半分少女のヒーローアカデミア   作:Akafuku2000

25 / 108
これにて職場体験編は終わりです。色々書こうとしたら1万2千字くらいになってしまいました。よろしくお願いします。


半分少女と職場体験4

半分少女のヒーローアカデミア

 

ヒーロー殺し出現と脳無の事件があってから翌日、私たち4人は保須市の大病院に入院していた。全員命に別状はなかったが、重症は重症なので治療と検査入院という形である。今は同じ病室に集まっている。男女別で分けられて私は一人ぼっちでつまらなかったので、緑谷くんたちの病室にお邪魔してる。

 

病院にいるのっていい思い出じゃないしね。

 

「寝られたか?お前ら。」

「私は少しだけ。」

「僕はあんまりかな。」

「だよな。俺もだ。」

 

ステインとの一戦、下手したら死人が出てもおかしくなかった。それを思うと頭が冴えてしまって中々寝付けなかった。体は疲れきってるのに、起きた出来事を延々と考えてた。

 

「冷静になると、すごいことしちゃったね。」

「そうだな。」

「あんな最後を見せられたら、生きてるのが奇跡だって思っちゃうね。……僕の足、多分殺そうと思えば、殺せてたと思う。」

 

緑谷くんが切られた足を撫でながら言う。それを聞いて私も自分の傷を見た。両足にナイフを刺され、全身は切り傷だらけ。しかもそれを焼いて無理やり止血してた。手当てしてくれた医者にはめちゃくちゃ怒られた。

 

体中、包帯とガーゼまみれだけど、致命傷になりかけたのは轟くんを庇おうとしたあの時だけだ。私は何回もステインに有利な間合いで戦ってたのに、深手はほとんど負わされなかった。

 

「確かにな。俺らはあからさまに生かされた。」

「手加減されてたよね。」

「飯田はあんだけ殺意向けられて、なお立ち向かったのはすげぇよ。」

「いや違うさ、俺は……」

「おお、起きてたか怪我人ども!」

 

飯田くんの言葉を遮って病室に入ってきたのは、グラントリノさんと見知らぬプロヒーロー。飯田くんが「マニュアルさん」と言ってたので、彼の職場体験先だろうか。

 

「グ、グラントリノ!」

「小僧、お前にはすごくグチグチ言いたい!」

「す、すみません!」

「……が、その前に。来客だぜ。」

 

グラントリノの言葉と共に、もう1人病室へ入ってくる。黒いスーツを着込んだとても大柄な人だ。

 

「保須警察署署長、面構犬嗣さんだ。」

 

……犬じゃん。

 

めちゃくちゃ顔が犬な方だった。警察署署長ってことは警察なわけで、これって犬のおまわりさんってこと?????

 

と、とにかくそんな偉い人が目の前にいる。座っているのは失礼だろうと立ち上がろうして、

 

「あぁ、掛けたままで結構だワン。」

「〜〜〜!」

 

ワ、ワン?絶対真面目な話をしに来たのに、ダメだ笑っちゃいそう。落ち着け、いくら顔が犬で語尾がワンでも、人を見た目で笑うのは失礼だ。表情筋と腹筋に力を入れろ!大丈夫、私なら耐えられる。

 

私が心の中で必死に至極無駄な頑張りをしている間に、面構さんは淡々と話を進める。

 

「君たちがヒーロー殺しを倒した雄英生だワンね?」

「はい。」

「逮捕したヒーロー殺しだが、骨折に火傷と中々に重症で、厳戒態勢のもと現在治療中だワン。」

 

ふう……よし、落ち着いた。しかしヒーロー殺しがそんなに重症だったとは、まぁ緑谷くんたちのあの一撃を食らってるんだから当然か。というより、その状態であの大立ち回りをしたのか、執念とは恐ろしいね。

 

……にしても警察署のお偉いさんが何の用だろう?

 

「雄英生なら分かっていると思うが、超常黎明期において警察は統率と規格を重要視し、個性を武に用いないことにした。そしてヒーローはその穴を埋める形で台頭してきた職業だワン。」

 

現代史の一般常識だ。超常黎明期、警察機構がどのように変化し、ヒーローがどうやって生まれたのか、その歴史は義務教育で習う。当然、雄英でもより詳しい内容で授業が組まれてる。

 

「個人の武力行使、人を容易に殺められる力。本来、糾弾されて然るべきこれらが公に認められているのは、先人たちがモラルやルールをしっかり遵守してきたからなんだワン。」

 

これも一般常識。ヒーローが誕生し、職業として成立したのは、法整備される前から活動してきた人達が社会で認められて来たからだ。

 

なんか話の流れが読めてきたな……

 

「資格未取得者が保護管理者の指示なく、個性で危害を加えたこと。例え相手がヒーロー殺しであっても、これは立派な規則違反だワン。」

「……」

「君たち4人及び、プロヒーローのエンデヴァー、マニュアル、グラントリノ、この7名には厳正な処分が下されなければならない。」

 

やっぱりそういう事か。私たちのした事は紛れもない規則違反、重く捉えられれば犯罪だ。それを取り締まる警察に何を言われても文句は言えない。

 

 

 

……でも、それでも納得できない。規則に従ってたら友達を見捨てることになってたんだから。

 

「待ってくださいよ。飯田が動いてなきゃネイティブさんが殺されてた。緑谷が来なければ2人は殺されてた!」

「そうです。あの時、ほとんどのヒーローは脳無出現に手を取られてて、誰もヒーロー殺しに気づいてなかったんですよ!規則のために見殺しにするべきだったとでも言うんですか!?」

 

面構さんの目はどこまでも冷たい。

 

「結果オーライであれば、規則は有耶無耶でよいと?」

「なっ!」

「……人を、救けるのがヒーローの仕事だろッ!」

 

正論、正論だけども!ヒーロー資格のない人が自由に個性を使って犯罪者と戦い始めたら収拾がつかない。上手くいけばいいけど、きっと失敗して被害を広げる可能性の方が高い。けどそれを守ってたら人が死んでたって言ってるのに!

 

「だから君たちは卵だ。全くいい教育をしてるワンねぇ、雄英もエンデヴァーも。」

「お前ッ!」

「この、犬!!!」

「やめたまえ!最もな話だ。」

 

カチンと来たぞ。私たちの行動は確かに悪かった、面構さんが私たちを非難するのも当然だ。

 

……でも雄英を悪くいうのは許さない。恩師のいる、大恩のある雄英に非があるなんて言わせない。

 

決めた。轟くん、一緒にこの犬シバキ上げてお手でもさせてやろう。

 

「まぁ待て。」

「退いてください、グラントリノさん。」

「はぁ、若いのは血気盛んで困る。話は最後まで聞け。」

「……分かりました。」

 

グラントリノさんに止められて、渋々引き下がる。話には続きがあるらしい。まだ私はムカムカしてるぞ。

 

「以上が警察としての公式見解。……で、処分云々はあくまで公表すればの話、公表すれば世間は君らを褒め讃えるだろうが、処罰は免れない。一方で汚い話、公表しない場合、ヒーロー殺しの火傷痕からエンデヴァーを功労者として擁立してしまえるワン。」

 

まぁ、それはやろうと思えばできるだろうけど。

 

「幸い、目撃者は極小数だ。この違反はここで握りつぶせるんだワン。だが君たちの英断と功績も誰にも知られることは無い。……どっちがいい?1人の人間としては、前途ある若者の偉大なる過ちにケチをつけたくないんだワン。」

 

面構さんがそう言ってサムズアップする。そこで私は思い至った。私たちのした事とエンデヴァーをすり替えて、規則違反はなかったことにできるぞと言ってくれてるわけだ。怒りが急速に萎んでいくのを感じる。

 

アホか私は……この人、最初っから私たちを罰する気なんてなかったんだ。勝手に勘違いしてキレて、恥ずかしい。

 

「まぁ俺たちは監督不行届で責任取らないとだしな……」

「申し訳ございませんでした!」

「よし、他人に迷惑かかるんだ。分かったら二度とするなよ。」

「はい!」

 

面構さんを始め、マニュアルさんとグラントリノさんも、優しい大人たちは私たちの失敗を庇ってくれようとしてる。なら感謝を伝えて、謝らないと。

 

「早とちりしてすみませんでした。お願いいたします。」

「す、すみませんでした!」

「よろしく、お願いします。」

 

飯田くんに続いて、私たちも頭を下げる。全員考えは同じみたいだ。

 

「大人のズルで、君たちの受けていたであろう称賛はなくなってしまうが、せめて、共に平和を守る人間として……ありがとう。」

「……最初から言ってくださいよ。」

「意地悪しないでください。」

「2人とも……」

 

こんな若造に深く頭を下げてくれる面構さん、本当にこの人は私たちを思って色々と手を回してくれたんだろう。そんな人に怒ってしまったのは本当に恥ずかしい……

 

そんな私たちを見て、面構さんたちは少し満足気な顔をしたあと、お大事にと言って帰って行った。

 

 

※ ※ ※

 

「そう、なんだ。」

「仕方ない。これも俺の自業自得だ。」

 

先程、飯田くんの診察が終わった。両腕の精密検査を行ったのだが、その結果はあまり芳しくなかった。

 

ヒーロー殺しとの戦いは平穏無事にとは行かなかった。なんと言えばいいのか分からなくて、気まずい沈黙が流れる。そこへ電話しに行っていた緑谷くんが帰ってきた。

 

「あ、飯田くん戻ってきたんだ。さっき麗日さんがね……」

「緑谷……飯田、今診察終わったとこなんだが。」

「…………左手、後遺症が残るそうだ。」

「後遺、症?」

 

飯田くんが受けた傷のうち、左腕の傷が重かった。腕神経叢という箇所を傷つけられ、手指が動かしにくくなってしまったらしい。手術次第では治る可能性もあるらしいが、障害が残ってしまったことには変わりは無い。

 

緑谷くんも重く受け止めているようで、言葉に詰まっている。

 

「ヒーロー殺しを見つけた時、何も考えられなくなってしまった。マニュアルさんに伝えるべきだったんだ。なのに、怒りで我を忘れてしまった。」

 

飯田くんの一言一言には、あの時の悔恨の念が詰まっている。もっと周りに相談するべきだった、単独行動するべきではなかった。そして怒り任せに行動するべきではなかったと。

 

「ヤツは憎い、しかしヤツの言葉は事実だった。……だから、俺が本物のヒーローになれるまで、この左手は残そうと思う。」

 

数日前とは見違える程に変わった飯田くんの目を見て、私は安心した。インゲニウムの事件以来、飯田くんはずっと憎悪で曇った目をしてた、怒りが目の奥で揺れていた。でも今の彼は、そんな目をしていない。出会った頃とも違う、澄んだ目をしてる。きっと飯田くんは同じ間違いを繰り返さない。

 

「僕も同じだ。一緒に、頑張ろうね。」

 

緑谷くんが右手を突き出して言う。聞いた話だけど、彼も右手に爆弾を抱えている。次に壊したら動かなくなるかもしれないと。無茶をしすぎた代償だ、無謀なことをして左手に障害の残った飯田くんと、それは少し繋がっている気がする。

 

なんだかんだあったけど、これで一件落着という雰囲気になった時、それを見ていた轟くんの表情が変わった。何かに気づいてしまって、冷や汗を流してる。

 

「なんか、悪ぃ。」

「え、何が?」

「どうしたの急に。」

 

この場にいる誰もが轟くんの発言の意図を汲めない。轟くんは今回すごく頑張った側だ。救援に来て、傷を負いながらもステインを抑え続けて、緑谷くんと並ぶ立役者だと思う。その彼が冷や汗ダラダラになってる、さっきより増えてる。

 

「俺が関わると、手がダメになるみてぇな、感じになってる。」

 

はい?

 

「……呪いか?」

「ぷっ!あはははは!何言ってるの轟くん!」

 

もうそこからはダメだった。あんまりにも真面目な顔で轟くんが言うもんだから、私たち3人とも大爆笑だ。緑谷くんが「轟くんも冗談言うんだね。」って言えば、本人は至極真面目だったらしく、冗談じゃないと言った上で「ハンドクラッシャー的存在に……」なんて言うから大変だった。

 

せっかく生き残ったのにこんなところで笑い死ぬのかと思った。

 

轟焦凍、恐るまじ。

 

※ ※ ※

 

面構さんたちと話した日の翌日、私と轟くんは退院することになった。飯田くんは昨日の夜に退院し、緑谷くんは傷が深いとのことで今しばらく入院だそうだ。

 

私も両足刺されて重症だったろって?医者の前でぴょんぴょんジャンプしたら慌てて止められた。かなり渋ってたけど、それだけ元気ならということで退院許可が出ました。

 

今は彼らのいた病室に来ている。緑谷くんへの挨拶と轟くんとの合流を兼ねて。

 

「じゃあ、また学校でね。」

「俺たちは職場体験に戻る。1人置いてっちまうみてぇで悪いな、緑谷。」

「ううん、大丈夫だよ。戻るってことはエンデヴァーのところに?」

「アイツから学べることは学んでおきたい。……それに、やってもねぇのにヒーロー殺しを倒したことにされてるアイツがどんな顔してんのか見てぇしな。」

 

轟くん、悪い顔してるなぁ。でも確かにヒーロー殺しを捕まえに出張して来たのに、結局その出現には居合わせることが出来ず、なのに何故かそれを倒したことにされてるというのは、すごく複雑な心境だろうね。

 

緑谷くんとの話もそこそこに、私たちは病室を後にする。病院らしいツンとした匂いのする廊下を歩きながら思ったことを口にする。

 

「緑谷くんには職場体験に戻るって言ったけど、エンデヴァーって私たちのせいで教育権剥奪されてるんじゃない?」

「……そういや昨日、グラントリノとかがそんなこと言ってたな。」

「でしょー?このまま行っても、即帰宅を言い渡されそう。」

「そうなんのは惜しいが、親父の渋面見れんならそれで十分か。」

「またそれぇ?曲がりなりにも私たち庇ってくれたんだからあんまり意地悪言ったらダメだって。それに私はエンデヴァーの困り顔見ても嬉しくないし!」

「あの仏頂面が変わってたら面白ぇだろ。」

「それはぁ……確かに!」

 

くそ、否定できない。実際、いつも硬い表情したエンデヴァーが座りの悪そうな困り顔したらちょっと笑ってしまうかもしれない。

 

最初はそうでもなかったエンデヴァーの表情への興味が段々と湧いてきたとき、轟くんがかなり真面目な顔で話しかけてきた。少し怖いくらいの顔だ。

 

「加山、ヒーロー殺しん時の話なんだが、」

「う、うん。」

「俺がヤツにやられかけた時、庇ったよな。」

「え、まぁ……庇った、ね。」

「庇われといて偉そうだが……二度とすんな。友達が目の前で死にかけんのは、なんつーか、すげぇ嫌だ。」

「ごめんなさい……」

 

怒られちゃったな。あの時は無我夢中で、咄嗟に体が動いてしまった。轟くんが殺られるところなんて見たくなかったんだ、仕方ない。だけど逆の視点で見れば、私が庇ったせいで轟くんは、知り合いが目の前で死ぬかもしれなかった。怒るのも当然か。

 

でも友達か、同い年で仲のいい人なんて今まで緑谷くんと爆豪?くらいしかいなかった。多分ここまで親身になって心配してくれたのは轟くんが初めてだ。

それを思うと少し、嬉しい。

 

「でもあれだな。守るっつったのに逆に守られてんのは、我ながら情けねぇな。」

「え!!あれは私が個性でやらかしたら救けてくれるって話でしょ?そもそも飯田くんが居なかったら本当に死んでたかもなんだし、轟くんは気にすることないって。ノーカンだよ、ノーカン!」

「でもな……」

「ノーカン!」

「そうか?」

「そう!!!」

 

……変なこと思い出させないで欲しい。あの時の話思い出しちゃって、すごい勢いで捲し立ててしまった。絶対耳とか赤くなってる。ほらそこの轟くん、マジマジと見ない。熱あんのか?だって?うるさい!!!

 

同じ人に2度もこんな小っ恥ずかしい思いをさせられるとは思わなかったぞ。まだ病院も出てないのに変に疲れちゃったじゃん。

 

病院のロビーに着いたところで、何やらソワソワしてる看護師さん見つけた。誰かを探している風で、あちこちを見渡してる。何かあったのかと、それとなく見てたら、看護師がこっちに気づき駆け寄ってきた。

 

「加山さんと轟さんですね?」

「はい。」

「なんでしょうか。」

「あの、エンデヴァーさんがお待ちです。」

「「え?」」

 

※ ※ ※

 

なんかエンデヴァー来てた。いや、わざわざ来てくれたと言うべきか。ちなみに看護師さんがウロウロしてたのは、エンデヴァーに私たちを連れて来ようとしたら、もう病室にいないし、あわやすれ違いかと慌ててたかららしい。お忙しいのに、お手を煩わせて申し訳ない。

 

職員用の休憩室で待っているとのことだったので、案内通りにそこへ向かう。戸を開ければ、当社比1.5倍くらいで炎をメラメラさせてるエンデヴァーがいました。怒ってない?怒ってるよね?

 

「失礼します。」

「ショート、アモルファス、来たか。まぁ座れ。」

 

促されるままにエンデヴァーの対面へ2人で座る。どっちも同じ3人がけのソファーなのに、エンデヴァーの方だけミチミチ感がすごい。

 

そこはどうでもいいか。

 

「なぜ、俺がここに来たか分かるな?」

「はい……ヒーロー殺しの件ですよね。」

「そうだ。仮免未取得者が許可なしにヒーロー殺しと戦った。違法であり、己の命を危険に晒す愚行だ。職場体験を許した担任と雄英に泥を塗ったのも同じだとわかっているだろう。」

「……その通りです。」

「わかってる。けどあん時は、」

「クラスメイトのためだった、と聞いている。功を焦り、短絡的に動く者なら例え息子であろうと最初から指名など出さん。」

「……」

「エンデヴァーにもご迷惑をかけました。すみません。」

「教育権のことか?ヒーロー殺しのことか?ふんっ、どちらにせよお前たちは卵だ。卵がした粗相程度、尻拭いができないでプロになどなれるか。」

 

説教中だけど、エンデヴァーの器の大きさに感心してしまう。もっと頭ごなしに怒鳴りつけられるのかとビクビクしてたけど、思っていたより穏やかだ。確かに怒ってはいる、でもそれは淡々としてて、これがプロの器だろうか。

 

「しかし考えていたより、よく反省している。説教はここまでにしておこう。……ショート、アモルファス、今回の処置は面構署長を初めとした警察関係者、ヒーローの温情と協力あって成ったものだ、決して忘れるな。わかったな?」

「はい!」

「あぁ。」

 

ひとまず許して貰えたらしい。燃え盛ってた炎もいつものサイズに戻ってる気がする。

 

「では、このまま事務所に戻りたいが、今の俺は教育権がない。よって2人の職場体験は中断とする。各自、自宅で療養するように。」

「わかりました。今日までありがとうございました。」

「あぁ。もし仮免を取れたならインターンもうちに来るといい。」

「いいんですか!?やったぁ!」

 

口約束だけどヒーローインターンも受けてもらえることになったぞ。インターン先はこういう職場体験とかで出来た繋がり、言っちゃえばコネが大事だって相澤さんから聞いてる。職場体験が中止になっちゃったし、エンデヴァーから出禁食らったらどうしようかと思ってた。

 

轟くんはやめとけって目で言ってるけど、まぁいいじゃん。万が一ちょっかいかけてきても、その頃にはエンデヴァーにビンタくらいはできるようになってるって。

 

「外で車を待たせてる。焦凍はそれで帰れ。」

「おう。……加山も乗って帰るか?」

「え、いいの?」

「加山くんが良いなら構わん。」

「親父には聞いてねぇ。」

「焦凍ォ!」

 

声がでかいって……

 

エンデヴァーを置いてそそくさと退室する。荷物はホテルから回収済なのであとはもう乗るだけだ。

 

正面玄関に出るとよく目立つピカピカの黒い車が止まってた。轟くんが「あれだな。」と言うので、合ってたらしい。

 

「車田さん、俺です。」

「おう!エンデヴァーんとこの、待ってたぜ。なんだ女連れか?」

「加山は俺の友達です。うち帰るついでに雄英によってもらえれば、コイツはそこで降りるんで。」

「そうかい!嬢ちゃん、さっさと乗りな!」

「よ、よろしくお願いします。」

 

なんか思ってたのと違う人が出てきて面食らったけど、快く乗せてくれた。車田運天丸(運天丸……)という方で、黒いスーツとお髭が似合うナイスシルバーだ、なんか前髪が立ってるけどね。普段はエンデヴァー付きの運転手をされてるとの事。自分専属の運転手がいるとは、さすがトップヒーロー、リッチだ。そしてそんな方の車に私を載せてくれたのも優しい。

 

やたらテンションが高くて、口調は荒っぽいので運転大丈夫なんだろうかと心配してたが、そこもプロ。車ってこんなにも静かに走れるのかと驚いた。たまにケエ!って言うのはよくわかんない。

 

快適なドライブはつつがなく続き、雄英も近くなってきたところで、私のスマホに通知が届いた。発信相手は相澤さんだ、出発前に今日帰ることを連絡していたので、その返信だろうと思い開く。

 

〈戻ったら直ぐに職員室へ来い。〉

 

あ……

 

……相澤さんじゃない、相澤先生だ。

 

「ねぇ、今日轟くん家寄って帰っていい?」

「急だな。ダメじゃねぇけどなんでだ?」

「これ見て。」

 

相澤先生とのやり取りで最新のところだけ拡大して、轟くんに見せる。怪訝そうな顔をしてたけど、それを見てあーという顔になった。

 

「悪ぃ、やっぱり無理だ。」

「なっ!」

「規則違反をした加山を匿った上、お前を家に連れ込んだってなったら相澤先生に何されるかわかんねぇ。」

「連れ込むって。お願い!後生だから!相澤先生、怒ったら怖いんだってッ!」

「知ってる。この前もお前と爆豪、ボコボコだったもんな。」

「分かってるなら助けてよぉ!」

「無理なもんは無理だ。怒られてこい。」

「友達でしょー!この薄情者ぉぉぉ!」

 

轟くんの肩を掴んでブンブン揺らす。これだけされても彼は涼しい顔だ。あ、ヤバいなんか涙出てきた。体育祭の時でも危なかったけど、今回はそれ以上の大目玉が確定してる。想像するだけで体の震え止まんない。

 

車田さんも笑わないでください!!!笑い事じゃないんですよ!?

 

助けて、助けてマイヒーロー……あ、マイヒーローはイレイザーヘッドだった。

 

じゃあ行き着くとこは変わんないね、へへ!

 

 

※ ※ ※

 

夕方、誰もいない廊下をとぼとぼ歩く。両手に持った荷物が恐ろしく重く感じる。段々と職員室が近づいて来ていよいよ覚悟を決める。

 

やっぱり帰っちゃだめ?いや、家同じだったわ。

 

「失礼します。加山水穂、ただいま戻りました。相澤先生はいらっしゃいますか。」

「加山か、こっちに来い。」

 

相澤先生から返事が返ってきたのて、先生のデスクまで向かう。ちょっとずつ見えてくる先生の顔が怖い。

 

「とりあえず、道中お疲れ様。轟のとこに送ってもらったんだってな。あと礼、言っとけよ。」

「……はい。」

「なんでお前、もう泣いてるんだ……?」

 

相澤先生相手にこんなにやらかしたことは初めてで、今までの経験からその比じゃないとわかってしまった。なのでもう雄英に着くまでずっと涙目だった。最初は我関せずを貫いていた轟くんが、私があまりに哀れだったのか背中さすってくれてたくらいだ。

 

「ちょっとイレイザーヘッド、あんまり加山さんをいじめちゃダメよ。」

「まだ何も言ってませんよ。茶化さんでください、ミッドナイト先生。」

 

ミッドナイト先生がやんわり程々にねと助け舟を出してくれてる。優しさが染みる。

 

「加山、事のあらましは警察から聞いてる。ヒーロー殺しと戦ったんだな。」

「そうです。」

「お前は分かってるだろうし、もしかしたら他の人からも言われたかもしれんが、ヒーロー免許無しの個性使用は犯罪だ。職場体験中の無断行動も重大な規則違反だ。」

「分かっています。」

「そうだな。そして過去の生徒にもお前と同じようにルールを破った者たちはいた。雄英に来たからと調子に乗った者、プロの現場に出たからと勘違いした者。これらの者は往々にして周囲に看過できない被害を出した。」

「はい、知ってます。」

「では、そいつらに俺が下した判断はなんだった?」

「……良くて停学、ほとんどの人が除籍になりました。」

「そうだ。」

 

相澤先生の瞳が私を鋭く見つめる。この目、この目が本当に恐ろしい。相手を冷徹に観察し、冷酷に見定める。これから紡がれる相澤先生の言葉に予想がつくのに、それを認めたくない。

 

体が硬直する。

 

動悸がする。

 

痛いほどに握りこんだ手はじっとりと汗ばんでいる。

 

「なので俺は同様に、お前を……」

「……ッ」

「処罰できない。」

「……え?」

 

先生は今なんと言ったんだろう。処罰する、じゃなくて処罰できない、と言った?

 

「できない理由は2つだ。1つ目、加山と轟は緑谷たちが危機にあることを知って駆けつけた。送られたメッセージは曖昧、プロに理由を説明してる時間もなく、直ぐに行動しなければならなかった。実際そうしなければ飯田たちは死んでいた可能性が高い。よってここに緊急性を認めた。」

 

相澤先生は、「2つ目」と続ける。

 

「ヒーロー殺し逮捕はエンデヴァーの功績として公表され、加山たちは偶然居合わせただけということになった。つまり公式にはお前たちは何も違反を起こしてないことになってる。故にこちらとしても罰することはできん。」

「えっとつまり。」

「加山を含め、お前たちは不問ということだ。」

 

ずっと厳しい表情だった先生の顔が、ここで少し緩んだ。

 

「お前たちは飯田の抱えていた悩みに気づき、渦中へ飛び込んでくれた。本来なら俺たち教師が気づくべきだったことだ。ありがとう、そしてよくやったな。」

「はい……ありがとうございます。」

「ただし、」

 

また相澤先生は厳しい顔に戻って言う。

 

「今回は警察側が、お前たちの人命救助とヒーロー殺しの逮捕に貢献したことを認めてくれたからこそできたことだ。ヒーローの世界も綺麗事ばかりじゃない。こういう事実の隠蔽は少なくない、だがこれは後暗いことというのは分かるな?増えれば傷になる、当たり前のことだと思わないように。」

「はい、気をつけます……」

「それでいい。」

 

許された……訳では無い。多くの事情を考慮して、犯した違反行為を大幅に減刑してもらったというのが正しい。似たような状況で同じ勝手を繰り返したら、きっと見逃してくれないだろう。

 

ひとまずホッとした。私が大丈夫だったなら、緑谷くんたちも何か罰を受けるということもないはず。

 

これで相澤先生からの話も終わりだろうかと思っていると、先生が凄く怪訝そうな顔している。怒ってる顔じゃない、本当に何か不思議でならないことに気づいてしまったような。

 

「加山、緑谷はまだ足の怪我で入院中だったな?」

「そうです。傷が深かったみたいで。」

「らしいな。お前の足もヒーロー殺しにやられたんだろう?」

「は、はい……」

 

私の包帯の巻かれた足と顔を交互に見て、めちゃくちゃ眉間にシワがよってる。

 

まずい、これは……

 

「ナイフで両足を刺されたって聞いてる。なぁ加山、

 

……お前どうやって退院した?」

「ひぅ……」

 

蛇に睨まれた蛙とは今の私を見てもらえれば、100人中100人がなるほどと言うと思う。みんなは誤魔化せたのに……

 

「あの、えと。こう、病院の先生の前でぴょんぴょんして、みました。」

「…………」

「先生?」

「本当のことを言ってみろ。」

「……今すぐ横になりたいくらい痛いです。」

 

気づいた時には口元まで捕縛布で簀巻きにされていた。相澤先生が片手で素早く端末を操作すると、静かだった廊下から騒がしい声が聞こえてくる。

 

〈怪我人発見、怪我人発見。移送シマス。〉

「ふぁいざわへんへー?」

「加山、お前は雄英の校訓を勘違いしてるな。」

 

担架に縛り付けられ、身動きが取れなくなる。すごい、手元の動きだけで、私全く動けなくなった。……感心してる場合か。

 

「そういう無茶をPlus ultra とは言わん。これから職場体験期間が終わるまで外出禁止。家で大人しくしておけ!」

「……ふぁい。」

 

相澤先生がそう言い終えると、担架ロボは私を職員室から運び出す。行先は……まぁリカバリーガールのところだよね。絶対また怒られるやつだ。

 

 

※ ※ ※

 

水穂のいなくなった職員室にて、彼女が出ていった入口を見つめる。

 

職場体験中に仮免も持たない学生が、ヒーロー殺しと遭遇した今回の事件。ヤツは現在、確認されているヴィランの中でも指折りの実力者で凶悪犯だった。それを相手にしながら誰1人死人が出なかったのは、幸運としか言いようがない。事情があったとは言え、わざわざ首を突っ込んだ緑谷たちには、山ほど言いたいことがあるが。

 

「ねぇイレイザー、やっぱりあなた加山さんに厳しすぎじゃない?彼女1人を呼び出すこともないでしょうに。」

「加山だけじゃないですよ、緑谷たちにも同様に注意はします。」

「はぁ、ほんと素直じゃないわねぇ。」

「何が言いたいんですか?」

 

何が素直じゃないというのか、思春期の子供のように言われても困る。生徒を律し、規則違反があれば容赦なく咎める。これ以上に正直なことはない。

 

「彼女が心配だったんでしょ?ヒーロー殺しと戦い、負傷したって聞いて。」

「俺は、そんな……」

「そんなことあるわよ。ずっと顔に書いてあったんだから。」

「……」

「本当はすぐにでも駆けつけたかった。でも教師として、一生徒を贔屓目で見ることはできない。だから注意という形で呼び出して、無事を確認した。」

 

「不器用なんだから」とミッドナイトは言う。彼女の言葉は俺の本音を鋭く突いている。

 

心配じゃないわけがなかった。職場体験、体験とは言えどプロの現場に出る以上、危険は伴う。しかしエンデヴァーの元へ行くと聞き、かのNO.2なら学生に無理をさせるはずもなく、限りなく危険は小さいだろうと思った。

 

けれど水穂はヒーロー殺しと戦った。自分から巻き込まれに行ったなら自業自得かもしれないが、負傷して病院に運び込まれるほどだった。何か1つ間違っていたら水穂は死んでいたかもしれない。自分の前から大切な人が居なくなるのは、耐え難いほどの苦痛だ。二度とそんな思いはしたくない。

 

俺は彼女の保護者だ。勝手にではあるが、亡くなった彼女の両親に代わって身柄を預かる身だ。そして今は水穂は雄英生であり、俺はその教師だ。なら俺は彼女を無駄死にさせるようなことはできない。

 

 

 

だから俺は不器用でいい。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。