今回、主人公が轟くんのトラウマに触れるシーンがあります。もし不快に思われたら申し訳ないです。
半分少女と障害物競走
半分少女のヒーローアカデミア
今日は雄英体育祭、超常社会になって以降オリンピックに変わって日本中を熱狂させる祭典である。1週間ほど前に相澤先生が満を持して告知したこの体育祭は、一般市民にはスポーツ大会であり、現役ヒーローとヒーロー科からすれば有望株の発掘、自分をアピールする場。
現在1年A組の控え室は、待ちに待った雄英体育祭に緊張する者や興奮する者、三者三様の空気でぎっしりだ。かと言う私も、
「めっちゃワクワクしてきた!」
「水穂ちゃんいつになくやる気だね!?やっぱり水穂ちゃんもスカウト狙いとか?」
「うーんそれもあるけど、こうやって授業とは別でみんなと実力ぶつけ合うの楽しくない?」
「まるで少年漫画の主人公みたいね水穂ちゃん。でも私も言われてみればちょっと滾ってきたわ。」
「だよね!よーし頑張るぞー!」
ふつふつと闘志を燃やしてるところに飯田くんから集合の合図が入る。その号令に緊張した空気が一段階ピリッとしたものになった時、轟くんが緑谷くんへ話しかけた。あまりに唐突だったので、みんなの視線が彼らに向く。
「客観的に見て、実力は俺の方が上だと思う。」
「う、うん。」
「お前、オールマイトに目ぇかけられてるよな。…別にそこを詮索するつもりはねぇが、お前には勝つぞ。」
急な宣戦布告、喧嘩腰にも見える轟くんの言動にクラスがざわつく。彼の顔を見ればいつもの仏頂面。けど私には分かる、今の轟くんの目はあの日屋上で家のことを話していたときの目だ……
「轟くんが何を思って僕に勝つと言ってるのかは分からないけど…みんなトップを狙ってる。遅れを取るわけにはいかないんだ。僕も本気で取りに行く!」
「おぉ…」
轟くんの宣戦布告へ、同じく宣戦布告で返した緑谷くん。轟くんはそれに軽く返事をしただけで、そのまま廊下に出ていった。さっきの轟くんの表情がどうしても気になった私も彼を追って控え室を出る。
「待って、轟くん!」
「……加山か。」
後ろから声をかければジロリと睨まれた。やっぱり今日の轟くんはどこか機嫌が悪いように見える。そして私は、その原因に心当たりがある。
「轟くんちょっとピリピリしてるよね。もしかしてお父さん絡み?」
「お前には分かっちまうか……今日はな、親父が見に来てるんだ。警備の一環だけどな。」
「そっか…」
轟くんと彼の父親との確執は知っている。轟くんは頑として炎を使わない、それは彼なりの父親への否定なんだと思う。母親を、家族を顧みなかった父親の力なんて要らない、母親から受け継いだ力だけで伸し上がるつもりだ。
…でもその生き方は彼を救わない、きっと彼を苦しめる。
「轟くん、君の事情を知った上で言うね。これを聞いた君は怒るだろうし、私を殴っても構わない。」
「なんだよ……」
「轟くんはもっと自由に生きていいと思う。炎も氷も両親から受け継いだものとか関係ない、それを使う理由を誰にも縛られる必要なんかないよ。」
一瞬、轟くんの表情が抜け落ちた。けれどすぐにその目に憎悪を滾らせ、私を強く強く睨みつける。彼が父親に向けている憎悪の感情が私にも向けられた。
「知ってんだろ親父が何をしたか!」
「知ってる。」
「じゃあなんで!……クソっ、あん時お前に話した俺がバカだった。」
そう言って彼は私の前を後にする。
嫌われちゃったな……轟くんの父親を否定したい気持ちは分かる。私も自分の炎の個性が憎いと思うこともある。でもどうしたってそれは自分のものなんだ、否定して拒絶し続けることは何時までも自分を認めてあげることが出来ない。
「…自分のことも満足に出来ないのに、何偉そうなこと言ってんだろ私。」
さっきまでの気持ちはどこへやら、入場口に向かう足取りは重かった。
※ ※ ※
入場の時間を迎え、私たちA組から順番に1年生が会場に入る。
『雄英体育祭!ヒーローの卵が鎬を削る大バトル!どうせあれだろコイツらだろ!?敵の襲撃を受けても鋼の精神で乗り越えた期待の新星!ヒーロー科1年A組だろォ!』
山田さ…じゃなかった、プレゼントマイク先生の派手な実況に会場は盛り上がってるけど、A組をよいしょしすぎて他クラスからの視線が痛い。周囲からの視線や歓声が大集合で、さすがに緊張してきた。
1年生のBからKクラスまで入場して来て、いよいよ1年生徒が朝礼台の前に揃う。
「選手宣誓!!」
朝礼台に立ったミッドナイト先生が鞭をしならせ高々に宣言する。マスクで隠れているが切れ長の目に整った顔立ち、風にたなびく黒髪も艶々として美しい。ナイスボディを覆うタイツはラインをくっきり浮かび上がらせ、その艶やかさは健全男子には目に毒だ。かく言う私も同性ながら、先生の美人っぷりにちょっと目を奪われてる。
常闇くんがボソッと「18禁なのに高校にいていいのか?」って言ってたけど峰田くんが「イイッ!」と元気いっぱいに叫んでるから多分良いのだ、うん。
「選手代表、1-A 爆豪勝己!」
「え!かっちゃんなの!?」
「アイツ、入試1位通過だったからな。」
「あら、それなら加山さんもそうではありませんでしたか?」
「相澤先生にどっちが出るか決めろって言われたんだけど、めちゃくちゃ揉めて面倒くさくなったからジャンケンで決めた。」
「「「ジャ、ジャンケン……」」」
大事な選手代表をそんなことで決めたのかと、緑谷くんたちから生暖かい視線を頂戴する。なんてやり取りをしている間に爆豪が朝礼台へと上がっていく。相変わらず手はポケットに突っ込み、ガニ股でノシノシ歩く姿はとても入試1位を取るような優等生に見えない、ヤンキーのそれである。
「せんせー、俺が1位を獲る。」
(((絶対やると思った!!!!)))
淡々と口から出た言葉はスポーツマンシップ云々ではなく、全員に向けた凄まじい挑発だった。案の定、周りからはブーイングと罵倒の嵐で、私たちA組の面々も顔面蒼白。
「せいぜい、良い踏み台になってくれ。」
……追い討ちの一言で、さらにブーイングは加速しました。
でも話してた時の爆豪の表情は真面目そのものだったし、巫山戯てたんじゃなくてさっきの選手宣誓は、自分を追い込むためにした爆豪自身の宣誓だったのかも。
「さて!それじゃあ早速始めましょう!」
大不評な爆豪の選手宣誓はミッドナイト先生から特に何もないらしく、そのまま司会が進む。さすがに先生が喋りだしたら、みんなも静かになった。
「第一種目は予選よ!毎年ここで多くの者がティアドリンク!……さて、運命の第一種目!!」
先生の後ろにデカデカと映像が浮かび上がり、ルーレットが高速回転する。雄英体育祭の種目は毎年変わるし、生徒に伝えられるのも当日この瞬間。さてさて、何になるか……
「今年は……コレ!!」
ルーレットが止まり、今年の種目が公開される。……障害物競走か。
内容は全クラスが参加して、スタジアムの外周およそ4キロを走るというものらしい。
「雄英は自由が売り文句!コースさえ守れば、何をしたって構わないわ!!」
位置に就きまくりなさい!という独特な言い回しな号令と共に、1年生全員が緑のランプが3つ灯る赤いゲートへ集まる。私は前方は避けて、少し後方で位置に就いた。どんなレースもスタートダッシュが肝心、最初の個性使用で出来るだけ周りに影響が出ないようにしたい。
ランプの消灯に合わせ足に熱を溜めていく、前の人混みを一息に飛び越えられるだけのエネルギー。
「スタート!!!」
掛け声と共に一気に水蒸気を炸裂させ、飛び上がる。予想通りゲートは大混雑、生徒の数に対して狭すぎるからスタート時に詰まるのは必至だ。そして私が飛んだ直後、スタート地点を冷気が漂い、一瞬で氷漬けにされた。
……轟くんの氷結か、やっぱり初手は使ってくるよね。少しタイミングがズレていれば私も足止めを食らっていた事にヒヤリとするけど、幸運にも避けられたので勢いそのままに最前列へ躍り出た。
「甘いですわ、轟さん!」
「そう上手くはいかせねぇよ!半分野郎!!!」
八百万さん、爆豪をはじめとしてA組の面々も抜けてくる。クラスメイトなら手の内は割れている、全員が上手く凍りついた地面を回避できた訳じゃないけどライバルは多そうだ。
そんな妨害を抜け出た1人、峰田くんが個性のもぎもぎを踏みながら駆け抜けていく。もぎもぎは峰田くん自身にはくっつかず、よく跳ねる性質を使って走りにくい地面を曲芸地味た動きで移動していた。
「は、速い。」
他の追随を許さず、ぐんぐん轟くんへ迫っていく。そしてあわや追いつくかとというところで、
「うぎゃあああ!」
入試に使われた仮想ヴィランロボに吹き飛ばされて行った。……南無
『さぁ!いきなり障害物だ!まずは第1関門、ロボ・インフェルノ!!!』
0ポイントから3ポイントまで懐かしいロボたちが勢揃いだ。スタートダッシュを決めた私たちだが、さすがに足を止めざるを得ない。入試の時とは違い、コイツらを倒す必要は無い、上手く避ければいい。どう避けるかっていうのが問題だけど。
みんながみんなどう出るか悩んでいる時、轟くんが動いた。地面に氷結を展開したかと思うと、瞬く間に0ポイントロボを凍らせてしまった。あの巨体を全身凍らせるなんて凄い個性だ……
完全に動きを停めた0ポイントロボに、一部の生徒たちは動き出す。
「やめとけ、不安定な体勢で凍らせた。……倒れるぞ。」
言うが早いか、あれだけ巨躯を誇った0ポイントロボはボロボロと崩れ出す。私がめちゃくちゃ苦労して倒したのを意図も簡単に……あ、
……切島くんとB組の、えーと……てつなんとか君が巻き込まれた。
『第一関門を一抜けしたのは、1-A 轟焦凍!……おっと切島鋭児郎、潰されてた!ウケるぅ!!』
さすが硬化の切島くん、無傷だ。あと、そう思い出した!B組の鉄哲くんも全身が鉄っぽくなるみたいで、元気に這い出てきた。
ちょっと足踏み踏んじゃったけど、時間が出来たおかげで突破方法を思いついた。単純だけど、私の水流なら!
「越えられる!」
「進路塞いでんじゃねぇ、加山!」
「うわっとと!」
『1-A 爆豪、加山!下がダメなら上を行くってか!?2人ともクレバーッ!』
瞬発力はないけど持久力ならある水流で、ロボの頭上に飛び乗る。同じこと考えてたらしい爆豪とたまたま進路が被って爆破されかけたけど、ぶつからなかったしモーマンタイ。
私たちの動きに着想を得た瀬呂くんと常闇くんも追随してくる。こんなことしてる間にも轟くんには離されてるか、急がないと!
『おいおい第一関門チョロいってさ!それじゃあ第二関門行ってみようか!ザ・フォーーール!』
ロボ軍団を抜けた先にあったのは、馬鹿みたいに深い谷。所々にあるのは岩場とそれを繋ぐロープ、これを伝って渡れってことね。というか学校の敷地にこんなの作ってたの!?
相変わらず規模が常識を超えてる雄英に戦慄してると、遥か先を悠々と渡る轟くんの姿。氷を生成しながらその上を滑ってるのか……っていうか爆豪も上空を飛んで軽々突破してるし!
……ここは少し負担になるけど、跳躍に水蒸気の爆発、着地に水流で行こう!
『3番手、加山水穂!ザ・フォールを跳んで跳んで跳びまくる!あっという間に中間地点を超えたぁ!』
『轟ほどの安定感も爆豪ほどの速度もないが、悪くない速さだな。』
お褒めの言葉どうも、相澤先生!爆豪のあの爆速ターボとかいうやつ便利そうだし、いつか絶対真似してやろ。
※ ※ ※
中々、面倒だったザ・フォールを抜けて第三関門にたどり着く。前方を見れば既に抜けていると思っていた轟くんが意外と近いところでもたついていた。私の少し前にいる爆豪はもう彼に追いつきそうだ。
『第三関門は一面地雷原!埋まってる場所は良く見りゃ分かる!目と脚を酷使しろ!』
そういうことね……後のこと考えたらあまり使いたくないけど、また水蒸気を使って行きますか!1回目の跳躍後、着地する寸前でもう1回水蒸気を炸裂させれば…
『またまた加山水穂が飛びまくってんぜ!アイツ、兎かよ!』
『着地の瞬間に水蒸気を爆発させて地雷を回避、作動してもその爆風が追い風になるってわけか、考えたな。』
『さてさて、加山が追いかける!……おっとここで先頭が入れ替わった!』
ハッとして前を見る。着地に意識を割いてる間に爆豪は轟くんに追いついてた、もう2人の小競り合いが始まってる。2人はお互いの妨害でまだ私が真後ろに来てるのに気づいてない、抜かすチャンス!
「おっ先〜!」
「お前ッ!」
「てっっめ!」
よし!これで2人を抜けた。どっちも妨害し合ってたから速度が落ちてる、このまま……あれ?
「しまった!」
「行かせるわけねぇだろ。」
『先頭2人を追い抜いたと思った加山ァ!だがそこに轟の氷結が襲いかかる!足元が凍りついてんぜ!』
『地面に着く直前は無防備だ、他の動作も取れん。隙を突かれたな。』
両足を固定している氷を慌てて炎で溶かす。もう体力温存とか言ってらんない、ここまで来たからには負けたくない!
「ふん、さっきまで余裕はないみてぇだな。勝ちは譲らねぇよ。」
「譲らねぇのは俺もだボケッ!」
そこからは三つ巴の泥試合、ジリジリと進みながらも3人がそれぞれに妨害するせいで誰も抜け出せない。
後方も迫り全員に焦りが見える中、遠く後ろで大爆発が起きる。
『A組 緑谷!爆風で猛追ィ!……っていうか抜いた!!!』
「緑谷くん、マジか!」
「デク!俺の前を行くんじゃねぇ!」
「……!」
あれだけやりやっていた小競り合いを止め、私たちは緑谷くんの後を追う。抜かれた上にリードも付けられた、早く追いつかないと!
いや、大丈夫か?緑谷くんが明らかに失速して落ちてきている。彼の個性はこんな場面で使えるほど器用じゃない。このまま落ちれば抜ける!
追い抜く瞬間、今まさに爆豪と轟くんの間へ落ちようとしている緑谷くんを見る。その時の彼の表情は必死さこそあれ、この現状に絶望していなかった。絶対に私たちを抜かしたチャンスを逃さないという意思。
そして緑谷くんが身を翻し、手にしていたロボの装甲を地面に叩きつけた。
『緑谷!間髪入れずに後続を妨害!!!』
「チッ!」
「クソがッ!」
「……やられた!」
やられたやられた!緑谷くんが後ろからぶっ飛んできたのにも驚いたけど、これはしてやられた。失速どころか、さらに私たちを妨害して加速する手段を思いつくなんて、凄まじく機転が利く!
『イレイザーベッド、お前のクラスすげぇな!どういう教育してんだ!?』
『俺はなんもしてねぇよ。ヤツらが勝手に火点けあってんだろ。』
完全に前に出られた!追いつけない、爆豪たちに追いすがるので精一杯だ。
『雄英体育祭1年ステージ!さぁ、誰がこの展開を予想出来た?今、1番にスタジアムに帰ってきた男を!緑谷出久の存在を!!!!』
ゴールを抜けた先で歓声が上がる、緑谷くんがゴールインしたんだ。でもまだ私たちはゴールしていない、前を走る2人の背中を必死で追いかける。
追って追って追いかけるが、彼らを抜くには一歩及ばず私は4着だった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
前半の水穂と轟くんのやり取りは自分としては微妙に思っています。知ってるのにあえて突くのか?と、この後の構想に必要で入れましたがもう少し上手く書けたんじゃないかとも思いますね。精進です。