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半分少女のヒーローアカデミア
緑谷くんたちの機転によって脱出した私たちは、戦場となった区画からは離れ、人混みに紛れることに成功していた。
〈緑谷、そっち無事か?〉
「うん、轟くんの方は?逃げきれた?」
〈多分な、奴の背面方向に逃げてる。プロが避難誘導してくれてる。〉
「良かった。僕らは駅前にいるよ。あの衝撃波も圏外っぽい。奪還は成功だよ。」
実行組の緑谷くんたちと分かれた轟くんが電話をしている。救けてくれた勢いで脱出出来た私たちと違って、その場から自力で逃げないと行けなかったら、無事なようで安心した。
しかし……あのぉ。
「いいか!俺は救けられたわけじゃねぇ!一番いい脱出経路がお前らだっただけだ!」
「ナイス判断!」
「……オールマイトの足引っ張んのは嫌だったからな。」
「私もそう思ってたから本当に良かった。」
緑谷くんが来てくれたのは心の底から助かったと思う。あのままだったらジリ貧だったし、オールマイトの邪魔にもなってた。
だから、だから今の状況に持って来れたことは最良なんだけど……
「…………爆豪はいつまで私を抱きしめてるの?」
「あ゙ぁ゙?」
「あー。」
「うーん。」
「むっ!確かに。」
3人の視線が逸らされる。幼なじみと親友、クラスメイト、それが知ってる女子をガッチリ抱き寄せてるのは、絵面的にかなり厳しい。元々は一緒に逃げるための手段だったんだけどさ、なんかいつまで経っても離してくれなかったんだよね……さすがにツッコませて欲しい。周りの視線もチラチラと恥ずかしい、傍から見たら仲良しカップルだぞ。
爆豪は自分の左腕と私を交互に数回見てから、ギュッと眉間にシワが寄る。
「てっめぇ!勝手にくっついてんじゃねぇよ!気持ち悪ぃ!」
「ええええ!?そっちが抱き寄せてきてびっくりしたのは私なんですけど!??」
「俺がんなことするわけねぇだろ!バカか!?」
「いやいや!実際そうやって逃げたし、ここまで歩いてきたじゃん!」
「だーから!そんなことするわけねぇんだよ!」
「手を拭うな!」
これ見よがしに手をシャツで拭った爆豪にキレる。汚いもの扱い!?普通に傷つくからやめてくんない?こっちはなんか爆豪の良い匂い残ってんだよ!バッチリくっついてた証拠あるんだよ!
「お前らそんくらいにしとけって。他の人の目やべぇから、完全に痴話喧嘩だぞ。」
「やめろ!」「やめて!」
「まぁまぁ……」
さっきまで追い詰められてたのに、ギャンギャンと言い争いを始めた私たちを切島くんと緑谷くんが止める。大通りで騒ぎ立てたら人の目に付くし止めるのは当然だ。
でもカップル扱いは冗談でもやめて欲しい。確かに爆豪は強くて頭良くて顔も良くて、性格はだいぶめんどくさいけど、いざと言う時には頼りになって……あぁ、もう!なんで爆豪のいいところ列挙してるの!?
顔熱くなってきた。なんか私、最近こういうのばっかりじゃない???
「もうわかった!私たちはなんにもなかった、これでいいでしょ!」
「あったりめぇだろうが。」
「こいつ〜〜!」
「いい加減にしたまえ!俺たちは早くこの場から動かないといけないんだぞ。」
「そうだね。それなりに離れられたけど、いつここにも被害が及ぶかわかんない。動くなら慎重に行かないと。」
結局、最後まで頑として認めなかった爆豪は腹立たしいけど、このままウダウダ言ってても話が進まないか。
ふぅー、よし!
「……動くって言ってもどうする?緑谷くん。」
「ひとまず様子を見よう。敵連合は逃亡して、今何かしてくるとは思えない。じっくり考える時間はあるはずだよ。」
「緑谷の案に賛成だ。一旦は様子見して……おい!アレ見ろ!」
切島くんの指さす先を私たちは見る。そこには街頭に設置された大型のディスプレイに表示されたテレビ中継。写っているのは……
──神野区だ。
恐らく報道ヘリによる生中継、今まで限定的だった騒動がネットを通じて日本中に配信されている、最悪だ。ヴィランが大暴れしてる、たったこれだけ……しかしヒーローに傾倒した今の社会では、一般市民への動揺とヒーローに対する懐疑が深まってしまう。
『まさに悪夢のような光景です!突如として神野区が半壊滅状態になってしまいました!現在はオールマイト氏が、元凶と思しきヴィランと交戦中!信じられません!ヴィランはたった1人!街を壊し、平和の象徴と互角以上に渡り合っています!!!』
リポーターの声が響く。それと同時に、ここ最近積み重なってきたヒーローの失態に不満の声が上がり始めた。それだけじゃない、この事件もオールマイトがどうにかするだろうという楽観的な声も。
……本当に嫌な奴だ。
オール・フォー・ワンの力があれば、自分の正体を晒す邪魔な報道ヘリなんて一撃で粉々にできる。けどそうはしない、何故か?オールマイトが倒れるところを日本中、さらには世界中に知らしめるためだ。平和の象徴として君臨するオールマイトの敗北は、ヒーロー社会を破壊するには十分すぎる一手。オールマイトただ1人にあまりにも集中しすぎた希望は、そのまま私たちの急所になっている。
明らかに悪い方向へ周りが流れているのに、止めることもできないもどかしさ。オールマイトが人々の拠り所として、どれだけ大きい存在だったのか痛感する。
硬直状態なのかお互いに動かない2人、そしてそんなわずかな時間の沈黙を破り、オール・フォー・ワンが再び衝撃波を放つ。遠く、カメラ越しだがオールマイトが拳を握るのが見えた。
巻き上げられた粉塵が晴れ、地上の様子が露になる。
「……やられた。」
「あぁ……」
「嘘だろ…?」
「なんだあれは。」
「オールマイトの、秘密が……」
そこにあったのは、誰もが信頼するオールマイトの姿はなく、今の彼の真の姿……骨が浮きでるほどに痩せ衰えたトゥルーフォーム。オールマイトが隠し続けてきた真実が浮き彫りになった。
……オールマイトが言っていた。ヒーローとして活躍できる自分に残された時間はほんの僅かで、日々の活動でさえも制限時間があると。多分だけど神野区に駆けつけた時点で制限時間をかなり消費していた。その上、オール・フォー・ワンの攻撃を何度も相殺し、立ち向かい続けていた。
考えうる最悪の事態だ。複数個性を操るオール・フォー・ワンに打ち勝つには、シンプルな超パワーが向いている。故に現在のヒーローで奴に勝てる可能性が最も高かったのはオールマイトだった。なのに……
──彼はもうほぼ全ての力を使い切っている。
ただでさえ深かった動揺が民衆に広がっていく。例えどれほど不健全でも、たった1人に寄りかかった社会でもオールマイトは平和の象徴なのだ。彼が折れてしまえば、日本社会が、日常が、壊れてしまう。
だから今は信じよう。みんなが信じるオールマイトは、私たちを育ててくれてる先生は、誰よりも何よりも
「勝って!!!」
「勝てや!!!」
「「オールマイトォ!!!」」
……強いんだ!
心配の、不安の声が次第に声援変わっていく。みんな分かっている、オールマイトが極限まで追い詰められていると。しかし彼はまだ立っている、戦っている、負けていない!みんながNO.1ヒーローを信じている。
限界を迎えていたオールマイトの右腕にワン・フォー・オールの光が宿る。右腕だけの歪なマッスルフォーム。だけどそれは彼が諦めていない証左だ。
オール・フォー・ワンとオールマイト、最後の一騎打ちになると思われたとき、戦場に駆けつける者がいた。エンデヴァーを始めとしたプロヒーローたちである。エッジショット、シンリンカムイ、虎……奴の足止めをし、瓦礫に埋もれたヒーロー、民間人を引っ張り出し、オールマイトの憂いを取り除いていく。ワン・フォー・オールがなくても、NO.1ヒーローとしての在り方は、他に継がれていく、絶えはしない。
「……オールマイト、信じています。」
オールマイトの構えに応じて、オール・フォー・ワンも動き出す。奴の持てる個性全てを掛け合わせた異形の右腕。
ワン・フォー・オールとオール・フォー・ワン、2つの個性が激突する。
しかし……
「押されてる……」
「オールマイト……!」
「情けねぇ声出すなデク!勝つんだよ、オールマイトは!」
ワン・フォー・オールが消えかけているオールマイトに対し、個性自体は無傷なオール・フォー・ワンが優勢だった。けれど彼は右腕を囮にし、左へ移した力でカウンターを放つ。
でも、それでも浅い。オール・フォー・ワンは倒れない。
「………ッ!」
手を堅く握る。
今のがオールマイトの、渾身の力だったはず……それが通じなかった。オールマイトの勝利への不安の気持ちが勝り始める。
そんなとき、消えたと思ったワン・フォー・オールの輝きがオールマイトに宿る。
「あれが、最後の……」
──オールマイトがヒーローとして放てる本当に最後の一振!
「勝って……オールマイトーー!」
思わず叫ぶ。私だけじゃない、今この瞬間にオールマイトの姿を見ている人すべてがだ。みんながオールマイトの勝利を願っている。
彼の持つワン・フォー・オール最後の光。その光を纏った右腕がついにオール・フォー・ワンへ完全に突き刺さるのを見た。
竜巻が起こる。
いつか見たスマッシュのように、その一撃は天候を変えた。巨大なビルの瓦礫さえ巻き込んで荒れ狂う。
そして土煙の晴れた先、報道ヘリのカメラが捉えたのは……
『お、おお、オールマイトォォ……!ヴィランは動かず!勝利、オールマイト!勝利のスタンディングです!!!』
割れんばかりの大歓声。
高々と左腕を掲げるオールマイトの姿があった。
※ ※ ※
『現在、電車は動いておりません!』
「身動き取れんな。轟くん、八百万くんらと合流したいが……」
神野区の決着後、私たちは身動きが出来なくなっていた。オール・フォー・ワンが倒されても、消し飛んだ神野区の混乱だけで完全に交通機関が麻痺している。何とか移動手段を見つけようと集まってきた人混みに捕まってしまったのだ。
「とりあえず動こうぜ。爆豪、加山のことヒーローたちに報告しねぇとだろ?」
「そうだな!彼らを送り届けることが最優先だ。」
飯田くんを先導にして移動し始める。爆豪も事態はわかってるので、大人しく着いてきている。そんな折り、神野区の中継映像を流していたディスプレイからオールマイトの声が響いた。
『次は……次は、君だ。』
動かすのも辛いはずの腕を酷使して、画面越しに指さす。
それは平和の象徴の折れない姿、裏に燻る犯罪者への警告とも取れる。でも私には、緑谷くんには全く別の意味に聞こえた。
──私はもう出し切ってしまった。
残った力を使い果たし、NO.1ヒーローとして立つことはできないと。ワン・フォー・オール、次代継承者である緑谷くんに後は託したというメッセージ。
「う、うぅ……オールマイト!」
「……緑谷くん。」
泣きじゃくる彼に近づき、そっと肩を支える。
辛いんだろう、悲しいんだろう。緑谷くんが幼い頃からずっと憧れ、追い続けてきたオールマイト。
彼は今、一つの終わりを迎えてしまったんだから。