僕らの提督活動は『部活未満』 作:黄緑提督
「そろそろ食べ終わったかね」
「ごちそうさまでした」
といって朝垣マツリは伸びをした。既に羊羮二本とアイス三個が彼の腹の中に収まっている。
「図々しいなんてもんじゃないね君は」
「お褒めに与り恐悦至極」
「誉めてはいないんだけどね」
と言って國月豪は外に出る。朝垣も後に続く。
「この先をちょいと行くとすぐ鎮守府だ」
「こんな近くに鎮守府があるとは、すると登下校中にしばしば見目麗しい少女たちがランニングをしていたのはもしや」
「いやそれは分からん、陸上部かもしれんし吹奏楽部かもしれんしはたまた軽音楽部か将棋部か」
「将棋部が走り込みなんてするんですかね」
「桐山某とかいう棋士は科学部に入っていたそうだから、まあ走り込みぐらいは誤差だろう」
「それは何の何に対する誤差なんですかね」
二人ともよく考えずに適当なことを喋っている。
「ほれ、ここが我らが鎮守府だ」
見ると赤煉瓦の古びた建物が建っている。朝垣はあくびをして、
「僕はてっきり倉庫か何かと思っていたら、あれは鎮守府だったのかぁ」
「倉庫とは失礼だね君」
「ほんまやで」
と、バイザーを被った少女が話に入る。
「先輩駄目でしょう、倉庫に女の子を連れ込んだりなんてしちゃあ」
「私が連れ込んだ訳ではないんだが」
「じゃあ誰が連れ込んだんです、そしてこの子は誰ですか」
「うちは龍驤や、軽空母やで」
と、貧しい――失礼、慎ましい胸を張って言う。
「はぁ空母というのは船だと思ってましたが、最近の空母は女の子の姿をしているんですねえ」
「こいつ分かってて言うとるやろ、艦娘や艦娘」
「大阪から来たんですか」
「いや、そういうわけではないんだが……詳しくは私も分からんのだ」
「先輩それでも提督ですか」
「それを言われると耳が痛いね」
「しかし最近は変な女の子が多いですね、サーモンの次は空母と来たもんだ」
「せやからなぁ……うん?サーモン?」
「何か心当たりありませんかね、サーモンを自称する変な奴です、海外だと割とある名前なんですかね」
朝垣の中では、鮭を名乗る変人ということになっている。
「日本でいったら鮭子といったところか」
「珍名やないかい」
「珍名といったらリュウジョウってのもなかなか聞かないですね、どんな字です?」
「ドラゴンの龍に……そうやな、譲るのごんべんをうまへんに変えた字やねん」
「龍に馬ですか、日本を洗濯でもするんです?」
「誰が坂本龍馬やねん、さては話半分しか聞いてへんやろ」
「すんませんでした、なるほど龍驤、……どんな意味なんです?」
「これな、中国語でな、龍ってめっちゃ縁起ええんよ、それがめっちゃ上り調子でええ感じって、えらい縁起のええ言葉なんよ」
「じゃあ龍驤さんを拝んだら運上がりますかね」
「おうじゃんじゃん拝んだってや」
ということで胸を張る龍驤を拝み倒す朝垣である。
「しかし艦娘の名前にも意味があるんですねえ」
「そりゃそうやろ、元は軍艦やでぇ?勝ちますように、生きて帰れますようにってな、縁起のええ名前を……うちんところやと天気の名前とか川や山の名前も多いなぁ」
「つまり我が国の軍艦への命名はいささか独特なところがあるということだよ」
すっかり忘れ去られていた國月豪が、
「そんなわけはないじゃないですか、甘味をくれた先輩なんですから」
「君ね、地の文に割り込むのはやめなさいよ。それと君が勝手にかっさらっていったんだろう。地の文君、続け給え」
ありがとうございます。というわけですっかり忘れ去られていた國月豪が、ここで会話に戻ってきた。
「人の名前に由来あり、艦娘の名前にも由来あり……僕はますます気になってきましたよ、サーモンと名乗ったあの競泳水着のよく似合う美女はいかなる由来があってそう名乗ったのか」
「案外大した意味はないかもしれんよ」
「僕は全ての事には理由があると思って日々を生きているので」
「いやはや、若いねぇ」
「なぁなぁ、ええと……誰やっけあんた」
「朝垣マツリです、妖精さんが見えてしまったばっかりに提督活動同好会とかいう妙なのに入ることになりまして、まぁ羊羮とアイスの恩がありますからね、ほどほどに頑張りますとも」
「まあ君が私の分まで働いてくれるというなら甘味の恨みは水に流すとしようじゃないか」
「そろそろ提督としての活動とやらをしないと大変そうだなぁ、となんとなく思ったもので」
「それでなマツリはん」
「ぐいぐい来ますねこの子」
「そのサーモンって子とはどこで知り合ったん?」
「そう、あれは……流石にこの流れで過去回はやめた方がいいですかね」
「まだ2話だからね、やめた方がいいね」
「何の話をしとん……?」
「じゃあ手短に話すと、夏休みに遠出しようとして多少迷子になり」
「迷子に多いも少ないもあるかい」
「山へ行こうとして海に出まして」
「そりゃあかん、海はあかんで、深海棲艦が出よるからな」
「なので私はこう言ったわけだ、『海に出るとか自殺願望でもあるのかね』と」
「そして海に出たら女性が倒れているではありませんか、僕にも下心がありますからね、まあ駆け寄ったわけです」
「君にあるのは食い意地だけと思っていたよ」
「失礼ですね先輩」
「じゃあ君の腹に収まっている羊羮とアイスはなんなんだい」
「それを言われると辛い、そしたらこの女性、競泳水着を着けてまして、あと短いスカートも申し訳程度に着けてたかな、なかなかに綺麗な人でしたよ、いま思い返すと」
「それで惚れたん?」
「名前を忘れられなくなる程度には……いや待ってください、単に珍名だから覚えてるだけかも」
「それでその後どうしたかね」
「とりあえず海は危ないというのは聞いていたので、担ぎ上げまして」
「ほう」
「何しろ傷だらけでしたからね、深海棲艦を抜きにしても放置はいかんだろうと」
「君にも人の心があったのだね」
「それは流石に失礼やろ」
「全くです、それで駐在所に駆け込んで、救急車を呼ぼうとして間違って110番にかけてしまい」
「警官ならそこにいるだろうに」
「うっかりでした、その後落ち着いてかけ直そうとしたら指が震えて今度は118番に」
「ほう、……どこだったかね」
「海上保安庁やな、怪我の功名やね」
「そしたら話している途中に小人が急に見えまして」
「妖精さんやないか」
「『小人ぉ!?』と叫んでしまったのが向こうに聞こえまして、そこから話がおかしくなりまして」
「ほう」
「海上保安庁ではなしに海軍とやらが来て、提督資格があるかどうか聞かれるわ、やたら厳重な手続きが始まるわ、件の美女は海軍に回収されるわ、挙げ句夏休みだというのにそのまま学校に連行され、校長と海軍の人が何やら密談した結果、提督活動同好会に強制的に入る羽目になり、最終的にそうしたあれこれを何故か空母に愚痴ることになったわけですね、ご清聴ありがとうございました」
「待ち給え、海軍がそのサーモンとかいう女性を連れ去ったのか」
「はい」
「……君、彼女にもう一度会いたいかね」
「そりゃそうです、サーモンを自称する変なお姉さんに会ったなんて一生のネタになりますからね」
「本音は?」
「薄橙のロングヘアー、淡い水色の瞳、未だに脳裏から離れないので責任を取ってほしいもんですね」
「こりゃ重症だね」
「間違いあらへんな」