半分少女のヒーローアカデミア
『間もなく、デクが作戦地点に入る。変わらず位置は捉えられているか?』
「バッチリですよ、塚内さん。」
『了解した。来たらすかさず合図を。』
「はい!」
インカムを切り、再度集中する。
現在地は、オール・フォー・ワンを誘き出す予定地点から数キロ離れた廃墟ビル、その屋上。私の感知範囲ギリギリ、そこに立っている。ゴーストタウンと化した周囲は静寂に満ちていて、感知を行うには絶好のポイントだ。
緑谷くんと、彼のほぼ至近にいるオール・フォー・ワンは既に見えている。ここにもう1人のオール・フォー・ワン、死柄木弔の反応が増えたとき、それが決行の合図になる。
「さぁ来い、死柄木弔。」
どっちが明日を笑うのか。
──雌雄を決するってやつだ!
※ ※ ※
「加山少女、君には作戦決行、その合図役を頼みたい。」
「へ、私がですか?緑谷くんではなく?」
オールマイトからの話に疑問を呈する。
決戦まであと一日を切ったかという頃、呼び出しを受けてみたらこれだった。言っていることはそのまま分かるが、やる意味がよく分からない。
「彼に通信機を渡すだけじゃダメなんですか?」
「通信機によるやり取りでは妨害のリスクがあるんだ。オール・フォー・ワンには、電波を操る個性があると思われる。先の蛇腔市で死柄木の見せたEMP攻撃を奴も使ってきかねない。」
「………なるほど。それを合図を出す瞬間にでも使われたら──」
「我々の動きに遅れが出る。」
「出ますね。」
「だから、技術にも個性にも頼らない君の力が必要なんだ。」
彼の言いたいことが、すとんと腑に落ちる。確かに通信機だけだとリスキーかもしれない。もちろん、EMP攻撃なんかで信号をロストすれば、私だって気づける。ただ、その瞬間の僅かな動揺は、ヒーローを送り込むのに致命的なラグを生む可能性はあるだろう。たった数秒のラグで、緑谷くんと青山くんは殺されることだって有り得る。
なにせ向こうも大軍を率いてくることは目に見えてる。そこにこちらの戦力をドンピシャで当てなければならないのだ。
でも、私を使うにしても懸念点はある。
「私の感知、そんなに離れられないですよ?」
「その通りだね。ナガンを察知した距離が限界だろう。」
「はい。しかも死柄木がサーチを持ってます。近いと意図に勘づかれないですか?」
そう、懸念点は個性「サーチ」だ。見た相手の情報、位置を確認できる個性。私も見られてるから、位置はバレる。数キロと言っても、その気になれば数分もかからない距離だ。何かある、と思われるのはマズイ。
「そこは多少賭けになる。ただ、作戦ではヒーローを散開させて、我々が捜索中で、位置を特定できてないと欺瞞する。君が「たまたま」近くにいても怪しまれる要素は少ない。」
「それなら……行けますね。オール・フォー・ワンは私に興味無くなってますし。」
「それも目の前に緑谷少年がいるなら尚更だろう。念の為、現地には君一人でいてもらう。辺りは掃討済みだが、危険はある。」
「大丈夫ですよ。今更、並のダツゴクとかにやられるほどヤワじゃないです。」
グッと力こぶを作って言ってみる。こういう時は笑って、胸を張るべきだ。
オールマイトとて不安に決まっている。この一戦に日本の未来がかかっているんだ。しかも勝率は未知数、ぶっちゃけ不利だと思う。そんなところに自分以外を送り出す。それを後方で座して待てる人なら平和の象徴なんてやってない。
だから、私は余裕ですってポーズは見せないとね。彼の作った平和に育てられてきたんだ。
「理由は理解できました。このアモルファスに任せてください、オールマイト!」
次は私たちで作る平和を享受してもらいたい。
※ ※ ※
緑谷くん、オール・フォー・ワン、2つの反応が近づく。この距離感なら接敵してると見ていい。でも動きはない。オール・フォー・ワンはお喋りが好きだから、ありがたいご高説でも垂れてるんだろうな。
握った信号用のボタンに指をかける。これを押せば、本部に即座に合図が行く。声に出すより、ずっと速い。
「………」
喉を鳴らす。でもカラカラに乾いてて、何も出なかった。
もう少しで全てが始まる。乗ればゴールまでノンストップの超特急だ。しかも最終列車、明日の便に乗れるかは自分たち次第の。
「……ッ!!!」
──指を押し込んだ。
3つ目の感知、死柄木弔が来る!
「水炎転身ッ!」
同時に、目の前に開いた黒霧のゲートへ飛び込んだ。
ブラックアウトした視界が開けば、そこにオール・フォー・ワンらがいる。新調したらしい仮面で表情は覗けずとも、奴が驚いているのはわかった。
「よっしゃ!ドンピシャ!ど真ん前ッ!!!」
ざまあ味噌漬けだ、この野郎!
と、思う間もなく、辺りへ蒼炎が広がる。それに手を伸ばし、干渉……一帯を焼こうとする炎熱を無理やり束ねた。
茶茶を入れた私へ荼毘の視線が向くが、それもすぐに満面の笑みに変わる。誘導された蒼炎に氷結がぶつかり相殺されたからだ。
「させやしねぇよ!バカ兄貴ッ!!」
「焦〜凍〜〜!!!」
続々とヒーローたちがワープゲートを抜けてくる。総員集結だが、決戦の場はここじゃない。
『システム・トロイアON!!!』
オールマイトの指令と共に、せり上ってきた壁がヴィランたちを包む。たった一度きりの作戦、このタイミングの為だけに作られた即席の檻だ。関係者だから知ってるが、これにはもう目眩のするような資金と人員が割かれている。
実際ヤバかった!戸建て何個建つの!?ってレベルだったから!
「こんな檻!3秒もたねぇよ!!!」
荼毘の蒼炎を相手にしてはトロイアは残念ながら紙くずだ。
けど、ここまでやったあれもこれも!
「「その3秒が欲しかったッ!!」」
檻に触れて熱の拡散を防止、ショートが氷結で防御し、そのまま穴を塞ぐ。
そう、欲しかったのだ。ヴィランたちを小分けにして、さらにワープで散り散りにするための3秒間!
「私たちが勝利するための3秒だ!!!」
檻がゲートを抜ける。
──戦場は神野区、オールマイト広場!