半分少女のヒーローアカデミア
ゆっくりと意識が浮上する。
全身が痛い……強い疲労で体が重い……
……私どうなったんだっけ。
動かない頭を必死に使って直前までの出来事を思い返す。
そうだ、林間合宿で、ヴィランに襲われて……爆豪たちと施設に向かって移動してたんだった。そして急に目の前が真っ暗になって……
私が置かれてる状況を把握しようと、重い瞼を頑張って開ける。
「ここは……」
少なくとも真っ当なところじゃない。ボロボロであちこちに物が散らかっている。体に違和感を覚えて下に目をやれば、手足は拘束され、体は椅子に縛られていた。厳重という程じゃないが、すぐには外せない。
「ヴィランに捕まったのか……」
このことは間違いないだろう。あの時、緑谷くんたちは敵連合のターゲットとなった私と爆豪を守るために避難しているところだった。それなのに私は唐突に意識を失い、気づいたらこんなところにいた。詳細は思い出せないが、してやられたことには変わりない。
とにかくここからどうやって逃げるか考えていた時、奥の暗がりから足音が聞こえてくる。打ちっぱなしのコンクリートを歩く、革靴の音だ。
それを認識した瞬間、私は相手の姿も見えないのに、ゾワッと総毛立つ感覚があった。
「やぁ、ようやくお目覚めだね、加山水穂くん。」
「……っ!……お前、は……」
暗闇から現れたのは、不気味なマスクをした黒スーツの男。
──忘れるわけがない。
この薄ら寒い気配
この呼吸も苦しくなるような怖気
あの自分はさも無害かのように見せる優しい声音。
全ての情報が私に奴の正体を教えている。
「オール・フォー・ワン……!」
「覚えていてくれたのか、嬉しいなぁ。君が生きていると弔から聞いた時は驚かされたよ。」
奴は心底喜んでいるように聞こえる声で笑う。
奥歯を割れそうなくらい噛み締め、爪が肉に食い込むくらい手を握りしめる。そうしなければ恐怖で泣き叫んでしまいそうだからだ。
飲まれるな……オール・フォー・ワンと会話を交わせ。奴の目的を探らないと。
「なんで、私を攫った。」
「なんでってそりゃ僕が頼んだからさ。君を連れてくるよう、弔の率いる開闢行動隊にね。それに攫うなんて人聞きの悪いことは、よしてくれないか。」
「……事実だろ。」
「違うね。僕は君を拘束こそすれ、危害は加えてないだろう?それに君がここに来た時に負っていた傷も治してあげたんだ。邪険にしないで欲しいな。」
オール・フォー・ワンにそう言われて気付く、胸部の痛みが消えていることに。私はマスキュラーにやられて、少なくとも肋骨にヒビが入っていたはずだ。本来なら激痛で呼吸も難しくなるはずの怪我が綺麗さっぱり治っている。
奴の意味不明な行動に顔を顰める。……何のつもりだ。
「どうだい、本当に治ってるだろう?貴重な個性を掛け合わせて無理やり治癒したんだ。負荷が大きくて使い捨てになったのが惜しいけどもね。」
「こんなことしてお前に何の得がある。」
「得ならあるよ、君と話が出来る。」
「話…?」
意味が分からない。敵連合は徹底的に秘匿された林間合宿へ、少なくない戦力を投入してきた。奇襲は完全に成功し、生徒を殺そうと思えば相当な数を殺せた状況だった。それなのに奴らの目的は私と爆豪を攫うこと。あまつさえ攫ってやることが話?
「分からないかな?僕はね、君を勧誘しに来たんだ。」
「勧、誘?」
「そう、君には弔の仲間になって欲しいんだ。一度は手放してしまったが惜しくなってね。」
「……ふざけるな。」
「ふざけてなんかいないよ。それに僕は君のことをこちら側の人間だと思っている。」
「違う!」
「違わないさ。君は自分で思ってるより、ずっとこちら側だ。」
マスクの裏でオール・フォー・ワンがクツクツと笑う。その姿に恐怖より怒りが勝ち始める。私がヴィラン側?そんなわけあるものか。
「だって君は脳無のプロトタイプじゃないか。分かっているだろう、君があの兵器の原型だと。」
「……ッ!」
気づかれていた。当然だ、脳無を生み出したのはオール・フォー・ワンとその協力者であるドクターと呼ばれる人物、そして「今の」私を作った者たちだ。私を脳無の1つとして捉えていないわけがなかった。
「雄英での生活、ずいぶん楽しそうにしていたね。知っているのかい?君のクラスメイトたちは。……どんな顔をするんだろうなぁ、君があの脳無と同じだと知ったら。」
「……や、やめて!」
「必死だね。昔から僕がこの手の話をすると誰もが同じ反応をするんだ、面白いくらいに。」
オール・フォー・ワンの言葉は私に覿面だった。コイツには私の秘密を暴露する用意がある。私の居場所なんて何時でも奪えるぞと。
クラスメイト一人一人の顔が浮かぶ。生徒だけじゃない、先生たちもだ。彼ら彼女らの顔が私への恐怖と疑惑の表情に変わっていく。私が脳無と同じ化け物ということへ、私がヴィランと繋がっていたんじゃないかという疑惑へ。
──嫌だ。
失いたくない。みんなと過ごす時間は何よりも楽しかったんだ。それが無くなってしまうなんて耐えられない。
体温がどこまでも落ちていく気がする。視界が少しずつ薄くなっていく。
もう諦めてしまおうかと思った時、1人の顔が浮かんだ。
大事な大事な友達の顔、私のことを知っても凄いと、尊敬していると言ってくれた人。
……あぁ、この言葉がある限り、私は大丈夫だ。
「さぁおいで、君がいるべきなのはそこじゃない。いや、こういうべきかな。」
オール・フォー・ワンの手が私に差し伸べられる。
「君はヴィランになれる。」
ヴィランになれる?オール・フォー・ワンの言う通り、私の生い立ちはヴィラン向きだ。今まで関わってくれた人達がいなければ、私は間違いなく奴らの側にいただろう。
でもありえない話だ。オール・フォー・ワンは恐ろしい、今この瞬間も飲まれてしまいそう……でも折れるわけにはいかない。私を信じてくれた人達を裏切ったら絶対にダメなんだ。
簡単に諦めかけてた自分を叱咤する。思考を止めちゃいけない、今出来る最大限を実行しろ。
──ヒーローはこんなところで諦めないんだから!
考えれば敵連合の動きも意味不明だ。私を攫ってヴィランに勧誘?回りくどいにも程がある。燻ってる裏側の人間を誘った方がまだ早い。なら本当の目的は別にあるはずだ。ヒーロー社会を壊したい敵連合にとって、より目標に近づく一手。
なんだ、そういうことか。
「ふ、ふふふ。あははははは!」
「……想像していたより脆かったかな?つまらないなぁ、この程度で気が触れるなんて。」
奴らの目的がわかった。けどあまりにも馬鹿らしくて思わず笑ってしまう。オール・フォー・ワンが何か言っているが、見当違いな言葉に余計に笑いが止まらない。
くだらない。が、それでいてヒーロー社会に致命的な一撃を与えられる方法。
「誰が気なんて触れるか。お前らの目的がくだらなくて笑ってたんだよ。」
「ほう、聞いてみようじゃないか。僕らは何が目的なんだい?」
「……嫌がらせしたいから仲間になって欲しい、だろ。」
沈黙。オール・フォー・ワンの表情はマスク越しからは読み取れない。超常黎明期からの巨悪が目論見を知られてキレるほど器が小さいとは思えないが、不気味だ。
とにかく言うことは言ってしまった。何してくるか分からないが、早く逃げる算段をつけないといけない。私を敵連合に取り込みたいなら殺されることはないだろう。それに私は脳無の貴重な成功体とも言える。危害を加えられる可能性は低い。
オールマイトはオール・フォー・ワンと相打った。ならコイツも無傷じゃない、全盛期はとうに過ぎている。なら付け入る隙はあるは、ず?
まずは拘束を外そうと個性を発動しようとしたとき、オール・フォー・ワンの拍手が響いた。
「バレてしまったか。その通りだ、僕たちはヒーローに嫌がらせをしたい。僕としては特にオールマイトにだね。彼の嫌がることをずっと考えている。」
「なら残念、私がお前らに与することは絶対にない。」
「ふむ、どうやら君は僕の予想とはだいぶ違うように成長したみたいだ。実は弔の方も爆豪くんの勧誘に失敗していてね。君の方でも取り込めれば良かったんだが。……でも勘違いしている。君たちを取り込む手段はいくらでもあるんだよ。」
「やばッ!」
オール・フォー・ワンが動き出したのを見て、無理やり拘束を外して逃げる。あの手はまずい。オール・フォー・ワンの個性そのもの危険だが、今はそれ以上に洗脳系の個性が恐ろしい。奴もそのつもりなことが言われなくても分かる。
しかしどう逃げるか。出口は抑えられてる、壁を抜こうにも構造が分からないなら下手に動けない。逃げ回るにしても部屋が狭すぎるから無理だ。オール・フォー・ワンが使ってくる個性な以上、生半可な方法じゃ洗脳を解けないかもしれない。絶対捕まるわけにはいかないが……
「やはり抜けられてしまったか。うーん、あまり暴れないでくれると助かるな。君を有望な人材として見てるのも本当なんだ。傷つけたくない。」
「それ聞いて大人しくするかよ!」
「おっと危ない。」
「ほんとずるいな、その個性。」
「ありがとう、自慢の個性なんだ。」
牽制のつもりで撃った炎もオール・フォー・ワンは危なげなく避けた。避けたというより散らされたというのが正しいけど、効かなかったのは事実だ。元々望み薄だったが、これでアイツを殴って逃げる手段は相当厳しくなった。
「この建物を荒らされるのも困るし、君にはまた眠ってもらう。弔たちにも邪魔が入っていて忙しいんだ。……ふむ、もう来たか、ずいぶん早いな。」
「……?」
オール・フォー・ワンの言葉が途切れたのを不自然に思った瞬間、建物が地震のようにけたたましく揺れる。けど地震にしては揺れがおかしい。建物が爆破されたみたいな感じだ。爆豪の方にも邪魔が入ったと言っていた。ヒーローが動いてるのかもしれない。
「どうやらここも安全じゃないらしい、一度出るとしよう。君も着いてくるかな?ヒーローが来てる、逃げるなら絶好の機会だ。」
「そんなつもりないくせによく言う。」
「つれないなぁ。まぁ逃がす気もないんだけどね。でも他に逃げ道もないのは本当だろう?」
「……性格悪!」
「よく言われるよ。さぁ、行こうか。」
腹が立つほど癪だが、オール・フォー・ワンの言う通りにするしかないか。大人しくしてるつもりもないけど、一旦は奴の進む先に従って後ろを歩く。少し進めば、建物に大きく崩れているところに出た。夜のせいで暗いが、警察やヒーローたちの動きが見える。
「ラグドール!しっかりしろ!……なにをされたのだッ!」
「ラグドール!?」
今聞こえたのは確かに虎さんの声だ。私たちに合わせてラグドールまで攫っていたのか……目当ては間違いなく彼女の個性だろう。目の前を歩く外道を殴りつけたくなる。
「すまない虎、前々からいい個性だと目をつけていてね。せっかくの機会だから貰うことにしたんだ。」
「連合の者か……」
「誰か明かりをつけろ!」
虎さん以外にも数人のヒーローの姿がうっすら見える。この現場に来るということは相当な実力者揃いのはずだ。それを前にしていながらこの余裕。
「こんな体になってからストックもずいぶん減ってしまってね。」
「止まれ!動くな!」
「……!ほう、これは。」
オール・フォー・ワンの歩みがいきなり止まる。やっと暗闇に慣れてきた目に映ったのはベストジーニスト。繊維を操る彼の個性が、奴の動きを止めたのか。
このタイミングなら逃げられる、か?
今すぐ個性使って駆け出したいけど、奴の持つ個性が未知数な以上、背中を見せたらグサリなんてあるかもしれない。
「ベストジーニストさん!もし民間人だったら!ほら、女の子いるし!」
「救助者リストを忘れたか!あの少女は、攫われた加山水穂くんだ。その子といるコイツが民間人なはずはない!判断ミスが現場を左右する。ヴィランには何もさせるな!」
そう言ってオール・フォー・ワンの拘束がさらに強められる。ここまでされたら奴も動けないだろう。ベストジーニストさんも早く動けと目線で訴えている。
それを見て、ヒーローたちの方へ一歩踏み出したとき
──世界が爆ぜた。
※ ※ ※
「さすがナンバー4、ベストジーニスト。」
瓦礫の山と化した一帯の中で、私は呆然としていた。何が起きたのか分からなかったからだ。気づいたらヒーローたちは街ごと吹き飛ばされ、その中心でオール・フォー・ワンが悠然と浮遊している。
「僕は全員消し飛ばしたつもりだったんだ。皆の服を操り、端へ寄せた。その判断力、技術、並の神経じゃない。」
「……ブレインが出張ってくるとは、だが一流はそんなもの失敗の理由にはしないッ!ガッ……!」
「ベストジーニスト!」
ヒーローたちを逃がし、攻撃も避けられなかったベストジーニストが満身創痍ながらも立ち上がろうとする。けれどそこにオール・フォー・ワンの追撃を受け、完全に沈黙してしまった。
「なるほど、相当な練習量と実務経験から来る強さだ。でも君のは要らないなぁ、弔とは性の合わない個性だ。……さて、ヒーローはみんな倒れてしまったが、どうする?加山水穂くん。」
「……クソ」
これだけ広域を一息で灰燼に出来る個性、とてもじゃないが私単独で相手できない。かと言って、このまま捕まるわけにもいかない。
せめても抵抗としてオール・フォー・ワンを睨みつける中、不意に何もない空中へ泥が湧いた。
「くっせぇ!んじゃこりゃあ!」
「爆豪!?」
「な、加山か!?」
「悪いねぇ、爆豪くん。」
泥の中から目の前に爆豪が出てきたと思ったら、次々に死柄木弔を始めとした敵連合の面々が出てくる。ワープゲートの黒霧は倒れ伏してて動かない、奴がやられたから無理やりこっちへ引っ張ってきたのか。
「先生……」
「また失敗したね、弔。でも決してめげてはいけないよ。またやり直せばいい、こうして仲間も取り戻した。爆豪くんもね。君が大切な駒だと考え、判断したからだ。……いくらでもやり直せ、そのために僕がいるんだよ。全ては君のためにある。」
分かりきっていたことだが、敵連合を指導していたのはオール・フォー・ワンだった。オールマイトが次代の平和の象徴として緑谷くんを見出したように、奴も死柄木弔を自分の後継者として教育していたんだ。
(……手ぇ貸せ。)
(了解。)
爆豪の小声にこっそり返事をする。この事態だ、爆豪もさすがに1人じゃ厳しいと分かってての協力要請。心底嫌なんだろうけど、そうしないと逃げられない。
目配せしてお互いに個性のタイミングを測る。
「……やはり来ているな。」
「ハッ!」
オール・フォー・ワンの視線をやった先にいたのは、
……オールマイト!
「全てを返してもらうぞ!オール・フォー・ワン!!!」
「また僕を殺すか?オールマイト!」
空から急襲してきたオールマイトの拳を奴は構えもせず平然と受ける。発生した突風に煽られ、私たちは吹き飛ばされるが、オール・フォー・ワンはビクともしていない。……つくづく化け物だ。
「ずいぶん遅かったじゃないか。バーからここまで5キロ余り、僕が脳無を送って優に30秒は経過しての到着。衰えたね、オールマイト。」
「それは貴様もだろう。なんだその工業地帯のようなマスクは。だいぶ無理してるんじゃないか?……6年前と同じ過ちは繰り返さん。爆豪少年、加山少女を取り返し、そして今度こそ貴様を刑務所にぶち込む!敵連合諸共!!!」
「……それはやることが多くて大変だな、お互いに。」
ワン・フォー・オールの超加速で接近したオールマイトを奴は触れもせず押し返した。複数個性の合わせ技、私の使う個性とは比べ物にならない威力だ。オール・フォー・ワンは本当に個性を混ぜ合わせて使ってる、私の合わせ技なんて子供の遊びレベル。
「オールマイトォ!」
「心配しなくてもあの程度では死なないよ。だから早く逃げるんだ弔、その子たちを連れて。……黒霧、皆を逃がすんだ。」
不自然に黒く変化した指が伸び、黒霧へ突き刺さる。
「ちょ!彼、気絶してるのよ!?ワープを使えるならあなたが逃がしてちょうだいよ!」
「僕のはまだ出来たてでね、マグネ。転送距離は酷く短い上、黒霧の座標移動と違って僕の元へ持ってくるか、送り出すしか出来ないんだ。ついでに送り先は人、馴染み深い人物でないと機能しない。……だから黒霧にやってもらう。」
さっき爆豪たちを連れてきた個性はそれか!短いって言っても少なくとも5キロは飛ばせる。転送にも条件があるとはいえ、瞬間移動ってだけで凶悪すぎる。
オール・フォー・ワンがご丁寧に個性の説明をしてくれ、ついにワープゲートが開く。
「さぁ行け!弔、考え続けろ。君はまだまだ成長できるんだ。」
「逃がさん!!!」
オールマイトが戻ってくるが、彼が一番に対処しなくてはいけないのはオール・フォー・ワン。
「行こう、死柄木!あのパイプ仮面がオールマイト食い止めてくれてる間に!駒持ってよ!」
妙な仮面を被った男がそう言うのを皮切りに、敵連合の視線がこちらへ向く。逃げの算段はついた、オールマイトは手を出して来ない、あとは私たちを連れて行くだけ。
……2対6かぁ、ヴィランとしての実力はバラバラだろうけど、相当厳しいな。
「めんどくせぇ!」
「ほんとにね!」
こんな時こそ校訓を思い出せ、Plus ultra だろ。
アホ敵連合なんて目じゃないこと見せてやる。
※ ※ ※
「血ぃ、ちぅちぅさせて!」
「っぶな!」
学生服の女の子がナイフを振りかざして突っ込んでくる。型も何もないデタラメな動きなので避けられはするが、人を斬ることに躊躇いが一切ない。私とほぼ同い年だろうに、既に一端のヴィランの風格がある。ヒーローもヴィランもこういう突き抜けてる奴が一番怖いんだよな。
「クソメッシュ!後ろだ!」
「なっ!」
「あちちちちち!」
爆豪の声に振り返れば、私へ手を触れようとする仮面男。ギリッギリのところで迎撃できたけど、炎出すの遅れてたら絶対触られてた。手に対する自信、アイツも死柄木弔と同じく、触れる系のやな個性持ってるぞ。
「あのクソ仮面には触れられんな。ビー玉にされて捕まる。」
「は?危なかったぁ。」
じっとりと冷や汗をかく。今の一手間違えてたらゲームオーバーだったのか、間一髪だったな。しかし接触発動の個性2人、恐らく血液関係の個性1人、触れることを許さないなら、これで行くしかないな。
奴らと距離を離し、呼吸を整える。
「”纏炎”」
個性を巡らせ、全身に炎を纏う。……名前考えちゃいました。言ってる場合じゃないか。
炎への扱いも地獄の合宿で相当慣れた。全力戦闘しても1時間は持つ。たった2日でここまで来れたから、今までどれだけサボってなのか身に染みる。
「お前……やれんのか?」
「ご心配なく!」
「俺らがいるせいでオールマイトがやりずれぇ。何とかすんぞ。」
「うん、2人ならできるできる。」
死ぬほどキツイ状況、努めて明るく行こう。
言葉は交わしてないが作戦はこう、とにかく私たちが離れない。どうしたって背中は死角だ、この人数差だと隙を潰せない。ならお互いに背後を守り合おうって訳だ。
「片割れはステインが認めたお方か。」
「ひとまず分断しろ。一気に相手する必要はない、早く潰して逃げるぞ。」
そろそろ向こうも本腰入れてくるな。パッと見、遠距離持ちがいないのが救いか。近づかれないよう距離を取り続けるのが吉。
「とっとと捕まれ!」「いや、捕まんな!」
「よっ!……なに言ってんの?」
「こういうの俺の柄じゃないんだけどな!」
「そうかよ!なら死ね、クソ仮面!」
互いに互いの敵を牽制、仮面と死柄木弔を近づけさせないのは何とか出来てる。1人、言動がチグハグなやついるけど、放置だ放置。
近接武器は女の子とスピナーが怖いが、動きは素人同然なのでこっちはわけない。強さ的にヴィランに成り立てって感じる。
オールマイトを追って、他のヒーローも来る。そこまで粘れば私たちの勝ち。2人でやれば達成できると思う。
──そんな一瞬、誰もが予想しなかった乱入者が現れた。
「緑谷く、ん?」
壁をぶち破り、戦場へ突撃してきたのは、緑谷くん、飯田くん、そして切島くん。同時に展開された氷結は、轟くんか。
射出台のように形成された氷の上をエンジンが唸りを上げて滑っていく。
「……そういうことかよ。加山、個性解け。」
「え?は?なに!?ちょっ!ほんとなに!?」
爆豪に言われて個性を解くが、唐突な事態に私のCPU使用率が100パーセントになっている。しかも爆豪に抱き寄せられてるし意味わからん。
『来い!!!』
「あそこまで飛ぶんだよ。反対は任せたぞ。」
「あ、え、はい!」
命令通りに全力で水蒸気を炸裂させる。一緒に炸裂した爆豪の爆破と共に私たちは一気に上空へ飛び上がった。
下の敵連合はあっという間にゴマ粒のようになり、目の前の緑谷くんたちがどんどん大きくなる。
そして、
「くっ……バカかよ。」
爆豪の手が切島くんの手を掴んだ。