとB小町』は確かにB小町を知ってもらうということを前面に押し出したチャンネルだ。つまりB小町ありきでのものである。
「しかしながら、この方面には未だ多くの逸材と呼べる新人やインフルエンサーとなり得る人材が埋もれていると思われます。こうした方々を取り込み、インターネット業界の中に切り込んでいくことはこれから先の芸能界でも重要なファクターとなっていくでしょう」
芸能界での成功を考える社長と異なり、ミヤコには別の視点がある。芸能界に限らないエンターテイメントだ。動画サービスを中心としたインターネット業界は、現状ではブルーオーシャンと言える。
「詳しくはまだ教えられませんが、協賛する企業もいくつか押さえる事ができました。この新規部門の統括マネージャーはわたくし、斉藤ミヤコが受け持つことになります」
今は言えないとは言ってるけど一つだけは確実に分かる。ハルナの横で楽しげな雰囲気を醸し出す九条一華は、本来ここにいるべき人間ではない……まあそんな事言うと不知火親子もいちゃいけないんだろうけど。
そうして見てみると、意外と部外者というか俺が知り合った人間たちがかなり居るな。あそこの隅でスピーチ関係なく酒飲み始めてる某監督とか、その前でオードブル一皿消してる某医者とか。なんで呼ばれてんのか、本当によく分からん。
もちろん、よく見知った人も多い。事務のおばちゃんとかサブマネの兄ちゃん。掃除のおばちゃん達までいる……人数合わせにしてもあの人たち派遣じゃなかったっけ? まあ、俺が文句をつける道理はないからいいんだけど。
あとは、B小町の面々だ。
たかみーとニノは相変わらず付かず離れずといった感じ。めいめいもいつものようににこにこしてる。ありぴゃんとみーりゃんは最近仲が良くなってると評判である。
例の報道のせいで少し落ち込んでいるなべちゃんだけど、その横にはアイがいる。こちらも最近急接近してきたカップリングで、アイ推しの連中からは賛否両論だったりする。
でも。
そんなのはどうでもいいんだ。
普通に話して、笑い合ってる二人にはそんなのは関係ない話だから。外野は黙ってろと思う。
ミヤコの話が程なく終わり、社長がマイクを受け取る。
「まあ、細かいことはもういいや。今日は存分に食べて飲んで騒いでくれ。時間は三時間、未成年は飲酒はダメだかんなっ! それじゃっ、カンパイッ!」
みんなが手に持っていたカップ、グラス、ジョッキなんかを掲げる。俺はパックのリンゴジュースでルビーはみかんジュースだ。
「今年もよろしくね、おにいちゃん」
「ああ、よろしくな。ルビー」
周りは既に饗宴を始めていたから、ペコン、という軽い音は俺たちにしか分からなかった。
波乱の年明けですが、皆様のご健勝をお祈りします。