吾郎の妹ポジになった転生者 作:とくめいです
晩秋も過ぎると、この辺りも一気に寒くなる。それに元々標高も高い。例年通りだと雪はたまに積もる程度だけど、この家の辺りは舗装もされてない。
「わ、パリパリしてる」
地面に出来た霜柱を踏んで喜んでいるアイ。子供なのかな? いや、子供じゃないか。でも子供みたいにはしゃぐ彼女を、ついほっこりとした目で見てしまう。
『親目線……後方腕組み勢? どれも違うな』
「でも、なんでまたウチかなぁ」
「え〜。だって、この辺特に知らないし。観光なんてしても面白くないもの」
アイの言い分も、まあ分かる。この辺りは自然が多い。逆に言えば自然しかない。街の方には小さいけどショッピングモールとかもあるけど、あまり人の目に晒される所には行かせたくない。隣町には温泉もあるけど、そこまでして行きたいわけでもなさそうだ。
なので、比較的近場で人目に付きにくい場所というと、俺んちになるわけだ……なんでかな?
いつも散歩する遊歩道から外れて反対に進むとうちに続く道になる。幅はそれほど広くもないけど車一台は楽に進める。
「ガードレール無いから気を付けろ。落ちたら怪我どころじゃ済まないぞ」
「分かってまーす♪」
途中には崖に面した所もある。ハルナにも注意はしているが、歳上なのにどうにも危なっかしく感じる。この下には裏の集落への道がある。ただ、集落自体はもう無いから荒れるに任せた道があるだけだ。
この辺りは植林もされてない原生林も多く、季節によってなかなか景色で楽しませてくれる。ちなみに俺は、凛とした冬の景色が一番好きだ。何と言っても虫が出ないのがいい。
「ハルちゃんはおウチ?」
「ああ。なんか張り切って掃除してたぞ」
「ハルちゃんは働きものだねぇ♪」
アイの言う通り、ハルナは働き者だ。まだ祖父母がいた頃から、何かにつけ家事の手伝いをしていた。四つの時に引き取られてから、遊ぶことよりも手伝う事を優先させていた。
単純に喜んでもいられない。あのくらいの年頃は、普通は家事手伝いなんてあまりしないだろう。
子供らしくないのだ。
そうさせている自分が歯痒いのだが、だからといってやめさせるわけにもいかない。まるで自分の存在を主張しているようで、居たたまれない。それなら認めて褒めたほうがマシだ。
そんな事を考えていたら、家に着いてしまった。見上げて言ったアイが感想は。
「わお。なんて言ったっけ、ノストラダムス?」
……それは過去の人物だろ。ノスタルジーって言いたかったのかな? 確かに古民家なんて言われるくらい古いからな、この家。
鍵を回してガラリと扉を開ける。
「ただいま」
「お帰りなさいませ」
……え。
ハルナが、土下座をしていた。
あ、いや違うか。これ、三つ指ってやつだ。なんにしても、いつもこんな事してないのに、何してんの?
「アイ様も長旅お疲れ様でした。狭いところではありますが、どうぞごゆるりと」
「えっと、お世話になります?」
ここは旅館じゃねえんだよ……
顔を上げて膝をついたまま脇に避けると、どうぞと奥へ誘う。どこぞの若女将か。て、あれ?
「ハルちゃん、浴衣なんだ♪ キレイだね〜」
「本当はお祖母様の着物を着たかったのですが、あいにくと少し丈が長すぎました」
紫陽花柄のその浴衣は、夏に購入した市販品だ。女の子なんだからもう少し気を遣えと瀬能に言われたのが購入の理由だった。
「ハルナ。その格好は寒くないか?」
「きちんと中に肌襦袢を着てるよ。っくし」
「今度はお前が風邪とかやめてくれよ。ともかく、着替えてきなさい」
むう、と頬をふくらませるが、これは譲れない。仕方がないとため息をつくと「少々席を外します」と言って、奥に引っ込んだ。
「いいね、ハルちゃん。かわいかった♪」
一張羅で出迎えたかったのだろう。もう少し背が伸びたら祖母の着物を着れるようになると思うけど……新たに仕立てたほうがいいかな?
「先生、これ、なに?」
「ああ、そりゃかまどだよ」
そう答えたけど、かまどが何なのか分からないらしい。
「木を燃やして、煮炊する道具だよ。ガスコンロみたいなもんだ」
「へー、家にはこんなの無かったからなー」
まあ、ウチでもそんなには使ってない。ガスも電気も水道も通ってるし、使うのはもっぱら火鉢くらい。囲炉裏も祖父母の代で撤去してしまったので普段から使う理由もない。だから、置き物といっていい。
「ここの玄関は広いね」
「ここは寒い時期に色々と作業するのに使ってたらしい」
農閑期に軽作業をするにはちょうどいい作りなのだ。ちなみに裏にはちょっとした畑もあるのだけど、やはり祖父母の代でかなり縮小したそうだ。元は病院の辺りまであったらしい。
ガラリと障子を開けて入ると、居間はガスストーブので温まっていた。するとアイが目を輝かせる。
「うわ、何このテーブル?」
「掘りごたつだよ。若い子は知らんか」
「ファミレスとかでこーいう席は見るけど、家にあるのは初めて♪」
今は布団は掛けてないけど冬場には装備される。ちなみに昔はかまどで出来た炭で温めていたらしい。その設備はもう取り除かれてヒーターが鎮座している。もっとも、それも今は板が上に被せてあるので真っ平らだ。
「社長とかにちゃんと許可は取ってるよな?」
「だいじょぶだよ。先生んちなら近いし。信頼されてるね♪」
事の次第を聞いてから俺からも確認はしていたので嘘ではないけど、聞いてみたのだ。
『ハル坊を育ててるアンタだ。外泊するわけで無し、よろしく頼まぁ』
嬉しい事を言われたけど、だからといって緊張しないわけではない。推しのアイドルが我が家に来るとかどんなドッキリだよ。
あと、ここに泊まるとか絶対許可しない。社長が許可しても俺が拒否する。ファンとして節度を持って行動すべきだ。
「おまたせしました」
奥の襖を開けてハルナが戻ってきた。長めのトレーナーにデニムといった部屋着である。
ちなみにアイはというとゆったりとしたベージュのワンピースにバックスキンのジャンバー、黒のレギンスといった出で立ちだ。人目がないので帽子は被ってない。
こたつに座るとハルナがお茶を出してきた。お茶受けは自家製の漬物、これは大根と胡瓜か。これがなんとも落ち着く。ま、アイはキョトンとしてたけど。若い子には分からんよなぁ。
「ここは、なんか落ち着くね〜♪ これぞ実家ってカンジ」
「ま、病院より設備は悪いからそこは勘弁してくれ」
病院みたいに冷暖房完備ではないし風呂だってバランス釜だ。それでも、長く住んでいると愛着は湧いてくる。
「お昼は何にしますか?」
「わたし、ラーメン食べたい。袋麺のやつ」
「そんなのでいいのか?」
ハルナの問いに答えるアイは一言だけ「食べ慣れてるから」と答えた。
「病院の食事って全体味薄いし、種類多いけどよく分かんないものもあるし。分かりやすいのがいいな」
何がよく分からなかったのかは分からんが、白米は嫌だと聞いていたので基本パンが主食だったな。そのへんはハルナにも伝えているので、今日は和食は無しの方向……なのだが、ハルナの様子がおかしい。見るからに気落ちしてしおしおになってる。
「ど、どうした?」
「ああ、いえ。なんでも」
……そういえば昨日の買い物はやけに多かった気がするけど、けっこう気合い入れて準備してたのかな?
「では、作ってきます。お野菜でダメな物はありますか?」
「ラーメンに入ってる物ならだいじょぶだよ♪」
「でしたら葱とキャベツにもやしと、お肉も平気ですか?」
「肉は何でもいいよ」
「かしこまりました。あいにくと買い置きが醤油しか無いのですが」
「そこもおまかせ♪」
台所に移るハルナを目で追いかけるアイ。
「いや〜ハルちゃんスゴいね。一人で料理出来るんだ。先生が教えたの?」
「教えたわけじゃないぞ。やってるのをそばで見てるだけで覚えたんだ」
包丁の使い方、火加減、水加減、調味料の順番から後片付けまで。ほとんど言葉で教えてないのに見様見真似でこなしてしまう。最近ではパソコンから調べたレシピなんかも作るので俺より断然に上手くなっている。
「私もママになったら、出来るかな?」
「ウチでも料理教室とかあるし、受講してみたらどうだい?」
「うん♪ 勉強はあんまり得意じゃないけど、料理なら出来る気がするよ」
アイドルとして忙しい日々を送っていたアイにはそんな事に費やす時間は無かったに違いない。休暇中の今のうちに覚えてしまうのは悪い事ではない。
「先生?」
「なんだい」
「ハルちゃんのこと、愛してる?」
「ぶっ!」
いきなり、何言うかなぁっ? 思いっきりお茶吹いたじゃないか。
「? あ、そういうこと? ふーん、先生そういう目でハルちゃん見てたの?」
「ばっ、違わいっ!」
「あははっ、カーワイ♪」
何だか楽しそうにしてるけど、コッチはロリコンの烙印を押される瀬戸際なのだ。
「わたしね、愛ってなんなのか。わからなくてさ」
雨宮吾郎
アイが外出すると言ってたら、なぜかお宅探訪されてた件。いやー、趣があっていいデスね!
星野アイ
気になったので少し積極的に絡んでみた。彼女の生活からは想像できなかった光景ばかりでテンションが思ったよりも上がってしまった。
なので、もう少し踏み込んでみた(アクセル全開)
雨宮ハルナ
めったに来ない来客に奮起。でも、寒い季節に浴衣は草。一張羅なので頑張った。本当は昨晩から煮込んだビーフシチューと焼いたパンを出すつもりだったので、テンション下がった(笑)まあ、それは夕食で吾郎が処理しました。