吾郎の妹ポジになった転生者   作:とくめいです

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少し湿っぽい話し。
なお、町の構成などはフィクションです。ここの高千穂は原作や現実よりも発展してます。


06

「はい。今回もがんばったわね」

「ありがとうございます」

 

 通知表を受け取ると席に戻る。

 前世でもこうした記憶があるのだろうが、全く感動がない。というのも勉学に達成感がないからだ。心にもない返事でもにこにこしている学校の先生に僅かな罪悪感が芽生えた。

 

 今日はこれで学校は終わり。明日からは冬期休講、つまり冬休みである。とはいえ心躍るものなど特にはない。ちょっとだけ早く病院に行けるくらいだ。その間は家で勉強やら家事をするだけになるから、まああまり変わらない。

 

 そもそも転生者というおかげで小学生とか勉強をする必要すらない。授業とは……自我を高めるための修行の場……かな? 我ながらイタい事を言ってるなとの自覚はある。

 

「雨宮さん」

「ん?」

 

 気が付けば、私の机の周りを三人の女子児童が取り囲んでいた。すわイジメか? と緊張したけど、どうも違った様子だ。

 

「あ、あの。今日の午後、お暇、かな?」

「私たち、これから街で遊ぼうかなって思って」

「あなたがどうしてもって言うなら、お付き合い差し上げてもよくってよ?」

 

 おお……前二人はともかく、最後の一人は覚えている。九条一華さんだ。

 本来ならこういうお誘いは受けるべきなんだろうね。ともだち作れって保護者はうるさいし。でも。

 

「ごめんなさい。今日は用事あるからムリなんだ。誘ってくれてありがとね」

 

 そう言ってカバンを突っ掛けてそそくさと立ち去る。こういう面倒そうなイベントは回避に限る。

 

「……な」

 

 なにか言おうとしてたけど、次に会うのは年明け後。忘れてはいないだろうけど、気にしないことにした。実際に用があるのだから。

 

 

 

 

 

「おう、おまたせ。ハルナちゃん」

「社長、ご無沙汰してます」

 

 駅前にて待つこと三十分ほど。長距離バスから降りてきた斉藤社長に挨拶をする。と、その後ろに女性がいた。

 

「うわ、本当なのね」

「言っただろ?」

 

 なんか二人して話してるけど、それはマナー違反ではないでしょうか。仕方ない、こちらから聞くか。

 

「あの、そちらの方は」

「あ、ああ。妻のミヤコだ」

 

 妻……つ、ま?

 

「実在したんですね。てっきり愛人かと」

「しれっととんでもねえ事言うなぁお前」

「……」

 

 あ、女性の目が坐ってる……これは逆鱗だ。

 

「も、申し訳ありません。社会人としてあり得ない失言、平にご容赦下さいますよう、何卒、なにとぞ……」

「いやいや、土下座とかすんなよ。こっちが悪者みたくなるからよ」

 

 素早く土下座をすると社長は肩を支えて起こしてくれた。埃まで叩いてくれて……やっぱりいい人だ。

 

「す、すみません。こんな若くて綺麗な方が奥さんだなんて、ちょっと信じられなくて」

「あら。嬉しいこと言ってくれるわね」

 

 明らかな追従に乗ってニコニコしてるミヤコ夫人。度量は広そうだ。それとも褒められ慣れてないのか。

 

「ごめんなさいね。うちの人、チンピラみたいな格好ばっかりしてるから」

 

 いかにも囲ってそう……という言葉が透けて見える。

 

「こちらこそ失礼しました、社長夫人」

「まあまあ♪ いい子ね~」

 

 さっきまでと一転、にこにこしながら頭を撫でてきた。少しチョロすぎじゃないですかね、この人。

 

「ご案内します、社長夫人。こちらのバスなのですが、あと十分ほどお待ち下さい」

 

 駅向かいにあるバスターミナルから駅前の小さなターミナルに移動する。市営のバス停留所は幾つもの方面に出るバスが同じ場所に停まる。これでも本数が増えたのだが、都会のように便利には出来ていない。

 

「今日は買い物は無いのか?」

「はい。だいたい食べ物、主にアイスばかり注文されますので」

 

 既に購入済みである。銀色の保冷用袋を購入してから、持ち運びは楽になった。それを見せるとあちゃー、と社長は頭を抱える。

 

「あいつ、アイス好きだからなー」

「せめて高いのはやめさせたほうが……」

「んでも、旨くねえって捨てちまうんだぜ。そのほうが勿体ねえよ。外聞も良くねえし」

「それもそうねぇ……」

 

 二人はそんな会話をしている。お邪魔しても悪いのでしばらく黙ってると前の通りを先ほどのクラスメイトたちが通りかかった。

 

『間が悪いなぁ。ま、断ったし』

 

 と思ってたら、九条さんこっち来るし。

 

「何なさってるの?」

「「?」」

 

 すると、社長夫妻に向かって立ちはだかるように間に割って入ってきた。……なんぞ?

 

「雨宮さんに指一本触れてみなさい。このブザーを鳴らしますわよ」

「は……?」

 

 これは……私が因縁をつけられてると思ってる?

 

「一華さん、この方達は知り合いです。おやめ下さい」

「えっ? 本当ですの?」

 

 ちなみに、クラスメイトの残る二人は何が起こったのか理解出来てなさそうだ。

 

「義侠心にあふれるいい友だちじゃねえか、ハルナ」

 

 そう言って、社長は私の頭に手を置く。親密さをアピールして誤解を解こうとしてるけど。

 

「ぺい」

「おっ?」

 

 なるべくトゲの立たない様に手をどける。私の頭は安くはない。

 

「この方達は先生の所の患者さんの親族の方たちです。案内を仰せつかっているので、同道しているのです」

 

 きちんと説明をすると九条さんは謝罪してきた。

 

「そ、そうでしたの。知らないこととはいえ、申し訳ありませんでした。ご容赦下さいませ」

「いーってことよ。てめえの身を顧みずに飛び込んでくるとはいい心意気だ。お兄さん、感心したぜェ」

「……」

 

 ミヤコ夫人、ツッコみたいのを我慢してますね。どう見ても三十後半なのにお兄さんを言い張る社長、ちょっと図々しいですもの。

 

 

 

 

 九条さんたちにはお引き取り願い、待つこと暫し。病院行きへのバスがやって来た。いつものように前に座るとその後ろの席に並んで座る二人。なんだかんだとおしどり夫婦みたいである。

 

 

 

「にしても。ちゃんと友だち、出来たじゃねぇか」

「……」

 

 後ろから声をかけてくる斉藤社長。

 ……ニヤニヤしおって。気まずいので答えないと、夫人の方が助け舟を出してくれた。

 

「からかわないの。この年頃の子は繊細なんだから」

「へいへい」

 

 おお……。まともな人だ。ニコッと笑う笑顔もすごくキレイだし。それになんだか包容力が高そう……身近に居ないタイプである。

 

「ホテルはもう予約していますか?」

「ああ、前に来た時に泊まったトコに、ツインでな」

「飛行機は早くてもバスは時間かかるわね~」

 

 肩をコキコキと鳴らす夫人。やはり社長夫人ともなると色々と激務なのだろう。

 

「隣町には有名な温泉もあります。日程に余裕がありましたら、ゆっくり羽を伸ばされたら如何でしょうか?」

「そうもいかなくてな。俺は明日一で帰らんといけねえんだ」

 

 社長はそうボヤいていた。けど、夫人の方はにやりと笑っている。

 

「私は特に用もないけど?」

「え……おめえ、夫を一人だけ返す気かよ?」

「二日ばかりスケジュールの都合は付けたから。アイの様子の確認も、いちおう仕事だものね♪」

 

 げんなりした社長さん、おいたわしや。代わりにミヤコ夫人はウキウキとした様子だ。これは……尻に敷かれている、という状態なのかな?

 

 ちなみにアイが活動休止になったからと言ってB小町自体が暇になるわけでない。むしろ居ない間をカバーするために精力的に動いている、らしい。社長が忙しいのもそんな事情なのだとか。

 

「ホント、馬鹿なことしたわよね」

 

 夫人の呟いた言葉が、妙に気にかかった。

 私は無礼を承知で聞いてみた。

 

 

 

「出産というのは、いけないことですか?」

 

 

 

 すると、二人は固まった。

 まるで油の切れた機械のように。

 暫しの沈黙のうち、夫人が声を絞り出す。

 

「そうね。あなたみたいな年の子に言う事じゃないんだけど、軽率だったと思うわ」

 

 ……

 

「しかも相手を聞いてもガンとして言いやがらねえ。話の感じだと合意っぽいけど、責任問題にもなる。未成年なんだからな」

 

 ……ええと。

 

 彼らは……彼女の出産を喜んではいない、ということは理解出来た。

 その瞬間、なにかが胸の奥にちらついた。

 

「子供を産むというのは、そんなに悪いことですか?」

 

 思わず、口に出てしまった。

 そして、どうやら止まらない。

 

「アイさんは家族が出来ることに、憧れがあるって言ってました。家族を失って、でも、それでも欲しいと願うのは、いけないことですか?」

 

 止まらない。

 

「いや、そうは言ってない……」

「彼女が幸せになるのが、いけないんですか?」

「ハルナ……」

 

 止められない。

 

「わたしは、幸せになってほしいと思ってます! わたしは……!」

 

 私を包み込む、柔らかな感触。私の横に移ってきた夫人の身体から立ち昇るほのかなシトラスの香り。

 

 それに受け止められて、私のことばは速度を失った。それでも、止まらない。訥々と、こぼれていく。

 

「わたしみたいな、ハンパなこどもでも、先生にささえられて、生きています……ささえるあなた達が、かなしいことを言わないで……」

 

 コレがエゴなのは理解している。理性の部分が、言うべきでないとも分かっている。

 

 これは内政干渉、プライベートな話であり、それに伴って会社という大きな問題にも関わっている。小さなこどもである私なぞが関わってはいけないのだ。

 

 でも、止められなかった。

 何故かは分からないけど、止めたくなかった。

 

「……ごめんなさい。ほんと、軽率だったわね」

「すまない。悪気はなかったんだ」

 

 謝らないでほしい。

 弱い自分を認められるような気がして。

 ああ、こんな考えだから、子供なのだな。

 

 

 

 ──溢れる涙は、なんのためのものなのか。

 

 私には分からなかった。




雨宮ハルナ

わりと久しぶりなガチ泣きに本人も驚いた。ミヤコに対しての暴言もポロッと出てしまっていた。本人は気付いてないけど、斉藤社長が少し気に入ってるせいかもしれない。

斉藤壱護

田舎に週一で通うマメな社長。経費とはいえ金かかり過ぎなのでもう少し頻度を落としてもいいかなと考えている。それくらい、雨宮医師とハルナは気に入ってる様子。

斉藤ミヤコ

初登場でいきなり愛人扱いスイマセン。だって社長夫人にしては若過ぎるし綺麗すぎるんだもの。会社の経理と世話してる子の出産で板挟みなため出てしまった発言は、本当にただのボヤきでした。

バスの運転手

ハルナを泣かせたこの辺では見かけない二人組の大人に、内心怒ったりほっこりしたりしてた。
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