半分少女のヒーローアカデミア
仮免試験を終えた日の夜のこと。一学期と夏休みの全てを賭けた激動の一日は、それはもう大変だったし疲れた。人生で最も緊張した瞬間を更新したと言える。合格したことは舞い上がるほど嬉しくて、試験後に相澤さんと合流したときは人目もはばからず、執拗いくらいに仮免許を見せまくった。
相澤さんは一応ちゃんと褒めてくれたけど周りの視線を指摘されて、私は茹でダコみたいに真っ赤になってしまった。あの後、寮に帰るまでみんなの目が生暖かいものだったのを覚えてる。
今後そのことをいじってきた奴は許さないぞ……
今はちょうどお風呂上がり、熱い湯が酷使した体に染み渡って大変気持ちよかった。
「ふぃ〜、いいお湯でした。」
時刻は既に12時近い。明日からは通常の授業が始まるので、みんな部屋に引っ込んだし、多分ほとんどの人が床に就いている。
私も夜更かししない派なので、さっさとベッドに飛び込みたいところだ。
「おい。」
「ん?なんだ、かっちゃんか。」
冷房の効いた廊下を堪能しながら歩いていると、いきなり爆豪に呼び止められた。偶然ばったりという感じじゃないし、もしかして待ってた?
「なんか用事?……まさか覗き?やめときなよ、峰田くんじゃあるまいし。」
「茶化すな。マジの話だ。」
「む……」
いつものノリでふざけてみたけど、今はそういう場面じゃなかったらしい。こっちとしては何も身構えることなんてなかったから流してたが、爆豪の顔つきは真剣そのものだった。
……これは私も真面目モードに切り替えるか。
「……デクとオールマイト、オール・フォー・ワン、そしてクソメッシュ、関係してること洗いざらい話せ。」
「直球で来るなぁ。」
ほんとにマジの話じゃん。
この手の展開になるのは、これで3度目になるか。内容に差はあれど轟くん、緑谷くん、そして今度は爆豪だ。正直、いつかこういうことになるとは思ってた。爆豪は切れ者だ、観察力も洞察力も高い。手元にある情報から核心に至ってしまうのは時間の問題だった。
その爆豪が私に真剣な話をしに来た。下手に誤魔化すのは無理だし、それで彼を傷つけたくもない。と言っても私の口から出せる情報にも限りがある。多少は探らせてもらおう。
「実際、爆豪はどこまで察しがついてる?」
「デクの個性、オールマイトとオール・フォー・ワンの関係、そこにテメェが噛んでるってことだ。」
「なるほどなるほど。」
──こっっわ!ほぼ全部見抜いてんじゃん。
狼狽えた内心を努めて顔に出さないよう抑え込む。コイツ頭良いからなぁとは思ってたけど、ここまでわかってたか。まぁ幼なじみと憧れの人の話だから、真面目に考えもするよね。
「で、どうなんだ。」
「うん、まず言わせてもらうと緑谷くんとオールマイトのことについては話せない。ほとんど答え合わせの状態だろうけど、私の口からは無理。」
「チッ、そうかよ。」
「ごめん。……ただ、私のことに関してなら話せる。」
彼の目を見つめ返して言い添える、「何故、私が関係してると考えたのか」と。
「神野で捕まったとき、テメェだけはオール・フォー・ワンのとこに連れてかれた。」
「そうだね。目的は勧誘だったらしいけど。」
「だろうな。だが、それだと理屈が通らねぇ。」
「理屈?」
「俺と加山、別々にする意味がねぇだろうが。」
それはそうだ。私たちを勧誘したいなら、最初から一緒に居させた方が手っ取り早い。黒霧がいるから移動は楽だろうけど、仲間に引き入れることがそもそもの目的だ。私をオール・フォー・ワンに任せるとしたら、個性的にも確実性の高いアイツに2人ともやらせた方がいい。
「死柄木は徹頭徹尾、俺にしか関心がなかった。手間かけてテメェも攫ったくせにだ。なら、分けられたことも考えて、加山に興味があったのはオール・フォー・ワンだってなるのが妥当だろ。」
「そういうこと……じゃあ興味の理由は?」
「んなもん個性絡みしかねぇ。……半水半燃、本当にテメェのもんか?」
「………」
はぁ〜〜〜、気づかれてるって分かってたけど、いざ言い当てられると気分の良いものじゃないな、これ。3回目だし、もう慣れたなんて勘違いも甚だしい。でも私が話をするって判断したんだ、ここで引き下がるわけにもいかない。
少し呼吸を整えて、意を決する。
「正解だよ、爆豪。私は脳無、その実験作ってところかな。」
「脳無だァ?」
「そう、私の炎は元々、私のじゃないんだ。」
しかめっ面だった爆豪の表情がさらに険しくなる。まぁ、胸糞悪いかもしれないけど聞いてもらうよ。先に話を聞きたがったのは爆豪なんだから、最後まで付き合って欲しい。
「どこから話そうかな……」
※ ※ ※
「とまぁ、私の半生はこんな感じ。」
やっと話し終えた。私の幼少期、誘拐されてオール・フォー・ワンに個性を与えられてからの治療生活。そして今に至るまでの全部だ。
緊張で全身が汗ばんでる。爆豪は……どうだろう?冷や汗1つかいてないな。話してる間もしかめっ面のまま、眉すら動かさなかったし。普通の高校生に話すにはだいぶ嫌な内容だった思うけど、相変わらずのクソ度胸だな。
「私が目をつけられた理由、納得できた?」
「まぁな。テメェが惜しくなったオール・フォー・ワンは接触してきたって話だろ。」
「そのまんまのこと言われたよ。ほんとかっちゃんは察しが良いなぁ〜」
「………」
「何さ、ジッと見つめて。」
「なんでもねぇ振りしてヘラヘラすんな。……気色悪ぃんだよ。」
「………はぁぁぁ、ずるいなぁそういうとこ。」
「顔真っ青で言われたら誰でも分かるわ、アホが。」
ちょっと爆豪の顔が見れない。感情を表情には出さないように頑張ってたつもりだったけどバレバレだったか。変に意地張るもんじゃないね。
私が明後日の方を見てると、爆豪が話を続ける。
「テメェが雨ん時、調子悪いのも昔のことが原因なんだろ?」
「うそ…気づいてたの?」
「たりめぇだ、舐めんな。それと、」
「それと?」
「中学で、加山が実験どうこうって話したことあったろ。」
「あー、あったね。」
「アレ、作り話って決めつけて………悪かったな。」
「????」
え???爆豪、今なんて言った?もしかして悪かったなって謝った?マジで?
うわぁ、本当に申し訳なさそうな顔してる……爆豪ってそんな顔できたんだ。なんか嫌な気分だったのが一気に吹き飛んでしまった。ていうか……
「ぷふっ!なにそれ、かっちゃんらしくもない。」
「あぁ?笑ってんじゃねぇよボケッ!」
「ごめんごめん!茶化すつもりはなかったんだけど、ちょっと意外でさ。……うん、それは受け取るよ。」
「チッ!」
「やっぱりかっちゃんはそっちの方が、君らしいよ。」
「うっせぇ!」
はー、びっくりした。爆豪が謝るなんて思ってもみなかったんだもん。うっかり笑っちゃったけど、キレてる爆豪に戻ってくれたから良いか。こういう爆豪の方が安心する。
「私から話せることはこれで全部だけど、爆豪はどうするの?」
「あとはデクに直接聞くからいい。」
「まさか今から?」
「文句あるかよ。」
「2人の話だから文句はないよ……ただ、喧嘩とかにならないかなぁって。」
「それは俺が決める。」
「えぇ……」
大丈夫かな?めちゃくちゃ不安になってきた。最初の戦闘訓練を思い出して背筋がゾワゾワする。考えれば今になって緑谷くんの秘密に迫るの、気づいたからってだけじゃなさそうで怖いな。喧嘩になっても爆豪は慎重派だし、緑谷くんも力つけてるし、大怪我にはならないとは思う。
でもあとが怖いんだよねぇ。何が怖いって相澤先生がだよ。バレたら反省文とかじゃ済まない。止めたいけど、私が止めてなんとかなる話じゃないし……
「個性の話するなら、万一にも誰かに聞かれないよう外だよね?」
「着いてくんじゃねぇぞ。」
「行かないよ。寮を抜け出すのも先生には黙っとく。でも本当に喧嘩はダメだよ?」
「指図すんな。」
「はぁ……」
すっごく不安だし、絶対大変なことになるけど、ここはグッと堪えて目を瞑ろう。これってある意味、爆豪から緑谷くんへの歩み寄りだと思ってる。ずっと緑谷くんを見下すか、目障りな相手だって距離を置いてた彼が、あえて近づこうとしてる。なら中学から彼らを知る者としては、見守ってあげたい。
喧嘩はして欲しくないなぁ、うん……
※ ※ ※
その日は2人の心配をしながら床に就いたんだけど、翌日になって蓋を開けてみれば。
「喧嘩して!?」
「謹慎!?」
「バカじゃん!」
「ナンセンス!」
「バカかよ!」
「愚の骨頂……」
朝の始業式前、黙々と共有スペースを清掃してる爆豪と緑谷くん。結局、2人は昨晩バチバチに喧嘩してしまって、相澤先生から謹慎を食らってしまったらしい。その話は光の速さでA組内に知れ渡り、今はみんなからボロボロに言われてる。
私も起きてすぐに喧嘩したことを知って、最悪の目覚めだった。一瞬で眠気吹き飛んだけどさ。さすがに罪悪感で、爆豪を止められなかったことを相澤先生に白状した。激渋な顔をしてたけど、2人で叱り疲れたのか厳重注意で済んだ。ただ今度似たようなことが起きそうになって、それを知りながら事前に相談しなかったら覚悟しとけとは言われた。……すみませんでした。
「それで仲直りしたの?」
「仲直りっていうものでも……言語化が難しい。」
「よく謹慎で済んだものだ!ではこれからの始業式は君ら欠席だな!」
「爆豪、仮免の補習どうすんだ?」
「うるせぇ!テメェには関係ねぇだろ!!!」
爆豪はただでさえカンカンなんだから火に油を注いじゃだめだよ、轟くん。でもまぁ私も爆豪には言いたいことはある。
「爆豪、ちょっと来て。」
「んだよ。」
「……ほいっ!」
「ってぇ!何しやがる!」
おぉ、当たった。
バチンと額にデコピンしてやった。戦闘中くらい集中して本気でやったから一瞬反応出来なかったらしい。多分避けられると思ってたから意外だ。
「喧嘩しないでって言ったよね?大怪我したらどうすんの。」
「うぜぇな。俺がデクにやられるかよ。」
「だとしても!仮免のやつもあるんだから、無駄な怪我して困るのは爆豪じゃん。」
「黙れや!テメェは俺の親かよ!」
「親じゃなくても心配くらいするよ。友達なんだし。」
「キメェな。」
「この野郎……」
喧嘩しても謹慎食らっても大人しくなったりはしないのか。こっちは真面目に心配してるのに。でも怪我こそは心配だったけど、表情は幾分良くなってる。言いたいこと言えたらしい。
「まぁいいや。……すっきりした?爆豪。」
「……多少はな。」
「なら良し!さっさと仮免取って追いついて来てね。先で待ってるから。」
「こんくらいで俺を抜かしたつもりとか良い度胸じゃねぇか。その伸びた鼻、へし折ってやるから楽しみにしとけ。」
「うん、楽しみにしとく。」
掃除頑張ってねーと言って寮を出る。めちゃくちゃ不満そうな声が聞こえたけど、気にしない気にしない。
帰ったら綺麗になってるか確認してやろうかな?私の基準は厳しいぞ。あーでも爆豪、掃除も隅から隅までやるタイプだろうし、やり残しはないか。
※ ※ ※
始業式はグラウンドでやるらしいので、私たちは昇降口に向かって一列になって進んでる。飯田くんが張り切って列整理してるのだ。瀬呂くんに自分が列を乱してることを指摘されてグヌヌってやってた。飯田くんは定期的に張り切りすぎて空回る。それが見られると二学期始まったなって気がするのは私だけかな?
そろそろ昇降口に着く頃だと思ったら見覚えのある人が1人。
「聞いたよA組ィィ……」
はぁ……
「2名!!!仮免落ちが2名も出たんだってええええ!??」
「B組物間!」
「またお前か。」
「相変わらずイカれてやがる……!」
B組に住む妖怪、物間寧人が現れた。事ある毎にA組に絡んで来るし煽ってくるし鬱陶しいことこの上ない。あの人を煽らずにはいられない性格はなんとかならないんだろうか。
「さてはまたオメェだけ落ちたな?期末試験時みたいに。」
「……ハハハハハッ!こちとら全員合格!水があいたねA組?」
「へぇ、普通に凄いじゃん。おめでとう。」
「ま、まぁ、こっちの実力が発揮出来れば仮免試験なんて大したことなかったねぇ。」
素直に称賛したら物間の調子が狂った。言い返されるもんだと思ってたのに肩透かしくらったってか?煽って来たのはめちゃくちゃウザイけど、全員受かってるのは手放しで凄いと思う。やるなぁB組、負けてらんないぜ。
あとはいつも通り余計なことをした物間が拳藤さんに絞められて終わった。毎日お疲れ様です。
始業式前から嫌なもの見てしまったが、全校生徒も揃っていよいよ始業式が始まる。
始まったんだけど……
「クソ長い……」
根津校長の話がやたら長い。校長先生の話って長くないといけない決まりでもあるのか?髪の毛の質とかどうでもいい〜って思ってたら今度は急に真面目な話になった。
夏休みに起きた平和の象徴の引退、それに伴う社会情勢の変化は劇的なものになっていくだろうと。ヒーロー科、その中でもヒーローインターンは影響を特に受けるから気をつけなさいと。大人たちは悪くなりかけている流れを変えようと頑張っている。私たち学生は皆、社会の後継者だからそれを受け継いで発展させられるように頑張って欲しいって話だった。
なんだか私たちを子供じゃなくて、次の大人として見てくれてるのが嬉しい。校長先生の話で少し身の引き締まる思いだ。仮免で浮かれてる場合じゃない。
「それでは最後にいくつか注意事項を。生活指導、ハウンドドッグ先生から。」
根津校長の番が終わり、次にハウンドドッグ先生が登壇する。
「グルルル……昨日、グルルル……ルルル!寮の!グルルル!バウワウ!慣れ!グルルル!生活!アオオオオン!!!!」
なんか話し始めたけど我を失って遠吠えして帰ってった……
ハウンドドッグ先生って興奮すると犬語になっちゃうんだよね。何かのときにたまたまブチギレてる先生と出会って泣かされたことある。食い殺されるかと思った。
人語を喪失したハウンドドッグ先生に代わりブラドキング先生が出てくる。
「えっと……昨晩、喧嘩した生徒がいました。慣れない寮生活ではありますが、節度を持って生活しましょうとのお話でした。」
あ、はい。爆豪と緑谷くんの話だろうね。
あのハウンドドッグ先生を初めて見たA組もドン引きしてる。分かる、意味分かんなくなるよね。
「それでは、3年生から教室に戻るように。」
そうブラドキング先生が締めくくって二学期の始業式は終わりを告げた。
※ ※ ※
「じゃあまぁ、今日からまた通常通り授業を続けていく。かつてないほど色々あったが、切り替えて学生の本分を全うするように。今日は座学のみだが後期はより厳しい訓練になっていくからな。」
始業式を終えてホームルームの時間、相澤先生からは当たり障りのない話を頂いた。普通に怠けず油断せず頑張れよって話だ。三奈さんが「話ないね」とか言って睨まれてた。
「ごめんなさい、いいかしら先生。さっき始業式でお話に出たヒーローインターンってどういうものか聞かせてもらえないかしら?」
「そういや校長が言ってたな。」
「先輩方が多く取り組んでいらっしゃるとか……」
そういえば根津校長、そんな話してたな。ヒーローインターンって言われると私としてはエンデヴァーの話を思い出すけど……
「それについては後日やるつもりだったが……そうだな、先に言っておく方が合理的か。平たく言うと郊外でのヒーロー活動、以前行ったプロヒーローの下での職場体験、その本格版だ。」
「ん?…………じゃあ体育祭の頑張りはなんだったんですか!!?」
「確かにインターンがあるなら体育祭でスカウトを頂かなくても道が開けるか?」
へぇーって顔をしてたお茶子さんがいきなり大声を上げる。彼女、体育祭はすんごく頑張ってたから職場体験のスカウト無しでもプロヒーローのところに行けるなら体育祭の努力はどうなるんですかと言いたいらしい。
「ヒーローインターンは体育祭の得たスカウトをコネクションとして使うんだ。これは授業ではなく、生徒の任意で行う活動だ。むしろ体育祭で指名を貰えなかった者は活動自体が難しいんだよ。元々が各事務所が募集する形だったが、雄英生の引き入れのためにイザコザが多発しこのような形になったそうだ。」
後半のは知らなかった。優秀な人材の囲い込みっていうのはどこでも起きることだ。それ自体は悪くないけど、そのために強引な手段やグレーな手を使う人があまりにも多かったんだろう。雄英出身は頭1つ抜けた人もたくさんいる。でもその奪い合いに躍起になって、士傑や傑物のような他校にいる優れた人材へ目が向けられないのは健全とは言えない。
事情は分かるが、そのせいで今の世代に開かれてる選択肢が狭まっているのは勘弁願いたい。
「仮免を取得したことでより本格的、長期的に活動へ加担できる。ただ1年生での仮免取得はあまり例がないこと、ヴィランの活性化も相まってお前らの参加は慎重に考えてるのが現状だ。」
インターンやれるかどうかわかんないんだ。それもそうか、仮免許を取ったのは自衛手段としての面も大きい、緊急時に限り個性使用が許されるからだ。だから仮免あるからってインターンに行っていいよとはならないわけね。
「まぁ、体験談も含め、後日ちゃんとした説明と今後の方針を話す。こっちも都合があるんでな。」
都合か、雄英としては生徒を鍛えるためにインターンに行かせたい先生と危険すぎるから今は早いっていう先生で割れてそう。全部無しってことにはならないと思うから条件付きでインターンにも許可が降りるかもしれない。
インターンに行けるとなったら、やっぱりエンデヴァーのところかな?前にもインターンでまた来ていいって言ってたし。抜け駆けのようで轟くんには悪いけど。
ヒーローインターン、やってみたいな。
「……あれ?そういえば。」
エンデヴァーの教育権、私たちのせいで停止してなかったっけ?