半分少女とダツゴク狩り1
半分少女のヒーローアカデミア
さて、話すべきことは話した。次はやるべきことやらねばならない。死柄木たちの捜索、それと並行してダツゴクの捕縛だ。
2人のオール・フォー・ワンの手によって、タルタロスを初めとした日本中の刑務所から個性犯罪者が解き放たれた。強さはピンからキリまであるが、誰もが個性を使って他人を傷つけることも、奪うことも厭わない奴らである。死柄木たちに繋がる可能性があるにしても、早急に対処しなくちゃいけない。
エンデヴァーたちのチームアップはそのためでもある。
「じゃあ、私はもう行きます。」
「加山少女、私もバックアップするがくれぐれも無茶はしないでくれよ。」
「もちろんですよ、オールマイト。」
ダツゴクを捕まえて、死柄木たちを探す。そして暴走気味な緑谷くんを引き止めて何としても雄英に戻す。それをするには私が無事であることは大前提だ。
無茶も無理もしない。でも持てる全力は尽くす。
みんなが困っているんだから。
「加山、ちょっと待て。」
「ん?なんですか?」
肩をぐるりと回し、さぁ行きますか!というところで相澤先生に呼び止められる。ここに来て、やっぱり行くなとか言う人ではない。
自分の枕元からゴソゴソと取り出している。
少し待って、その手に握られていたのは布の束と使い古されたゴーグルの2つ。
「捕縛布と…先生の、ゴーグル?」
「そうだ。お前たちの作戦は隠密性が重要だろう?なら、できるだけ顔は隠した方がいい。緑谷も加山も顔が割れてるからな。」
そう言って、まず先生が愛用してきたゴーグルを手渡された。
おぉ……お古だけどしっかりしてる。私の個性で視線を誤魔化す意味はあまりないが、憧れの人からいい物貰っちゃった。
早速付けてみないと。
大きさを合わせて頭を通す。意外と視界は悪くない。
「どうです?似合ってますか?」
「あぁ。こんなことなら新しいのを用意してやりたかったが。悪いな、俺のお下がりで。」
「私はこれがいいんです。」
ゴーグルを上げる。悪いなんてとんでもない。
嬉しい気持ちをそのままに笑って見せれば、先生は少し懐かしそうな顔をしていた。
「……それで、こっちの捕縛布だが…」
「貰えるのは嬉しいですけど、私使えませんよ?心操くんみたいに訓練してないですし。」
「わかってる。しかし、ゴーグルと合わせて人相も隠せるし、手錠代わりにはなる。それくらいなら扱えるだろ?」
「まぁ、目の前でずっと見てましたから。」
散々使うとこは見てきたし、なんなら使われてきたからね。自由自在とはいかなくても、相手をぐるぐる巻きにしてやるくらいならわけない。
「俺からは以上だ。……緑谷を頼んだぞ。」
「任せてください!」
ドンと胸を張る。
「じゃあ行こうか、加山少女。」
「はい!」
※ ※ ※
というのが数日前の話。
まだまだ始まったばかりだけど、もう結構なダツゴクを捕まえた。しかし死柄木に繋がる奴には出会えてない。混乱が目的でばらまいた奴らにそう易々と自分たちの情報は残すほど油断はしてくれないってことだ。
エンデヴァーたちとは一定の距離を取りつつ、街から街へと駆ける。
行くところはどこもかしこも酷い有様だ。無事な建物はほとんど見当たらない。あちこちでライフラインが寸断されてるし、未だに黒煙をあげている場所もある。気を抜けばヴィランとばったりなんてこともあるほど治安は悪化してる。
とても安心して過ごせる状況じゃないが、それでも街に残っている人は多い。雄英や士傑が市民の避難所として現在解放されているにも関わらず。避難しない理由は多々あれど、やっぱり1番多いのは避難の拒否だと思う。原因は単純明快、ヒーローへの信頼が地の底にまで落ちているからだ。
突然起きた日常の崩壊、街は廃墟になったし、身近な人があっさりと死んでいった。ヴィランが脱獄し、流れるニュースは不安を煽るものばかり。
誰もが、今まさに助けを求めているそんな状況。
そんな状況なのに──目の前のヒーローに裏切られた。
前代未聞の事態に逆風を感じたヒーローたちが次々と辞職していく。予測していたことだが、それが生んだ溝は深い。
気づけば、市民の多くが市場に流れていた武器で武装して、自分たちで身を守るようになった。と言っても、訓練もなしに武器を振るえば誤射が起きる。ヴィランが騒ぎを起こし、それを倒そうとして戦ったのに被害が増えていく。
不満も不安も不信も止まらない。それが爆発して、更なる火種になる。そういう負の連鎖が続いている。
「だからってやめないけどね。」
「…どうしたの?」
「んー、別に。今日も頑張ろうってこと。」
ほんとは休んで欲しいよ、緑谷くんはね。
ずっと動き回ってるから疲労が濃い。一応、休息は決めて取ってるんだけど、それを削ってるっぽい。
すっごいクマだよ?いっその事、ぶっ倒れる前に私が気絶させ……
「……出たッ!」
「だね!」
少し離れたところで土煙が上がる。緑谷くんはそれが起きる前に動いていた。
ただの勘ではなく歴とした個性によるもの、4代目の個性「危機感知」であるらしい。自分の危機、相手の害意ある行動を感じ取ることができると聞いた。
めっちゃ便利である。
「もう誰か襲われてる!」
「なら、のんびりしてられないね!」
人命救助はスピードが命!
緑谷くんが溜めるように足を曲げる。こっちは一段加速して、彼の足裏目掛けてぶん殴る。
「煙幕、忘れちゃダメだよ!」
「わかってる。」
寸前──
水蒸気を炸裂させる。私が緑谷くんをぶっ飛ばす力を踏み台にして、彼は一気に飛んでいく。
足場のない完全な空中だと、風圧で動く以外にワン・フォー・オールは推進力に乏しい。浮遊は浮くことしかできず、黒鞭は掴むものがないと使えない。私はそれを補う外付け推進剤なわけです。
……加減をミスったら最悪、あの超パワーを生身で受けることになるけど。
ヴィランに襲われてた人が助けられ、私はその数瞬遅れてビルの上に到着する。彼の抱えているのは誰かと思えば、いつぞやに会った傑物学園の人だった。確か真堂さんって名前だったはず。
怪我は酷いが致命傷じゃない。きちんと手当すれば大丈夫。
今度はちゃんと間に合った。
「……マスキュラーだ。」
「マジ?」
出来れば二度と聞きたくなかった名を緑谷くんが口にする。
恐る恐る、ヴィランがぶっ飛ばされた先を見てみれば、既に懐かしさすら覚える筋肉ダルマ。
「…うわ、ほんとじゃん。」
「うん、道理で危機感知が鳴り止まない。」
相変わらずタフなようで、ワン・フォー・オールの直撃を受けてもケロリとしている。むしろ、私たちを見て笑みを深くしていた。
「その声は……忘れられるわけがねぇ!お前らあん時のガキだろ、なぁ!!!会いたかったぜッ!」
私は会いたくなかった。
「雑魚ばかりで物足りなかったんだよ!ずっとよぉ!!!……あぁ待て、勘違いすんなよ、復讐とか立派な話じゃねぇんだ。けど俺も人間なんだよなぁ……あの楽しさを知っちまったら──」
一方的に喋るところも変わってないなぁ。お気に入りの義眼がないからか、握り潰したコンクリを目に入れる狂いっぷり。
「もう戻れやしねぇ!!!」
跳躍……低い、階下に突っ込んだ。
……なるほど。危機感知がなくてもわかる。
「真堂さんパスして。」
「任せた。」
「そっちこそ!」
言うが早いか、ビルごとちゃぶ台返しみたいにひっくり返される。
「殺ろうぜぇ!今度こそ!とことんよォ!!!」
真堂さんを受け取り、飛ぶ。同時に緑谷くんは煙幕を、私は水蒸気を広げる。マスキュラーの視界を遮り、私たちの正体も隠す。
アイツはどちらかと言うと緑谷くんの方にお熱だ。分かれれば、真っ先に食らいつくのは彼だろう。でも林間合宿のときとは違う。今なら彼一人でも十分に相手できる。
離れていく2人の影を見送り、私はこっそりと降りる。
「何が起きた!?煙で見えねぇ!」
近くの比較的綺麗なビルから人が何人か出てくる。その中に混じって、ヒーローっぽい女性、真堂さんと同じく傑物学園であろう人もいた。
出てきた人たち、サポートアイテムで武装してる……
状況を見るに、2人は彼らを避難させようと回ってたのかな?揃って行動してなかったみたいだし、説得は上手くいかなかったか。で、そんな忙しいときにマスキュラーと遭遇してしまったと。
「すみませーん。しんど…彼をお願いします。」
「ヨーくん!」
お、さっきの人がこっち来る。傑物学園であってて良かった。
……てか危ない、うっかり名前言いかけてた。あんまり接点のある相手だと知られたくないのに。
「無傷で助けられなくてすみません。でも、手当てすれば大丈夫です。こちらの建物にも、もう被害は出させないので!あとはお願いします!」
「…はい!」
よし、受け渡し完了。
私の姿も水蒸気に、ゴーグルと捕縛布でよく見えてない。
この応用、使えるね。冬なのも相まって、よく煙ってくれる。期末試験で考えてくれた八百万さんに感謝しなきゃ。
──纏炎
水蒸気の煙幕を連れて飛び上がる。
「早いとこ緑谷くんに追いつかないと!」