半分少女のヒーローアカデミア   作:Akafuku2000

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イレイザーヘッドと主人公ちゃんの交流編です。


半分少女と雨

半分少女のヒーローアカデミア

 

ヴィランの研究所から保護された少女、水穂の精神的ケアと個性制御をイレイザーヘッドが受け持ってから数ヶ月。

 

「よし、そこまで!」

「ハァ……ハァ……、相澤先生今のどうだった!?」

「よくできてたよ。あと俺は先生じゃない。」

 

一際強い炎を放ち終わった水穂にイレイザーは褒めると同時に、軽く手刀を落とす。2人がいるのは、病院に備えられた個性制御を目的とした広場である。普段、さほど荒れることもない広場には、所々水溜まりや焦げた跡が残っていた。

 

「相澤さんでいい。」

「へへー」

 

ペチりと当てられた頭を水穂はわざとらしく抑える。

 

それでもニコニコと笑顔を向ける水穂を見て、仏頂面がデフォルトのイレイザーも思わず微笑みが零れた。

 

──最初の不安定っぷりからは想像つかないほど明るくなったな。制御の訓練を始めた頃は髪は焦げるわ、一瞬で濡れネズミにされるわで手を焼いたが、元来気丈な性格だったんだろう、直ぐに個性を暴発させることもなくなった。まぁあの施設に居て、完全に壊れなかったことから見ても自明か。

 

現在、イレイザーヘッドと水穂の関係は良好である。親しみを込めてイレイザーの本名を教えてから先生、先生と呼ばれるようになったことには辟易しているが。彼女に先生と呼ばれて、それを否定するのも最早日常になった。その光景を見かけた医療スタッフ達からは日々の癒しとして拝まれていることをイレイザーは知らない。

 

水穂の回復と成長に感慨深いものを感じているイレイザーを後に近くのベンチに、水穂は走っていく。

 

「相澤さん、相澤さん!この前教えてもらった漢字いっぱい練習したの、見て!」

 

そこに置いてあったカバンから、水穂はゴソゴソとノートを取り出し、イレイザーの目の前で自慢げに広げる。

そこには、拙いながらも「水」と「穂」の字がびっちり書かれ、何度も書き直した後から彼女の努力が伺えた。

 

「かなり上手になったね。そんな水穂ちゃんには花丸だ。」

 

褒めて褒めてと頬を紅潮させた彼女の頭を優しく撫で、イレイザーは懐から取り出した赤ペンで大きく花丸を描いていく。

 

今まで読みしか分からなかった水穂の漢字を突き止めたのは彼女のケア以外で成し遂げたイレイザーの成果である。それが高じて算数や国語まで教えることになったのは、さすがに予想外で、イレイザーが水穂から先生と呼ばれるようになった一因である。

 

「そろそろお昼の時間だ。たくさん汗もかいたから看護師さんにシャワーを頼みなさい。そしたら一緒にご飯を食べよう。」

 

綺麗な花丸をつけたノートを水穂に返し、イレイザーは彼女の手を引いて院内に戻っていく。

 

──ここまでは何とかやってこれた。キツい綱渡りだったが、この分なら安心できる。……にしても水穂が保護されてから時間が経つが、警察から中々情報が上がってこない。今度聞いてみるか。

 

未だに特定しきれない水穂の身元に不安を覚えつつも、イレイザーと水穂は手を握り合い、訓練用の広場を後にした。

 

* * *

 

 

激しく雨の降りしきるある日、イレイザーは水穂の病室へ歩を進めていた。

 

──今日は天気も良くないし、勉強の方に力を入れるか……。個性の訓練で毎日、体を酷使してるし、水穂はまだ小さい、負担をかけるのは合理的じゃない。

 

いくつかの教材を抱え、病室の戸を引いたイレイザーの目に飛び込んできたのは、ポロポロと涙を零し震えている水穂の姿だった。最近では出なくなった頭痛がぶり返しているのか辛そうに頭をかかえている。

 

個性が溢れ出していた彼女のベッドはびしょ濡れで、手を当てていた顔の一部が自身の熱で赤くなっていた。暴走の危険を察知したイレイザーは、刺激しないようにゆっくり近づき水穂の肩に手を乗せる。

 

「っっ!お母さん、どこなのぉ……いたいよ……」

「大丈夫だ水穂ちゃん。寂しいのも痛いのも分かる。けど今は落ち着くんだ。ゆっくり息を吸って吐く、できるな?」

「あいざ、わさん?……うん、できるよ。」

 

イレイザーが水穂の個性を抹消し、深呼吸を促す。古典的な手法だが、今日まで何度も繰り返してきたおかげで、水穂にとって最も心を鎮められる手段になっていた。

 

 

 

たっぷり10分かけて、水穂はようやく落ち着きを取り戻す。それをイレイザーは確認し、ベッドの交換と火傷用の塗り薬の用意を病院側に連絡した。

 

──────

────

──

 

ベッドの交換を待っている間、水穂は塗り薬をイレイザーから塗ってもらっていた。本来は医者や看護師がするのだが、彼女が誰よりもイレイザーに懐いているのと、イレイザーもヒーローとして基本的な処置はできるので任されていた。

 

「ふ、ふふ。うひゃあ!」

「こら、動くな……」

「だってくすぐったいんだもん!」

 

さっきまで今にも病室をぶっ飛ばしそうだった状態からは一転して、水穂はイレイザーの手がくすぐったいとじゃれあっていた。中々綺麗に塗らせて貰えないので逃れようとする水穂は、頬を片手で固定される。

 

「ぶっ!……ひゃなしてくだひゃい」

「水穂ちゃんが逃げるからダメです。」

 

 

 

なんとか塗り終えた頃には、ベッドも綺麗になっており、イレイザーはスタッフに礼を伝える。

 

「ほら、水穂ちゃんも」

「……ッ!ありがとうございました!」

「どういたしまして。にしても水穂ちゃん、すごく元気になりましたね。今じゃイレイザーさんと兄妹みたいだってみんな話してますよ。」

「きょ……!」

 

当然の事としてお礼を言ったら予想外の返答がオマケでついてきて思わず面食らってしまう。では、別の仕事があるので〜!とそそくさと出ていってしまった看護師をイレイザーは呆然と見つめていた。

 

──誰が兄妹だなんて……。というかあの顔、確信犯だろ。

 

なんとも言えない気持ちを誤魔化すように頬をポリポリとかき、ふと視線をやった水穂と目が合う。

 

ニヤリとこちらを笑った水穂が口を開こうとし、イレイザーに嫌な予感が走る。

 

「あいざわ……お兄ちゃん!」

「……やめてくれ、この歳の男がそんなこと言われてたら事案になりかねん。」

 

ハァ〜っとため息をついて項垂れるイレイザーを水穂はしてやったりとニコニコしている。

 

──最近気づいたが、この子の素は存外いたずらっ子かもな……

 

項垂れる肩をさらに落とし、イレイザーはまたひとつため息をつく。

 

* * *

 

綺麗になったベッドに水穂を戻し、イレイザーが問いかける。ついさっきまで彼女が涙を流していた理由を。

 

「あのね、今日雨ふりでしょ?怖い人にね連れてかれちゃったときも雨だったの。だから外を見たとき、わーって思い出していたくなったの。」

「……、そうか。」

「それでね、お父さんとお母さんのことも少し思い出したんだ。」

 

この雨が水穂の記憶のトリガーであり、トラウマを再起させる危険なピースだとわかったイレイザーが、今後は雨には警戒する必要があると考えていた時、彼女から弩級の情報が口にされ目をむく。

 

「それは本当か!?」

「う、うん。どうしたの相澤さん?」

「いや、驚かせたな。」

 

思わず立ち上がってしまった腰を降ろし、水穂に続きを促す。

 

「思い出したことはね。お父さんがヒーローだったってことと私と同じ個性ってこと、あと………死んじゃったってこと。それから、お母さんといっしょに暮らしてたの。」

「そう、か……。思い出すことも思い出したことも、きっと痛かったよな。頑張ってくれてありがとう。」

 

水穂の話を聞いたイレイザーは悲しそうに眉を下げ、彼以上に苦しげな水穂の頭をくしゃりと撫でる。イレイザーの言葉に水穂は何も言わず頷いて、それから少し無言の時間があった。

 

「水穂ちゃん、俺は今日のところはもう帰ることにするよ。朝からかなり疲れたろうし、水穂ちゃんも休んだ方がいい。」

「わかった。相澤さん、またね。」

「あぁ、また来るよ。」

 

お互いに黙っていた間、ずっと撫で続けていた手を離し、イレイザーは帰ることを伝える。なくなった温度に少し寂しそうな顔をした水穂とまた来る約束をし、病室を後にした。

 

──────

────

──

 

「……今日のことは警察にも伝えにゃならんな。これで捜査も進むだろう。」

 

そう、1人呟きながら入口へ歩いていたイレイザーを通りがかりの男性が呼び止める。

 

「イレイザーヘッドじゃないか、久しぶりだね。」

「あぁ、刑事さんですか、こんなところでどうしたんです?健康診断にでも引っかかりましたか?」

「ははっ!君も冗談を言うんだね。ちょっと仕事で用があっただけだよ。」

 

自分に話しかけてきたのは、水穂ちゃんの件にも関わっている刑事だった。その姿を見て、今朝抱えていた疑問を思い出す。

 

「刑事さん、水穂ちゃんの捜査もやってましたよね?保護から時間が経つのに、情報が上がって来ませんが何か分かりましたか。」

「彼女のことか……。うーん、ここで話すのもあれだ、場所を変えようか。」

 

捜査内容を人のいる場所で話すのははばかられるので、人の目のない場所はないかと、刑事は病院に伝える。唐突なことだったので、どうなるかとイレイザーは不安だったが、警察の方ならと、小さい会議室を快く貸して貰えた。

 

* * *

 

用意してもらった会議室に入るなり、刑事は捜査の状況を話し始める。

 

「イレイザーヘッド、君の言う水穂ちゃんのことだが、正直なところ行き詰まってる。」

「行き詰まってる?下だけとはいえ名前もわかったし、外見からもおおよその年齢も把握できてるのにですか?」

「あぁ、情けないことにね。悔しいが、強個性を持った子供の誘拐は多い。それに水穂ちゃんとそのご両親には悪いが名前もありふれていて、珍しくない。加えて、実験で容姿が変わっているところもネックだ。」

「そうですか。」

 

ここまで何も分からないことにある程度納得出来た。オールマイトという平和の象徴がいても、犯罪はなくなっていないし、その中でも強個性の子供誘拐は件数の多いものだ。

 

強個性は訓練次第で人間兵器、人間機械、資源にもなりうる。それに個性社会において、強個性の子供は親も強個性で社会的地位もあることが少なくない、脅せば金を分捕れる。それでなくても単純な人身売買、臓器売買で、かなりの価値があるだろう。

 

そういう大人の悪意に水穂が曝されていたと思うと苦虫を噛み潰したような思いになる。

 

──だからこそ、今日得た情報は彼女を救う一手になると信じる。

 

「刑事さん、実は今日水穂ちゃんと話して、少し身元が分かりました。父はプロヒーロー、しかし亡くなったそうです。詳しくは彼女も知らなかったようですが、恐らく殉職でしょう。そして父と水穂ちゃんの個性は同じだそうです。」

「それは……驚いたな。やはり直師先生が君に頼んだのは正解だったね。」

 

刑事はイレイザーの話に驚愕の表情を浮かべ、伝えるられる情報を次々と書き留めていく。

 

「まだありますよ。どうやら父の死後は母親と暮らしていたようで、今日のような雨の日に男に誘拐されたと言っていました。以上が水穂ちゃんから聞いたことです。……母親に会えないこと、彼女はかなり苦しんでいました。ヒーローにとってこの手の捜査は、警察に頼ることしかできません。絶対役立ててくださいよ。」

「任されたよ。必ず水穂ちゃんを親元に届けてみせるさ。」

 

ひとしきりの情報をイレイザーと刑事は共有した後、2人は病院入口で別れる。この時の2人の目には希望しか映っていなかった。

 

 

 

 

 

 

さらに数ヶ月後、イレイザーヘッドは現実と直面することになる。




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