半分少女のヒーローアカデミア   作:Akafuku2000

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これで過去編は終わりです。


半分少女と一歩

半分少女のヒーローアカデミア

 

 

イレイザーヘッドが水穂から得た身元情報から警察の捜査が進み、数ヶ月ほど経ったとき、イレイザーは警察署への呼び出しを受けていた。

 

──警察に水穂ちゃんの情報を提供してからしばらく経った。この呼び出しは動きがあったと見るのが妥当だが……なんとなく良い予感がしないな。

 

そろそろ警察署に着くというところで、向かい側から直師先生が歩いてくるのが見えた。

 

「直師先生、お疲れ様です。もしかして先生も警察に呼ばれましたか?」

「そちらこそお疲れ様。水穂ちゃんの件でね。そういう君も同じ用かな?」

「えぇ、前お話しました水穂ちゃんの両親について警察に伝えてあるので、何か進捗があったのかと思っています。」

「その様子だと君も「とりあえず来てくれ」って言われた口だね。僕もそう思うよ、けどあまり良い報せがあるとは思えないのさ。」

 

直師先生も同じ感覚を抱いていたようで、イレイザーが「同感です。」と答えると、既に目的地に着いていた。

 

 

署の前で2人を待っていた若い警官に案内され、署内を歩く。両者とも職業柄、警察署に入ることも珍しくなく、普段の雰囲気をよく知っている。何もおかしなところはないのに、どちらも奥に行くほど足元が覚束なくなるような嫌な空気を感じ取り、無意識に眉間へシワがよる。

 

 

 

用意されていた部屋に到着すると、警官は中にイレイザーと直師を連れてきたことを伝える。中の人物から入室を促され、警官が扉を開けてくれるのに従う。

 

「イレイザーヘッド、直師医師、どうぞかけてください。君もご苦労だった。仕事に戻ってくれ。」

「はい!失礼いたしました!」

 

案内役の警官が退室すると、部屋には緊張を帯びた沈黙が流れる。中で待っていたのは、イレイザーと直師を招いた塚内刑事と、もう1人、老齢の男。

 

───────

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───

 

沈黙を最初に破ったのは、いかにもベテランという風な男の方であった。

 

「イレイザーヘッド、直師医師、今日は御足労ありがとう。私は対ヴィラン児童誘拐の責任者をしている大山だ。よろしく。」

「よろしくお願いします。……私と直師先生がいきなり呼び出されたのは、水穂ちゃんの件で進展があったと考えて良いでしょうか?」

「その通りだイレイザーヘッド。何分、重要度が高くて詳しく連絡できなかったんだ、申し訳ない。では、塚内くん、説明を頼む。」

「分かりました。イレイザーヘッド、直師先生、こちらを見てください。」

 

そういうと、塚内の操作によってプロジェクターからいくつかの資料が投影される。パッと見るにどれもこれも水穂に関わるものだと分かる。

 

「まず、水穂ちゃんの本名は加山 水穂だと判明した。そしてその両親、父親からですが、イレイザーの言う通り、彼はプロヒーローでした。ヒーロー名、シュトローム、本名は加山 流。個性は激流、ヴィラン制圧や火災、災害現場と幅広く活躍するヒーローだったと調べがついている。」

 

顔写真とプロフィールを簡潔にまとめた資料に加え、現場で撮られたであろう写真がいくつか示される。

 

「うーん、僕はちょっと聞いたことがないな。こんな活躍してる人なら有名だと思ったんだけど。」

「私は聞いたことがあります。どうもメディアに出るより家族の顔を見る方が優先だと、そういうのは全て断っていたとか。」

「イレイザーの言う通りだよ。そして彼はとあるヴィラングループの制圧中に孤立、応援も間に合わず、ヴィランと相打って殉職したと報告されている。」

 

塚内は一区切り置くと、次に母親の説明に入る。

 

「水穂ちゃんの母親の方だが、彼女は一般人。名前は加山 町。良き妻、良き母として近所でも評判だった。」

「それだけ聞くと、益々行方不明の娘を放っておくような人には思えないんだが。しかし彼女からはなんの連絡もないぞ。」

 

患者第一、そして水穂が日々どれだけ孤独に耐えているか知っている直師は、柔和な顔を崩し苛立ちを隠そうともしない。

 

「直師先生の気持ちはよく分かります。ですが、彼女から水穂ちゃんの捜索願いは出ていますし、受理されていた。が、彼女から連絡が来ることはないと思います。」

「「ない?」」

 

イレイザーと直師の声が被る。

 

「えぇ、なぜなら……」

 

 

 

 

 

 

 

「加山 町さんは既に亡くなっている。」

「な……」

「………」

 

2人が恐れていた最悪の現実に絶句する。イレイザーだって直師だって考えていた、水穂からの話を聞いてとてもじゃないが娘を拐われて良しとするような母親じゃないと。なら何故これだけ時間が経っても分からないのか、母親自身にも良くないことがあったのではと。

 

「彼女の周囲の人達に聞き込みを行ったところ、流さんが亡くなった時はまだショックは受けていても元気はあったと。実際彼女から父親がいなくなってしまった分、娘を立派に育てるのが私の役目だと周囲に話していたようだ。」

「そんな、それが何故……」

 

イレイザーの呆然とした声に、塚内は向き直り「これは推測もあるが……」と続ける。

 

「亡くなった原因は水穂ちゃんの誘拐にある。水穂ちゃんがいなくなってから町さんは急速に弱り、体を壊して亡くなったと、彼女の知り合いや当時の担当医への調べでわかったよ。以上が我々の捜査結果だ。」

「はぁ……いや、ここまで調べてくれてありがとう。しかし、この事実をどう水穂ちゃんに伝えるものか。」

 

誰の前であっても真剣な態度を取り、それでいて余裕のある構え崩さない直師は、この難題に額を押さえる。

 

──確かに、水穂ちゃんにウソをつくことはできる。しかし彼女はずっと母親に会いたがっているし、それは日々強くなっている。そんな子に隠し通すのは無理だ、必ず綻ぶし、その時、ウソをついていた私たちへの信頼は失われる。

 

 

 

 

 

また沈黙が部屋を包んだ時、イレイザーヘッドが口を開いた。

 

「わた……俺がやります。水穂ちゃんに伝えられるのも万が一の時、止めてやれるのも俺だけでしょう。」

「だがイレイザー!彼女が事実を知ったとして、受け止められる可能性はかなり低い。そうなれば病室どころじゃない、敷地ごと吹っ飛ばされるぞ!」

 

イレイザーの提案に直師は声を荒らげる。水穂と彼の仲は相当のものだ、イレイザーがいるだけで彼女の精神がどれほど安定しているか……。だが、その信頼関係、イレイザーヘッド自身の個性を持ってしても大惨事は免れない。それが容易に分かっていて彼1人を突っ込ませるなんて出来ない。

 

 

 

 

直師がイレイザーヘッド、自分に向ける表情を見て、彼の優しさが伝わってくる。水穂に母親の死を伝えない訳にはいかない、しかし起きるであろう彼女の暴走を止めるのにイレイザーヘッド一人に任せる訳にもいかないと両方を心配し傷つけたくないと思ってくれているのだ。だからこそ自分は彼にこう答えなければならない──「大丈夫」だと。

 

「直師先生、俺は死ぬ気なんてないです。打てる手は全て打ちますよ。そのためにまず、大山さん、あなた方警察に頼みがあります。」

「加山 水穂ちゃんの現状は私も把握している。策があるなら聞こうじゃないかヒーローくん。」

 

 

 

 

ヒーロー、警察、病院、3つの組織が総力をあげて作戦を練る。ヒーローの手を一人ぼっちになってしまった少女に届かせるために。

 

 

 

水穂ちゃん─本名、加山 水穂に事実を伝え、その時に起きる危険性がある個性の暴走を見越して、個性の封じ込め、水穂の無力化、周辺住民への欺瞞の作戦が立てられた。

 

第一、開けた場所の確保と住民の避難

場所は病院が療養地として併設していた自然公園を使用、住民は大量の爆発物、火器を所持しているヴィラングループの逮捕のためとして避難。

 

第二、負傷者の発生を考慮し、医療スタッフの確保と病院施設の維持。これには各地からの応援と災害現場に強いヒーローが当たった。

 

第三、水穂の個性による濁流や豪炎の被害を抑え、傷つけず無力化。こちらは地形操作や無力化に長けた個性を持つヒーローが当てられた。

 

第四、一連の作戦の流出を排除するため、警察による近隣の徹底的な情報統制と関係者への緘口令。

 

以上の作戦が速やかに実行され、舞台は着々と整えられていく。

 

───────

─────

───

 

作戦決行の夜、塚内、直師、相澤の3人は中央棟5階 第三会議室に集まっていた。

 

「……以上が、作戦の状況だ。警察、ヒーロー共に展開済み、何が起きても対処できるよ。」

「こっちも医療スタッフの確保と病院設備の保護、バックアップは完了してる。今ならどんなことになっても病院の機能は万全に動かせるさ。」

「ありがとうございます。」

「…………あと僕からもうひとつ。」

 

塚内、直師からの報告を聞き、あとは作戦を成功させるだけだとイレイザーが考えていた時、「もうひとつ」と直師が話し始めた。

 

「本来、患者のケアは僕たちの領分だ。これは別に今さらイレイザーにケチつけようってことじゃない。僕たち医者の誇りと使命なのさ。それを君に任せること、本当にすまない。」

 

幾分も年上で、自分より圧倒的に様々な困難を見てきた人に深々と頭を下げられてしまい。イレイザーは面食らうと同時に初めて会った時もこんな感じだったと思い出した。

 

「頭を上げてください直師先生、確かにあの子は患者です。

ですが、俺たちヒーローが救うべき子だとも思います。苦しんでいるなら手を差し伸べるべき子だと。それが他人の領域でも救うと決めたらなら臆せず踏み込むのがヒーローです。余計なお節介はヒーローの本質なもので。」

「全く、君は……」

 

滅多に笑わないイレイザーヘッドがイタズラっぽく笑うのを見て、思う。このヒーローを選んで正解だったと。

 

「それに、俺としてもちょっと私情が入ってるんですよ。」

「おや?合理的が口癖のイレイザーらしくないじゃないか。」

 

少し遠い目をしてイレイザーが零した一言に、直師とのやり取りを見ていた塚内が口を挟む。

 

「たまにはありますよ。プロになってからずっと迷っていたんです。サイドキックか、独立か、他の道があるのか。そもそもヒーローを続けていくのか。けどあの子は俺に道を示してくれました。本人にそのつもりはなかったでしょうし、これは俺の思い込みですが。……でも、だからこそそれに答えてやりたいんですよ。」

 

話し終えたイレイザーは、会議室から出ていく。残された2人は何も言わない、彼はただヒーローとしての務めを果たしに行くだけだから。

 

 

 

 

 

「水穂ちゃん、こんばんは。」

「あ、相澤さん!夜に来てくれたのはじめてだね!」

 

緊張で震える手を無理やり黙らせ、病室の扉を引く。ベッドの上で体を起こしていた水穂は、窓から射し込む月光に照らされていた。水色がかった髪に、薄い赤がメッシュのように入っている姿に、年齢に見合わぬ美しさを感じてしまう。

 

──こりゃ大きくなったら相当な……って俺はそんな用で来たんじゃないだろ。要らないことを考えるのは、心が揺れてる証拠だ。集中しろ……

 

「少し話したいことがあってな。…………もしかして水穂ちゃん、眠れないのか?」

「……うん。」

「そうか、じゃあ俺とちょっと散歩しようか?」

「いいの?」

「いいんだよ。ほら、おいで。」

 

あまりに外に出ることが許されない水穂はイレイザーからの提案に顔を綻ばせる。訓練に使っている靴をイレイザーに履かせてもらい、そのまま手を引かれ久しぶりの外に出た。

 

 

 

 

「どこ行くの?公園?」

「正解だ。そこで、お父さんとお母さんの話をしよう」

「!お父さんとお母さんの!?」

「あぁ」

 

その後、水穂は久しぶりに見る星や月が綺麗だとはしゃいだり、イレイザーから春になったらこの辺りは桜で満開になるんだと教えられれば見てみたいと、お母さんと一緒にと、イレイザーも一緒だと楽しそうに話す。

 

─すまない……お前の気持ちを俺は今裏切っている。ったく結局、この作戦もお前の力が恐ろしい大人たちの卑怯さゆえだ。傷ついている子供を真正面から受け止めてやれないで、ヒーローか……

 

今まで見たことがない程、顔を綻ばせている水穂を見て、イレイザーは思わず目をそらす。自分たちの行いが、この子の笑顔を踏みにじっていることに、思わず奥歯を強く噛み締めた。

 

 

 

 

 

数分かけてイレイザーと水穂は予定通り、自然公園に到着する。芝生の心地良さに走り回る水穂を呼びかけ、イレイザーは口を開く。

 

「水穂ちゃん、君のお父さんとお母さんだが……」

 

水穂の動きが止まる。

 

 

───────

─────

───

 

「まず、お父さんのことなんだが、水穂ちゃんの話してくれた通り、亡くなっていた事がわかったよ。」

「……うん」

「まぁ、俺が言うことじゃないが、君のお父さんは誰よりもヒーローだった。そのことは水穂ちゃんが誇っていて欲しい。」

「…………うん」

 

さっきまでの元気さが嘘のように、静かになった水穂は、そのまだ幼い顔を限界まで歪め、涙を堪えている。しかし、彼女が何とか耐えられているのは、まだ彼女の中に母の存在があるからだ。それがよくわかっているイレイザーは、次の言葉が出てこない。─奇妙に会話が途切れ、少しの間があった。

 

 

 

 

数秒か数分か、沈黙があったあとイレイザーが重い口を開き、水穂に現実を告げる。

 

「……水穂ちゃん、君のお母さんは、お母さんの加山町さんは、もういない。」

 

水穂にとっては予想だにしない言葉に、目を見開く。きっと来てくれると信じていたが母がいないと告げられたこと、そしてそのことを信頼してる相澤に言われたことが、彼女の心を砕いた。

 

「う、そだ……」

「嘘じゃないんだ、水穂ちゃん。君のお母さんは……」

「お父さんも、お母さんも、いないの?私、ひとりぼっち?」

「……!水穂ちゃんそれはちがっ……!」

「うああ、あ。ああああああああ!」

 

 

 

 

静かな月夜、そこにはありえない、濁流と爆炎が現れた。

 

[newpage]

 

甚大な火災現場にも匹敵する熱波と目の前に迫り来る激流を前に、ヒーローと警察は動き出す。

 

炎と水流を市街地に漏らさず、安全な所へ誘導もしくは封じ込めるために一斉に地形が隆起し、巨大な土壁やコンクリート壁がヒーローたちによって形成される。

 

また堰き止められた側から、火炎操作や水流操作を得てとする者たちの手で速やかに炎は消火され、莫大な水流は近隣の河川へ逃がされる。

 

 

 

多くの人たちが、たった1人の少女が生み出した暴れ狂う災害に奔走する中、イレイザーヘッドはその真っ只中にいた。

 

「……っあ!水穂ちゃん!落ち、つけ!!」

 

既に火炎に焼かれ浅くない火傷を負い、水流に押し流され息をするのもままならない中、何とか水穂を鎮めようと言葉を紡ぐ。しかしその言葉も個性を避けながらでは届かせるのは難しく、接近しようと抹消を使用してもインターバルでどうしても個性の発動を許してしまう。

 

「いや!いや!!!ひとりなんていやだよぉ……。おかあさん!」

 

かつてない勢いで個性を使用し続ける水穂の体は既に赤くなり、もうもうと蒸気が立ち上っている。

 

─このままじゃ近づくことも出来ない……!あれだけフルに個性を使ってるんじゃキャパオーバーどころか本当に焼け死ぬぞ!……考えろ、どうしたら少しだけでもあの子に正気を取り戻さられる!?俺はヒーローだろ!!!最初に会った時、救けるって誓っただろ!!!!

 

じくじくと痛む火傷からでも、溺れる寸前の息苦しさからでもなく、救けると決めた少女に声一つかけることも、指一本触れることもできないことにイレイザーは歯噛みする。

 

「くそっ!……水穂ちゃん、炎、だけでも……!っぐあ」

「あぁぁ、痛い!いたい!イタイ!!いたいいたいイタいいたイいたい!!!!!」

 

なけなしの酸素を絞り出して声をかけるが、その声もあっという間に水に飲まれる。再び、かつての頭痛に苛まれる水穂は、より個性を苛烈にさせ、水流が熱湯に変わり、漂う蒸気の熱が一呼吸ごとに喉を焼く。

 

─駄目だ……生半可な言葉じゃ水穂ちゃんには届かない。もっと彼女に染み付いた言葉、当たり前のように聞いてきもの………………

 

水穂とのやり取りを思い出し、有効な言葉を探る。彼女に届き、落ち着かせうる言葉は、

 

「水穂ちゃん……、水穂!深呼吸だ!……できるな!?」

「……!?あ、いざわさん?」

 

溢れ続けていた炎と水流が一瞬、僅かに個性の勢いが緩んだ隙に、イレイザーは軋む体に鞭打って駆け出す。

 

──これが唯一のチャンスだ。次はもう止められない。抹消はギリギリまで使うな、走りながら呼吸を整えろ、伝える言葉を考えろ!

 

 

 

───────

─────

───

 

相澤からかけられた言葉に一瞬呆けた水穂に、相澤は駆け寄り抱きしめる。未だ消えない炎で体が焼けた。

 

「水穂ちゃん、すまなかった。自分のことで精一杯な君にこのことを伝えるのは早すぎた。でもお母さんのことを待っている君に嘘をつくことも選べなかった。」

「ぅう……相澤さん、私もうずっと1人でいないといけないの?」

 

少し冷静になった水穂からやっと言葉が返ってくる。

 

「……君の家族は、確かに亡くなってしまった。水穂ちゃんが悲しくて、怖くなってしまうのも間違いじゃない。けど君がひとりぼっちというのは正しくないと俺は思ってる。」

「なんで!?お父さんも死んじゃって!お母さんもいなくなっちゃったのに!!!」

 

また昂った感情に呼応して水穂の体がじわりと熱を帯びる。

その熱を、もう火傷だらけになってしまった肌で感じ取った相澤は、取っておいた抹消を発動し個性を打ち消す。

 

「水穂ちゃん、大事な人を失う辛さは俺にもわかる。昔、友人を失った時。そりゃ落ち込んだよ。俺なんかよりよっぽどヒーローになるべきやつだった。けどな、それでも俺は今、ヒーローとしてここにいる。」

「……!?意味わかんない!!!」

 

水穂の目から大粒の涙がポロポロと零れ、相澤のヒーロースーツを濡らす。何度も耳元で分からない分からないと叫び、その度に相澤は、強く抱きしめた。

 

「それはな、俺が本当は独りじゃなかったからだよ。友人が、先輩が、先生が、俺の事をヒーローだと、だから折れちゃいけないって信じてくれたから。」

「私にそんな人いないもん!」

「そんなことない、よく思い出してごらん。」

 

もう既にいっぱいいっぱいの水穂は、悲しさも苦しさも通り越して、わけがわからない程心がぐちゃぐちゃで、癇癪を起こしたように泣き叫ぶ。それをまた抱きしめて、震える水穂の頭をゆっくりと撫でる。

 

「………………もしかして相澤さん?」

「その通りだ水穂ちゃん。君のお父さんとお母さんがいなくなってしまったことは辛いことだ。大人だって受け入れるのに時間がかかる。だから俺が側にいる、直師先生だって他の病院の人たちだっていてくれる。まだ君の会ったことない、これから出会う人たちにも、きっと側にいてくれる人がいる。」

 

散々泣いた水穂の目が、また潤む。

 

 

 

 

「水穂、君は独りじゃない。」

 

 

 

どこに水分を隠し持っていたのかと言うほど、ボロボロ泣き続ける水穂を撫でながら、相澤はほぼ壊れかけのインカムを使い、作戦終了の報告と回収の連絡をする。

 

「塚内さん、こちらイレイザーヘッドです。なんとか目標達成しました。もう動けないんで、回収お願いします。」

「あぁ、遠隔だがこっちでも収束したのを確認したよ。よくやった、ありがとう。……回収班に医療班も同行させる。君も水穂ちゃんも酷い怪我だろう、戻るより先に応急処置は必要だ。」

「ありがとうございます。あとお願いがあるんですが、回収班にミッドナイトさんも呼んでください。水穂のやつ、今は元気に泣いてますが、本当は限界のはずです。無理やりにでも寝かせてやった方がいい。手当も寝ながらでも出来ますし。」

「わかった。連絡しておくよ。」

 

通信を切り、深く息を吐く。自分の腕の中では未だに水穂は泣き続けている。

 

──やっと終わったな……。回収班にミッドナイトさんを呼んだのは本音と建前の両方。水穂を寝かせてやりたいのも本心だが、この子が俺に示してくれた道。いい加減、俺も1歩踏み出さなきゃな。

 

 

 

───────

─────

───

 

回収班を呼んでから少しあり、極度の疲労で相澤が若干落ちかけていた頃、ミッドナイトたちが到着する。

 

「お待たせ。あらイレイザーヘッド、随分男前になったわね?」

「ミッドナイトさん、今ツッコミ入れる気力ないんで。早くこの子、眠らせてやってください。」

「相変わらず可愛げっていうのがないわ。」

 

必死に個性の暴走を止めた人に対しての言葉じゃないとは思うが、今にもぶっ倒れそうな相澤にとってはミッドナイトから揶揄われた方が気力が戻る。手早く水穂を個性で眠らせてもらい、彼女を医療班に預け、相澤はミッドナイトに向き直る。

 

「で、私を呼んだのは別にあの子ためだけじゃあないんでしょ?」

「えぇ。」

 

ミッドナイトはこちらの考えを見通していたようで、相澤─イレイザーヘッドの次の言葉を試すように見つめている。これはヒーロー、イレイザーヘッドが踏み出す新しい道。

 

 

 

 

 

 

「雄英で、教鞭を執ろうと思います。」




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