記念と言いつつ大遅刻もいいところですが……これは半分少女本編のifとして書いたので、今後の展開次第では全く異なる結末になる可能性があります。その点もご了承ください。
番外編 元半分少女と8年後+α(ネタバレ注意)
半分少女のヒーローアカデミア
雄英高校、ヴィラン犯罪が減少傾向にありヒーローの需要が少なくなっている今でも、ヒーローを目指す子供は多い。故にヒーローが求められなくなっていく時代であっても雄英高校は、いつもと変わらない賑やかさを見せていた。
そんな雄英の放課後、帰り支度をしていた学生たちは、異様に騒いでいた。そのわけは……
バリアフリーの廊下を颯爽と歩く女性。
腰まで伸ばした艶やかな長髪、その薄い水色の髪には紅色が混ざりよく映える。引き締まった肉体には一分の無駄もなく、十全に鍛えられている。整った顔立ちには、朝日を思わせる橙色の瞳。ヴィラン犯罪だけでなく、事故対応、災害派遣と幅広く対応する現代を代表するヒーロー(現代ヒーロー特集 5月号より抜粋)
水炎ヒーロー、アモルファス。本名、加山水穂である。
普段、雄英には訪れない彼女の登場に学生たちはどよめいていた。道端でいきなり有名芸能人が現れたような感じである。そういうざわめきの中、彼女を遠巻きに見ている生徒が2人。
「なぁ洸汰、お前ってアモルファスと個人的に知り合いなんだよな?」
「うん。昔、救けられた事あってさ。」
「だよなぁ。たまに連絡くらい取るんだろ?」
「まぁたまには。こうやって直に見たのは結構久しぶり。」
「じゃあさ、あれ知らねぇの?」
「……うーん。」
出水洸汰と口元に傷のある少年は、同様に首を傾げる。
「「なんで赤ん坊抱いてるんだ???」」
アモルファス、加山水穂は華の独身。結婚どころか男性との交際もないと世間に知られている。その彼女が生後数ヶ月の子供を抱いていた。
※ ※ ※
何年かぶりに訪れた雄英高校は本当に懐かしい。歩いてるだけで、思い出が蘇ってくる。すれ違う生徒たちは、昔の私たちのように夢と活力に溢れていて凄く眩しかった。
今日、雄英高校に来たのは恩師と旧友に顔を見せるため。お互い忙しい身だが、偶然にもスケジュールが空いたので、はるばるやって来たのだ。ある報告も兼ねて。
2人は職員室にいるようなので、そこへ向かう。ここも全然変わらなくて、たくさん思い出すことがある。怒られたこととか怒られたこととか怒られたこととか……
若干、嫌な思い出に胃が痛くなったけど、別に悪いことしてないので遠慮なく戸を開ける。
「失礼します。卒業生の加山水穂です、相澤先生と緑谷先生いますか?」
「あ!加山さん!もう来たんだ、ずいぶん早かった……ね!?」
「なんだ加山が来たのか?予定が変わるなら事前に連絡寄越せ……て?」
「久しぶり緑谷くん!相澤先生も!……ほら、挨拶して。」
「だー!」
腕に抱いていた子を前に出す。元気に挨拶出来て大変よろしい!
「赤……赤……」
「加山?おい……いつ……」
「私の子供です!」
「あぅー!」
「「〜〜〜〜!?」」
緑谷くんは真っ白になり、相澤先生は分かりにくいが白目を剥いている。ふふん、私の成長っぷりに驚きが隠せないか。
あ、戻った。ちょ、目が怖い……はい、この子ですよね。
「え?いつの間に?加山さんの交友関係はヒーローになってからかなり広がってた……でも、プライベートで付き合うほど親しい異性となると限られてくる。だとしたらやっぱり元A組の誰か……まさかそんな。いやでも仲良かったしなぁ。え?ほんとに?ほんとに?」
「……あのぉ〜。」
「おい加山、俺は許してないぞ……相手は誰だ?早く言え。轟か?爆豪か?……まさか緑谷、お前か!?」
「ここで僕!?ちちち違いますって!」
「……ごめんなさい、やりすぎました。ちょっとした冗談だったんです!2人とも止まってーーー!」
緑谷くんがブツブツモードに入り、相澤先生が剣呑な殺気を放ち始める。うちの子はそれ見て楽しそうに笑ってる。この子、豪胆だなぁ……ははは。
ちなみに後で聞いた話によると、今日この瞬間の職員室は死ぬほど気まずかったらしい。
にっちもさっちも行かなくなった状況で、早くも冷静さを取り戻した緑谷くんの発言で、私たちは応接室へと移動した。相澤先生は普段の威厳ある教師の雰囲気は完全に崩れ、それを見た生徒たちはドン引きしていた。……すみません。
※ ※ ※
「……ふぅ。で、その子はなんなんだ。きっちり説明してもらおうか。」
「はい……」
怖い。真面目に怒ってる相澤先生を見るのは、卒業して以来だ。学生時代はことある事に睨まれ、説教されてきたけど、久々にこれは効く。
「この子、多分捨て子である日いきなり家の前に置かれてて……私がヒーローと知って知らずか分からなかったけど、一旦保護してた。警察とか色々伝手を使って見元を調べもした。でも戸籍届も出されてなかったみたいで、全く身元は分からず終い。……なので、私が預かることにした……しました。」
「……はぁ〜〜」
「だ、大丈夫ですか?相澤先生。」
「あぁ、大丈夫だよ。」
頭痛でもしてるのか、相澤先生が眉間を揉みながら俯く。
ほんとごめんなさい、ここまで深刻になるとは思ってなかったんです。久しぶりに会うし少しびっくりするかな?くらいの考えだったんです。
「事情はわかった。だが本当にその子を預かる、育てるつもりか?」
「はい。」
「独身の俺が言うのもアレだが、子供を育てるのは簡単じゃないぞ。俺のときは加山も分別はついてたからなんとかなった。でも赤ん坊となると話は変わる。付ききっりで見てやらないといけない。」
「それは分かっています。」
「本当か?安い同情ならやめておけ。里親を探すか、養護施設に入れてやった方が、よっぽどその子のためになる。子にとって親が全て、とまでは言わない。しかし親が子供に与える影響は絶大だ、お前の行動次第で長い人生を左右しかねない。責任持てるんだろうな?」
相澤先生の言葉は正しい。本気で子供を育てるとなれば、私にかかる責任は重い。子供ができたから親になれるわけじゃない、というのはよく聞く話だ。それでもこの子の手を離したくないと思った。
まだ寒さの残る季節の早朝、寝ぼけ眼に聞いた泣き声が夢じゃないと気づいて飛び起きた。慌てて出た家の玄関前に、この子はいた。小さな藤籠の中、寒くないように何重も毛布に包まれた幼子。驚いたし、置いていった親に怒りもした。けれど、私の腕で安心したように笑う顔を見たとき、全ての考えは霧散してしまった。
情が移っただけだと言われたら否定できない。自分でもその通りだと思うから。でも今も私を見て楽しそうにしているこの子をもう他人に任せようとはとても思えない。
「覚悟はしてる。きっと生活にも影響出るだろうし、今までみたいにヒーロー活動だけを考えて生きることは出来なくなる。」
「そうなるだろうな。」
「でももう心に決めた。私の人生をこの子のために使うって。だって私の目指すヒーロー像は、ヒーローになった今でも救けを求める人の手を絶対に離さない人だから。」
「………」
「それに普段のことなら大丈夫。私の事務所って託児所を併設してるからそこに預けておけば、面倒を見ながらヒーロー活動もできるし。………ただ。」
「ただ?」
先生の目をじっと見つめる。今からするのはお願いだ。色々と言ったけど、育児に万全を期すためにはどうしても言わなければならない。今日会いに来たのはそのためでもある。
「私がもし緊急で出なければならなくなったときは……その、相澤さんに少しだけでも預かってて欲しいんです。」
「……預かって欲しい、か。」
「ダメ、ですか?」
難しいだろうか、相澤さんは私が子供を育てるのに消極的みたいだし。
しばしの沈黙が流れ、緊張に冷や汗が首筋を伝う。
「……分かった。そのくらいなら請け負うよ。その子を育てるっていうのも本気なら文句は言わん。」
「……ッ!ありがとうございます!」
「お前が自分に「もしものこと」があったらとか言うんだったら断ってたぞ。」
「そんなことは絶対に言わない。死ぬつもりなんてサラサラないからね。」
「ならいい。」
そう言って相澤さんは少し表情を緩めた。
「はぁ、でもよかった。加山さんに誰かとの隠し子がいたんじゃないかって焦ったよ。」
「ご、ごめんなさい……」
「イタズラ好きなのは昔からの悪い癖だから自重しろって言ったのもう忘れたらしいな?」
「うっ……」
「わかったならもっとマシなイタズラにしろ。……こういうタチの悪い冗談は二度とするな。」
「うん、二度としないでね。」
「はい、本当にすみませんでした。」
相澤さんと緑谷くんにジロリと冷たい目で睨まれる。今回はさすがにやりすぎた。もう絶対こんな冗談はしません。……お前は髪の毛食べて遊ばないの、汚いでしょ。
「しかし曲がりなりにも加山が親になるか。」
「時間の流れは早いですね。僕も気づいたら先生です。」
「加山、その子の戸籍がなかったなら届出も名付けもお前がしたんだろ?その子の名前はなんて言うんだ?」
「この子の名前は──」
※ ※ ※
「よし!制服バッチリ、用意もバッチリ!」
真新しい制服に袖を通し、具合を確認する。サイズはちょうどいいし、着方に変なところもない、完璧だ。
大きな鞄を持って自室を出る。今日は「雄英」の入学式、憧れのヒーロー科に入れたのだから遅刻なんて恥ずかしいことは出来ない。
「お母さーん!私もう出るねー!」
「えぇ!?ちょっと待って待って!」
「えー、何ー?」
お母さんが驚いた声を上げて台所からバタバタと走ってくる。中学から高校に上がったけど、普通に学校行くだけなのに……
「行ってらっしゃいくらいちゃんと言わせて。」
「別に入学式だけだからすぐ帰ってくるのに。」
「そういうこと言わないの。ほら、ネクタイ曲がってる。」
「え、ちゃんと確認したのになぁ。」
「直したげるからこっち向いて。」
「はーい。」
言われた通りにお母さんの方へ向き直る。慣れた手つきで歪んでいたネクタイがぴっちり綺麗になった。お母さんはこういうとこ器用なんだよね。
「はい、綺麗になった!」
「ありがとう!」
「どういたしまして。ねぇ、出る前に少しだけいい?」
「ん?」
お母さんが真面目な表情になって言う。いつもニコニコ笑ってて優しいのに……こういう表情はヒーロー活動してるときくらいしか見たことがない。
「あなたが行くヒーロー科は楽しいことがいっぱいある。でも同じくらい辛いことも苦しいこともある。今はずいぶん平和な時代になったけど、ヒーローを目指す以上、壁に当たることは絶対にある。」
「う、うん。」
「だから悩むことがあったら私でなくてもいい、必ず周りに相談すること。きっと力になってくれるから。1人で抱え込まないでね。」
「……わかった。ちゃんと周りに相談する。」
「それでよし!あとは……」
「わわ!何?」
唐突に抱きしめられてびっくりする。お母さんの体温は安心するけど、もう子供じゃないんだし、ちょっと恥ずかしいな。でもそれは口に出さないで、私からも抱き返す。
「私はあなたがこんなに大きく、真っ直ぐ育ってくれて嬉しい。私と同じヒーローを目指してくれたことも。……ヒーローになるのはとても大変だけど、応援してるから、頑張って!」
「うん、頑張る!」
「本当にいい子だなぁもう!そろそろ時間だし、行ってらっしゃい
「はい!行ってきます、水穂お母さん!」
手を振るお母さんを背に家の戸を開ける。大通りに出れば、私と同じ制服の学生を見かけた。先輩、もしかしたら同級生かもしれない。
私の名前は「加山光希」、私を拾い育ててくれたお母さんから貰った名前だ。行くはヒーロー科、目指すはヒーロー!私もお母さんのようなヒーローに成りたい。
物語が始まる。
──それは私が最高のヒーローになるまでの物語だ。