半分少女のヒーローアカデミア
すごくギスギスする職業体験がスタートした初日、私たちはエンデヴァーに連れられ保須市へ来ている。早速パトロールでもするのかと思っていたが、それは同行したサイドキックに任せ、エンデヴァーの臨時事務所設営に駆り出された。と言っても間借りした市役所の会議室を整理しただけで、ほとんどやることはない。
ヒーローらしいことと言えば、現地ヒーローと警察との情報共有だっただろうか。出張なので、当然ながら他ヒーローの管轄にお邪魔するわけである。そのため、保須で活動することを警察に申請し、エンデヴァーが目星を付けていたエリアにあるヒーロー事務所と連携を取るという形になった。
「ちょっと意外だったね。」
「何がだ?」
「エンデヴァーってもっと高圧的なのかと思ってた。黙って俺に協力しろーみたいな。」
「それは俺も思ったな。けど考えてみりゃ当然だ。どれだけ強えつっても1人にできることは限界がある。好き勝手やれば人は離れていくし、身動きが取れなくなる。」
「確かにねー。エンデヴァーってサイドキックの人もたくさんいたし結構慕われてるのかも。」
「NO.2ヒーローだから着いてくるんじゃなくて、エンデヴァーだから着いてきてんだろうな。」
お父さんとしての印象は最悪の状態からスタートしたけど、ヒーローとしてのエンデヴァーは本当に見るべきところが多い。このまま続ければ彼がトップヒーローたる所以も分かりそうだ。
しかしさっき話してて思ったんだけど、NO.2のエンデヴァーでさえ、サイドキックを抱え、他ヒーローたちと協力して支えられている。なのにエンデヴァーが超えたいらしいオールマイトは、基本一人だしチームアップの話もほとんど聞かない。そんな人相手に力で打ち勝とうとするのは、そもそも方法が間違ってる気がするんだけど、本人は気づいてないのかな。
「ショート、アモルファス、移動だ。着いてこい。」
「わかった。」
「あ、え、はい!」
「アモルファス……そんなに緊張する必要はない。」
そうエンデヴァーに真顔で言われる。ちょっと轟くんも心配気な顔しないで。
恥ずい、考え事してる最中に話しかけられて声が裏返ってしまった。だってエンデヴァーの声怖いんだもん。
サイドキックの方が運転する車に乗りこみ、移動を開始する。あれ?どこに行くのか聞いてないな。まぁエンデヴァーが教えてくれるか。
「今日の活動だが、2人はこれで一旦終了とする。」
「もう良いのか?」
「あぁ。おそらく今日、ヒーロー殺しは出ない。一応俺も警戒にあたるが、まだ学生のお前たちを使う程じゃない。」
「ヒーロー殺しが出ないってなんで分かるんですか?」
「理由か。そうだな、事務所でも話したが、ヤツは同じ地域で犯罪を繰り返す傾向にある。しかし連日で行うことは少ない。ターゲット、襲うタイミングを決めているんだろう。」
「はぁ……」
分かるような分からないような。
私が疑問符を浮かべているとエンデヴァーがフッと少し笑う。
「アモルファス、いまいちピンと来ないか?」
「え、いやそんなことはぁ……はい。」
「謝る必要はない。そう思うのも仕方ないだろう。この結論に至るには、ヴィランの行動原理、心理状態、どのような状況で事件や事故が起きるのか、それを学び、実際に対処して得られるものだ。何度も経験を積むことで、常に考え、やがてそれは無意識にできるようになる。」
「無意識に、ですか。」
「そうだ。お前たちにはまだ早いだろうが、これができるようになれば、警戒状態の切り替えや咄嗟の判断に役立つ。」
「なるほど。」
エンデヴァーからタメになる話を聞けた。前々から疑問だったトップヒーローたちの超人じみた動きの理由はこれなのか。あの人たち対応が早すぎるんだよね。みんな予知能力でもあるのか?って思ってたけど、ちゃんと理由があって良かった。
「で、この後俺らはどうすんだ、親父。」
「エンデヴァーだ、ショート。……うちでホテルを手配した、出張中はそこで寝泊まりするといい。」
「ホテル!?ありがとうございます。」
「気にするな、指名を出した以上面倒を見るのは当たり前だ。それから荷物を置いたら戻って来い。活動は終わりとするが、お前たちがどれくらい個性を使えるか改めて見ておきたい。」
「それなら体育祭ので十分じゃねぇのか?」
「ダメだ。2人とも炎の個性を使い慣れていない。ショートは今まで炎を使ってこなかった、アモルファスも制御が甘すぎる。今後、ステインと対峙する可能性がある以上、そこを疎かにするのは許さん。」
「……わかった。」
おぉ、あの轟くんがちょっと噛み付いたけど従った。これがヒーローとしてのエンデヴァーかぁ。さっきの勘の話も説得力あったし、父親としてはダメダメだけど、ヒーローの時はめちゃくちゃまともだ。
色々と話していたら目的のホテルに着いた。このまま待っていてくれるらしいので、急いで降りてチェックインに向かう。
「わー!大きいホテルだね。私こういうのに泊まるの初めて。」
「俺もねぇな。」
「私たち今日は初めてのことばっかりだ。」
「これが親父の金で泊まるんじゃなかったらもっと良かったんだけどな。」
「そーいうこと言わないの。ほら、行くよ。」
相変わらずの轟くんの手を引いて受付に行く。ホテル側にはちゃんとエンデヴァーの名前で予約が通っていて、スムーズにチェックイン出来た。
ホテルというものに行ったことがないので比較出来ないけど、建物は大きいし内装も品があって綺麗だし、すれ違う人もお客さんからスタッフまでお高級なオーラがする、きっと一流のホテルだ。うーん、こんなところでもトップヒーローの力を見せられるとは思わなかった。
※ ※ ※
手早く荷物を置き、轟くんと合流してエントランスに戻る。すごく急げとは言われてないけど、小走りくらいはした方がいいか。先程と同じところで待ってくれていたエンデヴァーの車まで行き、乗り込む。
「戻ったな、出してくれ。」
「エンデヴァー、訓練は何処でするんですか?」
「協力体制を敷いたヒーロー事務所の中に、その手の施設を持っているところがあってな。そこを借りる。」
「そうなんですね。」
「職業体験とは関係のない事務所だが、学生のためならと貸してくれた。くれぐれも失礼な態度を取るなよ。」
「はい!」
エンデヴァーも太っ腹だけど、施設を貸してくれた事務所のヒーローも太っ腹だ。都市部であれば、エンデヴァー程じゃなくても大物ヒーローというのは何人かいる。そういうところは自前の訓練場を持っていることもあるけど、本来なら所属してるヒーローたちが使うものなので、外部の人間に貸し出すのは結構懐が広いのである。今回は事前に話があったわけじゃないしね。
訓練場を貸してくれた事務所はホテルからそう離れていなかったようで、思っていたよりすぐに着いた。これから行う訓練は炎を使うことになるけど、今後やっていくために苦手とか言ってられないのだ。ちょっと気は進まないけど、頑張ろう。
「ふむ、では始めようか。まず俺が技を放つ、お前たちはそこで見ていろ。」
私たちはエンデヴァーを横合いから見る形で立つ。どんなのを見せてくれるんだろうか。
『赫灼熱拳ッ!!!』
エンデヴァーの手元に熱が凝縮したかと思うと一筋の熱線となって放たれる。ただの火炎放射ではない密度のある炎。しかも凝縮したと言ってもそれは正しくない、私の目にはほとんど溜めの動作が見えなかった。これがプロの技か。
「すげぇな。」
「うん、すごい。」
「見ていたか?今の技を見て思ったことを言ってみろ。ショート。」
「炎の密度が高かった。散らねぇし、ブレねぇ。」
「次、アモルファス。」
「溜めがすごいなと。力を凝縮していました。」
「その通りだ、2人ともよく見えていたな。赫灼熱拳は熱を最大まで高め、一点にして放つものだ。実戦では、これの短縮と高速化が必要になる。」
ではやってみろと促され、私たちとエンデヴァーの位置を交代する。しかしいきなり言われても難しい。まずは見よう見まねでもやってみるか。
力を最大まで高めて溜める。……そして一点で放つ!!!
「はぁっ!」
一応言われたことを意識してやってみたけど、エンデヴァーが見せてくれたものには遠く及ばない。なんと言えばいいんだろう。威力はもちろんのこと、色味が全然違う、もっと明るいのだ。轟くんが放ったものも見てみたが、私と似たり寄ったりという感じ。
「やはりまだまだだな。まず2人とも溜めが遅い、力を最大まで持っていくのも凝縮するのもな。次に炎が拡散している、一点集中できていない証拠だな。」
「「……」」
「気にするな。今回の職業体験でお前たちにこれをできるようになれとは言わん。そも無理だ、個性に慣れていないからな。ただこういう力の使い方があるのだと知っておけ。」
エンデヴァーの赫灼熱拳、力の使い方。他のヒーローがどうしているかは分からないけど、同じ炎熱系個性としてはこれができて及第点なのだろう。そもそも瞬時に溜めて点で放つ、これは発動系の個性全般に通ずるものなんだ。難しいけど絶対習得しなくちゃいけない。
「しかしだ、アモルファス。」
「はい、なんでしょうか。」
「お前は力を一点で放つということに関しては僅かながらできていた。似たような応用をしたことがあるんじゃないか?」
はて?そんなことしたことあったっけ?個性を集中、集中……あー!入試でやったやつだ。ここ最近は使ってないからすっかり忘れてた。
「あります。こう、手からビームみたいに炎を出せます。」
「お前そんなこと出来たのか。」
「うん、一応。」
「ほう?やって見せてくれないか。」
「いいですけど……あんまり使うと熱が籠りすぎるんです。」
「そうか。では一瞬でいい、それで構わん。」
「分かりました。」
エンデヴァーと轟くんに見守られる中、訓練場の中央に立つ。標的があった方がわかりやすいとのことで、轟くんが大きめの氷を出してくれた。
要領は実技入試でやったのと同じ通りだ。
両手を組み、前へ突き出す。高熱を手の中で圧縮するイメージ。
それを一点で放つ!
「やぁぁぁ!」
一瞬手元がカッと光ったと思うと、氷にぶつかった衝撃音とともに濃い蒸気があがる。同時に体へ急速に熱が籠るが試験の時ほどじゃない。
「なるほど、これは悪くない。やはり溜めが長すぎるが、使いこなせば強力な一手に……どうしたアモルファス、真っ青じゃないか。」
「はぁ、はぁ……すみません、この技本当に負担が大きくて。」
「そういうことはもっと詳しく言え、これほどの負荷ならさせることは無かった。ショート、氷で冷やしてやってくれ。」
「あ、あぁ。」
轟くんが関節を中心に氷で覆ってくれた。すぐに溶けていくが、冷やされた血液が全身の温度を下げてくれるのを感じる。
私が落ち着くのを待ってくれているのか、妙な沈黙が流れる。そんな時、私を見つめていたエンデヴァーの目付きがサッと変わる。すごく驚いたという顔で、いきなり私の腕を握り、眼前まで持ち上げた。
「アモルファス、これはどういうことだ。」
「どういうって?あ、ちょ、痛いです。」
「おい親父、離せよ。痛がってんだろ。」
「す、すまない……」
エンデヴァーはあっさりと腕を離してくれ、また沈黙に戻る。しかし黙っているエンデヴァーの表情は暗い。なんだか見たくないものを見てしまったという感じがするのだが、じっと私の手に注がれる視線は私を見ているようで見ていないような……
「アモルファス、」
「はい。」
「この手の赤み、火傷だな?」
「えぇ、まぁ。」
「個性が、体に合ってないんじゃないのか?」
「そうですね。慣れてますし、我慢できるので、このくらいはなんともないですが。」
「……ッ」
どうしてエンデヴァーはこんなに苦しそうな顔をするんだろうか?私のことは雄英から共有されてるって言ってたし、知ってると思ってたんだけど。
「……加山くん、職業体験中は炎を使うのはやめなさい。そして俺はその指導も出来ない。」
「え、急にどうしたんですか?私は炎の使い方を教わりたくて受けたんですよ?」
「すまない、できないんだ。」
これは困った。何が起きたか、エンデヴァーに炎を使用禁止にされてしまった。元々これの弱点を克服したくて受けたのに、それを断られてしまっては目的が半減してしまう。というか理由を教えてくれないと納得できないんですが!!!
突然項垂れてしまったエンデヴァーを前に目を白黒させていると、彼にそっと轟くんが近づいてきた。
「親父、加山のことを兄さんと重ねてるならやめろ。」
「しかし焦凍!この体質は……」
「加山は相澤先生、イレイザーヘッドの元で何年も訓練を受けてる。そのイレイザーヘッドが個性使用を禁じてねぇんだ。最低限の制御は出来てるってことだろ。」
「だがッ」
「無理だからって遠巻きにしておんなじ間違いを繰り返す気か。炎の扱い方は親父が一番詳しいんだ。危なくねぇ使い方を教えてやれよ。」
「……」
うーむ、気まずい。この状況は私の火傷を発端として起こったけど、予期せずして轟くん家の過去をまたちょっと知ってしまった。詳細は分からないけど、私と同じように炎の個性が体質に合わない子供がいて、その子に何かあったのがエンデヴァーには強いトラウマらしい。
私からは何も言えないのでエンデヴァーが再び口を開くまで待つ。エンデヴァー、私の火傷を見つけてからめちゃくちゃキャラが崩れてるな。最初は傲慢な父親って感じで、さっきまでは威厳のあるヒーローって感じで、今は不器用な大人って感じがする。
「……加山くん、混乱させて悪いが、先の言葉は撤回しよう。」
「ありがとう、ございます?」
「職業体験中は炎の扱い方をちゃんと教える。聞きたいんだが、君はどのくらい使える?」
「そうですねぇ。まずあのビームを打ったりしなければ基本火傷はしません。普段は水と炎を合わせた水蒸気も使ってて、炎単体で使うことは少ないです。あとは炎を纏った格闘なんかもできます。」
「そうか、デメリットはあるか?」
「使いすぎると頭痛と吐き気を起こします。無理しすぎると火傷する前に気絶しちゃいます。」
私がそう言い終えると、わかったと一言いいエンデヴァーはまた黙る。けれど
さっきよりは表情が明るい。個性が合ってないと言ってもエンデヴァーが考えていたほど深刻ではなかったらしい。
「よし、うちの事務所から冷却用のサポートアイテムを貸し出そう。君の症状は個性使用後の放熱が弱いことにある。それで多少緩和できるだろう。」
「それは助かります。」
「だが、自分用に作った方が使い勝手がいい。焦凍、お前が身につけているそれは体温調節のためのものだったな。加山くんにも使えるものなら情報共有しておけ。」
「そのつもりだ。」
「エンデヴァー、何から何までありがとうございます。轟くんも。」
「気にすることねぇよ。」
なんか親子揃って私に至れり尽くせりで恐縮しちゃうな。でも私の体に熱が籠りやすいっていうのは目下の課題だったし、貰えるものはありがたく受け取らせてもらおう。
それからは私が疲れきってたということもあって、訓練を切り上げることになった。明日から本格的に活動するので、さっさとホテルで休めとのことです。
しかし轟くんの言ってた兄さんって誰なんだろう。前に聞いたときは健在だって言ってたしなぁ。
※ ※ ※
ホテルまで送り届けてもらい、そのまま今日は解散となった。エンデヴァーが常備している火傷用の塗り薬を持たせてくれたのはありがたかった。万が一の時に備えてこういうのを用意しておくのもヒーローとのこと。
泊まっている階につき、部屋に入ろうとした時、さっきの疑問を聞いてみたいとふと思った。隣部屋で、同じく部屋に入ろうとしていた轟くんへ、声を掛ける。
「ねぇ、轟くん。お父さんに言ってた兄さんって誰?」
「……やっぱり気になっちまうか。」
「うん。」
「もう1人、兄がいたんだ。でも死んじまった。」
「そう、なんだ。」
「加山と似て、炎の個性が体に合ってない人だった。けどそれを無理に鍛えようとして……ある日、焼け死んだ。」
「焼け死んだ?」
轟くん家にまだ私の知らないことがあるというのはわかってたけど、家族が亡くなってたのか。おそらく合わない個性が暴走したことによる事故死。きっとその人は火傷を負いながらも訓練を続けてたんだ。エンデヴァーが私の火傷を見て焦ったのもそれが原因なんだろうな。
「だからエンデヴァーは私を指導出来ないって言ったんだ。」
「多分な。けど加山は大丈夫だろ。」
「まぁね。」
「仮に何かあっても、俺がいるなら守ってやれるしな。」
「守るって……よくそんなこと言えるね。」
「…?なんも変なこと言ってねぇだろ。」
その顔でそのセリフはずるい……いや、轟くんは私が炎で焼かれそうになっても自分の氷結があるから大丈夫って話をしてるんだろうけどさ。結構な不意打ちを食らって、私はしどろもどろになってるけど、張本人は無自覚で不思議そうに首を傾げてる。
これが異性ってやつか。初めていしきさせられたかもしれない。
あーあー顔、熱いなー