半分少女のヒーローアカデミア
死ぬほどキツかった圧縮訓練はあっという間に日々を経過させ、ついにやってきた仮免試験当日。私たちは試験会場である国立多古場競技場へ集まっていた。
「うぅ、緊張してきた。」
「はァ……仮免取れっかな?」
「峰田、取れるかじゃない。取ってこい!」
「お、おぉ!もろちんだぜ!」
取れるかじゃなくて、取ってこい。相澤先生も厳しいこと言ってくれる。でもここで躓くわけにもいかないか。
「この仮免試験に合格し、仮免許を取得出来れば、お前ら有精卵は晴れてヒヨっ子、セミプロに孵化できる。頑張ってこい!」
「しゃあ!なってやるぜ、ヒヨっ子によ!」
「いつもの一発決めて行こうぜ!せーの!Plus……」
「ultra!!!」
「え、誰……」
切島くんがPlus ultra の音頭を取ろうとしたら、それに割り込んできた人がいた。雄英じゃない、明らかに他校の人だ。
「勝手に他所様の円陣に入るのは良くないよ、イナサ。」
「あっ!しまった!……どうも大変!失礼いたしましたぁぁ!!!」
「ちょ!頭頭!」
突然乱入してきたと思ったら、すごい勢いで頭を下げてくる。下げすぎて頭が地面に激突してるんだけど……血も出てるし。
A組一同、普通にちょっと引いてます。
「待って!あの制服って……」
「あれか、西の有名な!」
「……東の雄英、西の士傑か。」
「あぁ!雄英と双璧を成すって言う!」
この人たち、かの有名な士傑高校の人か!全国にヒーロー科数あれど、その教育内容、実力において頂点に立つとされるのが、雄英と士傑だ。今回の試験はこことかち合うのか。
「一度言ってみたかったっす!Plus ultra!自分、雄英高校大好きっす!雄英の皆さんと競えるなんて光栄の極みっす!よろしくお願いしまァす!!!」
「もう行くぞ、イナサ。」
な、なんて騒がしい人なんだ……個性派揃いのA組にもここまでの人はいない。濃すぎるよ、士傑高校。
「夜嵐イナサか……」
「知ってるんですか先生?」
「ありゃあ、強いぞ。アイツは昨年度、つまりお前らの年に雄英の推薦入試をトップの成績で合格したにも関わらず、何故かそれを蹴った男だ。」
「え?じゃあ僕らと同じ1年?」
推薦入試トップってことは入学前の時点で、轟くんより実力は上だったということか。相澤先生がハッキリ強いと言い切ってるあたり、相当侮れない相手。もしやり合うことになったとしたら腹括らないとね。
「夜嵐イナサか……雄英大好きって言う割に、入学はしないなんてよくわかんねぇな。」
「ねー、変なのー」
「変だが本物だ、マークしとけ。」
「あれ、イレイザー?イレイザーじゃないか!」
「う……」
「げげ!」
名前の通り嵐のように去っていった夜嵐イナサのあと、相澤先生へ話しかけてくる人物がいる。
あの声は聞き覚えがある。……うわぁ、やっぱり!
「テレビや体育祭で姿は見てたけど!こうして直に会うのは久しぶりだな!おやぁ?君はイレイザーんとこの!大きくなったなー!」
「触んないでください……」
出会い頭に髪をわしゃわしゃされる。髪の毛乱れるからやめて欲しい。そもそも私、この人苦手なんだよね……
「イレイザー!結婚しようぜ!」
「……しない。」
「プハハ!しないのかよ、ウケるーー!」
「相変わらず絡み辛いな、ジョーク。」
これなんだもん。昔から相澤さんとは縁のあるヒーローで、私も何回か会ったことがある。けどその度にジョークなのかなんなのかよくわかんない面倒くさい絡みをしてくる。会う度に2人してげんなりさせられるのだ。
「スマイルヒーロー、Msジョーク!個性は爆笑!近くの人を強制的に笑わせて、思考と行動を鈍らせるんだ!彼女のヴィラン退治は狂気に満ちてるよーー!」
解説ありがとうね、緑谷くん……もうだいぶ疲れてきた。
「私と結婚したら、笑いの絶えない幸せな家庭が築けるんだぞー!君も私がお母さんとか最高だろー?」
「こんなウザイお母さんは願い下げです。」
「お前の場合、笑いの絶えないの意味が全然違うだろ。絶対幸せじゃない。」
「ブハハッ!2人してつれねーー!」
ほんと、ほんとにどっか行って欲しい。なんでよりによってジョークに会うのが今日なんだよ。
「仲がいいんですね?」
「昔、事務所が近くでな!救け救けられを繰り返すうちに相思相愛の仲へと……」
「なってない。」
「捏造しないでください。」
「いいな!その速攻ツッコミ!弄りがいがあるんだよなー、あんたらは!」
ちょっと強制的に口を閉じさせる個性の人とかいない?いや、この際いいや。そこら辺の石でもねじ込んで……
「ジョーク、お前がここにいるってことは。」
「そうそう!おいでみんな!雄英だよ!」
「おお!本物だ!」
「凄いよ凄いよ!テレビで見た人ばっかり!」
「こいつらは傑物学園高校、2年2組。私の受け持ち、よろしくな。」
そう言って現れた傑物学園の人達だ。なんか話変わってジョークに石を食わせる必要はなくなった、チッ!
でも2年生ってことは1つ先輩か。普通、仮免試験受けるのは2年以上だし、当然だね。
ていうかなんで士傑といい傑物といい、こう他校に絡まれるんだ?黒髪モサモサの人はみんなにベタベタベタベタと、心にもないこと言って回ってるし。金髪の女子は轟くんにサイン求めてるし。
何?始める前からダル絡みして、こっちの気力体力を削ろうって魂胆???
「おい!コスチュームに着替えてから説明会だぞ!時間を無駄にするな!」
『はい!!!』
相澤先生がバシッと切ってくれて、やっと私たちは移動できた。
※ ※ ※
各々のコスチュームに着替え、試験会場へと集まる。今年もかなりの人数が受けるみたいで、もう会場はギュウギュウだ。
『えー、では、アレ…仮免のやつをやりまーす。あぁ、僕…ヒーロー公安委員会の目良です。好きな睡眠はノンレム睡眠、よろしく……』
すごくやる気のなさそうな人が出てきちゃった……いや、疲れきってるのかな?どちらにしても大丈夫なのか、この試験。
『仕事忙しくて、ろくに寝れない……人手が足りてない……!眠たい…ッ!そんな心情の下、ご説明させていただきます。』
ヒーロー公安委員会、ブラック過ぎないか……?こんなボロボロの人を駆り出すとは。
『仮免のやつの内容が…ずばり、この場所にいる受験者1541人。一斉に勝ち抜けの演習をやってもらいます。現代はヒーロー飽和社会と言われ、ステイン逮捕以降、ヒーローの在り方に疑問を呈する動きも少なくありません。』
目良さんの言う通り、最近の世間がヒーローに向ける目線は厳しくなりつつある。ヒーローが万能でも完全でもないと疑ってくれるのは悪くない。それが何故こんなにも失敗するのかと、ヒーローに完璧を過剰に求める動きになってるのはあまり健全とは言えないけども。
でもヒーローのミス1つは、何倍にもなって一般市民に影響を及ぼす。民衆が過敏になるのも致し方ないか。
『多くのヒーローが切磋琢磨してきた結果、事件発生から解決までの時間は、引くくらい迅速になっています。君たちは仮免許を取得し、その激流の中に身を投じる。そのスピードに着いていけない者、ハッキリ言って厳しい。……よって試されるはスピード。』
目の前のモニターが点灯する。
『1次試験は、条件達成者のうち先着100名を通過とします』
「100名!?」
「受験者は全員で1541名…合格者は5割と聞いていましたのに!」
「つまり合格者は1割を切る人数という事ね。」
「ますます緊張してきた!」
これは本当に厳しい……100名までということは、この1500人を超える人数を潜り抜けて、上位6.5%より上に行かなければ脱落ということになる。
昨今のヴィラン活性化を見て、ヒーロー公安委員会も基準をかなり引き上げてきてる。これからの時代、ヒーローと成れる者はひと握りにも満たなくなるかもしれない。
『で、その条件というのがこちらです。』
目良さんが取り出したのは、ボールとターゲット。
説明されたルールとしては、まずボール6個とターゲット3つが受験者に配られる。ターゲットは体の晒されているところ三ヶ所に付け、そこにボールが当たると光るという仕組み。自分のが3つ光れば失格、誰かの3つ目を点灯させたら合格条件を満たしていくという感じ。
通過には最低2人でさっきの条件を満たすこと。普通にやってたら一生終わらないから、何か上手く、そして確実に当てる方法を考えないといけない。
『えぇ……じゃあ、展開後にターゲットとボール配るんで。全員に行き渡ってから1分後にスタートします。』
言うが早いか、会場の天井と壁が動いて空が見えていく。全てが開き終わり、私たちが居たのは本当の試験会場、そのど真ん中だった。
「か、金かかってる……」
無駄に大掛かりな会場への驚きと、その無駄に睡眠時間を削られる目良さんの嘆きの中、ボールもターゲットも配られていく。
このターゲットに関しては深く考えても仕方ないし、自分が見やすいかつ動きを制限しないところに付けとけばいいよね。
着々と試験への準備が進み、A組は自然とひとかたまりになっていた。その中、緑谷くんが口を開く。
「みんな!あまり離れず固まって動こう!」
「うん!」
「そうだな!」
「ふざけろ、遠足じゃねぇんだよ!」
「バカ!待て!待て!!!」
仲良し団体行動が嫌いな爆豪は早々に居なくなってしまう。爆豪は強いし、切島くんが着いてるから多分大丈夫だ。
「俺も抜けさせてもらう。大所帯じゃ、かえって力が発揮できねぇ。」
轟くんも行っちゃった……うーん、どうしよう。
……ちょっと心配かも。
「ごめん!私、轟くんのとこ行く!」
「加山さんまで!?」
緑谷くんの声が耳に痛い……悪いことしちゃったかな?あの人数に頭脳派の緑谷くん、八百万さんがいるなら滅多なことはないと思うけど。
とりあえず動き出しちゃったんだし、早いとこ轟くんに合流しないと。
※ ※ ※
「轟くんいないなぁ。」
工業地帯の方に走っていったのは見えたんだけど、場所が入り組んでるせいで、どっちに行ったのか分からなくなった。
キョロキョロと辺りを見回して、彼を探す。もういっそ飛び上がって上から探そうかと思ったとき、紅白ヘアーが角に消えていくのが見えた。
「おーい!轟くーん!」
「……ッ!って加山か、脅かすな。」
「ごめんごめん……おわっとと!」
「……地震?」
唐突に地面が揺れて転けそうになる。でも地震にしては揺れ方変だし、誰かの個性って考えるのが妥当かな?いきなり派手にぶちかます人もいるもんだ。
「つか、お前なんで着いてきた?」
「他校は集団で動くだろうし、さすがに轟くんでも1対多は危ないと思って。」
「そういう事か。元々巻き込まねぇために離れたが、加山なら大丈夫だもんな。」
「ご明察!私は炎も氷も怖くないからね!」
「それはそれでなんか癪だな。」
「ごめんて。」
轟くんの半冷半燃を食らっても大丈夫って言ったらちょっと拗ねてしまった。私は炎に耐性あるし、凍っても自分で溶かせるからっていうただの事実なんだけど、面と向かって言われるのは少し嫌らしい。不服そうな顔になって目を逸らされてしまう。こういうとこ可愛いんだよなぁ。
「はぁ……とりあえず隠れながら動くぞ。他の出方を見て次を決める。」
「了解!」
周囲に目を配りつつ、お互いに離れないように移動する。この工業地帯は入り組んでるから死角が多い、向こうは複数人で来ると思うから気配はすぐ分かりそうだけど、気をつけるに越したことはない。
『だ、脱落者120名!1人で120名を脱落させて通過したぁぁ……!』
放送席の目良さんから驚きの声と共に、通過者が出たことを知らされる。
「もう通過!?」
「120人を一度にか!」
めちゃくちゃぶったまげた。いきなり通過者が出たことにもだし、その過程で100人以上を脱落させて行ったことにもだ。うちからだったら誇らしいけど、そう楽観視出来ない。他校の実力者が鎧袖一触にした可能性だってある。
「今の士傑の夜嵐ってやつかもな。」
「……それあるね。」
「負けてらんねぇな。」
「うん!」
相澤先生はあの時の言葉は、峰田くんだけじゃなくて私たち全員に「取ってこい」と言っていたと思う。それは今のA組の誰もが、この仮免試験を合格するだけの実力はあると考えていてくれてるからだ。自分の夢のためにも、信じてくれてる先生のためにも、仮免試験は絶対に通りたい!
第一通過者の衝撃を振り払い、私たちはステージを駆ける。その間にも20、30と通過者は増えていく。でも焦っちゃいけない、チャンスは必ず訪れる。
ステージ中を走り回るが、やはり少人数の私たちでやりやすそうな相手は、簡単には見つからない。どこも10人単位くらいで動いてる。アイツらがぶつかって消耗してくれれば、そこを漁夫の利できるけど……
『えー、結構状況動いてます。現在の通過者、51…あ、52名来ました。2人以上脱落させた者もいるため、脱落は230名。そして今、53名出ました。あと半分切った、早く!終われ〜〜〜!』
「正直だなぁ……」
あまりにも自分に正直すぎるアナウンスが流れ、苦笑する。今は様子見がてら、物陰に隠れてるところだ。
リミットも近くなってきた、いい加減自分たちから動いた方がいい。そのためには轟くんとどう動くか決めとかないと。
「轟くん、会敵したときの動きだけどさ。」
「なんだ?そろそろ悠長してられなくなってきたが。」
「上手く行くかは、状況次第なんだけどね……」
さっき考えてた作戦を伝える。内容はこうだ。
他校に会ったら私が一旦上に退避して、人数と伏兵の有無を確認する。危険がないと判断出来たら、水流で一気に雨を降らして濡らす。向こうはただの水かなんて分からないから、動揺して動きが鈍るはずだ。それを合図に轟くんが大規模氷結を撃って、相手を行動不能にする。そしたらあとはボールを投げずともクリアできるという寸法だ。
「という感じなんだけど。」
「俺の方は問題ねぇ。デケェ氷結撃っても全部埋めずに凍らせられると思う。」
「OK、任せたよ。」
「あぁ。だが、加山の方はそんな器用に行けんのか?飛んでるのは訓練んとき見たが、あれって纏炎ってやつ使わねぇと無理なんだろ?」
「そこは大丈夫、使い分けできるように練習したから。……信じて。」
轟くんの目をじっと見つめる。圧縮訓練では自分に手一杯だったからお互いの実力を把握しきれてない。この作戦は轟くんとの信頼関係が重要だ。
一瞬の間の後、彼は少し笑って口を開いた。
「当たり前だろ。」
「良かった。じゃあ行こうか!」
「1次試験、絶対合格するぞ!」
「おうともさ!」
拳をコツンと合わせる。
よっしゃあ!やってやろうじゃんか!
※ ※ ※
物陰から出て、再び工業地帯を移動し始める。そんな私たちを待ってましたとばかりにボールが飛んできた。
「来たか!飛べッ!!!」
「……ッ!」
瞬時に纏炎状態となって上空に上がり、その場へ留まる。今の状態は下半身だけに炎を纏ってると言うのがミソだ。
「さすがは雄英体育祭3位、轟くんだっけ?しっかし、仲間を逃がして1人残るなんてすごいねぇ、余裕ありまくり。」
「でもさ、いくら雄英って言っても1人はマズイっしょ。」
「1対10だよ、どうすんの?」
「助かる、探す手間が省けた。」
仕掛けてきた相手との応酬が始まる。向こうは私が完全に逃げたと思ってるらしい、好都合だ。
周囲一帯を見渡す。あの特徴的なコスチュームは誠刃高校かな?あっちは轟くんに見えてるので全部か。特に伏兵が居たりはしない、その他の学校も見当たらない。
……作戦通り!
手のひらで水蒸気爆発を起こして、体へ一気に回転を加える。回転数が最高潮になったとき、個性使用を水へと切り替える。
相手に満遍なく水を被らせられるよう、水圧と水量を限界まで高めて……
放つ!!!
「いくら雄英生だからって単独行動なんて……あ、雨!?」
「なんだこりゃ!」
「雄英に溶解液出せるヤツいたよな!??」
「やべぇ溶かされちまう!」
作戦成功!誠刃高校のやつらはパニックを起こしてる。快晴のはずなのに降ってきた雨、そりゃ普通の水とは思わないよね?私は向こうから見たら一瞬で逃げた、姿をよく見る暇もなかったはず。当然、この雨の出処も分からない。
「轟くん!!!」
「お前の読み通りか……行けッ!」
突然の雨に気を取られた一瞬、轟くんの氷結によって誠刃高校の面々は氷漬けとなった。私の水流でずぶ濡れになってるし、この氷結は特に効いたはず。
地上に降り立ち、状況を確認する。上から見た通り、アイツはもう動けそうにない。
「よっと!上手くいったね、轟くん!」
「みたいだな。お前と組んで正解だった。」
「それほどでも……あー、ずぶ濡れになっちゃったか。ごめんね?」
「気にすんな。自分で乾かせる。」
作戦の過程で轟くんをびしょ濡れにしちゃったけど、気にしてないみたいでよかった。
自分たちのボールを取り出し、誠刃高校生に近づく。これを当てれば晴れて1次試験通過だ。
「悪いな、落ちるわけにはいかねぇんだ。」
「私も同じく。」
「て、てめぇら!」
『あ、寝てた……おぉ!追加で2名通過!4名脱落です!!!』
私たちは通過できた。あとのA組がみんな通ることを祈ろう。