半分少女と休日
半分少女のヒーローアカデミア
一悶着あった雄英体育祭を無事終えて、いや私としてはもうぐっちゃぐちゃのめちゃくちゃだったんだけど、まぁ何とか終えまして。私は休日を迎えています。出された反省文は寝る前に書き終えて、自室にいた相澤さんに出してきた。提出物は早めに終わらせるタイプです。受け取った相澤さんはものすごく渋面だったけど、内容は真面目に書いたのでため息と以後違反のないようにとお言葉を貰い許されました。
そんなこんなで休日にたっぷり時間を取れた私は、なんと病院に来ています。
体育祭で無茶をやってしまったので、リカバリーガールから「精密検査受けてきなさい」と言われちゃったのだ。あれだけのことをしたし、強制的に病院送りにされなかっただけ温情かもしれない。
「ふぅ、やっとついた。」
遠かったぜ病院。個性社会広しと言えど、個性の絡んだ症状の治療というのはそう簡単に受けられるものでは無い。個性はブラックボックス、それを診られる専門医は結構貴重なのです。というわけで、その専門医がいる病院までちょっと遠出してきました。
「すみません。個性の診察を受けたいんですけど、お願いできますか。」
「はい。診察券と保険証はお持ちですか?」
「持ってます。あと紹介状渡せって言われたのでこれもお願いします。」
「あ……、確認いたしました、ありがとうございます。こちらの番号札を持ってお待ちください。」
「分かりましたー。」
はて?あの受付の人、会ったことあったっけ?私の顔をマジマジと見て、少し驚いてた。何回かここの病院は来たことあるけど、覚えられるほど頻繁じゃないし、親しくなるほど同じ人と受付したこともないし……うーん?
待ってる間もチラチラと視線を感じる。も、もしかして私の格好何か変だったりする?朝は寝癖直したし、ちゃんと顔も洗ったし、服もカジュアルで無難なのを選んだはず。髪色はちょっと珍しいけど、今の時代なら私より派手な人なんていくらでもいるし……恥ずかしくなってきた。早く呼ばれないかな。
『27番でお待ちの、加山水穂さん、加山水穂さん。第2診察室までお越しください。』
呼ばれた!早く行こう、早く診察終わらせて、早く帰ろう!顔暑くなってきたし!
「失礼します。」
「はい、加山さんね。こっちにかけてください。」
「よろしくお願いします。」
「ええと、今日は……」
そこから軽い問診と触診があり、血液検査もした。この個性社会、血液検査の結果が出るのも爆速だそうだ。他には体温計みたいなのを温めさせられたり、コップ1杯に水を出さされたりもした。こっちは個性のフィードバックを診る検査だ。まぁ検査なんて小さい時から何回もやってるし慣れたもんです。採血は少し痛いけど。
「診察結果ですが、加山さんは……」
「は、はい!」
「個性の使いすぎです。」
「使いすぎ……」
先生が言うには、私は個性の調節機能に若干の異常が起きてるとのこと。炎熱系の個性持ちは、発汗等で体温を下げる機能が強い、要は汗っかきなのだが、私はその機能が落ちてるらしい。これは血液検査から炎の個性因子が活性化しすぎてたり、体温が私の平熱よりずっと高くて発汗が認められないことから分かるのだとか。
「つまり今の加山さんは、常時炎の個性を使っている状態です。」
「確かに昨日から暑い気がしてました。これって悪いですよねぇ?」
「悪いです。」
「ですよね。」
あちゃーと額を押さえる。それなりに個性も使えるようになってきたし、使いすぎてもぶっ倒れるくらいだったので油断してた。
「説明しますと、加山さんの個性は発動型です。発動型はON/OFFを切り替えられるわけですが、貴方はこれができなくなっています。感覚としては閉めた蛇口から水が漏れてるというのが正しいでしょうか。」
「なるほど、ちなみに出来なくなるとどうなります?」
「そうですね。まず、体温が異常に高いので心肺機能、脳機能の低下や代謝異常が起きる可能性があります。疲れやすかったり、ぼーっとしたりするわけですね。最悪、動けなくなります。そして1番危険なのが、」
「危険なのが?」
「他人に被害が出ることです。加山さんは炎熱系の個性なので、うっかり人や物を焦がしたり、燃やしかねません。」
「……」
内心、ため息が出る。まさか体育祭で無茶をやりすぎて、幼少期に逆戻りするとは……アホすぎる。雄英の校訓はPlus ultra だけど、それはできる限り全力でやれ、限界を乗り越えろという意味。自分の手に負えない無茶をしろという意味じゃないんだよバカ。必死に身につけた個性制御を振り出しに戻された気分だ。
「な、治りますか?」
「もちろんです。1週間ほど個性を使わずに安静にしていてください。炎の個性は禁止ですが、水の方は使っても構いません。」
「本当ですか!?よかったぁ。」
「はい、他に気になることはありませんか?」
「ありません、ありがとうございました。」
「では、お大事に……あ、あの〜」
「なんですか?」
立ち上がろうとしたところで、先生に呼び止められる。なんだろう、伝え忘れでもあったのかな?見れば先生はちょっと恥ずかしそうで、もじもじしてる。
「加山さん、もしかして雄英の方ですか?体育祭に出てた?」
「ええ、そうですけど。」
「やっぱり!紹介状に修善寺先生の名前があったのでそうじゃないかって思ってたんです。」
「それはありがとうございます。」
「もし良ければ、これにサインを貰えませんか?息子が体育祭を見てから貴方の大ファンだって聞かなくて。」
「そうなんですか。大丈夫です、私ので良ければいくらでも書きますよ!」
ここに来てようやく思い至った。待合室での視線は私が体育祭に出てたからなんだ。雄英体育祭はテレビ中継もされるし、私に見覚えがある人も大勢いるわけだ。さっきの疑問が氷解し、なるほどなるほどと思いながらペンを走らせる。しかし私も自分のサインなんて考えたこともなかったので、このままだとただの署名になってしまう。写真でもつけようか?
「こんなサインじゃ味気ないと思いますし、写真撮ります?」
「いいんですか?」
「いいんです!」
もう全国にテレビ中継されてしまったんだし、写真の1枚くらい軽い軽い。先生も息子さんにプレゼントができたって嬉しそうだ。サインを書いた手帳を手渡し、写真をパシャリと撮って、私は診察室を後にした。
しかしお母さんか、少し懐かしいような寂しいような。
※ ※ ※
ちょっぴりセンチメンタルな気持ちになりつつ、まっすぐ帰ろうか寄り道しようか考える。ロビーまで戻ってきたところで、なにやら見覚えのある姿を見つけた。むむ、あのおめでたい紅白ヘアーは間違いない。
「おーい、轟くん。」
「加山か、なんでお前がここにいんだ?」
「ちょっと検査でね。轟くんは?」
「いや、俺は……」
「うーん。そうだ!ね、お茶しない?」
「は?おい……!」
轟くんの手を掴んで駆け出す。今日は喫茶店でお茶でもしよう。ここの近所にいい店があるのだ。轟くん?まぁいいからいいから
OPENの札が掲げられた扉を開け、中に入るとコーヒーのいい匂いが漂ってくる。店内はこじんまりとしてるが、静かで落ち着く雰囲気だ。顔見知りのマスターに会釈して、好きなテーブルにつく。今日はちょっと日差しが強いから奥の方にしようか。
「轟くんは何にする?ここのはなんでも美味しいよ。」
「お、おう。」
「私はー、アイスコーヒーにしようかな。」
「俺も同じやつにする。」
「OK、マスター!アイスコーヒー2つください!」
「はい、アイスコーヒー2つね。」
さて、コーヒーが出てくるまで時間もあるし、何を話そうか。あ、そういえば轟くんも反省文ちゃんと書いたのかな?
「なぁ、加山。検査受けたって言ってたが、どっか悪いのか?」
「うん?あー、それね。体育祭で無茶しすぎたから検査受けてこいって言われちゃって。」
「確かにお前といい、緑谷といい、めちゃくちゃだったもんな。」
「ぐっ……その節はご迷惑をお掛けしました。まぁ検査結果も個性の使用制限がついただけで後に残るものはないから。」
「特に問題はねぇのか、ならいい。」
「この通り、元気いっぱいです。あ、今度氷の個性の使い方、コツ教えてくれない?」
「お前は水だろ、意味ねぇんじゃねぇか?」
「そうなんだけど。私、ずっと炎の制御にかかり切りだったから水の方はまだまだ甘いと思うんだよね。だから同じ放出系の個性として参考に出来るとこないかなぁってさ。」
「なるほどな、じゃあ今度一緒に練習するか。」
「やった!」
そこで、お待たせしましたとマスターがアイスコーヒーを持ってきてくれた。会話を一旦区切ってアイスコーヒーに手を伸ばす。うーん美味しい、渋味がなくてキリッとした苦味と香りがいいよね。向かいの轟くんも結構美味しかったようで、目を見開いてる。なんなら「うめぇな」って声出てたし。可愛いね。
「ねぇ、轟くんが病院にいた理由は聞いてもいい?」
「あ、あぁ。」
コーヒーを飲んでひと心地ついたところで話題を切り出す。轟くんは体育祭で病院にかかるほど怪我をしたとは思えないし、どんな重症でも大体はリカバリーガールが治してくれる、緑谷くんみたいにね。まぁ言い淀むってことは、家族絡みのことかな。……そういえば轟くんのお母さん、入院してるって聞いたな。
「お母さんの、お見舞いに行ってたんだ。」
「やっぱり……」
「やっぱり?なんだ知ってたのか?」
「いやいや私もさすがに知らなかったよ。ただ前に話してくれた時、入院してるって聞いたし、轟くん自身が病院に行く理由も思いつかなかったから何となく。」
「そうなのか?」
「そうそう。で、どうだったお母さんとは?」
「……」
轟くんはじっと押し黙る。色々言葉を選んでるって感じだ。彼の家はとても複雑で、何か1つしたからって解決するような状態じゃない。お母さんと話す、両親のいない私には失って久しい感覚。
「正直、あまり上手くは話せなかったと思う。離れてた時間が長すぎたし、俺の存在がお母さんを苦しめると思って近づかないようにしてた。俺もお母さんのこと考えないようにしてたしな。」
「そうなんだ。お母さんはどうだった?」
「最初はびっくりしてたよ。でも昔見た俺を恐れる顔はしてなかったと思う。話してるうちに少しだけ小さかった頃に戻れた気がしたんだ。」
「そっか。」
轟くんとそのお母さんの過去。子供に煮え湯を浴びせてしまった彼女はどれほど絶望しただろうか、実の母に傷つけられた轟くんはどれほどショックだっただろうか、私には安易に推し量ることはできない。けど2人の再会は存外、穏やかなものだったようだ。ギクシャクしながらもお互いに歩み寄りたいという気持ちがあると、轟くんの話からは伝わってくる。
「これからもっとたくさん会って、たくさん話さなきゃなんねぇ。俺には清算しないといけねぇもんがまだある。」
「ね、轟くん。」
「なんだ?」
「お母さんとまた会えて良かったね。」
「お前……あぁ、そうだな。」
お前がそれを言うのかって驚いたような悲しいような顔をする轟くん。彼は私の過去を知っている、当然両親がいないことも。そう…だから言える、いや言いたい、家族を大事にして欲しいって。どれだけ拗れてしまっても、拭いきれない恨みがあっても、僅かでも大切に思う気持ちがあるなら、やはりそれは家族なのだ。
「あー!もう良い時間だね。結構話しちゃった。」
「そんなに経ったのか、早ぇな。」
「轟くん、今日は付き合ってくれてありがとう。私、こうやって友達と遊んだり、お話してみたかったんだ。」
「俺も人と出かけたことなんてなかった、ありがとな。」
「うん、楽しかった。」
「楽し、かったか?重い話すぎだろ。」
「確かに!じゃあ次は楽しい話しよ!」
お会計を済ませて喫茶店を出る。あと別れる前には連絡先を交換した。ていうか入学してから少し経つのにお互いの連絡先も知らなかったとは。いやー楽しかったと家路を辿りながら思う。あそこで轟くんと会うとは思わなかったなぁ。
※ ※ ※
家に帰り、夕飯作りながらテレビでも見ようとつける。ザッと面白そうな番組がないかチャンネルを変え続けてると、あるニュースが飛び込んできた。
「インゲニウム、重症…?」
ターボヒーロー インゲニウムは飯田くんの兄だ。クラスメイトの家族が大怪我を負ったとは内心穏やかじゃない。思えば昨日の体育祭、途中から飯田くんは帰ったらしい。お兄さんのもとへ駆けつけたというのが妥当だろうか?
下手人はヴィラン ステイン、何人ものヒーローを殺害、再起不能にしている凶悪犯だ。そんなやつに尊敬する兄を傷つけられた飯田くん。私がUSJで相澤さんのために飛び出しちゃったみたいに、無謀なことはしないといいけど……