僕らの提督活動は『部活未満』 作:黄緑提督
「さて、面倒なことになった」
「僕は今から所用の腹痛があるので」
「待て待て朝垣君、逃げるんじゃないよ。例のサーモンなる女性にもかかわることであるからして」
との國月の言葉に朝垣は立ち止まり、
「そういうことならもっと早く言ってくださいよ、危うく部室を出るところでした」
「これ以上ないほど早く言ったと思うんだがね」
「それはそうとその美女がどうしたんです」
「君、さっき言ったじゃないか。そのサーモンなる人物は海軍に引き取られていったって」
「言いましたが」
「知っての通り海軍は海上自衛隊から分離した、深海棲艦殲滅のための組織であるわけだが」
「初耳ですね」
「そんなはずはないが」
「自衛隊から暖簾分けしたというのは初めて聞きました」
「まあそういうことなんだね。そして朝垣君、おそらく彼女は訳ありだよ。海軍が出張ってくるようなね」
「助け出した謎の美女が海軍と因縁ですか、それで先輩は何が言いたいんです」
「提督活動同好会に入会し給え、そうすれば海軍と関わる機会もあろう。手がかりがつかめるかもしれんよ」
「ズルいなァ、そんなこと言われたら入らないわけにはいかないじゃないですか」
「そしてぜひ私の負担を減らしてくれ」
「卒業生が鎮守府運営をやってくれるから先輩は何もしていないんじゃありませんでしたっけ」
「それはそうなんだがね」
と、そこに入ってきたのは数刻前に言葉を交わした龍驤である。
「どんな調子や」
「まァぼちぼちです」
「それはそうと、なんや入部の手続きとかはせんでええんか」
「部活ではなくて同好会だがね。とはいえ手続きはある、入会届にサインを書いて生徒会に出し給え」
「なるほどそういうのがいるんですね」
「これがその入会届だ」
「ありがとうございます、では早速今日中に出してきます。こういうのは早いほうがいいですからね」
「なるほど違いない」
と言って朝垣は部室を出た。
その翌日のことである。
「時に入部届は出したかね、正確には入会届なわけだが」
「出しました出しました、これで晴れて提督活動同好会の幽霊会員デビューです」
「幽霊になられては困るんだよ」
「それとこちら、昨日のお詫びのタピオカミルクティーです」
「タピオカのブームはとうの昔に終わったよ」
「今話題のギターヒーローのフウェッフフーのプロフィール画像がタピオカだったので」
タピオカへの信頼が高すぎたゆえの悲劇である。喜劇かもしれない。
「いろいろと突っ込みたいことはあるんだがね、とりあえずフウェッフフーではなかったような気はするね。レックスだかファックスだったかに変わったはずだよ」
「どこに行けば青い鳥に会えるんでしょうね」
「ペットショップにでも行きなさい」
「それはさておき」
「話が逸れたのは君のせいだと思うんだがね」
「こちらのタピオカミルクティー6人分、お返しもうす」
「まあよしとしよう」
「ところで提督活動同好会ってのは普段はどういうことをしているんです」
「私の場合は基本部室でのんべんだらりと過ごしているが」
「あまり参考にならないやつですね、そう考えるとこれは実質帰宅部では」
「そういえば高校生活を帰宅部の活動に捧げるとか言ってたね君」
「帰宅部に入らずに帰宅部活動をエンジョイできるとは思わなかった、ありがとうございます」
「しかしまあ、卒業生4人が今も鎮守府運営をしてくれてるからね、我々がやることというのは実はそんなにないんだよ」
「そうだな、強いて言うなら部費は払ってくれ」
「どちら様ですかね、借金取りかしらん」
「あれは聖風院先輩だよ朝垣君、いいとこのボンボンでね、ついでに卒業してなお部室に入り浸るOGOBカルテットの一角だ。いやだねえ」
部室に入ってきた青年を訝しむ朝垣に、國月が答える。
「いかにも。俺は聖風院家が次期当主、下の名は英正だ」
「世界観を間違えてませんかね、名前といい家庭環境といい……朝垣マツリです」
「なるほど君が噂の新入部員か、おっと、今は同好会だから会員かな?龍驤から話は聞いているよ、外国の美女をナンパして海軍に連行されたそうじゃないか」
「おかしいですね、傷だらけの謎の美女を助け提督としての宿命に巻き込まれる王道ボーイミーツガールのはずなんですが」
「そうだったのか、すまないね。それはそうと、そのサーモンについて何か思い出したことはないかい」
「あったら國月先輩に伝えてますよ」
「そうかい、それもそうだね。それと、君には今から少しづつ鎮守府運営に慣れてほしいと思ってね。早速今日から始めていこう」
「よしよし、ようやく部活ものらしくなってきた」
「というわけで、あとは大淀、頼んだよ」
といって委員長らしき雰囲気の少女に任せて聖風院は帰っていった。
「ただの顔見せだったんですかね、それにしても大淀さんですか、生徒会の方ですかね」
「いえ、金羊高校鎮守府の大淀と申します。軽巡洋艦です」
「その金羊高校というのは」
「大丈夫かね朝垣君、我らが通っている高校じゃないか」
「ちょっと度忘れしましてね」
「大丈夫かね本当に」
「大淀、不安です……」
「こっちとしちゃ安心です、なんといっても黒髪ロング眼鏡女子ですからね、信頼できます」
「ますます不安になってきました」
「これは鎮守府運営へのモチベーションも否応なしに上がるというもの」
「ずいぶん単純だね君」
「理由はどうあれ意欲があるのは良いことです。朝垣提督、ついてきてください。鎮守府の施設を案内しましょう」
「はいっ、不肖朝垣、大淀先輩についていく所存であります!」
調子のいい男である。
「ははは……」
大淀も苦笑いしつつ、朝垣を引き連れていく。
「國月提督もついてきてください」
「どうして私が」
「仮にも会員なら多少の業務はやってもらわないと」
「冗談きついねぇ」
「駄目ですよ國月先輩、大淀先輩を困らせちゃあ」
「さっきまで幽霊部員になる気満々だったじゃないか」
「ボーイミーツガールは人を変えるんですよ、それはもう劇的に」
「そんなものかね」
「そういうものです」
そういうものかもしれない。
「そんなものなんですかね……?」
首を傾げる大淀であった。