吾郎の妹ポジになった転生者 作:とくめいです
『やるかよ、バカくせぇ』
電話口の相手はかったるそうに答えた。その声色から自暴自棄な態度が見て取れた。
「もう、熱は冷めちゃったのかな?」
『あー、そうだよ。ていうか、あん時の俺はやっぱおかしかったんだよな』
「義憤に燃える正しいファンだと思えたけど、ね」
『……人を殺そうとか考える事自体が間違っていたんだ』
気付いちゃったか。
だとするとコイツはもう使えないな。
ガチャリと公衆電話の受話器を落とす。語るべきことが無いなら話す意味もない。
「さて……どうするかなぁ♪」
協力者はまだいるけど、どれもこれも実行役には不向きな存在ばかりだし。となると……
追い詰められているのに不思議と高揚感を感じた。
追い詰めているのは、自分の矜持という詰まらないもの。なら高揚感は、この状況を悪くないと感じているのだろうか。度し難いと心のなかで悪態をつくけど、それすらも心地良い。
──ああ。
コレが酔う、という感覚か。
あのときは緊迫していて、それも自覚できなかった。
人の気配を感じたので懐中電灯を消し、闇夜の中をうろ覚えに街まで帰り、次の日の始発で町を後にした。遠回りの経路を使ったのは捜査の撹乱のためだったけど、どこまで必要だったかは今でも正解がわからない。
あの時は逃げることに必死で……強烈な感覚を得たのは新聞にあの事件が事故として扱われたと書かれたときだった。
あのときの感覚は、今でも忘れられない。
人の死。
その重さ。
その価値を失くしたときの嗚咽。
必死に逃げると言いつつ、僕は彼を失う君の声を、微かに聴いていた。
遠くから、囁くように聞こえる声。
『せんせーっ』
あの声に、僕の価値は変わってしまった。
彼女を上回る存在などある筈がないと思っていたけど。
この世に絶対は無いのだと知らしめられた。
そして、新たな扉が開いたのだ。
ああ。
君はなんて儚く輝くのだろう。
彼女が一等星なら、君はぼんやりと輝く月のようだ。
満月のように空を青く染める訳ではなく。
三日月のようにその存在感を際立たせる訳でもない。
云うなれば、半月。
半身を闇へと身を落としつつも、輝きを放つことをやめられない半月だ。
疎遠になっていた父に頼み込んで色々と手を回したけど、そんなモノは必要が無かった。
あの社長は確かにやり手であり、周りの大人連中も木偶の坊ばかりではなかったのだ。
だから、彼女と共に君は輝き始めた。
僕の子どもたちも注目されていたようだけど、それは今はどうでもよかった。それすらも、君のためのレフ板だ。
くだらない仕事だと常々思っていたけど、彼女や君が歌い、踊るさまを見ていると、不思議と素晴らしい仕事だと思えてくる。
天岩戸で隠れていたアマテラスの気持ちも理解できようというものだ。
──でも、それも明日で終わる。
綺羅星のように現れた君が、長く世に蔓延るのは良くないのだ。
神は死してこそ神たり得る。
美しい少女のままで消え去る事で普遍的なものとなるのだ。
世界にもたらす影響は大したことはないだろう。
だが。
一定の人間の心のなかで、君は生き続ける。
歳を取らず、若々しいままで。
偶像が偶像のままに。
神へと至るのだ。
そのユダたる者の使命が僕にはある。
──ああ。
可愛い、僕の義妹よ。
明日が待ち遠しいよ。