番外編ですが、ネタバレを含んでいるのに読んでいただけていて嬉しいです。ありがとうございます!
半分少女と寮生活1
半分少女のヒーローアカデミア
神野の悪夢と呼ばれる大事件、巨悪オール・フォー・ワンが明るみに出、その打倒と引き換えに日本が平和の象徴を失った日から数日。雄英生は学校側の方針により、全寮制へ移行することとなった。日々激化するヴィランの危険から生徒をより万全な状態で守り、教育するための措置。
保護者の同意が得られた場合となっているが、基本全生徒が入る予定である。当然、ヒーロー科1年A組も入寮の手筈であり、私もその1人だ。なので私は、敵連合に拐われるという被害を受けつつも、ゆっくりする暇もなく自室の荷物を纏めている。
元々、私は雄英の職員寮に住んでいたので、正直言って寮に入っても入らなくてもいいのだが、原則は原則なので名残惜しいがこの家を出ることになった。
相澤さんは今は家庭訪問してる。全寮制の導入に当たって、各生徒の保護者に寮の説明と入寮の同意を得に行かなければならなかったからだ。なのであの人は今は家にいない。
「持って行く物はこれで全部かな。」
ガランとした部屋の広さに驚く。私物が多い方とは思っていなかったが、いざ片付けてしまうとしっかり自分の物で部屋が埋まっていたのだなと思う。両親と過ごした家から持って来れた物はほんの僅かで、ほとんどが相澤さんとの生活で増えていったもの。どれも取るに足らないものだけども、相澤さんが私に与えてくれた大切なものばかりだ。それが部屋いっぱいにあったのだと思うと嬉しくなる。
「でもついに私もこの家を出るのかぁ…………寂しいな。」
さっぱりした部屋の中心で蹲る。学校の方針とは言え、最終的に寮生活を選んだのは自分だ、そっちの方がずっと楽しいだろうと思ったから。それでも、いざ出ていくときが来ると寂しさが勝る。相澤さんに引き取られてから今まで、何年も何年も何年も過ごしてきた。いい思い出も悪い思い出もここには数え切れないほどに詰まっているんだ。
自然と涙で視界が滲む。我ながらこの緩い涙腺が恨めしい。これじゃあ幼い子供と何も変わらない。いくら止めようと努力しても涙が次から次へと溢れていく。とめどなく流れる涙は服へと落ち、一つまた一つと染みを作る。
相澤さんがいない部屋は酷く冷たい。
いつまでそうしていたのか、気づけば日はすっかり落ち、部屋は暗闇で満たされている。涙は止まらない、いい加減切り替えないといけないのに、どうしても動くことが出来なかった。
そんなとき、不意に玄関の戸が開いて誰かが入ってくる気配がする。
……相澤さんだ。
それに気づいた瞬間、今まで少しも動けなかったのが嘘のように私は駆け出していた。思い切り扉を開け、廊下を走り、今まさに家へ上がろうとしてた相澤さんの胸に飛び込んだ。
「おい、どうした……水穂、お前泣いてるのか?」
「〜〜〜!」
相澤さんに顔をグリグリと押し付ける。傍から見たら意味が分からない行動だ、私も意味が分からない。
「……なぁ水穂、よかったら今お前が思ってることを教えてくれないか?ごめんなエスパーじゃないから、水穂が何を思ってそうしてるのか分からないんだ。」
私の頭を撫でながら苦笑しているのか、少し変わったトーンで声をかけてくれる。
「……寂しいです。」
「寂しい、か。」
相澤さんの撫でる手がちょっと強くなった気がした。
「そうだな……雄英に入ってから水穂には寂しい想い、辛い想いをさせてばかりだ。いつもお前が大変なときに側に居てやれない。保護者として、教師として申し訳ないと思ってる。」
「うん……」
「前に俺は水穂がヒーロー科に入ることに消極的だと言った。だけどお前は何度も苦難に対峙して、その全てを乗り越えて見せた。あのオール・フォー・ワンの手からも逃れた。……俺の不甲斐なさを棚に上げてるのは分かってる。が、俺は水穂のその強さを誇りに思うよ。」
……私の強さ。
「だから言わせてくれ……よく無事で帰ってきてくれたな。」
強く、強く抱き留められる。
その体温の温かさを感じたとき、泣き腫らしたと思っていた涙がまた止めどなく流れ出した。
「うぅ……あ、あぁ!……相澤さん!相澤さん!!」
「おかえり、水穂。」
「うん、ただいま。」
胸を満たしていた底の見えない寂しさ。
再び相対したオール・フォー・ワンは何よりも恐ろしかった。今思い出しても身がすくむ。敵連合は私を手篭めにしようと本気だった。捕まっていれば無理やりにでも向こう側に引きずりこまれてた。
帰れないと思った。二度と相澤さんと会えないんじゃないかと思った。
私は喜びたかった、安心したかったんだ。またここに戻って来れたことに。
ただ一言だけ言えればよかった。一番大切な、たった一人の家族に
──ただいま、と。
※ ※ ※
「とりあえず1年A組、みんな無事に集まれて何よりだ。」
雄英に新設された学生寮の前で、相澤先生とA組全員が集合している。今後についての話があるとの事。
先日、ボロボロに泣いてたので、なんか改めて相澤さんを目の前にすると気恥しい……
「みんな、入寮の許可下りたんだな。」
「はぁ、私は苦戦したよ……」
「普通そうだよね。」
「2人はガスで直接被害合ったもんね。」
先日行われた入寮に当たっての許可取りは、概ね了承を得られたが一部の家庭では難航したと聞いた。元々全寮制が始まった発端は、雄英がヴィランの動向に後手に回り続けていたことにある。そこに疑問を持つ両親方は、子供を本当に雄英へ預けても良いものか、相当悩んでいたらしい。
林間合宿が襲撃されたとき、催眠ガスを操るヴィランがいたらしく、その被害を直に受けた葉隠さんは、両親が渋っても仕方ない。
「無事に集まれたのは先生もよ。会見を見た時は、居なくなってしまうのかと思って悲しかったの。」
「うん。」
「え?」
梅雨ちゃん何それ聞いてない……私が知らない間に起こってたアレコレは周りから疎らに聞いたけど、相澤さんがそんなことになってたなんて初耳なんですけど。
……この人、自分のことだからってわざと話さなかったな?
「俺もびっくりさ。まぁ色々あんだろうよ。」
「相澤さん、そういうことはちゃんと話してください。」
「……加山、お前の言わんとしてることはわかるが説明中だ、私語は慎め。」
「…………はい。」
ぷいっと顔を背ける。
私の心配はしてくれるのに、自分のことは隠そうとするなんて狡い。もう知らない!
「はぁ……さて、これから寮について説明するが、その前に1つ。当面は合宿で取得予定だったヒーロー仮免に向けて動いていく。」
「そういや、そのための合宿だったな。」
「色々起こりすぎてて頭から抜けてたわ。」
「大事な話だ、いいか。……切島、八百万、轟、緑谷、飯田、この5名はあの晩、あの場所へ爆豪、加山救出に赴いた。」
クラスの雰囲気がピシリと固まる。しかし当事者以外も動揺こそあれ、5人のやらかしたことに大きな驚きはない。
「その様子だと行くそぶりは、みんなも把握していたわけだ。……色々棚上げした上で言わせてもらうよ。オールマイトの引退がなけりゃ、俺は爆豪、加山、耳郎、葉隠以外の全員を除籍処分にしている。」
誰かが唾を飲んだ音が聞こえた。
相澤先生の除籍数、特に今の2年生を1度全員除籍にしたのはあまりにも有名な話だ。除籍処分にしていた、つまりこの一件は先生が持つヒーロー志望生が絶対に犯してはならないラインを越えたということ。
オールマイトが事実上の引退をしたことで、今後混迷を極めると考えられる日本社会。その平和を維持するヒーローとして有望な人材を手放すわけにはいかないという、特例中の特例な措置。
「行った5人はもちろん。把握しながら止めれなかった12人も理由はどうあれ、俺たちの信用を裏切ったことに変わりはない。正規の手続きを踏み、正規の活躍をして、俺たちの信頼を取り戻してくれるとありがたい。
……以上!中に入るぞ、元気に行こう。」
「「いや、待って、行けないです……」」
消え入りそうな声を絞り出して反応できたのは、瀬呂くんと上鳴くんだけ。
うん、私も無理。相澤先生のガチな説教、「俺たちの信用を裏切った」という言葉は、かなりグサリと来る。被害者側だった私でも苦しくなったくらいだ。誰もそう簡単に切り替えられない。みんな、思い詰めた顔で下を向いている。
……ど、どうしよう。
何とか雰囲気を軽く出来ないかと思案してたとき、爆豪が上鳴くんを引っ掴む。
「来い。」
「えっ!なに?やだ!!!」
2人が植木の裏まで行くと、何をしたのかバチバチと上鳴くんが電気を放つ。
その結果出てきたのは……
「うぇ〜〜い。」
「ブッフ!アハハハ!」
「何?爆豪、何を……」
爆豪が上鳴くんをアホにして帰してきた。あの状態の彼がツボな耳郎さんが吹き出してる。
しかし何の目的で上鳴くんをアホに……?
「おい、切島。」
「え!怖!!なに?カツアゲ!?」
「違ぇ!……俺が下ろした金だ。小遣い叩いたんだろ?」
「……おめぇ、俺が暗視鏡買ったのどこで聞いて。」
何枚かの万札を切島くんに手渡される。今の話を聞くに、あの夜のため暗視鏡を自腹で買ったらしい。私たちの救出のためにそこまでしてくれてたんだ。
「いつまでもしみったれられっと、こっちも気分悪ぃんだ。いつもみてぇにバカさらせや!」
「……素直じゃないなぁ。」
「なんか言ったか?」
「別に〜。」
「チッ!」
上鳴くんをアホにして、切島くんにお金を渡したのは、多分爆豪なりに借りを返す、場の空気を変えようとしたのかな。相変わらずやり方が素直じゃないけど、アイツもアイツで色々思うところはあったんだろう。
「みんな、すまねぇ!詫びにもなんねぇけど、今日はこれで焼肉だああ!」
「マジかー!」
相澤先生の説教で意気消沈していたA組に活気が戻る。爆豪の気遣いは幸をそうしたらしい。
「じゃあ私にも何品か作らせて!料理くらいしか出来ないけど、みんなにありがとうって言いたいから!」
「うぉぉぉ!加山の飯、食えんのか!」
「さいこー!いぇーい!」
何はともあれ、A組再始動だ!
※ ※ ※
「学生寮は1棟1クラス、右が女子で左が男子と分かれてる。ただし、1階は共同スペースだ。食堂、風呂、洗濯などはここで行う。」
寮内に入り、1階から見て回る。結構な広さで、共同スペースはクラスが集まって何かするには絶好の場所だ。
「おぉ〜!」
「中庭もあんじゃん!」
「広っ!きれい!ソファーー!」
「豪邸やないかい!!!」
「麗日くん!!?」
「お茶子さん!?」
A組それぞれが思い思いの場所を見て、その豪華さに目を見張る。お茶子さんなんて豪邸すぎて気絶してしまった。
他の学校の寮を見たことがないので、ハッキリしたことは言えないけど、この学生寮は新築ということを差し引いてもかなり力が入っている。安全のためとは言え、突然に全寮制を敷いたから学校側も学生の不満が出ないようにしてくれたのかな。
将来住むなら、これくらいのところにしたいなぁ。ちょっと大人になってからの夢が増えた。
「聞き間違いかなぁ?風呂洗濯が共同スペース?……夢か!?」
「男女別に決まってるだろ。お前、いい加減にしとけよ。」
「はい……」
峰田くんがまた戯れ言を抜かしてたけど、きっちり相澤先生に釘を刺されてた。ほんとそろそろ自重しないと彼は、性犯罪か未遂で退学になりかねない。
脳内ピンク色の峰田くんは置いておいて、一同は2階に移動する。こっちが学生寮のメイン、生徒一人一人に個室が与えられてるから凄いよね。
「部屋は2階から1フロアに男女各4部屋の5階建て。一人一部屋、エアコン、トイレ、冷蔵庫にクローゼット付きの贅沢空間だ。」
相澤先生の説明を受けながら、これから住むことになる個室を見る。本当に広いし、家電揃ってるしで至れり尽くせりだ。この部屋と同じレベルを用意しようとしたら賃貸でも月何万円かかるか分からない。
「ベランダまである!凄い!」
「我が家のクローゼットと同じくらいですわね。」
「この広さでクローゼットなの八百万さん!?」
「そうですわ。私専用のものだけで3つほどはあります。」
「ブルジョワ!豪邸!」
「麗日くん!!!」
またお茶子さんが気絶してる……そろそろ心配になってきた。にしても八百万さんってほんとお嬢様なんだなぁ。庶民とは生活のレベルが違いすぎる。
「部屋割りはこちらで決めた通り。各自、事前に送ってもらった荷物が部屋に入ってるから、今日はとりあえず部屋作ってろ。明日また今後の動きを説明する。以上、解散!」
『はい!先生!』
解散を言い渡され、各々自分の部屋に散っていく。
私の部屋は2階だったかな?同じ階に人が居ないのは少し寂しいけど、静かに過ごせると思えば悪くないかもしれない。
まずは荷解きからだ、忙しいぞーー!