吾郎の妹ポジになった転生者   作:とくめいです

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冒頭はつきちゃんの前世での回想メイン。後半ははるちゃんの視点となります。


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 全く面倒なことになったものだ。

 まあ、可愛い後輩のためだと思えば辛くはない。

 

 いや、むしろ楽しいとすら感じている。

 遣いとして烏に身を窶していた頃に比べて、外界からの刺激がとても多い。

 

 人間というのはやはり愉しい存在だという主の言葉は間違いではなかったということか。

 

「つー、どうしたの?」

「うんにゃ。なーんでもないよ?」

「そ?」

 

 こちらを伺いつつ勉強の手は緩めない、わたしの妹。

 本来の世界線ではここの子供ではないはずの私だけど、ここは主の箱庭で私はその下僕である。

 

 鈴城はるとなった雨宮ハルナだが、その転生に彼女は一つ条件を付けた。

 

 前世の記憶を消して欲しいと。

 

 

 

 

 

 

 

『それでは、転生ではないのでは?』

『あの子はハルナとして十分に生きたと言っていたよ』

 

 主との会話を思い出す。

 享楽的で人の悪い方だけど、情がない訳ではなくて……むしろ深過ぎるほどかもしれない。

 

『あの子には不憫な思いばかりさせたからね』

 

 端正な顔が怒りで歪み、周りに神気を放出しまくる姿は、さても暴神と呼ばれるだけのことはある。

 

 このままではしがない下僕など掻き消えてしまいそうなので抑えるようにお願いすると、ようやく怒りの矛を収めてくれた。

 

『物語には試練は付き物とはいえあの子ばかり不幸に陥れるとは……』

『さもあれば落ち着き下さいませ』

『……うむ。お前にも苦労をかけるな』

 

 勿体ない言葉に平伏する私。

 話を戻せばまた怒りを思い出すかもしれないけど、私はハルナのことを問い質す。

 

『それで、あの子のことですが……』

『うむ。あの子は彼の者の重石になりたくなかったのだろう。記憶を持った自分に、アクアが振り回されるのは本意ではないと言っていた』

 

 万事に控えめなあの子のことだ。

 

 他の女の子たちに気を遣ってか、はたまたアクアの自由意志を尊重するつもりだったのだろう。

 

『いじらしいですね』

『まったくだ。我が人なら嫁にしたいくらいだよ』

 

 ……あなたが言うと洒落にならないんだよなぁ。

 

 それはともかく、今後の方針も聞かねばならない。

 

『それでは、わたしのお役目とは』

『うむ。まあ、あの子のさぽーととやらをしてくれ。順番的にはお前の番だったわけだし』

『左様ですか』

 

 我々下僕の任務は下界に降りての情報収集である。付随する任務がお守りなら是非もない。

 

『彼の者と接触しやすい環境も整えられた。そのように誘導してやってくれ』

『宜しいので?』

 

 そう言うと、主は少しだけ笑った。

 

『我もあやつらと同じように物語は大好きだ。だが、いわゆるはっぴーえんどとやらの方が好ましいようだ』

 

 人の営みに物語などというものを当てはめるというのは、さてもこのお方も、他の方々と同類らしい。

 

『お前にも苦労かけるが、まあよろしくな』

 

 ほんわりとした暖かい笑みを浮かべる主に、わたしは言葉もなく傅くしかなかった。

 

 

 ──それはわたしの望みでもあったのだから。

 

 

 

 

 

・・・・

 

 

 

 

 

「つー、おねむ?」

「うーん……むにゃ……」

「風邪ひくよぉ? もう」

 

 隣で船を漕ぐ双子の姉の肩にブランケットを掛けます。

 

 就寝時間までの勉強タイムはだいたいこんな感じ。これで私とあんまり成績が変わらないんだから、本気出したらもっとすごいんじゃないかなとも。

 

 緩やかなウェーブの髪は私と同じ亜麻色で艶々としてて。今は閉じてる瞳だって私と同じ琥珀色。

 

 だと言うのに私と違っていつもキラキラ輝いてるのだから羨ましくも思ってしまいます。

 

「ふぅ……」

 

 付箋を貼り付けてノート閉じると天井を仰ぎます。

 

 新たな教科書のチェックは粗方終わらせたし、つきの方もなんとか自分の分は終わらせてたみたいだし。二人でチェックすると早くて助かります。双子って、こういうときすっごく便利。

 

「あのひと……」

 

 ふとした瞬間に思い起こしたのは、今日出会った、あの先輩。

 

 スラリとした背に、海外のモデルさんのような綺麗な顔立ち。キラキラと輝くブロンドに青い瞳という日本人離れしたあの人。

 

「星野、アクアさん……」

 

 アクアっていうことは、ハーフなのでしょうか?

 役者さんみたいに立ち振る舞いも格好良くて。

 まるで別世界のひとみたいだったなぁ。

 

 ぼうっとしていると、コンコンとノックがあって。扉を開けるとそこにはお姉ちゃんがいました。

 

「うおーん、つかれたよぉー」

「まなねー、おかえりぃ」

 

 一番上のお姉ちゃんであるまなは、アイドルをしています。

 

 アイドルというと華やかなイメージが多いけど、実際はとてもハードなお仕事らしく毎日クタクタになって帰ってきます。

 

 つきを部屋に残して私達は一階へ降ります。

 

「ママはまだだけどパパはもう寝てるよ」

「みたいだね。まあ仕事朝早いし」

「ごはん用意するね」

「ありがとう。わたし、オフロ入るね」

 

 ママは外資系の商社勤務でパパは建設会社の社長。世間的にはとても裕福な家であって、私達双子が一緒に秀知院に通ってるのもそういう理由があります。

 

 台所に入ると作っておいたサバの味噌焼きを雪平鍋で温め直します。

 次に小鉢の小松菜のおひたしを冷蔵庫から出して。隣のコンロのお鍋も温めます。お味噌汁、まなねー好きだからね。

 

 あとは、糠漬けでも出しておこうかな?

 今日はたしか大根だったのでそれを一本取り出してぬかを水で流して。まな板でトントンと切っていきます。

 

 家庭科の授業で学んだ時に興味を抱いて。

 やってみたらすごく面白かったから毎日やるようになってたら、いつの間にかお母さんまで私に投げるようになっちゃった。

 

「明日のお弁当の下拵えでもしようかな」

 

 卵焼きとか簡単なものはなるべく作る方針です。

 本当はおかずは全部作りたいけど、つーにもママにも止められてます。

 

 理由は二人とも違ってて、ママは単純に勉強時間のロスから、つーは『体に良くない冷凍食品も食べたい』という意味が分からないもの。

 

『体に良くないものはおいしーのだっ!』

 

 と、堂々と言ってママにぺしんと叩かれていました。

 

 でも、つーのそういう所はすごく好き。

 

 なんでも物怖じしないで言っちゃうって、私にはとてもムリなことだもの。

 

 解凍してある豚肉の薄切りに小麦粉をふって、真ん中に茹でたアスパラを置いてくるくると巻く。

 

 適当な大きさに切って形を揃えたら温めたフライパンに敷き詰めて焼いていって。ソースは少しだけにんにくを効かせた醤油ベース。

 

 家で食べる時はもっとおろしにんにくを入れるんだけど、さすがに学校に持っていくのには躊躇われる、かな。

 

 つーは気にしないと言ってたけど、やっぱり色々と気になるよぉ。

 

『あの人と会うときとか、困るもの』

 

 つい思ったことで、顔が赤くなるのが分かります。たった一度会ったあのひとが、とても気になっているのです。

 

「あ、夜食作ってるー」

「つー、起きたんだ」

 

 後ろから聞こえた声に答える私。

 私の姉はフライパンを覗き込んで舌なめずりしてます。

 

「あじみー♪」

「もう、太るよぉ?」

「ワタシら全然太らんじゃん。かまへんかまへん♪」

「もー」

 

 箸で一切れ摘んで口元へ出すとぱくりと一口。

 

「んー、おいし♡ も少しにんにく効いててもいいんだけどなぁ」

「お弁当のおかずなんだから。匂いのキツいのはダメ」

「あー、帰り道であのセンパイに会ったら困るもんね〜」

「えっ!?」

 

 言われてみて気が付きました。

 帰り道とかで会っちゃったら……と思うと、これでもダメな気もします。

 

 でも。つーは笑いながら軽く流してしまいます。

 

「この程度平気だって。何なら牛乳飲めば消えちゃうよ」

「そ、そうかなぁ?」

 

 ソースをぺろっと舐めてみると香ばしいし、いい塩梅。……なんとか大丈夫かも?

 

 そんな私に妙な視線を向ける姉。

 

「な、なに?」

「いやぁ、思った以上に気になってるみたいだねぇ」

「な、何がぁ?」

「アクアセ・ン・パ・イ♡」

「!、ななな……」

 

 内心慌てる私にこそりと耳打ちしてくる姉の背中には、きっと悪魔の羽が生えてるに違いないです。

 

 ていうか、なんで分かるのぉ?

 

「なんか、楽しそうな話題だねぇ」

「まなねー、お帰り。実ははーに春が来たって話でね」

 

 お風呂からあがったまなねーに、つきが近寄ってきて話し始めます。

 

「あ、あの。べつに、そんなんじゃないのぉ」

 

 そう言う自分を余所に二人はほうほうと勝手に話を進めてます。

 

「ほう。はるに春とは縁起が良いねぇ」

「まなねー。お仕事でダジャレはやめたほうがいいよ」

「う……社長には大ウケなのに」

「それ、気ぃ使われてるよ。もしくはまなねーがオッサンくさいか」

「ええ……」

 

 あ、勝手に話がそれた。(ほっ)

 テーブルにまなねーの夕飯を並べていると、つーが自分の席に座ってテーブルを指先でちょんちょんと叩きます。鳥が餌をついばむみたいに見える、つーのいつもの仕草です。

 

「はー、おにぎりちょーだい♡」

「えー? 太るってば」

「まなねーと違って若いんだから、へーきだよ」

 

 あ、地雷踏んだ。

 

「ひと言多いっ!」

「あうっ」

 

 まなねーの意外と鋭いチョップがつーの脳天に直撃。そして私に言ってきます。

 

「私もご飯はおにぎりにして。ちっこいの」

「、うん。いいよ」

 

 一人分作るのも二人分作るのも対して手間はかかりません。具は梅干しでいいかな?

 

 お茶碗によそって上からちょっとの振り塩。

 ラップをひいてその上に移して、そこにも振り塩してから種を抜いた梅干しを半分に切って一つ乗せる。

 ラップで包んできゅっ、きゅっと握っていけば手のひらサイズのおにぎりの完成っと。

 

 同じようにもう一つ作って二人の前に並べると、つーはさっそく開いて食べ始めてます。ちゃんと小さく「頂きます」と言ってるのは微笑ましいけど。

 

「はーは食べないの?」

「私はやめとくよぉ」

 

 食べながらまなねーがそう聞いてくるので、そう答えます。こんな時間に食べたら体に良くないし。

 

 でも、そこにつーがまた爆弾を放り込みました。

 

「アクアセンパイに太った姿は見せらんないもんねー♡」

「、つ、つーっ!?」

「ほほー、アクアっていうのかぁー……え?」

 

 まなねーはいきなり箸を置いてスマホをいじくり始めました。

 

 ご飯を食べながらスマホをいじると両親に怒られてしまうのだけど、今は両親の目はありません。見なかったことにしておきましょう。

 

「ひょっとして、この子?」

「「あっ!」」

 

 私とつーの驚きの声に、まなねーがやっぱりと独りごちます。

 

 スマホに映っていたセルフィーの写真。

 

 そこには、デビュー当時の髪を染めてないまなねーと。

 

 今よりもかなり若い、センパイの姿が写っていました。




鈴城つき

前世はエラいひとの遣い。原作では『ツクヨミ』と名乗ってます(笑)ハルナの最後の時に迎えに来て、そのまま彼女と転生しました。外見も似てるような似てないようなって感じになってます。あと性格も尊大な感じは少なくて普通にメスガキみたいですw

鈴城はる

前世は雨宮ハルナ。その頃の記憶が今度は綺麗サッパリ消えてるけど、なんとなくアクアに惹かれてます。品行方正で努力家のいい子なので、奔放なつきに憧れてます。あと、アイドルやってるまなねーも大好き。

鈴城まな

こちらでは双子の妹ちゃんが出来てます。あと所属も苺プロです(笑)デビューして六年目の中堅入ったくらいの知名度ですが、まだ諦める様子はありません。

星野アクア(小学校〜中学生くらい?)

女の人が少し苦手になってるのでダウナーな感じの写りかたしてます。なんとなく中二っぽくてはるにはどストライクだったもよう。(あとでプリントしてもらって額に入れて飾ってます)
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