吾郎の妹ポジになった転生者 作:とくめいです
最近書くのが遅くなってます……寒いせいだと思いますが……ご容赦下さいm(_ _)m
「この家は、そのいつもこうですの?」
遠慮がちに問いかけるのは九条のお嬢さん、一華だ。今日の装いはカジュアル寄りだけど、どこかランクが高そうに見える絶妙なラインである。室内にカツン、と音が響く。
「いつも、ではありません。囲むのは初めてのはずです」
対するはうちのハルナさん。タートルネックのセーターとボトムはチノパンだったと思う……こうして比べるとやはり女子力には差があるなぁ。コトン。
「私も打つのは初めてだよ?」
「マ、アイねー、そっちじゃないよ?」
「え、こっち?」
「そうそれ」
「分かりづらいなぁ。もうルビーが考えてよ」
「やってるよぉ」
アイの膝の上に乗るルビーがため息交じりに答える。本来自分でやったほうが早いのだけど、身体が小さいので手が届かないのだ。ゲームアプリは出来ても実践は難しい……早く大人になりたいなあ。
「あ、それ。チーです」
その隣に座る眼鏡の女性が控えめに言ってくる。自分の手牌から二個手に取り自分の横に並べ、河から鳴いた牌を取って横にして並べる。流れるような手つきから相当やってることが見て取れる。
「渡辺さん、手慣れてますね」
九条が渡辺にそう聞いてくる。そういうコイツも山を積むのがサマになってたので人のことは言えない。
「実はプロを目指してまして。勉強とかもしてるんです」
対して渡辺は少し照れたように答える。少し鈍臭いイメージのある渡辺だけど、よく言えば垢抜けない清純派だ。今日は緩い長めの髪を編み込んでいて、とても可愛らしい。
アイが渡辺の言葉を繋ぐように言う。
「なべちんと麻雀やってみたいと思って。でも、私ルール知らないし。困ってたらハルちゃんとルビーは知ってるらしいからやろうって事になったの♪」
つまり、冬休みの麻雀大会はアイの思いつき企画だったりする。ここは斉藤家のリビングであり、こたつを囲んでの一局となっている。俺らの生活の痕跡が残る部屋に招くのは危ないとハルナが助言したお陰だ。
「アクア、寒くない?」
「へーき」
台所で仕事をするミヤコがそう聞いてくる。確かにコタツには入ってないけど、ストーブもあるし上着も着用済みだ。抜かりはない。俺は眼の前のディスプレイを見てみる。
四分割されたそれぞれには打ち手の手が見えている。さすがに全員の手牌を伺いながらでは手間も掛かるし実況も出来ない。職場から拝借してきたCCDを後ろに配置してあるのだ。
「なんともはや……プロデューサー気取りね」
「面白い対局ならチャンネルで使えるじゃん。将来的に渡辺さんがプロになるなら宣伝にもなるし」
「……まあいいわ。好きにしなさい」
苦笑するミヤコにアイの方を見て誤魔化す俺。
エンターテイメントを推進していくには手広くやる必要がある。麻雀というのはプロリーグとかはあるもののいまいちマイナーだ。
だが、競技人口は相当数いると思うので需要はあるはず(表裏含めて)。やってマズかったとはならないと思う。それに載せるには社長の判断が必要だし。
だからこれはホームビデオのようなもので終わる可能性もあるのだ。まあ、だからといって手を抜くつもりはない。やるからにはちゃんと見られるようにしなければ。後々、ただ可愛さだけを振りまくだけのものにはしたくない。
ちなみに今は半荘二回目に突入している。俺やルビーの体力に合わせると三局くらいが限度だろうということで、それに合わせて半荘にしたのである。
ルールは10-30 25000点持ち30000返し。優勝者には万疋屋のフルーツロールケーキがミヤコから進呈される。スポンサー様に敬礼っ!
「おんなじ色に揃えればいいんだよね」
「うん、そう」
にこにこしながらそう会話するアイとルビー。仲がいいのは良いことだけど、対局中に言葉で言うのはマズイんじゃない? 河を見ても萬子寄りなの丸わかりだし。
しかしそれをツッコむ野暮をするような子はここには居ない。みんなも分かってるからだ。
一局目はハルナ+54、渡辺+8、九条−16、アイ親子−46となっている。ハルナはとにかくテンパイが早く、安い手で細かく刻んでくる。経験者の渡辺も九条もこの攻勢に耐えきれず撃沈していた。
「ロン、ピンフドラ1、2000です」
「ハルちゃん、もう張ってたの?」
「すみません、アイお姉ちゃん」
謝ってはいるけどゲームの時は手を抜かないのがハルナの流儀だ。
「ハルナちゃん、私よりも才能あるかも」
「そんな事ありません。運ですよ」
渡辺にそう返してるけど、後ろで見てる俺からするとなるほどと唸ってしまう。東二局五巡目までで無駄ヅモが全く無い。確かに運の要素は強いけど堅実な打ち方だ。
ちなみにハルナとは二回ほど打ったことがある。病院長と研修時の先任の医師、それに瀬能を加えて打っていた所に迎えに来たハルナが飛び入りで参加したのだ。当時は十歳くらいだったかな。
コテンパンにやられてしまい、涙を浮かべながら家へと帰った覚えがある。万事に控えめなハルナだけど、こと勝負事ではかなりアツくなる性格だと分かったのはこの一件からだ。
麻雀の本を読み込んでリベンジを画策してたみたいだけど、あいにくとその機会は永遠に失われてしまった。自分の不甲斐無さに肩身が狭くなる思いだが、今日はある意味晴れ舞台と言えるだろう。
「まずいですわねぇ……」
九条が親指の爪を噛む。まだ子どもといっていい歳だけど、そういう仕草はお嬢様にはよく似合ってる。まるで悪役令嬢だな(笑)
とはいえ、見てる分に特に問題のある打ち方はしてない。外連味のない素直な打ち方だ。だからこそ、こういう時は対処法が見つからないようだが。
「ツモ。タンヤオのみ。40符で700、400です」
「うげ」
お嬢様の出す声じゃないぞ、九条。渡辺が手の伸びそうなのを敢えて潰してタンヤオのみで和了がったのは、ハルナの親を蹴るためだ。
ハルナが口をムッと噤む。メンタンピンドラ1まで伸びそうな手が蹴られたのだから無理もない。
「二人とも早いよ」
「大人げないなぁ」
子供まで産んだのとその子供が揃って文句を言っている。ちなみにアイがこういう事を言うのは意外と珍しい。ルビーはいつもだけど。
アイは常日頃から否定的な言葉は使わない。それがヘイトを集めることだと知っているからだと思う。なので、このメンツにはかなり心を許しているんだと思われる。九条とは短いけど、素直な性格だと分かってるしハルナとはほぼ同居みたいな生活をしてるわけだし。
そう考えると、渡辺にも隔意はないと見て取れる。実際、彼女もふくれるアイをほっこりとした笑顔で見ている……どうやらアイの事が好きだったというのは本当らしい。
アイもそれを理解していたのかは分からないけど、受け容れるつもりなのだろう。
B小町内部の隔意もこうして消えていくことはあるのだろうか。たぶん、全部消えることはないのだろうけど。それでもアイは受け入れていくのだろう。
愛を知る事が、アイのライフワークなのだから。
この日の対局は、僅差で渡辺の勝利となった。三局目にハルナは役満に振ってしまい、大きく沈んだからだ。
「スゴイよ、ルビーっ♪」
「ちゅーれんぽーとーだぁっ!」
唖然とする渡辺と九条だったけど、ハルナ自身は納得尽くの顔をしていた。
「負けちゃいました」
そう呟く彼女は、少しだけ悔しそうだ。やはり負けず嫌いなところがあるのだろう。俺は疑問に思っていたことを聞いてみた。
「なんで差し込んだの?」
ぴくり。
ハルナが少しだけ動揺した。
「あからさまに染め手なのは分かってたのに」
アイ&ルビーの河には染め手気配は濃厚だった。九蓮宝燈とは思わなくても門前の染め手は破壊力が高い。普通なら差し込むような手はしない。少なくともハルナには分かっていたはずだ。
ハルナは、ぽそりと呟いた。
その声は俺にしか聞き取れない程度の大きさで。しかも、すぐ傍で囁いた。
「あの手は縁起が悪いそうなので」
「……」
和了ったら死ぬと噂された役満ではある。だが、それなら妨害する方がスジが通る。確かにハルナの手は悪かったけど九条や渡辺もテンパイしていたわけだし。差し込むならそちらにするべきだったと思う。
「わたしは……いえ、何でもありません」
そう言うと、彼女は台所へと向かって行ってしまった。
居間に目を向けると、麻雀牌を片付ける渡辺とそれぞれの勇姿を語り合うアイとルビーがいた。九条は少し疲れた様子だった。
ハルナの反論を許さぬような態度に引っかかったものの、機材の片付けをせねばならないのを思い出したのでそちらに取り掛かった。
後日。社長の許可が出たのでその時の打ち手を集めて音声の別撮りをすることになった。解説やらその時の心境やらをコメントしていくわけだけど、収録時間が三倍くらいかかってしまった。台本がない状況というのはよくないと、あらためて思い知らされた気分だった。
評価としては、まずまず、というところだった。俺としては面白くできたと思ったのだけど、視聴者のコメントから見るに『ヤラセだろ』『出来すぎてる』『これ◯だろ』『こんなに麻雀上手い女子いるか』とか、散々な書かれ方をしていた。
まあ、たしかに。
彼らの言うこともあるな、と俺は納得したのだった。
追伸
『ルビーちゃんのおてて、はあはあ』、『ハルナちゃんちゅきー♡』などのコメントを書いた連中をピックアップしておいた。
理由は言いたくない(笑)