吾郎の妹ポジになった転生者 作:とくめいです
「おはようございます」
「お、おはようございます」
エレベーターを出て、エントランスホールで会った青年と挨拶を交わします。最近引っ越してきたらしい彼は、少し度の強い眼鏡を掛けています。大学生なのでしょうか。勉強頑張ってくださいね。
今日はお買い物です。最近はウィッグも変化を付けるようにしました。理由としては、変装自体がバレてしまう事があったからです。
でも、商店街のよく行く店などではすぐにわたしだとバレてしまいます。
「そりゃあ、ハルちゃんの声だもん。分かるよ」
「は、はあ……そうでしたか」
どうも声を覚えられてしまったようでした。さすがにボイスチェンジャーを持って歩くわけにもいきません。どうかご他言無用にと頼むと、にこやかに了承して下さいます。
「ハルちゃんは応援してるからね。勿論さあ」
「斎藤さんとこは大所帯だもんねぇ。そうだ、コレも持っていきなよ」
八百屋の奥さんが差し出してきたのは色艶の良い
「ハルちゃん、実家は宮崎なんだろ? 父ちゃんが市場で卸の人に聞いたらあるって言うから貰ってきたんだって」
「本場のやつだからうまいぞぉ」
「では、頂きます。お代は幾らでしょうか?」
お財布を出したのですが奥さんから止められてしまいます。
「いいって、いいって。どうせハルちゃんの嬉しい顔見たいだけで仕入れたんだろうし」
「でも」
「双子ちゃんも居るんだし。サービスだよ」
「まだ寒い日もあるからよ。それ食って乗り切ってくれよ?」
お二人のご厚意を無碍にはできません。有り難く頂くことにしました。
『甘露煮……久々に作ろうかな?』
金柑の甘露煮も先生の好物でした。アーくんもルビーちゃんも甘いものは好きなはずだし。
「あ、雨宮、さん?」
「え?」
遠慮がちにかけられた声は、いつか聞いたことのあるひとのもの……ああ、あの人か。
「中学校の……お隣の席だったひと?」
「……荏田川だよ。やっぱり名前、覚えてられてなかったか」
「……失礼しました」
アイさんのことを笑えませんね。仮にも席が隣だった方の名前を覚えてなかったとは。謝罪をすると彼はにこやかに笑って許してくれました。
「構わないよ。当時は引っ越して来たばっかりで大変だっただろうし。今日は、買い物?」
「はい。お夕飯の買い出しです」
「アイドルやってんのに家事とか、今でも大変なんだね」
彼はそう言いますが、家の事などはもっと子供の頃からやっていたことなので気にはなりません。
「重いでしょ? 持つよ」
「いえ、そんな事は」
レッスンなどでも鍛えられてますし、この程度はなんの問題もありません。ですが、彼は引きません。
「こんな程度で力になれるとは思わないけど、さ。応援してるんだ」
「そ、そうですか。でしたら……」
そこへ制服姿の女子中学生が声をかけてきました。
「過度な接近、禁止〜」
「え、ええ?」
「アイドルには一線を引いて接することっ! アクたんも言ってたんだから」
困惑する荏田川さん。あれ? もしかして……
「
「ハイッ アイドル志望一年生っ、五月睦美デスッ」
幼い頃のイメージそのままに成長した彼女は、私の卒業した中学校の制服を着ていました。なんとなく、感慨深いものを感じてしまいます。
「お知り合いらしいですが、ここは天下の往来。人の目はドコにもあるし、ハルさんが変装しているからと言って油断してはいけません。応援してると言うならご迷惑にならないようにするのが、アイドルオタクとして最も気をつけねばならないことだと思うんですが」
「あ、ああ。そうだ、ね」
「というわけで、お手伝いはワタクシがしますから♪ さ、ハルさん。行きましょう?」
にっこり笑顔ですが、有無を言わせない何かを感じてしまいました。(チョットコワイ……)
追い払われるように荏田川さんは力なく手を振って去っていきます。そこに睦美ちゃんが声を掛けてきます。
「ハルさんも気をつけて下さい。アイドルなんですから」
「た、ただの元クラスメイトですよ?」
「それでも、ですっ!」
本当に心配してくれているようなので、分かりましたと返事をします。
「お買い物は、まだ続けますか?」
「ううん。もう帰るところです」
「では、参りましょう」
何やら家まで運んでくれるそうです。折角なので皆さんにも睦美ちゃんの制服姿をお披露目しましょう。
「メムちゃん、かわいい♪」
「うんうん、かわいいね♪」
「お、お二人に言われると、なんか照れますよぅ〜」
アイさんとルビーちゃんに囲まれてる睦美ちゃんは困り果てている様子です。私たちにとっては幼なじみのような子なので、特に考えもしないで連れてきてしまいましたが、迂闊だったでしょうか。ミヤコさんを見ると、特段気にはしてない様子ですが……。
「よくない虫を追っ払ったらしいね。褒めて遣わす」
「わーい。アクたんに誉められた〜♪」
アクア君が大層な言葉で睦美ちゃんを褒めると、ノリよく頭を差し出してます……コントかな?
「その子のことはともかく、声でバレるのは問題よね」
「そうなんです……でも、声を出さないわけにもいかないですし」
スーパーとかならあまり声を出さなくてもいいのですが、実は近所には無いのですよね。それに地元の商店街の方がわたしも買いやすいし。
困っていると、アクア君がルビーちゃんのウィッグ(茶髪で長めのもの)を持ってやってきました。
「前提を変えちゃえば?」
「「え?」」
すると、アクア君はそのウィッグを被ります。このくらいの歳だとまだ男の子でも可愛いので、女の子に見えてしまいます。
「わ、お兄ちゃん、可愛い♪」
「アクたんじゃなくて、マリンちゃんだね♪」
「アクア、そっちの才能もあったか」
「アイねー、変な目で見ないでよな……」
アイさんに感心されてるアクア君は少し不本意そう……ではなんでそんな真似をしてるのでしょうか?
「そっか。男の子に変装すればいいのか」
「ルビー、正解っ!」
ルビーちゃんの名推理、見事にビンゴ。みなさんもああ、と頷いてます。
「声を低くして喋るの、出来る? ハルねー」
「う、うん……こんな感じでどう? かな?」
「いいんじゃない?」
「ショタっぽいっ!」
「いいよ、いいよ」
「これは、これで……アリね」
少し押し殺したような声でしたが、みんなには何故か高評価でした。
「短髪のウィッグって、あったっけ?」
「ハルちゃんに合うサイズのメンズは無いんだよなぁ」
「メンズじゃなくても、パンツスタイルならそれっぽく見えるよ?」
「少し暗めのやつ……タートルネックあるね」
「ボトムスは私のスキニーなら」
「ミヤコママのだと合わないと思うけど」
「ルビー、それはどういう意味かしら?」
わちゃわちゃ。
女のコってこういう時、すごくパワフルになるなぁ。他人事じゃないんだけどね。
みんなであれこれ試した結果、黒の短髪ウィッグにグレーのタートルネック、アイさんのスリムデニムが一番しっくりきたようだ。
姿見で見てみると。
「……あれ? どこかで会ったことあるような……」
なぜか既視感を感じました。
同世代にこんな人は、いなかったと思いますが……
「ヤバい、ハル君カッコいい……」
「ショタっぽいところがなんとも
ルビーちゃんとミヤコさんが少し怖い視線で見てきます。
「ハル君でも推しますよっ」
睦美ちゃんも悪意なくそう言ってきます。あの、アイドルとしての方向性の模索ではなく、外出する時の変装なんですが。
「……いや、これはダメだな」
「なんでよ、お兄ちゃん」
「これじゃ、可愛い女の子が格好良い男の子になっただけだろ」
……あの、可愛い女の子とか、言うのはちょっと……。ま、まあ、確かにその通りではありますね。
「……」
アイさんだけは、何故か黙り込んでいます。
「奇抜なアイテムを持たせるか」
「例えば?」
双子ちゃんはアレコレ色んなものを追加していきました。眼帯、包帯、シルバーのアクセサリー、黒革のジャケット……
「ただの厨二病患者じゃん」
「ヤベえ、カッコいい……」
「アクアのセンスも、わりとヒドイわね」
結局、うまくはいきませんでしたが。
ちょっとしたファッションショーが盛り上がってたので良しとしましょう。
雨宮ハルナ
ファッションショーで撮られた写真は秘蔵の品となったそうです(笑)
星野アクア
わりと厨二病が強い所が見えてます。かながドン引きする代わりに、みんながドン引きしてました。
星野ルビー
ファッションセンスは良いはずだけど、時々双子ファッションとかしちゃう。なんだかんだと仲が良いw
斉藤ミヤコ
自分のスキニーをハルナが履くと、かなりダブついてるのを見て落ち込みました……体格違うんだからしゃあないよ(笑)
星野アイ
変装コスの殆どはアイのものになりました。体格的に一番近いですからね。「袖余ってるの可愛いなぁ」「むう(胸周りがスカスカ)」
五月睦美
中学生になりました。五月(メイ)睦美(ム)というあだ名は、ルビーが付けてます。これから先にずっとついて回る名前になるとは、本人はつゆ知らず(笑)
荏田川
モブ。クラスメイトでは一番カッコイイと評判だったのですが、メムに撃退されました(笑)