吾郎の妹ポジになった転生者 作:とくめいです
追記
誤字報告、ありがとうございましたm(_ _)m
「お集まりの淑女の皆さん、今日は多忙な中ありがとうございます」
あたしが精一杯大人っぽい挨拶をする中で、冷ややかな視線を向けるのは我が校の先輩。
「なんすか、センパイ」
「いや。相変わらずブラコンしてんなーと思ってね」
「なっ……」
絶句するあたしを助けるのは秀知院の制服を着た別の先輩。
「気にならないなら来なければいいと思うのだけど?」
「そーだそーだ」
「かなちゃんだって未練たらたらのくせに」
「なっ……」
今度は有馬センパイが絶句する。
「そ、そういうアンタも。未練ありまくりでしょ、黒川あかねェ゙ッ!」
「ノーコメント」
お兄ちゃんと同じ学校に進学している黒川先輩とかなちゃんセンパイは仲が良いような悪いような不思議な関係。
同じ役者としてのライバルらしいけど、あたしは今のところ演技には興味が無いので内情はよく分からない。
「あ、ルビー。そっちのパンちょーだい」
「ん」
我関せずとお茶菓子として買い込んだ菓子パンを所望するのは私の親友、不知火フリル。
掴みどころの無い性格だけど音感や発声は抜群だし、センパイたちに負けず劣らずの演技力も持ってる……いわゆるチートキャラだ。ちくせう。
「それで? 司会進行は」
「そうだった。えっと、皆さんはこれをご存知だろうかっ」
そう言ってあたしは自分のスマホをみんなに見せる。画面は当然、あの話題。
あたしのお兄ちゃんが、少し小さい女の子の頭に手を乗せてる写真。ご丁寧なことにえっくすだけに飽き足らず、イソスタやテクトックにまでおんなじ内容を投稿している。
「あー……これね」
「……」
「アクアは手が早いもんね」
三者三様の返事にあたしは危機を警鐘するように言う。
「お兄ちゃんの、危機なんだよ?」
だと言うのに、みんなの反応はあまり芳しくない。かなちゃんセンパイがジトッとした目でこちらを見る。
「アクアのいつもの手でしょ? 私だって撫でられたくらいあるわよ」
「ちがーうーよっ! これは『ぽんぽん』なのっ! あたしの他にはハルちゃんにしかやんないヤツなのっ!」
この言葉に、さすがの三人も色めき立つ。ふふ、どーよ? お兄ちゃんランキング第一位の鋭い考察は(←決めたのは本人)
「る、ルビーちゃん。その、『ぽんぽん』っていうのは……撫でるんじゃなくて、優しくぽんぽんって、叩くからなの?」
「そーなのっ♪」
「なんでコイツ、マウント取ってるのよ、腹立つ〜」
かなちゃんセンパイがどす黒いオーラを出し始めた。いつも通り、煽り耐性が弱いね。
その反対に黒川先輩は考え込んでる。冷静なふりしてるけど口元が引き攣ってるから、動揺させることには成功してる。
もともとここにいるみんなは、子供の頃からお兄ちゃんと関わりのあった子たちだ。お兄ちゃんの動向には常に警戒してるはず。
そうでなかったら黒川先輩は秀知院に行かないだろうし、学力の関係で進めなかったかなちゃんセンパイはあたしの進学する予定の陽東を選んだのも身内からの情報を得やすいからだと思ってる(←注意。ルビーの勝手な思い込み)。
フリルはー……正直言うと、よくわかんない。でも嫌いではないはず。子供の頃はお兄ちゃんにひっついてばっかりだったし。
そのフリルがメロンパンを頬張りながら何か言った。
「ふぁぶちあ゛んふあくなっふぇからは?」
「なんて?」
「食べながら喋らないの、みっともない」
かなちゃんのツッコミに、んぐと飲み込んでから呟き直すフリル。
「ハルちゃんいなくなってからは?」
「……」
聞きにくいことを平気で言うのがフリル品質。
「……い、一回だけ、かも」
「ハルちゃんいた頃は私にもしてくれた。たぶんかなにもあかねにもやってると思う。違う?」
フリルの鋭い指摘に、かなちゃんと黒川先輩も少し考えてから答える。
「いや、たしかにそうだけど……」
「そういえば、絵本読んでる時にしてくれたな、アクアくん」
かなちゃんの方は知らないけど、黒川先輩にそうしてるのは見たことがある……ていうか、この二人もその頃のこと、ちゃんと覚えてるんだ。
かなちゃんは少し照れくさそうに。黒川先輩は嬉しそうに。そして、フリルはというとあまり表情を変えずに言葉を続ける。
「つまり、それはハルちゃんからのお裾分けみたいなもの。ハルちゃんが居たからこそ、アクアに余裕があった証かもしれない」
……さすがは、フリル。
せんせという存在を明かしていないのにそこへ辿り着くという彼女の直感は侮れない。
それだけ、せんせとハルちゃんの繋がりは深かった訳で。せんせが正体明かす前は二人ともお似合いだと私も思ってたし。
「結局、誰も彼もアクアを振り返らせる事はできなかったんだよ」
「……だからって、フリルはそれでいいの?」
余裕綽々といったフリルの言葉が癇に障るからそう言った。
でも、彼女はメロンパンをまた口に含んでもぐもぐと咀嚼し始める。
「あのさぁっ」
「どうどう、ルビーちゃん落ち着いて」
黒川先輩が肩を押さえてくれたから掴みかからずに済んだけど。わだかまりは残ってしまった。
「まあ。実際、そうだったもんね」
かなちゃんがため息交じりに呟く。それは、無力感に満ちた言葉だった。
「アイツを元気づける事は出来ても、その内側には入れなかった。アイツの心のなかにはハルちゃんがいる。亡くなってもう十年以上経つのに。だから私たち、みんな、負け犬みたいなものなのよ」
それは厳然たる事実であり、動かしがたい真実だ。
せんせの心はハルちゃんによって占められていて、私達は友達とか兄妹とかの枠にしか入れてなかった。
「アクアが女の子に興味を持つなんて、実際無かったわけだし。それから比べたら良いと思う」
「いいって……フリルはそれでもいいの?」
あくまでドライに言い放つ
そう思って周りを見ると、二人もなんだかそういうふうに見えてくる。私だけが空回りしているような気がして、少し居たたまれなくなった。
そしてフリルは咀嚼を終えてからこちらを向いた。
「私たちにはドアの内側には入れなかった。でもそれは、イコール負けではない」
「え……?」
「天之岩戸に倣えば、その子は
「……
「さすがあかね。その辺りの履修はしてるね」
ふふふと顔を合わせて不敵に笑い合う黒川先輩とフリル。天照は知ってるけど、他にも神様出てくるんだっけ? よく覚えてないや。
「なんでそんなこと私達がするの? よく知りもしない子のために、手助けするようなもんでしょ」
一方、かなちゃんは不平を漏らしている。そこを黒川先輩がチッチッと指を振って否定する。
「フリルちゃんが言いたいのは、アクア君を『ハルちゃんロス』の状態から戻すってことだよね?」
「うん」
「……どゆこと?」
私とかなちゃんが首を傾げる。
説明役は黒川先輩になった。
「心に負った大きな傷……そこには『ハルちゃん』という大きな存在があって、それこそがアクア君を苦しめてる。私たちの誰かがそれを癒せるかと思ってたけど、どうもそれは難しそう……なら、その可能性が高そうな第三者を利用して癒そう、ということよ」
黒川先輩が少し辛そうな表情でそう説明する。それはつまり自分たちの無力さを見せつけられているようなものだから。
「ちょっと、待ってよ。それじゃあ、この子にアクアを渡すってことでしょ? 私は賛成できないわ」
「あ、そうだそうだっ!」
一瞬気付かなかったけど、確かにかなちゃんの言う通りだ。せんせを他の人に渡すなんて、したくはない。
黒川先輩もそこに気付いてるから、辛そうな顔をしてるのだろう。
でも、フリルは涼しそうな顔をしてペットボトルのお茶をぐびぐびと飲んでる……マイペースだなぁ。
「ふう……どのみち、今の状態だとあの人は恋愛には陥らない。誰であっても」
きっぱりと言い切るフリル。
そのあと、その論拠を説明し始めた。
「『ハルちゃんロス』という状態は大事な人を失いたくない、という感情によって引き起こされてると私は考えている。今のアクアが大事に思う存在は頭一つ抜けてルビーで、その他は団子状態」
「その特別な存在を敢えて置かない事でアクア君は心の平衡を保っている、と?」
「あかねもそうなんじゃない? 私は専門外だから直感的な事しか言えないけど」
「私だって心理学は専攻してないよ? ただ、読んでる本が多いだけ」
……あたしは自分が頭一つ抜けてると言われて喜んだけど、しょせん、せんせの一番にはなれてないってのは変わらない。だから少し落ち込んでしまうけど、フリルの言葉は止まらない。
「そんな彼の前に、特別になり得るかもしれない存在が現れた。なら、任せてみるのも手だと思う。アクアのためにも」
飄々と言うフリル。その表情からは、私たちのような未練は感じない。諦められるなら、確かにその方がいいのだろう。
お兄ちゃんの新しい恋を応援する。
ハルちゃんが居なくなった心の隙間を埋められるのが、その子しか居ないのなら……そうすべきなんだと思う。
「でも……それは癪よねぇ」
かなちゃんがそう呟く。
初恋の相手なんだから拘るのは分かる。それはあたしも同じだから。かなちゃんとあたしの違いは、星野アクアと、せんせとの差でしか無い。
かなちゃんがあたしを見て一言。
「ぽっと出の歳下の子に取られるとか、悔しくない?」
「それはそうっ!」
思わず同意する。女としてのプライドが、すごく掻き立てられる。それは黒川先輩も同じみたいで頷いている。そこへフリルがぽつりと言う。
「なら奪えばいい」
「「「えっ?」」」
……このコ、いまなんて言った?
私たちがぎょっとした顔で眺めていると、お茶菓子のチョココロネを開けて頭から(尖ってるほう)齧り付く。
「いや、奪うって……」
「昼メロみたいな展開はちょっと……」
「いま昼メロって言う?」
もっきゅ、もっきゅ。
ごくんと飲み込んだあとにフリルは続けた。
「大事なひとが出来たあとはきっと昔のアクアに戻ると思う。そしたら、今みたいに取り付く島もない状態にはならない。あの人はなんだかんだ言ってお人好しで、優しいから」
その言葉に、全員なるほど、と思った。確かにその通りかもしれない。
「それにその子は中学入ったばっかだし。年齢的なアドバンテージはこっちの方にある」
「えっ、と……それって」
「まさか……」
かなちゃんと黒川先輩が頬を赤らめている。
?
「アクアがいくらゾッコンでも、既成事実があれば手を引かざるを得ない」
あ、そういうこと。
けど、そんなにうまくいくかなぁ?
「それで。結局私達はなにをすればいいのよ?」
かなちゃんがそう聞く。たぶん、賛同したって意味なんだろう。黒川先輩も頷いてる。二人には勝算があるのかもしれないけど、あたしはどうだろうか。
「何もしない。しばらくはね。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえって言うでしょ?」
コロネの下から出てくるチョコをぺろりと舐めてフリルは言う。それは、ちょっとだけエッチぽかった。
「人に恋をする事をアクアが思い出せたら、そこでリハビリは終了。あとはみんなでモーションかけていけばいいんじゃないかな? 今のままだと、どうせみんな叶わない願いなんだし」
恋のリハビリ、か。
面白い言い方だけど、確かにそれは腑に落ちる言葉だった。
お兄ちゃん、いや、せんせは恋をして夢敗れて。それで怖くなってしまった。人を愛することが怖くなってしまったのかもしれない。
行き場の無い感情を周りにぶつけるほど、彼は子供じゃない。だから自然と人から距離を置くようになった。
生来の優しさが自分を責め苛む。そんな状態がまともであるはずが無い。そこから脱するための手段として、その子を利用するとフリルは言った。
あたしとしては、もちろんせんせと添い遂げたいとは思うけど……残念なことに今生においてはあたしは彼の実の妹であって、それは果てしなく実現不可能なことなのだ。
なら、せめて。
せんせがちゃんと、愛する人と向かい合えるようになってもらいたい。
相手が誰であろうと、構わない。一番に望んだ相手はすでにこの世に居ない人なのだから。
『ハルちゃん……恨むよ。恨まれたくなかったら、生き返ってきてよ』
愚にもつかない事を心のなかで呟く。らしくないなぁ。
ハルちゃんなら。
『ごめんなさい、無理なんです。先生をよろしくお願いします』とか言いそうだ。
「くす♪」
「ルビー?」
長く考え込んでる所に笑ったもんだから、さすがのフリルも気になったようだ。もちろん、先輩たちもこちらを見てるけど。
「ハルちゃんなら、この計画を聞いて『お願いします』って言いそうだって思ったの」
そう答えると、かなちゃんが同意してくれた。
「……そうね。あの人、アクアのこと本当に好きだったから」
「それもそうだけど、なんというか人のお世話するの大好きだったもの。そういう意味でも合ってるのかな」
黒川先輩が優しそうに呟く。ハルちゃんとの関わりはあんまり無かった彼女でも気付いていたのだろう。
ハルちゃんは私たちやママのために、本当に身を粉にしてきた。ママやミヤコさんが育児ノイローゼにならなかったのも、ハルちゃんがいたからだ。
「……ハルちゃんに抱っこしてもらったこと、思い出したよ」
「そんなこと、あったっけ?」
あったかもしれないけど、あたしは憶えてない。フリルは少し遠い目をして、そして頭を振った。
「私たちは、ハルちゃんにはなれない。そして、おそらくその子も。でも、たぶんこれは必要なこと」
フリルは思った以上に真面目な顔だ。その雰囲気にあたしや二人の先輩も気を引き締める。
こうして、私たちはその子の事を静観するという方針を固めた。アクアがまた、人を好きになれるというリハビリのために。
星野ルビー
大きくなって、色々と考えることが出来るようになったけど基本はあまり変わらないルビー。でも、アクアと自分との位置を正しく認識し始めてるのはおとなになった証拠かも。
有馬かな
重曹を舐める天才子役はそのまま苺プロに移籍してます。仕事の量はかなり減らして子役のイメージからの脱却を図ってる最中です。
黒川あかね
劇団ララライの天才役者でFBI捜査官のようなプロファイリング能力を持つ彼女ですが、やはりアクアを引きずってます。あかねが秀知院に進学したのは間違いなくアクア狙い。読みは正解でした。『はる』さえいなければアドバンテージが取れたはずなのに。
不知火フリル
原作と違ってアクアへの感情はそれなりにあります。幼少期からの憧れに近いので、あかねやかなと比べると一歩引いたように見えます。