筆記試験を終えた俺たち受験生は、案内に従って実技試験説明会場に向かう。
いや、ほんと雄英高校ヤバすぎだろ。
俺たち受験生は1万人ちょっといるんだぞ。それを一か所に収容できるとかおかしいだろ。
ライブが開ける規模の講堂が敷地内の一部に過ぎないってとこがおかしい。どんだけ広いんだよ。
さらにおかしいのは入試にかかる金額だ。
俺はここで説明される内容を知ってるわけなんだが、実技試験はロボット破壊競争だ。
比較的小さいロボット一体でも数千万はくだらないはずで、大きい奴もいる。それが一グループにつき、少なくとも100体は使われてんじゃねーかな。
さらに一グループにつき50人ぐらいかな。って事は、ロボットだけでこの入試に数千億は使ってるって事だ。
さらに学校の運営費もあるわけだから、100兆前後の国家予算の中でも存在感を発揮できるのが雄英高校だ。
たった一つの学校にこれだけの予算を使う。
これは到底普通の事じゃない。
にも関わらず、世論がそれに反対することはなかった。
それもそうだろう。
この個性社会では銃火器なんかの武器よりも個人の武力がモノをいう。
まあ核兵器クラスになれば話は変わるが、武装した兵士を何人集めても、オールマイト一人で制圧できる。それが個性社会だ。
これはヒーローにもヴィランにも等しく言える話だから、圧倒的な武力を持つヴィランに対応するために、ヒーローはそれを凌駕する武力を持たなくちゃならない。
個性社会で国が治安を保つには武力を持ったトップヒーローを育成することは必須。
そして雄英高校はオールマイト、エンデヴァー、ベストジーニストと、日本を代表するトップヒーローを育成した実績がある。さらに目立っちゃいないが、地域の抑止力となるような中堅ヒーローも、雄英出身ってのは少なくないだろう。
雄英のヒーロー科は在籍人数40人。
国レベルで治安維持に貢献するトップヒーローを育成するために雄英高校にリソースを使うってのは良い投資だろう。
もっとも、ほとんどの確率で社会が崩壊するから、その投資は失敗に終わるわけだけどね。
さて余談はこの辺りにして、本題の実技試験の立ち回りについて考えるか。
この実技試験で俺がやらなきゃいけないのは
1. 合格率1割程度の緑君を合格させること
2. 俺とキラキラ君の実技点数を36位で揃える事
箇条書きにすればこの二つになるわけだ。
さらに詳しく1の緑君を合格させるために必要な条件だが、どうやら緑君がビルよりデカいロボットをぶっ壊すかどうかが分岐点になりそうだ。
緑君の巨大ロボット破壊イベントを発生させるには、誰かが巨大ロボットから逃げられない状況で、かつ緑君がそれに居合わせる必要がある。
あと忘れてた。
緑君が巨大ロボットを破壊してから生き延びるためにも、緑君には五体満足でいてもらわなきゃならない。
緑君は明るい未来を持つ大事な駒だからな。言うなれば王将。絶対取られちゃいけない駒だし、これを事故で失うなんて馬鹿すぎる。
にしても、これをどうやって実現したらいいんだろうな。
これまで未来視ほど最強の個性は無いと思ってたけど、この個性、未来が視えるだけで、未来に干渉できる範囲には限界がある。
まあ解釈を変えれば、俺も他のやつらも未来を掴む権利は平等にあるってわけだな。
キミに言ってるんだよキラキラ君。
俺はキミに賭けたんだ。
ギリギリの合格ラインに乗ってくれ。
正直俺は、キラキラ君の点数を高くすることも低くすることもできる。
じゃあなんで難しいかって、ポイントは三つだ。
一つ目、一点単位で調整するってのがキツイ。高くするか低くするかの大まかな方向付けならできるが、一点単位は厳しい。
二つ目、俺も合格しなきゃならない。つまり、キラキラ君につきっきりってわけにはいかないから、ただでさえ少ないキラキラ君の未来に干渉できるタイミングがさらに大きく減る。
三つ目、何点取れば36位になるか決まっていない事。40以上が一つの境目になるみたいだけど、それが正確に何点かは決まっていない。
マジでどうしたものか……。
「ねえキミ。さっきから口抑えて大丈夫?」
ッ!?!?
びっくりした。この時間に俺が話しかけらえれる未来なんて見なかったぞ? 一体何が起こった?
「ちょ──顔色まで悪いじゃん! ホントに大丈夫? 学校の人呼ぼうか?」
俺の前に制服が浮かんでる。透明人間か? 視逃してた。
こうしてじっくり見ると制服だけが浮かんでて目立つことこの上無いんだが、俺の未来視で視た風景じゃ、周りの制服に紛れ込んでどんな動きをしてるかまでは気づかなかった。
「ああ。心配してくれてありがとう。でも大丈夫だ。体調が悪いわけじゃない」
「ホントに? でも受験だもんね。無理したい気持ちは分かるけど、辛かったら倒れる前に学校の人に言うんだよ?」
それにしてもぶんぶんとせわしない制服だな。
でもまあ、透明ちゃんが善性に溢れた人柄だってのは良く分かる。
透明ちゃんだって緊張してるだろう。それに周りは静かで、受験の最中に私語ともとられかねないこんな事をするのは、勇気だっているだろう。
だけど受かる可能性は低い。
イガグリ君を通して未来を視て、3科目分の時間を使ってランキングを作ったけど、彼女が受かってる未来はキラキラ君より少なかった。
緑君よりかは多いけど、受かんないのも仕方ないだろ。
なにせ今回の実技で要求されるのは、主に索敵能力、戦闘力、あと機動力ってとこか。この辺りの能力が、今回の試験で役立つだろう。
透明ちゃんが隠密性に優れてるのは見りゃ分かるが、運がなかったな。ホントに。
それよりも重要なのは、彼女は俺の未来視をもってしても未来が視えないことだ。
恐らく透明ちゃん自体が視えないから、会ったことない判定が出たんだろう。
雄英の入り口で浮いた制服を見たはずなんだがな。マジで気づかなかった。
未来視の思わぬ弱点に気づけて良かった。
「ああ、分かった。ちょっとこの実技試験に向けて考え事しててな。口を隠すのは多分俺の癖だ」
「へぇーそうだったんだ。やっぱり緊張するよね、実技試験! だけど、これまでずっと頑張った上でここに来たんだもん! こうなったら後は野となれ山となれ。絶対合格するって思いだけ持って、やれるだけやるだけだもん!」
「……あとは野となれ山となれ、か。それに……そうだな。みんな合格目指してるもんな」
それは間違いなく、緑君とキラキラ君にも言えることだ。
「うん。だからお互い頑張ろっ!」
決して見えないが、何となく透明ちゃんは握手しようとしてるように感じた。
手があるであろう場所に自分の手を伸ばすと、ひんやりとした手にあたって、強く握られた。
表情も見えない。でも透明ちゃんは笑ってて、俺を元気づけようとしてんだろうなって気がした。
もうちょっと社会が平和なら、俺みたいなやつよりも透明ちゃんが合格して欲しかったな……。
「今日は俺のライブへようこそー!!! エヴィバディセイヘイ!!!」
突然講堂のステージに光が差し込む。
プレゼントマイクがステージで実技試験の説明をするようだ。受験生から反応はないが。
そりゃそうだろ。俺はともかく、大抵のやつは緊張してそれどころじゃない。これは未来を視なくても分かる。
それでもやるのがプレゼントマイクなんだろうけど。
ふむ。プレゼントマイクの未来から収穫アリだな。
どうやら審査制のヴィランポイントとは別のポイントがあって、それも合否を左右するらしい。
仮に救助ポイントとでも名付けようか。
恐らく人を助けるみたいな、ヒーローっぽい行動をプロのヒーローが審査して加点するんだろうな。
飯田君が不合格になる理由がようやく分かった。
飯田君は9割がた合格するわけだが、不合格になる1割ではロボットが見つからないっていう不運に加えて、困ってる受験生を全部無視したパターンで不合格になってる。
なんかあるんだろうなって思っていたが、そういうことだったのか。
もっとも、彼に関しては俺がアドバイスを送ったことで、受験生をちょっとは気にかけるようになったらしい。
良かったな、飯田君。君が不合格になる未来はもうほとんどない。
となると、緑君には救助ポイントを稼いでもらおう。
未来を視る限り、今の彼がヴィランポイントで合格することは出来ない。
結局は巨大ロボットぶっ壊せるかどうかで決まるが……。
よし、作戦は決まった。あとは実行するだけだ。
「各々なりの“個性”で“仮想ヴィラン”を行動不能にし、ポイントを稼ぐのがリスナーの目的だ!!」
よしここだ。
俺は先を越されないように手を挙げる。
「もちろん他人への攻撃等アンチヒーロー那行為はご法度だぜ⁉ さて受験番号3914くん質問があるなら聞くぜぇー」
「ありがとうございます。受験番号3914の視渡来人です。私たちが受け取った資料には4種のヴィランが記載されていて、四種目のヴィランは0ポイントと記載されています。スライドに記載されているのは三種のヴィランになっております。この点についてお伺いしたいです」
「ナイスなお便りサンキューな! 四種目のヴィランは0ポイント! そいつは言わばお邪魔虫! スーパーマリオブラザーズやったことあるか⁉ レトロゲーの。あれのドッスンみたいなもんさ! 各会場に一体! 所狭しと大暴れしている『ギミック』よ!」
「ご回答ありがとうございます。失礼しました」
ふう。まずは一仕事だな。
全く飯田君は。
半々ぐらいの確率で緑君を注意しちゃうみたいだった。
緑君を委縮させて、巨大ヴィランが出るまで四肢を温存させておくことも考えたけど、今回の作戦はそれじゃない。
飯田君の説教はお呼びじゃないんだ。
「俺からは以上だ! 最後にリスナーへ我が校“校訓”をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った! 『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者』と!! “Plus Ultra”!! それでは皆良い受難を!!」
プレゼントマイクの説明が終わって、後ろのやつから講堂を出て行く。
俺は受験番号三千番台で、それは隣の透明ちゃんも同じだ。
「はぁーさすが雄英! 凄い本格的な試験だね! それにキミ! よくあんな中で質問なんてできたね! 私緊張でしゃべれないよ~。まあ私、手を挙げても気づいてもらえないんだけどね!」
透明ちゃんはそう言って楽しそうに笑う。
本人は気にしてなさそうだからいいけど、初対面相手に自虐されてもそれをさばくコミュニケーション能力は俺にはないんだからな。
こんな時はスルー一択だ。
「俺だって緊張しないわけじゃない。だけど、これは俺がやらなきゃいけない事だったから」
「はえぇー凄い立派だね~。私もヒーロー目指すなら人前で喋れるようにならないと!!」
誤解されたな。
俺がやらなきゃってのは質問じゃなくて、緑君を委縮させないなんだがな。
まあこの程度誤解を解くほどでもないだろう。
「それにしてもロボット退治か~。私に壊せるかな~」
透明ちゃんの声のトーンが下がった。
本気で落ち込んでるんだろうな。それもそうだろう。透明の個性じゃ、せいぜいロボットに補足されないぐらいしかメリットがない。
さらに救助ポイントも、俺が透明ちゃんに気づかなかったように、正確に評価されるか不明だ。
だけど……。
俺は明るい未来とか一旦抜きにして、正直透明ちゃんに合格して欲しいと思った。
ちゃんと透明ちゃんに向き合いたい。
「今から言うことは嫌味とかじゃなくて、本気で思ったことなんだけど、俺は透明になれるってぐらいしか知らない。能力面では。だけど、入試で緊張してる中で人の心配をする精神面はヒーローらしいと思った。正直言って、俺は合格して欲しい」
俺は透明ちゃんの多分目がある所を見つめて自分の思いを伝えた。
「っ!! 『合格して欲しい』って、君もライバルなんだぞ。だけど、そっか。ありがとう! どこまでできるか分かんないけど、私が憧れたヒーローみたいに頑張ってみる!」
「ああ。次はここの教室で会おう。そん時には名前を教えてくれ」
「うん! 約束だからね!」
俺は会場の違う透明ちゃんと分かれてから、緑君たちもいる試験会場Bへ向かう。
会場までの移動はバスで、数分で着くらしい。
にしても最悪だ。なんであんなことしたんだろ。
キラキラ君に賭けた以上、他人の未来を変える行為はリスクだ。
メリットがあるならその価値がある。
だけどさっき透明ちゃんにかけた言葉には何のメリットも。むしろやらない方が良いまである。
だけど未来がどうとか考えるより先に、勝手に口が動いてた。
まあやっちまったもんは仕方ないが、相手が透明ちゃんってのもキツイ。
なにせ彼女の未来は視えないんだ。
俺の言葉が一体どれだけの影響を与えたのか知ることができない。
頼むから俺の言葉なんか忘れて未来には何の影響もない。そうであって欲しい
ホント、なんで勝手に体が動くかね。
続く、、、
和賀苗知暉です。最後まで読んでいただきありがとうございます。
今日も、というか昨日も諦めず22:00の投稿を予定しておりましたが、間に合いませんでした。
まあ正直22時には間に合わないだろうなと思いながら書いていましたが、まさか日付をまたぐほどとは思っていませんでした。
さて今回の物語ですが、前回お話した通り、本当は実技試験開始前まで書くつもりだったんです。それがまさか実技試験の説明だけでこんなに文量が増えるとは思っていませんでした。
前回も似たような事を書きましたが、実技試験の説明で一話使ったのも私ぐらいでしょうし、恒例の飯田君の質問シーンをスキップしたのも私ぐらいでしょう。
折角自分で書きますから、今後も私が納得できて面白いと思えるようなものを、読者さんが読んで面白いものを書いていきたいと考えています。
最後になりますが、今後とも「未来を掴むヒーローアカデミア」をよろしくお願いします。
和賀苗知暉