半分少女のヒーローアカデミア
ヒーロー殺しとの一件から数日、職場体験も終わり通常通りの学校生活が再開する。当の私は職場体験でやんちゃしすぎて、それ自体が中止、終わるまで自宅謹慎となっていた。今日までの日々、あんなに相澤さんと過ごすのが気まずかったことはない。
久しぶりにみんなが集まった教室は、大変賑やかである。そんな中、私は笑い死にかけていた。
「「はははっ!マジか!マジか爆豪!!!」」
「か、かっちゃん!ぶはっ!似合ってなさすぎ、あはははは!」
「笑うなッ!癖ついちまって洗っても直んねぇんだよ!おい、笑うな。ぶっ殺すぞッ!」
「やってみろよ8:2坊や!」
「んだとコラッ!」
「「「戻ったー!」」」
やばい、これはやばい。こんなにも面白いものは見たことがない。不機嫌さ3割増しの表情で入ってきた爆豪の頭がこんなことになってるんだ、笑わずにはいられない。くっそ似合わない八二分けとかズルすぎる。キレた勢いで爆発ヘアーに戻るとかオチが完璧だよ。
まずいぞぉ、爆豪がキレてノシノシこっちへ歩いてくる。もう切島くんと瀬呂くんは捕まって振り回されてる。へへ、両手が塞がってるなら怖くない、さっさと逃げさせてもらうぞ。
「まぁ1番変化というか、大変だったのはお前ら4人だな。」
「そうそうヒーロー殺し!」
「命あって良かったぜ、マジでさ。」
「心配しましたわ。」
上鳴くんの話に他のクラスメイトたちが集まってくる。ヒーロー殺しの出現とその逮捕は、全国的にもニュースになり、当然みんなの耳にも入っている。私たち4人が巻き込まれたってこともね。
「エンデヴァーが助けてくれたんだってな。」
「すごいねぇ。さすがNO.2!」
砂藤くんと葉隠さんの発言に内心ちょっと冷や汗が出る。世間に公表された話は真っ赤な嘘で、本当は私たちでヒーロー殺しを倒したというのが真実だ。当事者全員が納得済みとは言え、目の前のクラスメイトを騙しているというのは少し忍びない。でもエンデヴァーが私たちの身代わりになってくれたって点では助けられてるからある意味合ってるかも。
「そうだな。助けられた。」
あの轟くんがお父さんに助けられたって素直に認めてる。前なら絶対認めてなかったし、不機嫌になって周りが微妙な空気になってたのは間違いなしだ。彼自身、思うところはあるんだろうけど、エンデヴァーもとい大人たちに庇ってもらったというのは、受け入れているってことか。
「俺、ニュースで見たんだけどさ。ヒーロー殺しって敵連合とも繋がってたんだろ?あんな恐ろしいヤツがUSJに来てたらって思うとゾッとするよ。」
尾白くんの言葉にみんな同意する。逮捕後の調べでわかったのだが、ヒーロー殺しと敵連合が接触していたことがわかったらしい。ヒーロー社会の改革を標榜するステインと破壊を目指す敵連合、今の社会を変えるという点では似通っている。なので敵連合がヤツを取り込もうとしてもおかしくない。一連の顛末を見るに、その交渉は決裂したようだけど。
「怖ぇけどよ。ヒーロー殺しの動画見ると、執念っつうの?かっこよくねとか思っちゃわね?」
「上鳴くん!」
「え!あ、悪ぃ!」
「大丈夫?飯田くん。」
上鳴くんの発言を緑谷くんが咎める。上鳴くんの言い分は分かる、ヒーロー殺しの思想と行動は過激であっても、そこには芯があった。それに惹かれるのも無理は無い。でも彼に全く悪気はなかったんだろうけど、ヒーロー殺しは飯田くんのお兄さんを再起不能に追いやった張本人だ。また傷ついてしまっていないか心配になる。
「大丈夫さ。確かに信念の男ではあった。クールと思う人の気持ちも分かる。けどヤツはその信念の実現に粛清を選んだ。どんな考えであっても、そこだけは間違いなんだ。」
「そうだね。」
「あぁ。だから俺のような者をこれ以上出さぬためにも、改めてヒーローの道を俺は歩む!!!」
「おぉ!飯田くん!」
そう飯田くんがビシッと宣言するのを見て、一安心する。もうすっかり立ち直ったらしい。以前のように委員長らしく号令をかけてる姿は、いつもの飯田くんだ。
あまりに元気過ぎて、常闇くんと耳郎さんにうるさいと言われ、余計な話を振った上鳴くんがチクチクされてたのはしょうがない。
※ ※ ※
「はい、私が来た。というわけでね、やっていくわけだけどもね。」
ヌルッと始まったヒーロー基礎学、今日も担当はオールマイトだ。いつもなら「私が来た!」って盛大に始まるんだけど、今日のは特に派手さはない。もうネタ切れなのかもしれない。
「さて、今回のヒーロー基礎学だが、職場体験明けってことで遊びを混ぜた救助訓練レースを行うことにする。」
「救助訓練ならばUSJでするべきではないのですか?」
「あそこは災害時を想定しているからね。私はなんて言ったかな?そう!レース!……ここは運動場ガンマ!」
オールマイトの説明によると、今回の訓練は人質等を考慮した内容とのこと。密集工業地帯を想定した運動場ガンマのどこかでオールマイトが救難信号を発する。それに誰がいち早くたどり着けるか、何組かにわかれて勝負するのだとか。
「もちろん、建物への被害は最小限にな!」
「……指差すなよ。」
ぷふ、爆豪ってば名指しで注意されてやんのー。今まで戦闘がある度に暴れ散らかしてるので、多分教師陣から目をつけられてる。まぁ今回はシンプルなレースだし、喧嘩になることもないでしょ。
さて、オールマイトの号令で1組目のレースが始まる。最初の組み合わせは緑谷くんと尾白くん、瀬呂くんに飯田くん、そして三奈さんの5人だ。
「クラスでも機動力あるやつ固まったなぁ。」
「強いて言うなら緑谷さんが若干不利かしら?」
「確かに、アイツの評価定まってないんだよね。」
「何かある度に大ケガしてますからね。」
切島くんの言う通り、この組は機動力に自信のある人達が集まった。その中でも緑谷くんだって負けてないと思うけど……あぁ!八百万さんと耳郎さんは緑谷くんのアレ知らないんだった。ヒーロー殺しの時に見せたあの動きができるなら彼だって1位になることは十分に有り得る。
「トップ予想しようぜ!俺、瀬呂が1位!」
「うーん、でも尾白もあると思うぜ。」
「おいらは芦戸!アイツ運動神経すっげぇぞ。」
「デクが最下位。」
「緑谷くんなら1位あるんじゃない?」
「なんでだよッ!」
「まぁまぁ見てなって。」
みんなそれぞれの予想を立てるが、私と爆豪で予想が真逆になった。彼は事情を知らないし当然か。他の人も緑谷くんの動き見たらビックリすると思うなぁ。
『では、スタート!!!』
その合図で、全員が一斉に動き出す。その中で1番最初に抜け出したのは、やはりというか瀬呂くんだった。入り組んで複雑な工業地帯、地上を行くより建物の上を行ける瀬呂くんの方が有利。これは瀬呂くんが勝つかと、みんなが思いかけた時に、緑色に輝く影が彼を追い抜いた。
「「うおお!緑谷ァ!!」」
「なんだその動き!?」
思わぬダークホースの登場にクラス全員が色めき立つ。カメラ越しに見るに、抜かされた瀬呂くんを始め、レース中の人たちも度肝を抜かれてるらしい。
私の思ってた通りの展開になったけど、あの動きは前に見た時とは違う。ジャンプする瞬間に、上半身を反らして両手を後ろに突き出す動き、どこかで見たような……
……爆豪の爆速ターボだ!うん、間違いない。何度か見たけど、今の緑谷くんがしてる動きは爆速ターボを参考にしてるんだ。あれ便利だから私もいつかパクってやろうって思ってたけど、まさか緑谷くんに先を越されるとは。私も私で彼を甘く見ていたってことか。
「あ……」
落ちた。
新技のお披露目で、ぐんぐんと後続との距離を離して行った緑谷くん。しかしあともう少しというところで、足を踏み外して落下してしまった。そこを追いかけてきた瀬呂くんに突かれ、残念ながら1位とはならなかった。
その後も粛々とレースは行われる。爆豪とかは案の定、ぶっちぎりの1位だった。さすが才能マンである。
え?私の順位?えーっと……爆豪と同じレースでぇ、頑張ったんだけど即興で爆速ターボとか真似できるわけなくてぇ。他の人も速くてぇ。
はい、めっちゃ半端な順位でした。……私って機動力あんまりないんだよなぁ。
※ ※ ※
授業を終えて、今は女子更衣室。考えるのはやはり授業で見えた機動力問題だ。私の個性は瞬発力と小回りは効く方だと思う。ただ、それで移動し続けるとなると自信が無い。やってやれないことはないと思うけど、炎を推進力にしたらガス欠でぶっ倒れるし、水蒸気でぶっ飛ぶことはできるけど、あまり便利じゃない。水流だとスピードに欠けるしね。お父さんはどうしてたんだろうか。
解決の糸口がないものかと考えつつ、コスチュームに手をかけた時だった。
「ねぇ、なんか声聞こえない?」
『え?』
女子一同が全員耳郎さんの方に振り向く。曰く、隣の男子更衣室からやたら声が響くのだとか。耳郎さんは耳が良いし、気にしすぎじゃないかと思ったが、そうではないらしい。
何が原因なのだと、みんなで男子側の壁を見ていたら、見つけた。壁にかなり小さいが確かにぽっかりと空いた穴を。
「これって……」
「間違いない、ですわね。」
「確認してみよっか。」
私を含めた何人かで壁に耳を押し当てる。聴覚に優れた耳郎さんも当然だ。するとまぁ聞こえて来る、男子たちの会話が。
「峰田くんやめたまえ!覗きは立派な犯罪行為だぞ!」
「おいらのリトル峰田はもう立派なバンザイ行為なんだよ!八百万のヤオヨロッパイ、芦戸の腰つき!葉隠の浮かぶ下着、麗日のうららかボディに!蛙吹の意外おっぱい!加山のスラッとしたくびれーーー!」
これは聞き捨てならないぞ。私たちはうら若き、華の女子高生。意中の相手ならまだしも、こんな品性もないケダモノに見せてやるほど、私たちの体は安くないぞ。
全員が全員、言葉を交わすことなく頷き合う。そして耳郎さんのイヤホンジャックが穴へとするりと伸びた。
「ぎゃああああ!」
峰田くんの悲鳴がこだます。正義は成された。
「ありがとう響香ちゃん!」
「何て卑劣な。すぐに塞いでしまいましょう。」
「男子たちー!次やったら相澤先生に言いつけるからね!」
『わー!悪かった!俺らが悪かったから相澤先生は勘弁してくれぇ!』
向こうから男どもの怯えた返事が聞こえたので、良しとする。相澤先生にチクられるのは怖かろう怖かろう。犯罪未遂なんてバレたらとんでもないことになる。穴自体は大した大きさじゃないので、八百万さんの創造で作った適当な詰め物で塞いでしまう。
穴塞ぐ前に水蒸気を混ぜた熱風でも送ってサウナにでもしてあげれば良かっただろうか?結構気温も上がってきたし、灼熱の更衣室というのはたまらないはずだ。うーん惜しいことをした。
教室に戻ってからは、女子一同の峰田くんへ向ける視線は氷点下で、男子の多くが肩身の狭い思いをしたのは言うまでもない。