半分少女のヒーローアカデミア
「──ヒーロー事務所から参りました。イレイザーヘッドと申します。直師という先生から依頼を受けたのですが、お取次ぎ願えますか?」
院内の受付で、簡潔に名前と目的を伝える。こちらを見上げた事務員は、怪訝そうな顔をするが、ヒーロー免許と依頼状を確認すると、快く取り次いでくれた。
──また不審者を見る目を向けられたな。やはりもう少し人受けのいいコスチュームに……、いやそれは合理的じゃないか?
プロヒーローとなって以来、何度となく向けられる疑惑の目線に、どうしたものかと悶々とする。
「はい、はい、分かりました。……イレイザーヘッドさん、中央棟5階の第3会議室までお願いします。直師先生が患者さんについて、詳しく話したいとのことです。」
「分かりました。ありがとうございます。」
事務員に礼を伝え、指示された会議室へと向かう。
──にしてもプロヒーローに依頼する程の案件か。この病院はヴィラン被害者へのケアや個性暴走の緩和で、高い実績を持っている。そのプロたちが手を焼くとは……、保護した時高熱を出していた以外は、普通の子供に見えたが。あの施設から運び出されている、何を抱えていても不思議じゃないか。
これから起こることに思考を傾けつつ、たどり着いた会議室の扉を開く。
──────
────
──
「失礼します。依頼を受け、参りました。イレイザーヘッドです。」
「あぁ、待ってましたよイレイザーヘッドさん。この度は依頼を受けてくださりありがとうございます。」
会議室に来たイレイザーに直師は、深く頭を下げる。
「いえ、私の力が必要だと聞けば駆けつけるのはヒーローとして当然です。それに私はまだ若輩です、そこまで畏まらないでください。」
「いやはや、思っていたよりもしっかりした方だったからついね。さすがはプロヒーローだ。」
イレイザーの言葉を聞いた直師は、堅い表情を崩して普段の柔らかスマイルに戻る。
「ありがとうございます。それで以前、保護した女の子……みほちゃんが個性を度々暴走させてしまうと伺ったのですが。」
「ごめんごめん、前置きが長くなった。そう、君の言う通り依頼したいのは彼女のケアと個性の制御さ。」
「それは上司からも聞き及んでいます。失礼かと思いますが、ここの設備と人員では不足なのでしょうか?」
「そこが問題でね。詳しいことは資料を交えて話そうか。」
直師がそういうと、会議室前方に配置されたスクリーンに様々な資料が投影される。
「まず最初に伝えたいのは、みほちゃんは個性の複数所持者だ。これは個性因子の検査結果からも間違いない。」
「個性の複数所持ですか?個性が複合しているとかではなく?」
今まで聞いた事のない、個人での「個性複数所持」という言葉にイレイザーは目を剥く。
──個性の複数所持……両親から受け継いだ個性が複合して発現すると、稀に複数の個性を持ったような形で現れることもあるとは聞いたことがあるが。まさかそんなことがあるのか?
「間違いない、みほちゃんには水と炎、2つの個性因子がある。だが炎の個性が不安定でね、これが暴走しやすい上、その不安定さが水の個性にも及んでいるのさ。」
「なるほど……それは分かりましたが、いくら強力でも本人が生まれ持った個性で、そこまで不安定なのは不自然では?」
──個性は身体能力、どれだけ強力であっても通常は多少なりとも制御できるのは、発現仕立てでもない限り困難じゃない。保護した時、みほちゃんの年齢は6歳程度に見えた、その歳で制御できないのは違和感があるな。
イレイザーの投げかけた質問に、直師は驚きと嬉しさが混じった表情に変わる。
「鋭いじゃないかイレイザーヘッド!君の言う通り、これは不自然だ。そう思った私達もみほちゃんの個性を精密に検査して1つの仮説を立てたのさ。」
「その仮説とは?」
明るい笑顔から一転、深刻な面持ちになった直師を見てイレイザーにも緊張が走る。
「それはね。みほちゃんの個性、炎の個性は後付けされたものじゃないかということだよ。」
「個性の、後付け?いや、そんなことはありえないでしょう!」
直師から発せられた突拍子もない考えに、思わず声が大きくなる。
「変なことを言ってる自覚はあるさ。けどね?みほちゃんが炎を暴走させること、その暴走が水にも伝播することを見ても彼女に炎の個性は合っていないと推測できる。それにイレイザーヘッド、彼女は炎を放ったあと火傷をしているんだ。これは炎系個性の持ち主としては滅多にありえない。」
「それはつまり、みほちゃんがあの施設で受けていたのは……」
「十中八九、後付けの実験だろうね。彼女の意識が曖昧なのもその影響と見るのが妥当さ。」
「…………ッ!まだあんな小さな子に惨いことを!!」
伝えられた話への怒りで、ギリギリと爪が掌に食い込む。普段下ろしている髪まで逆立っている。
「落ち着くんだイレイザーヘッド。これが彼女の現状さ、不安定な個性と朦朧としている意識が合わさって暴走に歯止めがかからない。改めて聞くけど、この依頼、受けてくれるかい?」
激情に震えるイレイザーの目を直師は見つめ、問いかける。その顔に浮かぶ表情は先ほど柔らかさも真剣さもなく、医者でありながら、水穂を助けるに及ばなかった悲しみと無力感を湛えている。そして、水穂のために心から怒り、心配する若きヒーローに託したいという期待の眼差しがあった。
「失礼、取り乱しました。みほちゃんのケア、ヒーロー、イレイザーヘッドの名において、必ず成し遂げます。」
直師からの問いかけにイレイザーは一つ息を吐き、答える。
彼女のヒーローとして、きっと救ってみせると。
* * *
「この203号室がみほちゃんの病室さ。今は鎮静剤のせいで大人しいと思うが、気をつけて。頼んだぜヒーロー?」
「任せてください、やれるだけやってみます。」
直師はイレイザーを焚きつけるように笑いかけ、その背中を押す。それに笑って答えるとイレイザーは静かに扉を引いた。
──────
────
──
「初めまし、いや違うか。また会えたね、みほちゃん。俺はイレイザーヘッド、ヒーローだ。」
そうやって入ってきた黒い人は、ベッドの横にしゃがんできた。
「……?」
「覚えていないかな?君がここに来る前に1度あったことがあるんだ。名前もそのとき、みほちゃんが教えてくれたんだよ。」
誰か分からなくて首を傾げる私に、黒いヒーローさんは私のことを知っていると教えてくれる。
「…………あっ」
「思い出してくれたんだね。今日はみほちゃんとお話がしたくて来たんだ。」
「お話?前もなおしってせんせーとしたよ?」
「そうか、俺ともお話してくれたら嬉しいんだけどどうかな?」
「うん、いいよ。」
「ありがとう、みほちゃん。」
今のところ暴走の兆候はなく、イレイザーは内心ホッと息をつく。そんな女の子が何度も病室を吹っ飛ばしているのだから、油断はならないが。またチラリと扉近くを見れば、様子を伺っていた直師を初めとした医療スタッフも安堵の表情を浮かべている。
最初の会話からいくつか言葉を交わし、いよいよ本題に入っていく。彼女の身元特定のため、苗字等を聞き出す必要がある。警察も捜査中だが、名前だけでは情報不足は否めない。
「そうか、みほちゃんは海が好きなのか。また行けるといいね。じゃあ次はみほちゃんの上のお名前を聞いてもいいかな?」
「うん!私の名、前……うぐっっっ!」
順調だった水穂の会話が途切れ、同時にイレイザー達へ緊張が走る。
──暴走の兆候だ。
小さな体が大量の水を纏い、真っ赤な炎立ち登らせ始める。
「いたい!あ、つい……ぜんぶもえちゃう」
頭を抱え、彼女がうめき声をあげる度、水と炎はより強大になっていく。2つの個性が暴れ、放たれようとした時、
─────!
イレイザーヘッドの目が赤く輝き、水穂の個性を抹消する。
暴走寸前だった水と炎は全て霧散し、病室は一瞬にして静寂が訪れた。
「大丈夫、みほちゃん。君は自分の力を怖がらなくていい。俺が見てるから、危ない時は今みたいに助けるよ。ヒーローだから。」
今にも溢れだしそうだった自分の個性への恐怖とそれが急に消えたことに困惑する水穂へ、イレイザーはゆっくり近づき優しく頭を撫でる。
「だいじょーぶ?」
「あぁ、何も心配ないよ」
「そっ、か。ねぇイレイザーさん。」
「ん?」
「ありがとう。」
まだ恐怖と頭の痛みが残って、目に涙を浮かばせながら水穂は精一杯の笑顔をイレイザーに向ける。
「どういたしまして。君がずっと大丈夫になるまで、ヒーローは側にいるよ。」
そう返したイレイザーに水穂はもたれ掛かり寝息を立て始める。それは彼女は保護されてから初めての痛みがない、安心出来る眠りだった。
よろしければ、感想、お気に入り、評価いただけますと嬉しいです