吾郎の妹ポジになった転生者   作:とくめいです

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 この世からすべての光が消失したかと思ったあの日から月日は経ち、俺たちは高校への進学が決まった。

 

「うんうん。二人とも決まってるね〜♪」

「でしょお? ママの子供だもん、トーゼンだよぉ♪」

 

 あの事件の後、B小町は解散した。

 

 アイが女優業に専念するためという理由が一番だったが、他のメンバーの心が折れてしまったのもあるのだろう。

 

 ニノやみーりゃんは引退し、その他のメンツもしばらく芸能界に居たけどぽつぽつと引退していき、今でも苺プロに在籍してるのは渡辺だけだったりする。ちなみに麻雀プロになれてそちらのリーグで活躍しているらしい。

 

「アクアもカッコいいよ♪」

「ありがと、アイ」

 

 詰め襟の学生服は中学と変わらないけど、この服はそんじょそこらの安物とは違ったりする。

 

 俺はこの春から秀知院学園高等部へ奨励生として入学する事になった。社長やアイは一般で受けろと言ったけど、俺としてはハルナと同じ形で入りたかったのだ。

 

「頑固なのはハルちゃん譲りだね」

「褒めてくれてありがとう」

「褒めてはいないんだけどなー♪」

 

 ちょいと手を伸ばして前髪を直しながらそう答えるアイ。

 

 まだまだ若いのに母親らしい貫禄も備えつつあり、若干の苦手意識も芽生えていた。

 

「ママ。わたしもー」

「はいはい。ルビーはいつまでも甘えん坊ねー♪」

 

 ルビーの方はというとそんな様子はなく、今でも仲良し親子で似たもの親子だ。

 

 ちなみに俺達の関係はすでに世間に認知されている。

 

 アイがアイドルを辞めて女優で活動を始めた時期のインタビューでぽろっと溢してしまい、一時は紙面の一斉を風靡したほどだった。

 

 しかし、それも時と共に風化していった。

 

 芸能界というのは入れ替わりも激しいし、旬を過ぎたネタにいつまでも付き纏う暇な連中ばかりじゃない。

 

 それに、ある意味名前を売るには絶好の話題だったとも言えた。

 

 恋多き美貌の女優という印象のついたアイは、清純派から本格派へのシフトを行い業界での一定のポジションを手に入れた。

 

 ルビーはというと。

 

 アイドルを目指して養成所へ通っている。学校は芸能科のある陽東を選択した。上目遣いにこちらを伺いながら聞いてくる。

 

「お兄ちゃん、あたしが居ないからって女の子に手ぇ出しちゃダメだかんね」

「人聞きの悪いこと言うなよ。お前こそ、俺が居ないからって悪い男に引っ掛かるなよ?」

「先輩が守ってくれるから平気ですー」

「有馬に今度菓子折りでも持ってくか」

 

 有馬かなは陽東に進学していた。

 

 親の離婚と祖父の持病の悪化せいで、今は寮暮らしなんだそうだ。

 

 俺は芸能界から遠ざかってるけどルビーはそちらへ進むため、未だに交流は続いている。

 

 

 

『いつか、役者に戻ってきなさいよ?』

 

 

 

 会う度にこんなことを言われているけど、俺はもうあの世界に戻るつもりはない。

 

 そもそもそんな素質もなかったけど、前世の熱があの時から俺を焦がしていたからだ。

 

 

 

『医者になるよ。だから、役者にはならない』

『……そ。』

 

 

 有馬の少しだけ寂しそうな顔に罪悪感を抱きつつも、医者への熱望を止められない。

 

 秀知院への編入もその後の進学に有利になるからに他ならない。

 

 ……まあ、ハルナに対する挑戦、という意味もあったけど。

 

「いってきます、ママ」

「いってきます」

「うん。いってらっしゃい♪」

 

 

 アイに見送られ、俺達は新しい環境へと進む。

 

 生きているからこそ、歩みは停められない。

 

 それは前回亡くなった自分への免罪でも有り、喪った存在への贖罪でもある。

 

 

 

「ほんっとーに、女の子に手ぇ出さないでよ、せんせ」

「出さないって。あと、せんせはやめろ」

「あたしにとっては、せんせはせんせだよ♪」

 

 テヘッ、と笑顔のルビーに少しだけ苦笑する。

 

 

 あの事件の後、結局俺は前世のことをルビーに話した。

 

 そうでもしないと復活できない程にルビーが塞ぎ込んでいたからだ。

 

 

 

『……え』

『だから、俺は吾郎。雨宮吾郎なんだよ、さりなちゃん』

『……うそ。だって、キモい、厄介オタクで……』

『ハルナには、伝えられなかった。だけど、今生きている君には伝えられる。もう、後悔はしたくないんだ』

『う、うう……せんせ。せんせーぇぇ……』

 

 

 ハルナにいつかは打ち明けようとしていたけど、死別によってそれは叶わなくなってしまった。

 

 さりなちゃんにも、そんな事はしたくなかったのだ。

 

 そしておそらく、ハルナもそれを望んだはずだ。

 

 だから、俺はルビーに前世をバラし、彼女からもさりなだという証言を得た。

 

 

 

『せんせ、結婚しよ?』

『おれら、兄妹だぞ?』

 

 

 

 まさか四歳児から求婚されるとは思わなかったけど。

 

 それ以降、ルビーは俺に女が寄り付くのを極度に嫌がるようになった。

 

 有馬も、ころもやフリルも、あかねも目の敵にしたし、九条や森本の姉貴にも警戒するような視線を送っていた。

 

 

『失礼だからやめろって』

『あたし、ブラコンだから』

 

 

 と開き直る始末である。

 

 周りからは仲の良い兄妹と見てもらえているけど、ルビーの目の奥にあるハートを、みんなは気付かないのだろうか?

 

 一度聞いてみたことがあるけど、恐ろしいことにみんなも気付いていたらしい。ルビーは兄にガチ恋だと知られていた訳だ。

 

『な、なんでそんなに落ち着いてんだ?』

『だって、兄妹だし。どうにも出来ないよ?』

 

 ……まあ、その通りなんだけど。

 

 

『それにインモラルな方が燃える』

 

 

 と言ったフリルだけは、やっぱりズレてるなと感じた。

 

 他の子達はなんだかんだと言っても俺を信用しているらしい。有馬の言葉が、とても印象的だった。

 

 

『ガチに妹に手を出すクズとは思えないでしょ』

 

 

 実際、ルビーは可愛い。

 身内贔屓を入れなくてもアイの遺伝子が強過ぎる。

 

 俺が傍に居ることで虫除けになるのならいつまでも居てやりたいほどだ。だが、いつまでもそうはいっていられない。

 

 

「それじゃ、お兄ちゃん。あたし、こっちだから」

「おう、気を付けてな」

「帰りにお迎えに来ても、いーんだよ?」

「あそこ出待ち多いから……近くのマックに居るよ」

「おっけー♪ ガッコ終わったらロインするね」

 

 そう言ってバス停へと駆けるルビー。

 

 さりなちゃんの頃は出来なかった高校への、そしてアイドルへの期待に胸を膨らませている。

 

 ……まあ、実際に胸もかなり大きくなったとは思うけど、まだまだ子供だ。しっかり見張っておかないと。

 

 俺はというと駅まで歩く事になる。秀知院はここから三駅ほどあるから自転車通学のほうが楽なんだが、慣れてから変更してもいいかなと思う。

 

 

 

 

 世間はあの事件をすっかり忘れてしまったようだ。

 

 アイがB小町(アイドル)だったことすら認知されなくなったのだから宜なるかなというやつか。

 

 だが、今でも東京ドームには毎年献花がいくつか見られるところを見るに、忘れられない人間は居るらしい。まあ、俺もそのうちの一人だけど。

 

 ハルナを殺した犯人は、重度の精神疾患を負って入院中、だそうだ。

 

 人伝に聞いた話によると、ハルナ自身が祖母様の簪で頭をロボトミーしちゃったとか言われてる。あの簪が戻ってこないところを見るとあり得る話なのかもしれないけど。

 

 そうだとすると。

 

 ハルナはハルナ自身の手で復讐を完遂している。

 

 俺に出る幕は無いと言われてるようで、少し淋しくもある。

 

『すでに人として終わってる人間を殺しても、意味はありませんよ』

 

 と言われてる気がして。

 

 

 ──結局。

 

 俺はハルナに何かを返したいだけなんだと気が付いた。

 

 雨宮吾郎の頃は、何も渡せずに他界して。

 

 星野アクアとなってからも、何も返せていなかった。

 

 それが愛情とは言わない。

 だとすると、愛情とは切ないばかりのものになってしまうから。

 

 しいて言うなら……恋慕というのかもしれない。

 

 そこまで考えて、ようやく俺は自覚した。

 

 

 

 ──俺はハルナに。

 恋していたのだと。

 

 

 

 

 

 

 少し早めの電車のせいか、混雑はあまりなかった。ちらほらと詰め襟や古風なセーラー服の姿が見えるに、通学に使っている連中もそこそこいるようだ。

 

『ねえ、あれ見て』

『わ、スゴいイケメン……』

『くっ……』

 

 

 電車の中での周囲の声を思い出す。見知らぬ劇団員はどんなツラだったのかは知らないけど、アイの遺伝子はやはり強い。街を歩けばこんなさざめきはよくある事だし、あからさまなモーションをかけてくる女性も暇がない。

 

 だが。そんな有象無象に関わるつもりは毛頭ない。それまで関わってきた顔面偏差値の高さもあるけど、それ以上に内面が整っていない人に心を揺さぶられるなど有り得ない。

 

 ハルナ以上の存在などこの世には有り得ないのだから、俺は一生恋などしないのかもしれない。

 

 それでいい、とも思う。

 

 前世の記憶を持った人間なんて、ろくなものじゃない。アイには悪いけど、孫はルビーに任せるとしよう……いや、それもハードル高いか。

 

 

 ぽす。

 

「わ、わ」

「ああ、すまない」

 

 曲がり角をぼんやりと歩いていたせいか、出合い頭に誰かに当たってしまった。自分よりもかなり背の低い、おそらくは女の子。

 

 柔らかな亜麻色の髪は滑らかで。

 こちらを覗く大きな瞳は琥珀色に輝いていた。

 

 

「ふわ……」

「あ……」

 

 

 見れば秀知院の中等部の制服、ならば小さいのも無理はない。

 

「はー、前ちゃんと見なよぉ?」

「ご、ごめんなさい」

 

 後ろから別の声が聞こえた。似てるけど少しすれた感じの、それでもきれいな声。

 

 似たような顔つきのもう一人はやや吊り目の、やはり美少女。こちらを値踏みするような視線に、少しイラッとする。

 

「なに? ナンパ?」

「子供をナンパなんてするか」

「へへぇ〜。にしては、はーのことやけに見てるけど」

「ひゃ、うう……」

 

 恥じ入る姿や立ち振舞に、あの子がダブる。そんなわけはないのに。

 

「その格好ってことは先輩かぁ。新入生の鈴城つきだよ? ヨロシクね、センパイ♪」

 

 後の方の奴が勝手に自己紹介を始めた。こうなるとこちらも言わないわけにはいかない。

 

「秀知院高等部一年、星野アクアだ。あと、知らない人にいきなり個人情報渡すのは危ないぞ。気をつけろ」

「うわ、オジさんみたい」

「つ、つーちゃん。やめなよー」

 

 コイツはいい性格してるみたいだ。言ってるにも関わらず前の子の方を掴んでこちらに押し出してきた。

 

「こっちはー、鈴城はるっ。はー、とか、はーちゃん、って呼んであげてね♪」

「つ、つーっ!(わちゃわちゃ)」

 

 やや強引な紹介に、もう一人の方は目がぐるぐるとしている。お前、それはひどくない?

 

「お兄さん、外部生でしょ? 案内とか必要じゃない?」

「お構いなく。入学早々、中等部の子を引っ掛けたなんて言われたくないんでね」

「あ、あうあう……」

 

 手をひらひらさせて先を急ぐ。

 

「あー、無視すんなー」

「つ、つー。もうやめよ」

「ちょーっと、顔が良いからってお高くとまんなよ?」

「つー、恥ずかしいよぉ」

 

 ……後ろからそんなやり取りがずっと聞こえてくる。おかげで周りの視線はこちらに集中してしまっていた。

 

「分かったっ! 頼むから大声で騒ぐのだけはやめてくれ」

「んふふ〜、素直にそう言えばいいのにー♪」

 

 

 根負けして案内を頼むと、もう一人の子のほうが謝ってきた。

 

「ご、ご、ごめんなさい。つーちゃん、少し強引なトコがあって……」

 

 その仕草にもなんとなく見覚えがあって。

 

「……平気だよ」

 

 ぽんぽん。

 

「ひゃう……」

 

 思わず、頭に手を乗せてぽんぽんと叩いていた。嫌がるかと思ったけど、そんなでもなく。ずいぶんと懐かしい感覚に、心が安らぐのを感じた。

 

 カシャリ。

 

「んな?」

「出会ったばかりの女の子に(物理的に)手を出すイケメンっ! コレは、バズるよぉ?」

「つ、つーっ! やめてよぉっ!」

 

 スマホを掲げて逃げ出す『つき』に、それを追う『はる』。そこへ春風に乗って桜の花びらが舞っていく。

 

 

 なんとなく、先行きが面白そうな気分がした。

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、正座」

「……アイツ、本当にあげやがったのか」

 

 SNSに投稿されたそれを見たルビーに、帰ってから吊るし上げられたのは……ある意味しょうがなかったのかもしれない。




星野アクア

高校生となったアクア。色んな事があってやさぐれつつも医師を目標に決めました。芸能界に固執する理由は無いからね。

星野ルビー

陽東に入学したけど、原作どおりにデビュー出来るかはまだ未定。でも、フリルやかなとも友達なのであんまり心配はしてない様子。それよりアクアの事のが心配な今日此の頃。バズっちゃってたら叱るのは残当。

星野アイ

女優業もすっかり板について、ますます美しくなった伝説のアイドル。世話焼きお母さんにもなってるのでアクアは最近距離をおいてる。それが淋しくも有り、頼もしくもあり。

鈴城つき

秀知院初等部からの内部進学で、入試では次席。社交的だけど周りを振り回しがち。妹のはるのことがだいすき。

鈴城はる

つきの妹で、入試で首席を取る才媛。物静かで控えめな性格であり、つきといつも一緒にいる。ちなみに歳の離れた姉はアイドルをしてます(笑)
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