半分少女のヒーローアカデミア
青い、蒼い炎が街を飲み込んで行く。
荼毘を他のヴィランたち丸ごとワープさせられたのはいいけど、出た先で即行檻をぶち破るわ、軽く暴れたら一面火の海になるわで、既に街は大惨事だ。当人はオールマイト像の近くで悠々としている。
改めて思う、「強い」と。自身を省みない、圧倒的な火力は凄まじいの一言に尽きる。そしてそれを支え続けている、消えない執着と憎悪……
「ただでさえ減ったヒーローがまた少なくなってく。脳無が現れ、周りは火の海、ちょっと前のことなのに懐かしい光景だ。」
………今はこちらが手を出すときじゃないか。語らせて、出方を見た方がいい。
確実に身柄を確保するなら、本来は速攻を選ぶべき。けれど、荼毘は火のついた爆弾だ、なんの拍子で弾けるか分からない。であれば、先手を譲ってそれを捌き切るのが対応としては丸い。私たちを倒さなければならないという意識を植え付け、ここに釘付けにする。
「……あぁ、ごめんな、自分語りしちまって。また俺を見てくれなくってよ、テンション下がっちまってさ。まさかの本人は現れず、来たのは三男とその腰巾着、そしてヤツの側近3人だけ。これが俺に対する答えかってさ。」
ムカッ!
このッ、誰が腰巾着だ!危うく手が出るところだったぞ。部下のオニマー、キドウ、バーニンはちゃんと側近って呼ぶのにさぁ!好きなように言わせとくの失敗だったか??
……でもそろそろやる気だな、目に見えて火力が上がってきてる。
ここでの作戦は、轟くん以外だと決めきれない。彼の赫灼を届かせるまで、いかに私たちが粘れるか。
「ショート……やれる?」
「任せとけ。そっちも任せたぞ。」
「もちろん!」
轟くんが準備に入る。タイムラグはこちらが埋める。新しい赫灼の発動には、どうしても時間がかかるからね。
「なぁ焦凍、実はさ一度家に帰ったんだよ、俺。また見て貰えるように……きっと、変わっていて欲しかったんだ。でもさ、3年ぶりの変わらぬ光景が改めて教えてくれた。俺が失敗作で意味はなく、この家族は俺のことをもう過去にした。」
「色々限度を超えるとさ、自分を形作っていたものが白黒反転するんだよ。あれから炎を鍛えるのに専念した、弱いまま会いたくなかった!この身が爛れて剥がれ落ちても何も感じなかった……」
更に火力が上がる。辛うじて残っていたまともな皮膚も、火傷ごと一緒に飲み込まれて炭化した黒々しいものに変わっていく。今の荼毘は正しく命を燃やしている。
自分の復讐が遂げられるならば、何もかも惜しくないんだ。
「ショートくん!あいつッ……!」
「…死ぬ気だったんだ、端から!」
「大丈夫、あれは私が何とかするよ。」
少し集中を欠いた轟くんを制す。熱対策なら私が適任、そのためにいるようなものだ。
荼毘が自爆上等なのは蛇腔で戦った時から見えていた。でもそのまま死なせるわけにはいかない。死んだら話もできないし、変わることもできないんだから。
「アレの大切なもの、全て焼き尽くす!それが俺の生まれた証だッ!!!」
「させねぇつってんだろうが!バカ兄貴!!」
「オーケー!オーケー!話してたらテンション戻ってきたわ!父親不在でお前が相手ってのも冷静になりゃ良い薪だ!」
「お前は俺が止める!!」
「……勘違いすんなよ?俺はお前にもしっかり思うことがあるんだ!!!」
両手に炎熱が集中する。ようやくお喋りは終わるみたいだ。
「赫灼熱拳!!オールマイトが好きか?焦凍ォ!!!──ヘルスパイダーッ!!!」
放出された熱線が襲いかかる。エンデヴァーの技、本人よりずっと荒く太い……圧縮が甘い証拠。けれど火力だけは桁違いすぎる。エンデヴァーが本気を出して到達する熱量を、向こうは通常攻撃で放ってくる!
「後ろに!炎は全部、私が受けるか散らします!」
炎をちょっと広げて……受ける!炎熱の操作権へ干渉、反らせるものはまとめて上空へ、無理なものは私の中へ!
……っつぅぅ〜〜!中々に熱い!!
でも消耗は放出で使うより圧倒的に軽い!これであと少し耐えれば……
「ショート!もういける!??」
「あぁっ!」
このまま荼毘に赫灼を──後ろッ!?
はっや!!動きが目で捉えられなかった!炎が抜けたと思ったら背後を取られてる!……くっそ、さっきのは目眩しか!!!
「1つ聞きてぇんだが焦凍、お前一体どんなツラして!!!」
動き出しが速いッ!
どう動く?あとコンマ数秒で決めろ私!!
ショートの防御は……間に合わないね!バーニンたちも無理!
私が蒼輝をドンピシャで当てられたら防御はできるけど、それするには切り替えも並列発動も遅すぎる!
なら、体使って割り込むしかないか!ストック使って足元ぶっ飛ばせば入れる!
……っんと!速いな!?振りかぶったところだったじゃん!!!
あーもうこの展開何回目だよ!!いい思い出ないんだけど!
「怯える市民と雄英に籠っていられたんだッ!?」
手だけ実体化して、受ける!
「ぐぅぅッ!!?」
あっっっつい!!だけじゃない!
これ、威力殺しきれ……あ、足浮いた。
戻してなかった足だと踏ん張りが効かず、あっさりと飛ばされた。
「ごめん!」
「気にすんな!」
背中を押される。サンキュー、ショート!
「エンデヴァーの息子!荼毘の兄弟!!」
上がってきてんね、いい感じに釘付けにできてる。でも、このままだと止めきれないな……
自己流だけど、荼毘の徒手格闘は頭抜けてる。加えて結構な長身だ。私よりもずっと手足のリーチがある。小回りの効かない転身じゃジリ貧は見えてる。
ならば!
「厄災の煮凝りみてぇなテメェが!」
「させない!」
飛んできた拳を蹴り上げる!
これは蛇腔でやったことの縮小版、私の加速と蹴り、荼毘の炎熱で生まれる水蒸気爆発、相手の攻撃を何倍にもして返せる!
纏水、転身をものにした今なら、熱を移動させるのも集めるのも楽勝!こっちでも十分戦えますよーだ!
「……またお前か!」
「執拗いのが特技なので!!」
「良かったなァ焦凍!また後ろに隠れられる!!どこまでも厚かましいよなテメェはッ!」
「余所見が上手!」
油断大敵!小柄って悪いことばかりじゃないからね!
真正面から突貫──と見せて、直前で水蒸気を噴射、荼毘の視界から消える。突いた手を起点に体をぶん回せば、一気に回し蹴りの要領!相手は確かにデカい、でもオールマイトやエンデヴァーみたいな筋肉の塊って程でもないのだ。間に絶望的な質量差はない。
だから脆いところを突けば崩せる!オマケに水蒸気爆発も付けば、ありえない速さで天地が入れ替わる!
「はッ!?」
「どうもお久しぶり!!」
私と荼毘の視線が交差する。さっきとは違って私が上で、荼毘が下だ。意味が分からないとでも言いたげな目には、ようやく私が写っている。崩された直後なのに、もう上を取られたのがそんなに不思議か。
そっちは知らないだろうけど、ちょこまか動くのは得意だ。炎熱でも水流でも出来ない、人体構造を無視した動きはこちらの特権!!!
「赫灼熱拳ッ!!!」
捻りと炎の加速を合わせた速攻!
これは……脳みそ揺れるぞ!荼毘!!
「──いい加減、邪魔すんなよ。」
視界が明滅する。
頬のザラつく感覚で、自分が倒れてることがわかった。
腹部から胸部までに広がる熱で、しくじったと気づいた。
そして、
迫り上がる異物感で意識が戻った。
「オエッ、が…がぼっ!ぁあげ……」
おびただしい量の血液が、吐瀉物と混じって血溜まりを作る。
あの体勢から反撃してくる?普通?入ったと思ったんだけどなぁ。荼毘の執念が予想以上だった。何がなんでも復讐を遂げる、それに全霊を掛けることの凄まじさを見誤った。
でも私はまだ死んじゃいない……個性を回せ、次が来る前に動け!
「言ったよなぁ、目障りだって。」
向けられる視線に熱は無い。冷たいとも違う、一切の熱量を感じない暗渠の瞳をしている。
「うちの周りをチョロチョロして何がしたいんだよ。エンデヴァーに取り入ったら優遇されると思ったか?ナンバーワンの息子に近づきゃ上手く行くと思ったか?」
……なるほど、と急に思う。
確かに私とエンデヴァーの近さは、何も知らずに見たらそうとも映るんだ。所謂、金持ち一家に女を使って入り込む、みたいな?
まぁ、もちろんそんなことはないし、そんなつもりもないんだけど……
むしろ初対面に限っては親子揃って向こうから来たんだよな、うん。なんであれから仲良くなれたのか不思議だ。多分、合縁奇縁というやつ。
というわけで、荼毘の考えは見当違いもいいところ。ちゃんちゃらおかしい。
「……笑ってんのか?あぁ?」
思わず口角が上がってしまうくらいには、ね。
回復は、済んでる!
「図星だってなら、自分の葬式で見たらいい。アイツらがどんな顔してるかなッ!」
みんなぶっ殺すつもりなのによく言う!
「生憎と丈夫なので、私!!」
「テメェッ!?」
突き出された拳を腕ごと絡め取る。また足を崩して私側に引きずり込む!
最強格のヴィランに私一人の特攻で勝つつもりなんて更々ない。負けるのは必至、ならば続く二の矢、三の矢を用意してから挑むに決まってる。私は最強じゃないしなれない、一人の最強に任せる未来にも興味がない。
自分も周りも全部全部使って、総取りを目指す!
水炎転身・紅焔ッ!!!!
「あなたの炎、貰うね!」
荼毘の体、その中を巡る炎熱への干渉……!
触れてわかる。己を焼くほどに満ち満ちた膨大なエネルギー、これを私の思う通りに動かすのは不可能だ。どれだけ掬いとっても大海の流れは変えられない。
けれど、個性は身体能力、一度に出せる出力には限りがある。
なら!それを一気に引き剥がす!!
「……どう?力、出ないでしょ?」
「ふざっ、けんな!」
私を振り払おうと荼毘は体を捩る。弟への怨念を叫び続ける。
一回技をかけてしまえばこちらのものだ、そう簡単に引き剥がせやしない。しかし、枷をつけられながらでもジリジリとショートの方へ行こうとするのは大した執念……
ただ、こんなふうに地べたで感心してても決着はつかない。そろそろ本命に出てきてもらわなきゃ、ね?
「……親父のことしか見えてねぇと思ってたよ。」
辺りを覆っていた蒼炎が晴れた先……
「しっかり俺のことも見てくれててよかった。」
私たちの切り札、轟焦凍!