吾郎の妹ポジになった転生者 作:とくめいです
物語は、ようやく一巻目のクライマックスへ……あらためて思うけど、フリが長過ぎる(笑)
追記
誤字報告、ありがとうございました。
その日の天気予報は晴れのち曇り、ところにより雨。
ライブ・ツアー最終日には少し残念な空模様ですが致し方ありません。
昨夜はアイさんのお宅に泊まり込んでいました。色々と準備もあるのも本当ですが、それ以上にアクア君と離れたくなかったのかもしれません。
はっきりと返事をくれた彼に対し、私も伝えなければならない事があります。
それは、アイさんやルビーちゃんのいる前では話せないこと。
──アクア君の中に貴方が居ると、私が知っていること。
貴方は星野アクアとして私の想いに応えてくれたけど。
私は──
貴方を先生として見ています。
同時に、ルビーちゃんのことも伝えるつもりです。
私とアクア君を繋げようとしているのは分かりましたけど、さりなちゃん的にはそれでよいのか。
確認をせねばいけません。
──前世での恋は、
諦めたのかと。
ルビーちゃんの中身がさりなちゃんだと気づいたのは、アクア君の中身が先生だと気付くよりも前でした。
素直なさりなちゃんの行動は、よく見ればその端々に面影が見え隠れします。
元々さりなちゃんを知らないアイさんやミヤコさんには分からないかも知れませんが、さりなちゃんのことを知っている私には容易に分かりました。
そして同様にさりなちゃんを知っている先生も分かっているはずです。
でも、先生は敢えて気付かないふりをしていました。
理由は分かりませんが、先生の思惑を阻害するのは本意ではありません。
私はアイさんと相談して先生が亡くなったのではなく、海外へ赴任したという設定を社長やミヤコさんとも共有しました。
『「出産に立ち会った医師が事故に巻き込まれて死亡した」という事実は幼児に敢えて聞かせる必要はない。そんな事で聡明な彼らにトラウマでも付いてしまったら後々大変なことになると思う』
そう、嘘をつきました。
これがいずれ破綻する嘘なのは百も承知です。
報道もされてますし、アーカイブなどを探ればすぐに判明するからです。
欲しかったのは、時間。
先生がさりなちゃんと向かい合う為の猶予でした。
もっとも、それも意味を成さなくなります。
私がさりなちゃんに伝えてしまえば、二人はお互いを認識し合います。
その結果、先生の返事が変わったとしても……私は受け入れるつもりです。
さりなちゃんを押し退けてまで、自らの欲を通すなどあってはいけないからです。
わたしは本来、存在してはいけないものなのですから。
四歳のあの事故で。
母とともに命を落としていたはずなのです。
転生者としての自我が芽生えたからこそ、その場は緊急避難として逃れてしまったのですが……■■華月は、そこで死んだのですから。
知識はあっても、自身の何も知らない、不完全な存在。
人はひととしての自我を持たねばいけません。
アクア君は、先生としての自我を。
ルビーちゃんは、さりなちゃんとしての自我を持つように。
前世の記憶を持って生まれ変わった者は、そうあるべきなのです。
自我のないわたしは、純粋には転生者ではないのです。
ただ知識と教養だけを持たされた、ふつうの子供と変わりありません。
そんなものが、あの方たちと並び立つなど……あってはならないことです。
それでも。
先生がそれでもいいと。
さりなちゃんがそれでもいいんだよと。
そう言ってくれたのなら。
そのとき。
わたしは、
わたしの望む道を……進めるでしょうか?
「ハルねー、なんか調子悪い?」
「今日のライブのことを考えてまして。少しぼうっとしてました」
「それならいいけど。体調悪いなら、社長に言っておいた方がいいと思う」
起きてきたアクア君の言葉に胸がときめいてしまいます。
それを悟らせないように平静を装って答えます。
洗面所に向かうアクア君が振り向きました。
「今日はアップなんだ。可愛いよ」
「、〜〜」
早起きしたので髪を纏めて祖母の簪を刺していたのですが、彼は目聡く気付きました。
いきなりかわいいと言ってくるとは思わなかったので驚きましたが、お礼はちゃんと言わねばなりません。
「あ、ありがとうございます」
「この簪も、綺麗だね。きっと、付けてもらって喜んでるよ」
この
「和装もあったよね?」
「有りますけど風も通してませんし。今日は忙しいですから」
「そうだね。今日はB小町一世一代の晴れ舞台だからね」
背丈も伸びて、お祖母さまの着物も着れるようになりました。今年のお正月には、着てみてもいいかもしれません。お昼の準備の前に、一度部屋に戻って着物を出しておきましょう。虫喰いは無いと思いますが、念のため。
階を上に登って二軒目。ここが斉藤家のお宅です。ずっと厄介になり続けた、我が家です。鍵を開けて中に入るとミヤコさんが台所でコーヒーを飲んでいました。
「おはよう、ハルナちゃん」
「おはようございます、ミヤコさん」
少し他人行儀なやり取りに見えますが、これでも十分親しくなったと思います。お若いお母さん。それがミヤコさんです。
「今日はそっちから行くと思ってたけど、何か忘れ物?」
「いえ。着物を出しておこうかと」
「ああ。その簪のせいね? アクアに見せて〜とか言われた?」
「そ、そういうわけでは……」
興味を持ったのか、ミヤコさんも部屋にやってきました。
「わお。振り袖じゃない」
「お祖母さまがお若い頃に着ていらしたそうで」
ちなみに柄は色とりどりの桜です。袖の部分には大振りの枝垂れ桜が描かれています。お祖母さまの若い頃、ですから五〜六十年は経っている筈ですが……虫喰いやシミはありませんでした。
「うちはレンタルで済ませちゃったから、こういう手間は掛からなかったわ」
「そうでしたか」
一度着たら日の目を見ないことの多い着物にお金も手間も掛けない、ということなのでしょう。
「でも、こういうのも良いわね。親から子、子から孫へ渡していけるものって」
「……そうですね」
「では、私はアイさんの部屋へ戻ります」
「こっちから迎えに行くからそれまで待機ね」
「了解です」
ミヤコさんと玄関先で別れると、花束を持った人が別の部屋から出てくるのが見えました。
「あ、ハルナさん」
少し前に引っ越してきた学生さんです。度の強い眼鏡を掛けていて、少し癖のある黒髪の青年です。私は軽く会釈をして答えます。
「どなたかのお祝いですか?」
「ええ」
言葉少なに微笑む彼。端正な顔立ちが僅かに綻ぶというのは、やはり眼福なのでしょうか。この辺りはアクア君の笑顔にも通づるものがありますね。
彼の持つ花束はピンクと白のバラにカスミ草をあしらえたものです。ふんわりと良い香りがしています。
「実は、プロポーズを考えている方がいまして」
「それはようございますね。相手の方も心待ちになさっておいででしょう」
社交辞令に言葉を交わしますが、そろそろ部屋に戻らないといけません。では私は、と振り返ります。
「つれないですね」
小さく呟く声が思ったよりも近くから聴こえ、私は一瞬固まってしまいました。だから、そのあとのことにも対応出来ませんでした。
──ずぶり
体の奥から響く鈍い音と、身を貫く激しい痛み。
視線を後ろに向けると。
分厚い眼鏡の奥に仄暗い光を湛えて、彼は微笑んでいました。
「……あ、なたは……」
その顔には、見覚えがありました。
──いつの日か見た、鏡の中の自分のすがた。
黒い短髪のウィッグを付けた自分と瓜二つの姿。
その端正な
「あらためて、こんにちわ。
愛おしい、