ワン・フォー・オール100万パーセントかっこよすぎますよね。
半分少女のヒーローアカデミア
雄英林間合宿3日目、その夜に突如として現れたのは複数のヴィランたち。私たちの前に現れた2人以外にも森各地へ散っている様子だ。誰もが予測しなかった事態に緊張が走る。
(ヴィラン2名襲来、他にも複数いる可能性あり!動ける者は直ちに施設へ!会敵しても決して交戦しないで撤退を!)
合宿地全域へマンダレイさんのテレパスが飛ぶ。今の今まで肝試しをしていたから他の生徒は森の中だ、安全に避難できるかどうか……私たちはともかく、補習組は相澤先生とブラド先生がいるから無事だろうけど。
「ご機嫌麗しゅう、雄英高校!我らは敵連合、開闢行動隊!」
「またお前たちか!」
トカゲっぽいやつが言う、またしても敵連合が襲撃してきた。USJのときにはいなかったが、参加してなかったのか、あとから仲間になったのか。とにかく、この生徒が散ってる状況、この夜の暗闇、投入してきた戦力を見て、USJ以上の用意周到さで来たらしい。
「この子の頭、潰しちゃおうかしら?どうしようかしら?」
「させぬわッ!」
「待て待てマグ姉、虎もだ!生殺与奪は全て、ステインの掲げた主張に沿うか否か。」
「ステイン……」
「奴の主張に当てられた連中か!」
「あぁそう、俺は……そう、そこのメガネ君!保須市にてステインの終焉を招いた人物……申し遅れた、俺はスピナー!彼の夢を紡ぐ者だ!」
スピナーという男が名乗りと共に悪趣味な大剣をひけらかす。いくつも刀剣を無理やりベルトで縛った不格好で実用性の無さそうな剣だ。
「なんでもいいがな貴様ら!その倒れてる女、ピクシーボブは……最近婚期を気にし始めててなぁ、女の幸せ掴もうっていい歳して頑張ってたんだよッ!」
虎さんが一歩前に出、爪を露わにする。
「そんな女の顔を傷物にして!男がヘラヘラ語ってんじゃないよ!!!」
「ヒーローが人並みの幸せを夢見るかァ!!!」
向かってくる……虎さんが相手をするんだろうけど奴ら本気だ。敵連合って言うのも騙りじゃなくて、本当にその尖兵と言ったところか。
「虎、指示は出した!他の生徒の安否はラグドールに任せる!私たち二人はここを抑えよう!……みんな行って!絶対戦闘はしないこと。委員長、引率!」
「承知しました!行こう!」
「……あ、洸汰くん!」
マンダレイの指示に従って動き出そうとして、大事なことを思い出した。洸汰くんの居場所だ。ここにも施設にも居なかったから彼の秘密基地にいる可能性が高い。ヴィランの数は分からない、遭遇してしまう前に保護しないと。
そして彼の正確な居場所を知っているのは……
自然と緑谷くんと目が合う。そう、私たち2人だけだ、行くしかない。
「「マンダレイ!」」
「僕、洸汰くんがどこか知ってます!」
「私も!」
「あなたたち……」
私たちの言葉にマンダレイさんは凄く葛藤した表情を見せる。学生を行かせていいはずがない、でも自分はここを離れられないし居場所も分からない。私たちの危険と洸汰くんの安全、どちらの天秤も重くできないから悩んでる。ヒーローとして保護者として……
しばしの逡巡があって、マンダレイさんは。
「……任せたわ。いい?ヴィランと出会っても絶対に戦っちゃダメ。3人で必ず逃げてくること。」
「「はい!」」
その言葉を聞いて緑谷くんと動き出す。今この瞬間にも洸汰くんに危機が迫っているかもしれない、急がないと!
※ ※ ※
夜の森は想像以上に走りにくい。視界が悪い上に道も整備されてないから当たり前だ。けれど一度通った道だったおかげで、スピードを落とさずに走れてる。
「敵連合!何が目的かな!」
「わかんない!でも私たちを殺すことが目的だったとしたら最悪!」
「それは!ありえない話じゃないね!」
走りながら敵連合がなぜ襲撃してきたかについて考える。さっき言った通りの目的なら最悪中の最悪だ。先生たちはプロヒーロー、私たちだって腐ってもヒーローの卵だ。束になったなら、まず被害は出ないだろうけど。先生とヒーローが少数、森に生徒がバラバラでいる時に襲撃なんて皆殺しには最高の機会だ。
「そろそろ秘密基地だ!」
「ねぇ!何か見えない!?」
「……ッ!あれは!」
崖上に見える小さい人影は洸汰くん。しかしその向かいにいる大きな人影が大問題、あんな奴は合宿にいなかった。……間違いなくヴィランだ。
「僕が洸汰くんに!」
「OK、撹乱する!」
緑谷くんが洸汰くんの方へ跳躍するのと同時に私もヴィランの方へ跳ぶ。ヴィランと戦闘するなって命令思いっきり破ってるけど、人命優先!
顔面目掛けて水蒸気を炸裂させ、そのまま推進力に!
「あ!?煙か?」
クソ熱いはずだけどヴィランは特に効いた様子はない。だが上手いこと緑谷くん達の方へ着地できた。
「お前ら、どうして……」
「救けに来たよ!」
「じっとしててね、絶対守るから。」
2人して目の前のヴィランと対峙する。お互い体は震えてる、相手がどうしようもないくらい格上なのがひと目でわかるから。でもそれは諦める理由にはならない。
フードが降りて顔が晒される。それは見覚えのあるものだった。手配書で見たことがある。……血狂いマスキュラー、そうだウォーターホースが殉職した事件というニュースでも報道されていた。コイツが洸汰くんの両親を……
「なんだよいいとこだから邪魔すんな……っておいおいマジか、お前らリストにあった奴じゃねぇか。」
「リスト?お前も敵連合か。」
「そうそれ、敵連合。気持ちよく暴れられるからって着いてきたんだけどよ。めんどくせぇお使い頼まれちまってなぁ。そこの白いガキ、加山お前ともう1人、バクゴーって奴を連れてきゃいいらしい。」
「2人を!?なんで……」
マスキュラーが指をさしたのは私、敵連合は私と爆豪をご所望らしい。裏にあの男がいるであろう敵連合……最悪だ。
「……私目当て。私を連れてって何がしたいの?敵連合は。」
「知らねぇよ。俺は暴れてぇだけなんだ。仕事済ませたら好きにしていいって言われてるからよ、大人しくやられてくれ。な?」
「誰がお前みたいな筋肉ダルマに!」
「そりゃ褒め言葉だ!……じゃあ寝とけ。」
目の前でマスキュラーの姿が掻き消える。そして次の瞬間には奴の拳が寸前にあった。
完全に捉えられてる。回避は無理、ならせめて威力を殺さないと。
全力で水流を生み出す、溜めなしで撃てる最高圧力で。
「ガッ…!」
「加山さんッ!」
胸に奴の堅く、重い拳がめり込んでくる。骨が嫌な音を立てて軋む。殴られた勢いのまま岩盤に叩きつけられたのが、視覚ではなく背中の痛みでわかった。
これは肋にヒビ入った……いや、今のをこの程度で受けられたのが幸運だな。無防備に食らってたら骨が砕けてた。手足以外からも個性を出せる体で良かった。
「器用なやつじゃねぇか。俺の拳をギリギリまで相殺しやがった。」
「ゲホッゲホッッ!」
返答する余裕はない、一呼吸しただけでも胸に激痛が走る。岩壁を手がかりに何とか起き上がろうとして膝を着いた。
「女の方はこれ以上やったら死んじまうな……めんどくせぇ。けどな、お前緑谷ってやつだろ?お前に関しては殺していいって言われてる。じっくり甚振ってやっから……」
「……ッ!」
「遊ぼうぜ、緑谷!!!」
霞む視界で、緑谷くんにマスキュラーが飛びかかるのを見る。
意識が朦朧とする。自分が立っているのか、倒れているのかも分からないくらい平衡感覚がめちゃくちゃだ。
動け……
骨が折れたからなんだ、気絶しそうだからなんだ。そんなのは動けない理由にならない!
目の前で友達が嬲られてるんだぞッ!
血の味がする奥歯を噛み締め、四肢に精一杯力を入れる。ここで立てなかったら緑谷くんが死ぬ、洸汰くんも殺される。私の手が届くところで、誰も死なせたくない!
手に熱を溜める。
……思い出せ、エンデヴァーに教わった基本。己の炎を最大まで高め、極限まで力を圧縮する。そして一点にして放つこと。
私を放置したこと、後悔させてやる。
「……ウォーターホース。」
「動い、ちゃダメ……ッ〜!」
熱線を放とうとした直前、洸汰くんがマスキュラーへ小石を投げる。奴を不用意に刺激するのは危険すぎる。それを止めようとして口を開いた瞬間、私は激痛に顔を顰めた。
「パパもママも……そんなふうに甚振って殺したのか!!!」
「あ?マジかよ、ヒーローの子供かよ。ウォーターホース……覚えてるぜ。俺の左眼を潰した2人だ。」
「……お前のせいで、お前みたいな奴のせいで!いつもこうなるんだ!」
「はぁ……ガキはすぐそうやって責任転嫁する。俺は別にこの目のことは恨んじゃいねぇ。俺は人を殺したくて、奴らはそれを止めようとした。お互いにやりたいことやった結果さ。……悪いのは出来もしねぇことをやろうとした──お前のパパとママさ!!!」
私の中で何かが切れる音がした。
「悪いのはお前だろッ!」
「となったら来るよな!ボロ雑巾……足!?」
「ふざ、けるなよ……」
奴の足を撃ち抜いた、これであの速さは出せない。けどそんな状況分析よりも、焼け付くような怒りで頭が満たされていた。自分はこれほどにまで怒れるのかと驚くほどに。
止めようとしたのが悪い?──お前が人殺しなんて選んだからだろ。
やりたいことをした結果?──彼らが洸汰くんを残して逝くことを悔やまなかったわけないだろ。
出来ないことをしようとした?──目の前の悪事を止めないヒーローがいるものか。
ヒーローとは、ヒーローは……
「「命を賭して!綺麗事を実践するお仕事だ!!!」」
緑谷くんにワン・フォー・オールの輝きが宿る。セーブした力ではない、奴を倒すために自損を覚悟した最大限。
「SMASH!!!」
全力のワン・フォー・オール、その衝突が爆発的な突風を生む。吹き飛ばされないように身を低くして耐える。
「うわあぁぁ!」
「洸汰くん!」
洸汰くんの手を掴む。もろに衝撃をくらい転落しかかった彼を見て、水蒸気を炸裂させたが、なんとか間に合った。そのまま身を翻して崖上に着地する。
激しく動いたが、痛みはそれほどでもない。許容を超えた痛みとアドレナリンがドバドバで感覚が鈍くなってるだけだけど、今の状況ならありがたい。
「ごめん!2人とも吹っ飛ばして!」
マスキュラーを倒した緑谷くんが戻ってくる。彼は両腕骨折、特に右腕が酷い、私は肋骨にヒビ、互いに満身創痍だ。
「早く施設に行こう。」
「……」
喋ると骨に響くので、首肯だけで返事する。3分の2が怪我人だけど、誰も足はやられてないし、移動は可能だ。
マスキュラーが起き上がってくる前に行動しようとして……
──岩が崩れる音がした。
「ウソだ、ウソだろ……!?」
「……ッ!」
土煙の中から現れたのは、ケロリとした表情のマスキュラー。
……デタラメだ。最高火力のワン・フォー・オールを、平和の象徴と同じ力を受けてまだ立つのか。
「ふぅ、ちょっと効いたぜ。やるなぁ、緑谷。加山とかいう女も、俺の筋肉を貫通できる力があるとは思わなかった。」
「く、来るな!」
「やだよ!行くね、俄然!」
マスキュラーは止まらない。私が撃ち抜いた足も意に介さない足取りだ。
「何が、何がしたいんだよ敵連合は!」
「知らねぇつったろ。俺は暴れる場所と相手が欲しいだけだ。羽伸ばして個性ぶっぱなせればなんでもいいんだ。覚えてるか?今までのは遊びだ。やめるよ、遊びは終いだ。お前ら強いもん。こっからは……」
予備の義眼をしまってるらしいポケットからジャラジャラと義眼が落ちる。そして奴が掴んだのは、赤黒くて悪趣味で不気味な眼。
「本気の眼だ。」
「回避を!洸汰くんは掴まって!」
「うらああ!」
「は、やい!?」
突貫してきたマスキュラーの拳が地面に突き刺さる。直線的な動きのおかげで私たちの回避の方がギリギリ速かった。
奴の本気、砕けた地面も恐ろしいが、それ以上にスピードだ。私が撃ったのは常人なら足が千切れる威力の熱線だったんだぞ!?なんでさっきより速いんだよ脳筋が!
「来る!」
「うぁ……!」
「……クソ!勢い余った!」
上に跳んだ私たちを狙って振るわれた拳が寸前で逸れて、岩壁に当たる。アイツも本気を出すのは神経を使うらしい。
衝撃波に煽られ着地はミスってしまったが、向こうも腕を引き抜くのに手こずってるから立て直す時間はある。状況を整理しよう。
相手は格上、小細工無しのパワーと速度でねじ伏せてくる。
こっちはボロボロ、立ってられるのが不思議なくらいだ。
後ろには洸汰くん、彼は絶対に守らないといけない。
動けはするが、この体で夜の森を逃げるのは無理。
なら残されている道はただ1つ。
──2人で倒すしかない。
「……」
「下がってるんだ、洸汰くん。僕らがぶつかったら全力で施設へ走って欲しい。」
「ぶつかったらって……無理だ、逃げよう!お前らの攻撃効かなかったじゃん!それにどっちも骨折れてんだろ!?」
「大丈夫ッ!」
「うん、だいじょーぶ。」
洸汰くんの頭を撫で、立ち上がる。マスキュラーはもう復活してくる、勝負は一度きり。
緑谷くんが右腕にワン・フォー・オールの輝きを宿す。
私は両手に用意した水流を圧縮する。
「ハハハ……血ィ見せろやぁぁぁ!」
「……SMAAAAASH!!!」
「行けッッ!」
緑谷くんの右腕を覆うようにして高圧水流を放つ。彼の全力はマスキュラーに敵わなかった。折れているなら余計に威力は下がる。そこを私の水流で補強する。
「んだよ!2人がかりの癖してさっきより弱えじゃねぇか!!!!」
クソ!足りないッ!……このままだと押し込まれる!
肉の障壁をただ圧縮した水流で押し返すのは無理だ。
……なら切り裂けばいい。
個性の放出方法を切り替える。水流をより細く、より薄く。カミソリのように
鋭くしていく。
どれだけ強靭な筋肉であろうと、元は人体の筋繊維。それを操り、強化する個性が強くても、筋繊維そのものが変わったりはしていない。であれば!
「切れる!!!」
「ッテェ!なんだぁ?筋肉が切れてやがるのか!……そうか、お前かお前の仕業だな、加山ァァ!!!」
よりマスキュラーの押し込みが強くなる。でも私が切るほうが速い!
一層、また一層と筋繊維を切り続ける。奴が覆い治すのが間に合わない程に。
数瞬の拮抗の後、拳の圧力が僅かに緩んだ。
「……ここしかない。」
私ができるのはここまでだ。マスキュラーの筋繊維を削ぎ、力を落とす。でもトドメまでは行けない。最後は彼頼み、折れた腕を酷使してる彼に負担はかけたくないが、マスキュラーを破るにはどうしても必要だ。
ワン・フォー・オールが。
緑谷くんの力が。
胸の痛みを押し殺して叫ぶ。
「緑谷!!!道は開いた!最大限でぶちかませッ!!!!」
返事は無い。だけど彼の纏う輝きがより強くなった。
「コイツ!急にパワー上がりやがった!?」
「お前なんかに……好きにさせるかぁぁぁ!」
今までで最も強いワン・フォー・オールの光。
「デトロイトオオオオ!スマァァァッシュ!!!」
必殺の一振がマスキュラーの巨体を殴り飛ばす。岩盤に深く深くめり込む姿を見る。今のは完全に入った、絶対に効いている。
それでも先程の出来事が過ぎり、警戒は解けない。
でも
奴が起き上がってくることはなかった。膨れ上がった筋繊維もなりを潜めて動かない。
「……なんで、なんでお前らはそこまで……!」
へたり込む洸汰くんへゆっくり近づき、目線を合わせる。
「何も知らないくせに!どうして……」
その答えは決まっている。痛む体を気力で黙らせ、口を開く。
「ヒーロー、だからだよ。」
「ヒーロー……」
「うん。言ったでしょ、君が救けを求めたとき、必ず救けに来るヒーローがいるって。洸汰くんの英雄になる人が。」
「……僕の」
ポロポロと涙を流す彼の目の向かう先は。
「彼が、緑谷くんが君のヒーローだ。」
「僕の、ヒーロー……!」
「そう。」
緑谷くんは最初に洸汰くんに関わろうとして、一番に洸汰くんを心配して、そして今目の前で命を守り、両親の仇を打ち倒した。
誰よりも立派な洸太くんの英雄だ。