半分少女のヒーローアカデミア
──レディ・ナガンが爆発、した!?
緑谷くんと駆けつけたホークスが寸でのところで落下死を防ぐ。同時に見えたエンデヴァーの姿に応援が来たと少しホッとする。
でもなんでいきなり爆発した?ナガンの個性はライフル、仮に暴発することがあったとしても自分の個性だ、ああはならないだろう。一応もうひとつ空中移動ができる個性を持ってたみたいだけど、あれはオール・フォー・ワンに貰ったもので、それ以上の効果は……
……オール・フォー・ワンに貰ったもの?
「………っあ!くっそ、そういうことかッ!」
背負おうとしていた治崎を前に抱え直して、屋上から飛ぶ。
ほんっっとに性格悪いな!あの男!!!ナガンのこと最初から欠片も信用してなかったんだ!緑谷くんを奪取出来ればそれで良し、もし裏切られても自爆するように仕掛けておけば問題なし。
ナガンが抱えるヒーロー社会への不満を刺激して、手駒にしたくせに。
「アモルファス!そっちに治崎がいると聞いたが…」
「……あ、エンデヴァー!はいはい、私が抱えてるのが治崎ですよ。」
「そうか、他に誰もいないな?」
「いないかと。それよりナガンのところへ行きましょう。」
上空でエンデヴァーと合流し、3人のもとへ。多分、治崎は確認役だろうし、スナイパーがぞろぞろ仲間を連れてきてるとも思えない。
緑谷くんたちに遅れること数十秒、ナガンの前に立つ。全身ボロボロで、息も絶え絶えと言ったところ。ここまでやられてると素人目には傷の具合が分からないけど、早く医者に診せる必要はある。
私がナガンの惨状に顔を顰めていると、抱えていた治崎が下ろせ下ろせとうるさいので仕方なく下ろしてあげる。死柄木に個性の起点となる両腕をやられちゃってるので、大それたことは出来ない。
「おい、話が違うぞ。捕まったじゃないか……オヤジに会わせろッ!」
これがフラフラとナガンの側へ駆け寄って出た言葉だった。
オヤジ……あー、死穢八斎會の組長さんか。事件後に色々と聞いた話だと、薬物売買やエリちゃんを使った消失弾の作製は治崎の独断だったらしい。それに反対していた組長を昏睡状態してまで推し進めた結果、計画は破綻し、死柄木弔からもしっぺ返しを食らった。
野望は潰え、組もなくなった、治崎には何も無いんだろう。
「俺にはもうオヤジしかいないんだ。オヤジに…謝りたい!」
ただ組長に会いたいってことしか。
スっと気持ちが冷える感覚がする。
確かに組長に迷惑かけたんだから謝りたいってのは分かる。分かるけど、治崎にはその気持ちを向けるべき相手が他にもいるはずだ。自分が散々傷つけて利用して、少し前まで笑い方すら忘れてしまっていた女の子がいるはずだ。
なんで、なんでそんなに後悔できるのに。
どうしてその発想が出てこない?
「治崎、」
「黙ってろ病人が!俺はそこの女に話してるんだッ!」
「…治崎、エリちゃんにやったこともう忘れたの?」
「エリ?……あぁ、そうだ壊理にオヤジを巻き戻させて……」
まだそんな世迷言を……全く、どっちが病人なんだか。
シャツを引っ掴んで私に正面向かせる。自分で分からないなら言ってあげるよ。
「謝りたいってのはわかった。その気持ち、エリちゃんにも向けられたら組長に会わせてあげる。ナガンの約束は私が代わる。でもいい?あなたが謝るのは組長だけじゃない、忘れないで。」
「………」
その、顔…本当に分かってる?
まぁ、何か変わるかもしれないし、事が終わったらちゃんと面会させてあげよう。校長かホークスに言えば取り次いでくれるでしょ。
離したけどうんともすんとも言わないな。
「……っと、緑谷くん何ともない?派手にやってたけど。」
「反動は大丈夫だと思う。けど、ナガンを止めるまでに結構やられちゃった。」
「だよね。私、まだ薬と包帯あるからこれで手当して。あー、そうだナガンも病院に連れていかなきゃ──」
私がポーチに入れてる医薬品を取り出そうとしてると、凄い勢いで車が走ってきて止まる。あんまりに猛スピードなものだからこっちに突っ込んでくるのかと思った。
ただよく見ればそれは見知った車で、その中からも見知った人が慌てた様子で飛び出してくる。
「緑谷少年!加山少女!無事かッ!!?」
「オール、マイト……」
「一応、無事です。」
「そうか…すぐに駆けつけられなくてすまないね。」
「いえいえ。」
オールマイトこそ、フロントガラスぶち抜かれてません?これ。
「レディ・ナガン、治崎廻、確保!ナガンは救急に連れていく!」
「緑谷くんも酷い怪我をしてる!彼の分の手配もお願いします!」
「わかった。……加山少女、君はどうだい?怪我はないか?」
「私は治したので大丈夫です。それより手配が済むまで、緑谷くんの怪我診てていいですか?病院に行くにしろ、応急処置はしときたいので。」
「そうだね。なら、ナガンの方は私たちで手当しておくよ。」
「ありがとうございます!」
ひとまず安心、と。
応急キットは……揃ってるね。
「緑谷くん、病院行くまでに応急処置だけはするよ。」
「………」
「おーい、傷の手当てしますよ〜」
「…………」
「ね〜〜〜!緑谷出久!!!」
「……うわっ!?」
目の前で呼びかけながら猫騙ししてやっとこっち見た。素っ頓狂な声を上げて飛び上がるまで、なんかどこ見てんだかわかんない目してたんだよね。
凄くギラギラしてるのに暗い目だった。この手のヤツにあまりいい経験がないんだよなぁ。
「どうしたの?傷、痛む?」
「いや、なんでもないよ。なんでもない。」
「そう……とりあえず手当てするね。」
はぐらかした。
「言っとくけど、無理はダメだよ。この作戦だって今できる最善だからで成り立ってる苦肉の策ってこと忘れないでね。君が全部一人でやることはない。」
「でも僕ができることならやらなきゃ。」
うーん、不味い。すごくすごく不味い。
覚悟決めちゃって視野が狭まってる友達は見てきた。轟くんとも、飯田くんとも状況が上手く転んで良い方向に落ち着いたけど、緑谷くんはさらに難しい。
なにせ、彼の決めているであろう覚悟は間違いじゃないからだ。オール・フォー・ワンを打ち倒すために生まれたワン・フォー・オール。その完遂が継承者の使命であるのは否定しようがない。オールマイトはそれに法り、オール・フォー・ワンを打倒するに至った。奴が返り咲こうとしてる今、9代目の緑谷くんが次を担うのは真っ当だ。
けど、それが緑谷くんをすり減らしているのも事実。居場所を切り捨て、寝食も投げ打って戦い続けてる彼が疲弊してるのは誰の目にも明らか。
だから彼が落としてしまったもの、欠けてしまったものを拾えるように着いてきたんだけど……
──ここら辺が限界だ。
「ねぇ、緑谷くん。……雄英に、戻ろう。」
引き止めないと、どこまでも行ってしまう。
レディ・ナガンとの戦いから数日──
結局、あのあと緑谷くんは返事をくれなかった。手当てしてる最中も最後まで無言だった。
けれど、彼は変わった。
今まで以上に動いて動いて動き続けている。休んでと言っても小休憩すら取らない、食事もただの栄養補給になってる。生傷は絶えないし、疲労と睡眠不足で顔色最悪。過労でフラついてるなんて頻繁にある。
私とオールマイトで何とか最低限のサポートはして来たが、それもついに限界が訪れた。
あちこちを駆け回ってた緑谷くんが、またオール・フォー・ワンの刺客と遭遇したと聞いて、現場に急行してみれば事は全て終わっていた。
崩れた建物から一段とボロボロになった姿で彼は出てくる。
「ごめん!遅くなった!」
「もう制圧してるから心配ないよ。それより爆発するかもしれないから気をつけて。」
「少年……」
「情報は持ってませんでした。移送お願いします。……では、」
「待ちなさいッ!」
すぐに次へ行こうとした緑谷くんをオールマイトが引き止める。彼も嫌な予感をずっと感じていたからこそ、その語気は強かった。
「ごはん、食べてないだろ!」
「……オールマイト、もう大丈夫です、着いてこなくて。」
「……ッ!!」
「僕は、もう反動なしでオールマイトの全力と同等の動きもできます。だから…だから心配しないで。」
この、バカ緑谷……そんな見ているだけで辛くなる疲れきった姿で大丈夫?着いてこなくていい?それで心配しないわけないでしょうが!
オールマイトは今一度、緑谷くんを引き留めようとして届かない。彼が届かない分は私が掴む。
「逃がさな、いよ!」
「……離して。僕は大丈夫だから。」
「どこがッ!どこもかしこも傷だらけの君のどこを見て安心したらいい!!!」
「………」
うぐぐぐ、絶対離さんぞぉ!
「わかってよ……嫌なんだ、友達を巻き込むのも傷つけられるのも。」
「うっ…!」
グサッと来た。あれだ、これ暗に私がナガンにぶち抜かれたこと言ってる。私のせいか!引き金引いたの私か!!!
……あっっ!?
「今日まで助けてくれてありがとう。」
振り払われる。
ありがとうって言うくらいなら無茶するのやめてよ!!?
どうしようもなく距離が開いていく。
でも私がすっとろいせいで嫌なもの見せちゃってごめんね!?
黒ずんでしまった緑色の影は遠くなって行く。
ああああ!クッソ〜〜!
「緑谷のバカァァァ!!!」
「──なんてね。」