半分少女のヒーローアカデミア   作:Akafuku2000

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1万文字近く書いちゃった。ヒーロー殺し戦です。ステインはヴィランですけど、好きなんですよね。純粋に強くてかっこいいというのもありますが、思想は過激でこそあれ、ヒーロー社会の歪さに気づき、ずっと警鐘を鳴らしていたというところが。誰もが盲目にヒーローを信奉する世界で、凄く大事な視点だなって思います。


半分少女と職場体験3

半分少女のヒーローアカデミア

 

ドキドキワクワクの職場体験は今日で3日目!今日も今日とて私はステイン探して街を歩いています。保須市は現在、平和そのものです。

 

そう今日で3日目、この日に至るまでなーーーーーーんにも起きていない。一応小規模な事件はチラホラあるらしいんだけど、それも他のヒーローがあっさり解決しちゃうので、担当してるエリアは特になにもなし。ヒーロー殺し出現で犯罪発生率が下がっているというのは本当だった。

 

まぁ平和ならそれでいいんですけどね。ヒーローが暇してることが1番いいのだ。

 

今日も1日街中を回って終わりかなぁと思っていたとき、事は起きた。

 

「爆発!?」

 

何本向こうの通りで爆音が響き、地面が微かに揺れる。音の先を見れば日が暮れたばかりの夜空を赤々と炎が照らしている。事件だ、けどステインが現れたにしては派手すぎる。ステインが標的にするのは単独かつ人目につかないところにいたヒーローだ。人知れず事を成す暗殺者が、こんなに堂々と事件を起こすだろうか?

 

「ショート、アモルファス!事件だ、ヒーローというものを見せてやる。」

 

しかし事件は事件だ。エンデヴァーはもう走り出してる。ステインでなくとも対処しなくちゃいけな、い?

 

懐に入れたスマホが振動するのを感じる。A組は仲がいいのでよくスマホでやり取りするけど、今このタイミングで通知が来たことに、妙な焦燥感を覚える。

 

緑谷くんから?しかも位置情報だけ。

 

「お前たち!なに携帯を見ている!」

 

見れば轟くんもスマホ見ている。多分同じ連絡が来たんだ。何となく視線が合い、頷き合う。これあとからめちゃくちゃ怒られるやつだな。

 

「おい!どこへ行く!!!」

「江向通り4の2の10の細道、そっちが済むか手の空いたヒーローがいたら応援寄越してくれ。」

「友達からのSOSです!では!!!」

「ではじゃない!待て、ショートォ!アモルファス!」

 

エンデヴァー怒ってるよー!本当に後でならお説教でも反省文でもゲンコツでも食らいますから。ごめんなさい!!!

 

「轟くん、この連絡何だと思う?」

「あの緑谷だ、意味のねぇことはしねぇだろ。保須の住所、潜んでるステイン、ほぼ間違いなくヤツと会敵してる。」

「だよね!しかも位置情報だけなんてアバウトすぎる情報しか送れなかったのは、それだけ余裕がないってこと!」

「だろうな、急ぐぞ!」

 

お互いに走る速度を上げる。友達のピンチだ、悠長なことはしてられない。大事な人が見てないところで傷つけられるなんて真っ平ごめんだ。

 

全く土地勘のないところだったけど、街中を巡回してて良かった。緑谷くんのくれた住所のあたりは通ったことがある。

 

入り組んだ路地裏を駆け抜ける。もう少しでたどり着くというところで声が聞こえてきた。

 

『やめろおおおおお!』

 

この声は緑谷くん!?緑谷くんがやられかかってる?違う、別の人が目の前で殺されそうになってるんだ。ヤバいヤバいヤバい!間に合って!!!

 

「加山、あの小道だ。当たらなくていい、牽制のつもりでぶっぱなせ!」

「分かってる!」

「行くぞ!!!」

 

右手に熱を溜める。

 

曲がった瞬間、奥に目掛けて放つ!!!

 

ゴオッと2つの炎が狭い路地裏を貫く。地面に倒れ伏す誰かに凶器を突き立てようとしていた影が大きく飛び退いたのが見えた。

 

「次から次へと……今日は邪魔がよく入る。」

 

あの顔立ち、あの格好、ヒーロー殺しステインだ。

 

「緑谷、こういうのはもっと詳しく書くべきだ。」

「そうそう、遅くなっちゃったじゃん。」

 

ふっ、決まった。決めてる場合じゃないけどね。

 

「轟くん!?加山くんまで!!!」

 

ステインにやられていたのは3人、知らないヒーローの方、緑谷くんと飯田くん。怪我はしているが、誰も致命傷じゃない。ひとまず良かった。

 

「まずは2人を俺たちの後ろに逃がす。俺が牽制する、回収は頼んだぞ。」

「任せなさい!」

 

轟くんの氷結を合図に飛び出す。水蒸気爆発で飛び出した勢いのまま、氷に飛び乗るとその上を滑る。ステイン側に残っていたヒーローと緑谷くんを抱え、もう一度爆発させ退避すれば任務完了。

 

「こいつらは殺させねぇぞ、ヒーロー殺し。」

 

轟くんの隣に立ち、ステインを見る。ヒーローが駆けつけるまで数分といったところだろうか。それまで2人で耐えるしかない。

 

正直、かなり怖い。轟くんは頼もしいけど、私たちって仮免もないひよっこ以下なのだ。それであのヒーロー殺しを相手にするのは無謀もいいところ。でもやらなくちゃいけない。私たちがやらなきゃ、緑谷くんたちが死ぬんだ。

 

「2人とも!血見せちゃダメだ。おそらく血の経口摂取で相手の自由を奪える。それにみんなやられた!」

 

なるほど。それで刃物を使った戦闘スタイルなのか。轟くんも私も中遠距離は得意な方だ。近づけなければ……

 

……投げナイフ!?

 

流れるような動作で抜き打たれたナイフが、轟くんの頬と私の左腕を掠める。油断した、これ見よがしに持っていた刀に気を取られた。

 

「良い友人を持ったなインゲニウム!」

 

轟くんがナイフで斬りかかって来たステインを氷結ですんでのところで止める。その瞬間、ステインがチラリと上を見る。そこには宙へ投げられた刀、ナイフはブラフで刀が本命、と思ったのがいけなかった。傷のついた彼の頬へステインの舌が伸びる、血を舐めとるための全てが囮だった。

 

「っぶねぇ!」

 

傷が左側だったのが幸いし、轟くんは炎で迎撃できた。彼が咄嗟に個性を使ってくれて良かった。あの時、私がステインにつられてなければ攻撃できたのに。

 

でも今のでいい手を思いついた。負担が大きいけど、これならステインの個性を防げるはず。

 

「轟くん、私が前に出る。」

「やめとけ。不用意に近づくのは不味い。」

「大丈夫、纏うから。」

「……無理すんなよ。」

「善処します!」

 

轟くんが牽制の氷結を放ち、時間を作る。ステインにはそんなこと分からないので、律儀に破壊し回避してくれる。

 

集中……全身へ均等に熱を行き渡らせるイメージ

 

冷却用のサポートアイテムも借りてる今なら。

 

行けるッ!!!

 

「近づくか。」

「ふんっ!」

 

体中へ火を灯す。足元で炸裂させた水蒸気と共に近接戦闘へと持ち込む。待ってましたとばかりに切りつけてくるが気にしない。切られた側から傷口を燃やし、刃に付着した血液も焼き切る。

 

「ほぉ、切られても血を焼いてしまえば、舐めとる事ができないという算段か。」

「そういう!こと!!!」

 

私の狙い通り、ステインに血を摂取されることを封じれた。けどコイツ、それを抜きにしても戦闘能力が高すぎる!轟くんが後ろからステインの動きを制限し、退路を塞ぎ追い込んでるのに、刀の一振で氷は粉々になるし軽々と飛んで避けられてしまう。本当に素の身体能力?化け物だ。

 

私の近接攻撃も相澤さん仕込みだし、蒸気による加速まで入れてるのに、全っ然!当たらない。自信なくすから掠りでもしてくれないかな!?

 

「なぜだ!3人とも、やめてくれよ……!」

 

後ろから声がする。見えないけど飯田くんの声だ。

 

「兄さんの名を継いだんだ!僕がやらなきゃ、そいつは僕がッ!」

 

その言葉で確信する。やっぱり飯田くんはステインに復讐するために保須へ来たんだ。ヤツは憧れのインゲニウムを踏みにじったんだから。大切な人を傷つけられる痛みは分かる。私もUSJで相澤さんがやられた時、頭が真っ白になってしまった。でも私がその時間違えなかったのは爆豪と切島くんがいたからだ。もし1人だったらきっと飯田くんと同じことをしてた。

 

あの時無理やりにでも飯田くんのことへ踏み込んでいれば、彼を1人にして暴走させることもなかったかもしれない。……悔しいな。

 

「継いだのか。おかしいな、俺の知ってるインゲニウムはそんな顔してなかったけどな。……お前ん家も裏じゃ色々あるんだな。」

 

轟くん良いこと言うって思ったけど、後半のは違う気がする。飯田くんはインゲニウムを継いだと言ってた。多分背負わされたんじゃなくて、自分で背負ったんだ。けどそこに過剰な使命感と復讐心を乗せてしまったんじゃないかな。

 

しかし本当にステインは強い。2人がかりでやってるのにろくに攻撃が当たらない。一度インターバルを挟みに前衛を交代したいけど、この状態でなんとかステインを凌いでる。隙を作らせようにも上手くいかない。

 

「加山!そのまま後ろに大きく跳べ!!!」

「了っ解!」

 

言われるがままに跳躍する。見れば氷結がステインと私たちの間に立ち塞がっている。無理やりにだけど、轟くんが時間を作ってくれた。

 

轟くんの近くに降り立つと、すかさずデカめの氷塊を投げ渡される。

 

「お前、もうキャパ近いだろ。俺の氷使って冷やしとけ。」

「ごめん!ありがとう。」

「気にすんな。今、加山に倒れられる方が困る。」

 

受け取った氷を頚部に当て、体温を下げる。大きかった氷塊がどんどん溶けていくのを見るに相当体温上がってた。エンデヴァーに貸してもらったサポートアイテムなかったらやばかったな。

 

もう一度さっきのを発動できるくらいにはしたいけど、さすがにステインは待ってくれない。分厚い氷壁を切り裂いて、ヤツが向こうから現れる。

 

「仲間を退らせるための妨害か。だがそれで視界を塞いでしまうのは下策だな。」

「そりゃどうかな。」

 

カウンターの炎熱攻撃、向こうだってこちらが見えてないんだ、当たらなくてもまた回避するはず。

 

そう思った時、足に冷たい感触。同時にそこが炎とは違う熱を持った感覚があった。

 

「また投げナイフ……!」

「不味い、上だ!!!」

「このッ!」

 

動かそうとした足に激痛が走り、硬直してしまった。轟くんも左腕にナイフを刺されて、咄嗟に動けてない。ステインは既に狙いを定めてる。誰だ?あぁ!クソッ、せっかく間に合ったのに!!!

 

ステイン以外に動く者がいない中、唐突に現れた緑色の閃光がヤツを攫う。

 

「緑谷ッ!」

「うっそ、今の緑谷くん!?」

「なんか普通に動けるようになった!」

「「時間制限……!」」

 

……ハモった。

 

ステインの相手の血を摂取することで自由を奪う個性。けど考えてみれば当然だ、効果がずっとつづくなんて、そんな都合のいいことはない。どこかで切れ目がある。

 

「いやおかしい。あの子は最後にやられたんだ。最初にやられた俺は動けねぇ。」

「そうなんですか?じゃあ、単純な時間経過じゃないな。」

 

プロヒーローの人から聞いた通りなら、ステインの個性にはまだカラクリがある。

 

ステインに掴みかかっていた緑谷くんが振り払われ落ちる。そこへ轟くんの氷結が入り、緑谷くんがなんとかこちら側に退避してくる。私、轟くんに働かせてばっかりだな。

 

「血を取り込んで自由を奪う。僕が先に解けたってことは理由は3つ考えられる。人数が多くなると効果が薄まるか、血の摂取量か、血液型によって効果に差が出るか。」

 

その言葉にプロヒーローがB、飯田くんがAと答えた。

 

緑谷くんの考察が聞こえたらしいステインの動きが止まる。

 

「血液型、ハァ……正解だ。」

 

ステインは余裕の笑みを崩さない。今まで隠してきた個性の効果を暴かれても、焦り1つ見せない。確かにバレても痛くも痒くもない力だし、具体的に血液型でどのくらい差が出るかは結局分からず終いだ。

 

「個性がわかったところでどうにもなんないけど……」

「さっさと2人担いで撤退してぇとこだが。加山、頼めねぇか?」

「……無理、さっき右足やられた。」

「そうか。なら俺と緑谷で抑える。もう加山を軸にした近接戦はできねぇ。プロが来るまで粘るぞ。」

「うん。でも轟くんも血を流しすぎてる、加山さんと2人で後方支援を。僕がヤツの気を引きつける。」

「相当危ねぇ橋だが……」

「3人で守ろう!」

 

ヒーロー殺しと対峙する。前衛に出られるのが緑谷くんしかいない以上、彼をどれだけ動きやすくするかにかかっているけど……やれるだろうか。

 

「3対1か、甘くはないな。」

 

緑谷くんが動き出したのを皮切りに、戦闘が再開する。ビルの壁と壁を飛び回る。超人じみた動きだ、体育祭までの緑谷くんとは全然違う。今日までの職場体験で何か重要なことを掴んだらしい。

 

しかしそれでもステインは捉えきれない、むしろギアを上げてきてる。私が相手してた時よりも格段に速い。私たちも全力で対応するが、ことごとくを避けられ、ついに緑谷くんが切りつけられてしまった。

 

「緑谷くん!」

 

水流を放って、緑谷くんに追い打ちをかけようとするステインを引き剥がす。切りつけた刀に少しでも水がかかれば、きっと個性を封じられるんだけど、向こうもそれは承知の上だ。難なく避けられる。

 

ステインの個性が発動し、緑谷くんが無力化される。……さぁ、いよいよジリ貧だぞ。前衛を欠いた今、浅くない傷を負った私たちで捌ききれるか。

 

「やめてくれ……もう、僕は……」

「やめて欲しけりゃ立て!成りてぇもんちゃんと見ろッ!!!」

 

轟くんが怒ったとき以外でこんなに声を張り上げるのは、ほとんど見たことない。飯田くんを叱咤して、立ち上がらせようとしているんだ。成りたいものを見る、同じく復讐で道に迷ってしまった者として分かることがあるんだろう。

 

私も飯田くんにもう一度立って欲しい。

 

君も一緒にヒーローを目指したい人なんだから。

 

飯田くんは必ず立つ、それまで耐えるんだ。

 

「行けっ!」

 

ステインに向かって水弾を放つ。上と左右、できるだけ回避の選択肢を狭められるように。それでもアイツはすり抜けてくる。けどそれでいい、誘導された回避先に轟くんの氷結と炎が連続で襲いかかる。

 

「この野郎……!」

「んで、避けられんだ。今のを!」

 

危なげなく回避を続けるステインが、高速でこちらへと迫ってくる。

 

「氷と炎。そう氷を使ってくるお前、言われたことは無いか?個性にかまけ挙動が……」

 

次の動きを読もうと必死に目で追っていたはずのステインが、一瞬視界から消える。

 

「大雑把だとッ!!!」

 

ヤツの刀が轟くんを袈裟斬りにせんと鈍く光っている。

 

「ダメッッ!!!」

「加山!?」

「加山さん!」

 

気づいた時には轟くんを突き飛ばしていた。

 

何やってんだ私、個性使うなり何なりして、轟くんを逃がせたのに。馬鹿みたいに飛び出して。……あー、迫ってくる刀が嫌にスローだ、USJを思い出す。あの時はオールマイトが守ってくれたけど、ここに彼はいない。

 

……ダメかな。

 

「レシプロォォ!バースト!!!」

 

聞きなれた高音が響き、それがあともう少しで私を切り裂こうとしていた刀を蹴り砕いた。間髪入れぬ2発目の蹴りが、ステインを大きく弾き飛ばす。

 

「飯田くん!」

「個性解けたか!」

「……ぷはぁ!あ、ありがとう飯田くん。」

 

助かったぁ……完全に終わったと思って呼吸忘れてた。

 

「轟くんも緑谷くんも加山くんも、関係ないことで申し訳ない。」

「……そんなこと言わないでよ。」

「飯田くん、また……」

「だから!これ以上、君たちに血を流させる訳にはいかないんだ。」

 

飯田くんの表情は暗い。とても立ち直ったとは思えない苦しげな顔だ。それでも言葉は力強い、芯がある。彼は立ち上がってくれたのだ。

 

「感化されたか?取り繕ってもムダだ、人の本質はそう簡単に変わらない。お前は私欲を優先させる贋物にしかならない。」

 

そんな飯田くんをヒーロー殺しは真っ向から否定する。血走った目で彼を鋭く睨みつける。

 

「ヒーローを歪ませる社会のガンだ。誰かが正さなければならないんだ!」

「時代錯誤にも程がある。飯田、殺人鬼の理屈に耳を貸すな。」

「飯田くんはそんな風にはならない。彼を見くびるな。」

 

しかし飯田くんはステインの言葉を「ヤツの言う通りだ」と肯定した。

 

「僕にヒーローを名乗る資格は、無い。それでも折れる訳にはいかないんだ。俺が折れれば、インゲニウムは死んでしまうッ!」

「論外。」

 

ステインの瞳が妖しく光り、突進してくる。轟くんと2人で応戦するが、今の速さに反応できたのはほぼ奇跡だ。

 

アイツも本気だ。私たちに邪魔され、他のプロがやってくるまで時間もない中、標的にした飯田くんたちを何としても殺そうとしている。

 

「ヒーロー殺しの狙いは俺と白アーマーだろ!応戦しないで逃げろよ!」

「そんな隙、与えてくれないんですよ!」

「全員手負いの今、下手に背を向けたらそのまま斬り殺されます。」

 

個性で距離を取って戦うのはもうできない。本気を出される前からボロボロだったんだから通用しないだろう。もう一回、私が前に出るしかない。

 

「轟くん、君の氷で俺の足を覆うことはできるか?」

「できる。」

 

その会話に気を取られた瞬間、轟くん目掛けてステインからナイフが飛んでくる。飯田くんがギリギリで庇ったけど、さっき言ってたことをするなら轟くんをフリーにしなきゃいけない。

 

なら、やはり

 

「轟くん、私がまた前衛をやる。」

「その足じゃ無理だ!」

「もうこれで時間稼ぐしかないよ!」

 

炎を纏い、ステインへ突進する。轟くんたちの邪魔はさせない!

 

「執拗い!」

「くぅッ!」

 

左足もやられた!でもいい、10数秒稼げば。緑谷くんの声が聞こえたから、もう復活してくる。飯田くんのエンジンもその間に冷却が終わる。

 

ドクドクと血が流れる傷口を焼いて止血する。一瞬で加速しきれるよう足に力を溜める。こちらから動いたら読まれる、アイツが宙に浮いた瞬間を狙う!

 

「なめんなあああ!」

「速い!」

 

浅かった!渾身の加速で放った拳は入りはしたけど、ガードされてしまった。

 

けど私の役目はもう終わりだ!

 

真下からエンジンの回転音が聞こえる。

 

横から迫ってくる緑の閃光が見える。

 

「行けッ!!!」

 

私を2つの光が追い抜いて、ヤツへその一撃を振るう。

 

ヒーロー殺しに、拳と脚が突き刺さるのが見えた。

 

「お前を倒そう!今度は犯罪者として!ヒーローとして!」

「畳み掛けろ!」

 

飯田くんの2度目の蹴りと轟くんの炎がヒーロー殺しを襲う。それを食らい、緑谷くんたちにやられても反撃してきたヤツは。

 

ついに沈黙した。

 

 

※ ※ ※

 

ステインへの一撃で完全に出し切ってしまった緑谷くんと飯田くん、そして私は自由落下しているところを、轟くんの氷結にキャッチされ軟着陸。そのまま滑って頭ぶつけたけど、地面に叩きつけられるよりはマシだ。

 

「お前ら立て!まだ、やつは……ん?」

「気絶してる。さっき落ちてた時、ステインが気を失う瞬間見てたから。」

「確かに気絶してる……っぽいね。」

「なら早く拘束して大通りに出よう。」

「一緒に武器も外さなきゃ。」

 

ステインが間違いなく気絶しているのを確認したあと、武装解除し拘束する。たまたま近くのゴミ箱に手頃なロープがあって助かった。動けるようになったプロヒーロー(ネイティブさんというらしい)にも手伝ってもらって、とりあえずそう簡単には逃げられないようにできた。

 

「で、移動だがどうする?緑谷と加山は足をやっちまってる。歩くの辛いだろ。」

「じゃあ、緑谷くんは俺が背負うよ。」

「あ、ありがとうございます。」

「いいって、これくらいさせてくれ。」

 

ふむ、緑谷くんはネイティブさんと。轟くんはステイン運ばないといけないし、飯田くんは腕怪我してるよなぁ。別に私は歩けるけども。

 

「では加山くんは俺が背負おう。」

「でも飯田くん、腕ぐちゃぐちゃでしょ?」

「心配ない!ヒーロー殺しを運ぶのは難しいかもしれないが、加山くんなら大丈夫だ。」

「……ならお言葉に甘えて。」

「あぁ、遠慮なく掴まってくれ。」

 

私が飯田くんに背負われるのを待って、私たちは移動を開始した。全員疲労困憊かつ死ぬギリギリの戦いのあとなので、特に喋ることなく進む。けど、大通りまでそろそろという時に、ネイティブさんが口を開いた。

 

「すまなかったな。プロヒーローの俺が足でまといだった。」

「1対1でヒーロー殺しの個性だと、仕方ないことかと。」

「完全な初見殺しだもんね。」

「4対1かつステイン自身のミスがあってギリギリ勝てた。たぶん緑谷のこと頭から抜けてたんだと思う。飯田のレシプロは見えてたが、緑谷の攻撃に対応がなかった。」

 

なるほど……ステインも緑谷くんが硬直から抜け出したのは予想外に見えた。本来なら襲う相手の血液型まで調べて、時間制限も入れて計画してたんだろう。けど個性に耐性のある緑谷くんの乱入で、その計画が崩れた。彼がいなかったら危なかったな。

 

危ない橋どころか綱渡りだったんだなとしみじみ思っていると、私たちに声をかけてくる老人がいた。

 

「な、なぜお前がここに!?」

「あ、グラントリ、のぁ!」

「新幹線で座ってろつったろ!」

 

一瞬で目の前に来たかと思うと、緑谷くんに蹴りを入れてプンスカしてるおじいちゃん。グラントリノというヒーローで、緑谷くんの職場体験を担当してた方らしい。私たちがいたところまで行ってくれと要請を受けて来てくれたとのこと。

 

「この辺りだ。」

「エンデヴァーさんから応援要請を受けてきたんだが……」

「子供!?」

「酷い怪我だ。すぐ救急車を呼ぶからな!」

「おい、こいつヒーロー殺しじゃねぇか?」

「何!?」

 

グラントリノさんに少し遅れて、別のヒーローたちがぞろぞろとやってくる。状況が状況なだけにてんやわんやになるが、速やかに警察と消防へ連絡を取ってくれた。

 

駆けつけたヒーローが私たちの怪我を心配して、あれこれ世話を焼いてくれる中、「3人とも」と飯田くんが話し始める。

 

「僕のせいで傷を負わせてしまった。本当にすまなかった!怒りで何も、見えなくなっていた……」

 

深々と頭を下げ、涙声でそう語る飯田くん。けど謝るのならこっちだってそうなんだ。

 

「僕もごめん。君があんなに思い詰めていたのに、全然分かってなかったんだ。……友達なのに。」

「私もそう、飯田くんが怒りで胸がいっぱいなんだろうって察してたのに、何もしてあげられなかった。ごめんね。」

「しっかりしろよ、委員長だろ。」

「……うん!」

 

飯田くんは強く返事をして、私たちに見えないように顔を拭った。みんなの前で涙を見せるのはちょっと恥ずかしいもんね。

 

命の危険もあったステインとの戦闘、なんとか勝ちを拾えた辛勝だった。でも怪我こそしたけど、誰も欠けることは無かったしよかった。

 

そう気が緩んでいた時、ふわりと体が宙に浮いた。

 

「え?」

「ちょっ!」

 

隣には緑谷くんが捕まってる。私たちを掴んでいるコイツ、この異形の姿は

 

……脳無だ!

 

「緑谷くん!」

「加山!」

 

なんで脳無なんかが、こんなところにいるんだと考えているうちに、地面からはどんどん離れていく。

 

どうする?早く逃げないと何されるかわかったもんじゃない。USJの脳無と同じなら簡単に潰されてお陀仏だ。

 

あまりに唐突なことでパニックになっていると、空を飛んでいた脳無がガクりと力を失い、そのまま地面へと落ちて行く。

 

「な!」

「贋物が蔓延るこの社会も!悪戯に力を振るう犯罪者も!……粛清対象だ。」

 

ヒーロー殺し!?完全に気絶してたのに!どうやって拘束を解いたんだ。そもそもなんでコイツが脳無を襲う!?分からないことばかりで頭がいっぱいになる。

 

「全ては……正しき社会のために!」

 

脳無を殺し、ステインが幽鬼のごとく立ち上がる。その常軌を逸した姿に目が吸い寄せられる。

 

「あれはヒーロー殺しか!?」

「待て!轟。」

 

聞き覚えのある声がする。あの声はエンデヴァーだ。おそらくこの脳無を追って来たんだろうけど。

 

「エンデヴァー……贋物ォ!」

 

そう言って動き出しヒーロー殺しに体が震える。そして顔を隠していた包帯が落ち、露わになった素顔に愕然とした。たった今まで震えていた体が嘘のように動かなくなる。

 

ステインの素顔は一言で言うなら「壮絶」、飛び出さんばかりに見開かれた目にはギラギラと思想が燃えている。

 

「正さねば……誰かが血に染まらねば……」

 

誰も動く気配がない。あのエンデヴァーでさえ、気圧されて動けない。

 

「ヒーローを取り戻さねば……来い!来てみろ贋物共ォ!」

 

これだけのヒーローがいて、この場を支配しているのはヒーロー殺しただ1人。

 

「俺を殺していいのは……本物のヒーロー、オールマイトだけだあああ!」

 

凄まじい迫力、おぞましい殺気。このまま再びステインが暴れ出すのかと恐怖する。けれど、

 

金属が地面に落ちる甲高い音で、現実に引き戻される。

 

 

 

ヒーロー殺しステインは、立ったまま気絶していた。

 

 

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