半分少女のヒーローアカデミア   作:Akafuku2000

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原作で弄られるかっちゃんが大好きなので、折寺に入れました。許して


雄英編
半分少女と今


半分少女のヒーローアカデミア

 

 

止む気配のなさそうだった雨空も今日は良く晴れている。カラリと晴れる空を見上げていた視線を自分の部屋に戻し、一つため息をついた。

 

両親の死を知ってからもう7年近く経つ。あの日、お母さんが亡くなったことを告げられたとき、個性を派手にぶっぱなして、周りにご迷惑をかけたらしい。個性使用の反動やら火傷やらで、治すのに時間がかかったのは覚えてる。

 

親を失い、頼れる親戚もいなかった私には、退院後の行き先が養護施設くらいしかなかったが、ある人が保護者に名乗り出てくれたおかげでなんとかなっている。長らくお世話になった病院も随分前に退院して、今は保護者の住む職員寮で居候中だ。

 

「さ、て、と!いい加減、寝坊助な不摂生さんを起こしますか。」

 

自室からキッチンに向かい、昨日仕込んでおいた朝食を手早く用意する。朝食を食卓に並べた後、もう1つある部屋に移動して大袈裟に扉を開ける。一瞬聞こえたうめき声を無視して、締め切られたカーテンも全開にして部屋に光を入れれば残りは掛け毛布をひっぺがすだけ。

 

「よっこい、せ!はーい起きてくださーい。朝ですよ。」

「うぉぉ……あと5分。」

 

毛布を剥がされ、モゾモゾと枕に顔を埋めて無駄な抵抗を試みる姿にピキリとくる。この手の格闘に私が何年付き合ってきたと?敗北は、ない。

 

「起きてくれないとご飯冷めちゃうんで早くしてください。あと5秒で起きないと、お昼も夕飯も作ってあげませんよ。」

「いい……いつものがある」

 

ふーん、そういうこと言っちゃうんだ。

 

「…………いいんですよ?炊事洗濯、掃除までしてる私を敵に回すなら。お気に入りのゼリーは片っ端から捨ててやりますし、掃除洗濯も私の分しかやりませーん。」

 

起きてるのに寝言を言われるので、必殺あんたの世話しないぞ宣言をぶち当てる。いい年して嫌々するのがピタリと止んで、ゆっくりと起き上がり始めた。

 

ふっ……効果抜群。

 

「悪かった勘弁してくれ……おはよう水穂。」

「特別に許してあげましょう。おはようございます、『相澤さん』」

 

先に顔洗ってきてくださいと、まだ起ききらない相澤さんの背中を洗面所まで押していき、その間に私も身支度を整える。

 

そう、治療が終わったあと家族がいなくなった私を引き取ってくれたのは相澤さんだった。この人との新生活はてんてこ舞いで、大変なことも多かったが。

 

……主に生活力の面で。

 

結果、病み上がりかつ幼いながらにして、卓越した生活力を身につけることになってしまったが、それでも身寄りのない私に不自由ない暮らしと十分な教育を受けさせてくれたのは、相澤さんだ、そのことは凄く感謝してる。もし困り事があっても相澤さん以外にも助けてくれる人がいて、時たま苦労がありつつも人並みに生きてこれた。

 

「あ、相澤さん、もう用意できてるので来てください。早くいただきますしましょう。」

 

洗面所から戻ってきた相澤さんに早く席につくよう声をかける。お互いに手を合わせ、朝食を食べ始める。

 

黙々と食べ進める中、相澤さんの顔を見る。相変わらずこの人は目付きがよろしくない、寝起きの時と差程変わってないとは……

 

「水穂、今日は学校が終わったらまっすぐ帰ってこれるか?個性の制御具合を見ておきたい。」

「わかりました。今日は特に何も無いからすぐ帰ってくる。……訓練のあと私からも話、いい?」

「?あぁ、いいよ。」

 

病院での治療を終えてからも、個性の制御と鍛錬のために相澤さんとは定期的に訓練してる。私はあまり覚えてないが、昔は暴走させがちだった炎も制御はもちろん、体も合ってきたので出しすぎなければ火傷しなくなった。記憶のある限りでも、うっかり物を燃やしたり、緩んだ水の個性でびしょ濡れになったりもしたが、訓練し続けて7年も経てば、自分の限界も分かって日常生活を問題なく送れている。

 

 

 

 

 

私が私になって、7年。もう15歳になった、そろそろ進路を決めなくちゃいけない。

 

* * *

 

少し早めの時間に登校した私は、まだ誰もいない教室で1人、椅子を揺らしながら手元のプリントを眺める。

 

「進路希望ねぇ〜。まぁ私としては決まってるんだけど」

 

自分の教室に向かう途中、偶然進路希望の先生とすれ違い進路希望早め出せよーっと声をかけられたのだ。別に私の提出が遅れてるとかじゃなく、提出物はできるだけ早く集まって欲しい先生からの呼びかけだが。

 

とっくに希望は決まってる。雄英高校、トップヒーローを輩出し続ける名門校、そのヒーロー科。なりたいんだ父のようなヒーローに、私を救ってくれたヒーローのように。

 

「ま、相澤さんのOK出るか次第だけども。」

 

自分が微妙な立ち位置で、個性の扱いも頭を苛む記憶も不安がなくなっているわけじゃない。それをよく知ってる相澤さんを説得できるかは……私の頑張り次第かな。

 

取り留めもなく考え事をしていると教室の戸が乱暴に引かれ、ズカズカと人が入ってくる。

 

「あ?なんでクソメッシュがいンだよ。」

「お、かっちゃーん。今日も早いね。」

「気色悪ぃ呼び方すんじゃねェッ!」

 

静かな朝をぶち壊しながら入ってきたのは、私の通う折寺中学校の番長的立ち位置の男、爆豪勝己。同じクラスなのだから教室にいるのは当たり前なのに何故かキレられる。悪態のお返しとばかりに、かっちゃん呼びするのは私のルーティンだ。

 

クソがッ!と悪態つきながら自分の席に座り、彼は参考書を広げ、カリカリと勉強を始める。

 

性格と口調はクソ悪いがなんでもできる才能マンな彼とは、中一からの付き合いだ。最初は特に接点もなかったが、どこから聞きつけたのか私が水と炎の強個性だと知った彼は、やたらと突っかかって来るようになった。まぁ話を聞くに、自分の個性『爆破』に自信を持っていたところ、世にも珍しいハイブリッド個性な私が現れたのが気に入らないらしい。

 

相澤さんの友人である山田さんも騒がしい人だが、あの人とはまた別ベクトルな喧しさを持ってる。私の周りにいないタイプで、揶揄うと元気に返事してくれるので大変楽しい。

 

プラプラ揺らしていた椅子を戻し、もう少し揶揄ってやろうと勉強中の爆豪に近づく。

 

「かっちゃん、その解答間違ってるよ。教えたげよっか?」

「あぁ!?だぁってろ!言われンでもわかるわ!」

 

─おぉ、すご……その目どうなってるのかっちゃん。

 

解いている数学の問題に誤りがあったので、指摘してやると予想通り目を釣り上げてギャンギャン怒ってくる。

 

……面白い。

 

「えーー、本当?前も似た問題で間違ってたよね?実はこの応用苦手なんじゃないのーかっちゃーん。」

「わかるつってんだろカスがッ!てか、かっちゃん言うなやクソメッシュ!」

 

前に間違えていたことを指摘し、火に油を注ぐ。その後もウザ絡みし続け、HRまで彼との楽しいひとときを過ごした。

 

ちなみに私の煽りと爆豪のキレ芸は、うちのクラスの名物である。

 

* * *

 

HRが始まると担任の先生が、そろそろ進路考えろよーと話始め、教室がにわかに盛り上がる。今の個性社会で誰もが憧れるのは、やはりヒーローだ。みんながそれぞれの個性を見せびらかして騒ぐ中、爆豪は唯一の雄英圏内がどうとかと当然見下し丸出しの発言をかまし、ブーイングが飛ぶ。

 

「あのオールマイトをも超え、俺はトップヒーローとなり!高額納税者ランキングに名を刻むのだ!!!」

 

机に立ち上がった爆豪が謎に高らかに謎宣言をしてるのをボケーっと眺める。

 

──オールマイトを超えるのはトップヒーローみんなの目指すところだけど……高額納税者って英雄の座を勝ち取ってやることがそれなの……?

 

「トップヒーローになるなら高額納税者ランキングよりやることあるんじゃない?ほら、犯罪発生率撲滅とか?オールマイト超えるならそれくらいじゃないとねーかっちゃん。」

 

うっかりこぼれた私の声に、湧き上がっていたクラスに一瞬で沈黙が戻る。

 

──やっば、いらんこと言ったなこれ。……当のかっちゃんは──うひょーこりゃ不味い。青筋ピクピクじゃんか。高血圧は体に良くないよー。

 

「てっめぇ!しょうもねぇ口挟んでンじゃねぇよ!てかいい加減かっちゃん言うのやめろや!クソメッシュ!!!」

「いや〜唯一の雄英圏内ってのが聞き捨てならなくってさ〜。ほら、私も雄英志望だし、成績優秀だし?」

「〜〜!ぶっ殺す!!!!」

 

手のひらで小爆発を起こし、今にも掴みかからんとする爆豪を見て、思わず逃走を考える。いや、命大事なんで。窓から飛んでも個性で着地できますので、私。

 

 

 

 

「そういや、緑谷も雄英志望だったな。」

 

いつもの漫才を繰り広げる私たちを意に介することなく、先生が言葉を続けた時、また教室が静まり返る。起爆3秒前だった爆豪まで石のように固まっていた。

 

「「「ブゥーーーー!」」」

 

静かだった教室に割れたような笑い声が木霊する。笑いの対象、緑谷くん。別に彼の雄英志望が特段おかしいというわけじゃない。

 

ただ彼は──無個性

 

この時代において珍しい体質の持ち主だ。

 

──あぁ、この空気嫌だなぁ。冗談でも本気でもヒーローになりたいって人が、事情はどうあれ人の夢を笑っちゃうのはどうなのよ……。ワケありとはいえ、いわゆる強個性な私も何も言えないけど。

 

緑谷くんの雄英志望が余程耳に触ったらしい爆豪は、彼の目の前で爆破し壁際まで追い詰め、詰る。

 

──無個性に何が出来る、か。爆豪の言うことは正しいと思う、個性蔓延る現代で犯罪者の用いる手段もやっぱり個性だ。個性に対応できるのは個性だけ……って言うこともないけど、個性犯罪の最前線で戦うヒーローに、無個性であるというのは凄まじいハンデなのは疑いようがない。

 

でも緑谷くんの前例がないだけ、やってみなくちゃ分からないっていうのも凄く同意できる。ヒーローに優れた個性は重要、けどきっとそれだけじゃない。あれだけ悪意に晒される戦場で人を守れるヒーローには、絶対救いの手を離さない意思とか、困難を打ち破る覚悟とかが要ると思う。だから、どれだけ馬鹿にされても貶されてもヒーローを語ることを辞めない緑谷くんは結構好きだ。

 

なので私は彼には、全力で肩入れする。

 

「ストーーーップ!かっちゃん!やりすぎだって。」

「か、加山さん!?」

「チッ!またお前かよ。やりすぎも何もねぇよ。オレァ、このクソナードに現実ってのを教えてやってるだけだ。」

 

緑谷くんと爆豪の間に割って入り、爆豪の両肩を掴んで止める。本人としては良いところを邪魔され、非常にシラケた顔をしてるがスルーだ。

 

「現実かぁ。……かっちゃん、というかみんなはさ、やっぱりオールマイトが憧れだよね?テレビでヴィランをバッタバッタと倒していくのはかっこいいもんね。」

「あ?ったりめぇだろ。それがNo.1たる所以だろうが。」

「うんうん、私もそう思うよ。けどね、」

 

爆豪を初め、何言ってんだこいつというクラスメイトの目から少しも逸らさず言葉を続ける。思い出すのは、あのクソッタレな実験、苦々しい闘病の日々だ。

 

「本当に怖い悪は滅多に表へ出てこない。そういうのは隠れ潜んで私欲を満たしてる。……気まぐれで攫ってきた子供に普通なら死ぬような実験を面白半分で施して笑ってる。仮に救かっても地獄のような治療生活を強いられる。」

「……いきなりなんだよ。作り話でビビらせようってか?」

 

当然の反応、若干引いてたクラスメイトも爆豪の物言いで、小馬鹿にしたような表情に変わる。私の過去は機密事項ってことになってるから、知る人はほとんどいない。

 

「そういうとこ。憧れるばっかりで現実を見てないのはそっち。悪意に翻弄されて傷ついた人に手を差し伸べて、掴み続けられる人ってこの教室に何人いるんだろうね?」

 

あまり思い出したくない過去を引きずり出して、頭を満たす。私の伝えたいことを理解してもらうには、この感情をぶつけるのが一番だ。多分、酷い顔をしてるんだろう、向けられてた目線が次々にそらされていく。

 

「けどね。緑谷くんはその素質があるって私は思うよ。誰に何言われたってヒーローを諦めないから。無個性でもこの人はヒーローを目指す資格がある。だから……彼を笑うな。」

「ハッ!んなわけねぇだろ。こいつは馬鹿なだけ……」

「あーー爆豪、加山、そこまで。授業始まるから座れ。緑谷も戻れ。」

 

今度は私と爆豪がグダグダと話出したので、HRを終えたい先生に無理やり切られる。

 

爆豪の盛大な舌打ちをして席についたのを合図に私と緑谷くんも席について大人しくする。

 

──ついつい熱くなっちゃったな。あまり感情を乱すのは個性が不安定になるから抑えろって相澤さんに言われてるのに……。

 

朝から気まずい空気になってしまった教室で、そのまま一日授業を受ける。──内容は全く入ってこなかった。

 

 

 

* * *

 

放課後、校舎裏にある池の前にしゃがみ、その中の鯉を見つめる。彼らを見てるとなんだか親近感が湧いて少し安心するのだ。紅白のまだら模様は、実験の影響で元々水色っぽい白だったらしい髪に薄い赤が混じるようになった私と被って見えるから。

 

「おうおう、お前たちはかわいいねぇ。」

 

悠々と泳ぐ鯉を眺めながら、今度こっそり餌でもあげようかと考えていた時、頭上から騒がしい声が聞こえてくる。教室の位置と声からして爆豪と緑谷くんだ。また突っかかってるらしい話し声に爆発音が混じったと思ったら、焼け焦げて煙を上げるノートがパシャリと池に落ちる。

 

将来の為のヒーロー分析 No.13

 

……緑谷くんのノートだ。ヒーロー志望かつ生粋のヒーローオタクの彼が、色々なヒーローを分析したノートをまとめてるのは私も知ってる。それが宝物だってことも。

 

──来世は個性が宿ると信じて、屋上からのワンチャンダイブ!?

 

「あの爆発さん太郎……いくら緑谷くんが気に食わなくても言っていいことと悪いことがあるでしょ。」

 

あまりにもあんまりな言葉をうっかり聞いてしまいカチンと来る。頭のいい爆豪が、罪にも問われる発言をなんの躊躇いもなく口にするなんて……。嫌な奴だけどヒーローを目指して努力する姿と有無を言わさない才能があるところだけは好きだったんだけどなぁ。

 

「まぁ緑谷くんが馬鹿なこと考えないことを祈っとこう。」

 

いじめられっ子だが緑谷くんは芯のある人だ、自殺なんて選ぶはずないと思うけど、見つけてしまったら殴ってでも止めなきゃ。

 

2人のの暗いやり取りを聞いてモヤモヤしながら、鯉につつかれてるノートを拾い上げる。ボロボロになってしまったのは直せないけど、個性を使って濡れてるのを乾かすくらいはできる。きっと取りに来るだろうし、その時渡そう。

 

───────

─────

───

 

1ページ1ページ、脆くなってるのを破らないように乾かしていると、緑谷くんが歩いてくるのが見える。表情を見るに、あの発言には相当怒ってる感じだ。彼のことだから言い返したりはできなかったんだろうけど、怒る元気があるなら大丈夫そうかな。

 

「(バカヤロウ。僕が本当に飛んだら自殺教唆だぞ……)って加山さん?」

「あ、緑谷くんこっちこっち。君のノートでしょ、これ。」

「もしかして拾ってくれたの?ありがとう!あーボロボロだ……。クソッ、バカヤロウ。」

「……」

 

私からノートを受け取り、お礼を言うのが早いか、ノートの惨状を見て緑谷が愚痴をこぼす。

 

「……あ!ごめん!今のは加山さんに言ったんじゃなくて、その」

「いいってわかってるよ。かっちゃんでしょ、それやったのは。たまたまここにいたら聞こえちゃった。」

「ごめん……嫌な気分になったよね。僕もなにか言い返せたら良かったんだけど、かっちゃんの顔を見たら竦んじゃって。それに比べたら加山さんは凄いや、いつもかっちゃんと対等に話してて。」

 

やっぱり緑谷くんは優しい、相手に少しでも嫌な思いをさせたかもしれないって感じたらすぐ謝れるし、人のことをよく見てて褒め上手だ。

 

「だから気にしないでって。それに私は凄くないよ、かっちゃんのことだって揶揄って遊んでるだけだし。」

「ううん、それが凄いんだよ。かっちゃん昔からガキ大将で、誰も適わなかったんだ。だからかっちゃんに真正面から向かい合ってる加山さんは凄いって思うんだ。」

「そこまで言われると照れちゃうよ。でも人をよく見てる緑谷くんが言うならありがたく受け取っておくね。」

 

私としては、打てば響くキレ芸マンをプッツンさせて遊び倒してるだけなんだけど、分析が得意な緑谷くんに凄い凄いって言われたら嫌な気はしない。

 

「ほら、ノートも戻ったし暗い顔は終わり!帰ろうよ。」

「そ、そうだね。」

 

少し話してちょっとは気が紛れたかなって思ったけど、まださっきのことを引きずってるのか緑谷くんの表情は晴れない。言いたいことがあるなら言えばいいのに。

 

「はぁ〜、緑谷くん、言いたいことは我慢せず言っていいんだよ?」

「……うん」

「わかった。ここは一肌脱ぎましょう!」

「え?……ってうわ!水!?」

 

手から水流を放出し、操る。水の流れる形をドーム状に形成してやれば、即席防音室の出来上がりだ。免許なしの個性使用はご法度だが、要はバレなきゃいいのだ。

 

「うっわぁ!凄いや加山さん、これだけの水量を出せるだけじゃなくて、こんな上手に操って見せるなんて!……普通、水を操る個性でも大量に放出するタイプの人は量の調節や精密操作を苦手とするし、逆に細かい操作を行える人は出せる量が少なかったりするのに!加山さんの個性はどっちなんだろう。訓練次第で放出量や操作精度は向上させられるとは聞くけど、どちらも卓越したものが感じられた……。でもさっき水を出す前に溜めは見られなかったから多分、放出の方なのかな?だとしたら凄いぞ。いや、放出量を伸ばしていたとしても凄いんだけど、一線級で働くヒーローでもここまで緻密な操作と維持をできる人は滅多にいない、ならこのレベルまで鍛えるのにどれほどの鍛錬を……」

「緑谷くん緑谷くん、顔青くなってきてるからストップ。息して息。」

 

何気なく個性を使ったところ、彼お得意の分析モードに入ってしまい慌てて止める。人をよく観察して即時に特徴の考察を行えるのは緑谷の長所だけど、夢中になって呼吸を忘れた結果どんどん顔色が悪くなってしまうので、ちょっと怖い。

 

「ごめん、びっくりしちゃって。」

「だ、か、ら謝らない。それより今なら声も漏れないから言いたいこと叫んじゃないなよ。さっきのこと。」

「それって……」

「言ってたでしょ、バカヤロウって。」

 

緑谷くんは面と向かって言うタイプじゃないと思う。優しさもあるけど、今はいじめられっ子気質が染み付いてしまっている。ずっとこのままなら彼の良さが消えてしまう、それは嫌だ。

 

──なのでこれは私のエゴでお節介。

 

「ごめ……、ありがとう。」

「どういたしまして。」

 

癖で謝りかけた口を無理やり閉じて、ありがとうと緑谷くんは言ってくれる。誰よりもヒーローになって欲しい君のためならお安い御用だよ。

 

 

 

 

スゥっと息を吸い込んで、緑谷くんは盛大に叫んだ。それはもうでっかく。バカヤロウと、僕のノートを爆破しやがってと、ヒーロー志望が自殺教唆とかもっと考えて喋れと、なんて言われたってヒーローになると。横で聞きながらわかるわかると頷く。よし、私も明日なんか言ってやろ。

 

 

 

 

 

 

しばらくして言い終えたのを確認して個性を解く、多少水溜まりができたけどバレることもないでしょ。

 

ずいぶんスッキリした顔つきになった緑谷くんに声をかけ、私たちは帰路についた。

 

* * *

 

方向が違うので、緑谷くんとは校門で別れたあと、相澤さんの言いつけ通りにまっすぐ帰っていた。距離的にバスとか使ってもいいんだけど運動がてら歩いている。

 

家までそろそろ半分というところで、周囲の通行人が騒ぎ始めた。最初は近くでヴィランでも出たかと身構えたがそうではないらしい。少し離れた場所で何か起こっているらしく、私も聞こえた単語を元に動画サイトを開いた。

 

トップに出てきたのは、活動中のヒーローたちを映したライブ映像だった。あちこち壊れた商店街らしき場所で、ヒーローと泥っぽいヴィランが対峙している。雑音が激しい音声を聞くに、泥ヴィランは物理攻撃にめっぽう強いようでヒーローが複数人いながら攻めあぐねている様子。

 

「このタイプは燃やすとかしないとダメージないからなぁ。あとは非物理な拘束系とか。」

 

こういう時、歩くヒーロー辞典の緑谷くんがいれば、パッと状況にあったヒーローを解説してくれるんだろうけど……

 

ちょっと前に分かれたクラスメイトを思いつつ、画面に目を戻すと、暴れる泥ヴィランの中に見慣れた髪を見つけた。

 

──え、爆豪……?

 

最悪だ、よりによって知ってるやつがヴィランの人質とか……。また自分の前から人がいなくなるのかと、恐怖がじわりと滲んで、体が熱くなる。

 

 

 

 

──落ち着け。現場にはヒーローがいる、爆豪も抵抗してる。アイツはしょうもない死に方するような奴じゃない。

大丈夫、大丈夫、大丈夫。

 

胸に手を当て、ゆっくりと呼吸をする。相澤さんと何度もやった心を落ち着ける動作を丁寧に繰り返して、熱を鎮めていく。

 

 

 

もう大丈夫だと、再び画面を見た時、戦いの渦中へ飛び込んでいく緑の影が見えた。後ろ姿しか見えないが、間違いない緑谷くんだ。

 

ヒーローが制止するのも聞かず、突っ込んでいってヴィランに向かってカバンをぶちまける。──そのうちの1つがヴィランの目に当たったようで、そいつは大きく怯んでいた。

 

「カバンを投げたのは近づくための牽制と、恐らく数少ない弱点であろう目に当てるため……やっぱり凄いよ君は。」

 

でも、緑谷くんの一手は有効打にはならなかったようで、痛みからヴィランが復帰してくる。不味いと私も冷や汗をかいた時、また画面に影が現れた。大きい、逞しい影。

 

──平和の象徴、No.1ヒーロー、オールマイト

 

画面越しからでも伝わってくる圧倒的存在感にビリビリと鳥肌が立つ。……これがNo.1、日本を支える平和の象徴。

 

『Detroit Smash!!!』

 

拳から放たれた風圧でヴィランが、あっという間に引き剥がされる。あんなに苦戦してたのを一撃とは……強すぎでは?

 

 

 

 

 

 

その後、吹っ飛んだヴィランは詰められて回収、爆豪も緑谷くんも無事だったようでホッと息をついた。

 

──よかったぁ。ほんと、知ってる人が死ぬのは勘弁……

 

安堵と一瞬でも嫌な予感がした綯い交ぜの感情のまま歩き出すと、いきなりポツポツ雨が降り出した。今日はずっと快晴の予報だったはずなのにと、とぼとぼ歩いてふと思い至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

──オールマイトのパンチで天気変わったとか言わないよね……?

 

 

 

* * *

 

着替えと夕飯の支度を終えた頃には、天気も戻り晴れ空が拡がっていた。

 

「うん、きっとあれは偶然。いくらオールマイトでもパンチで天気変わるとかナイナイ。」

 

学校の課題をやりつつ、放課後見た光景を努めて考えないように、明日はどうやって爆豪を揶揄うか考える。

 

シャーペンを手でクルクル弄んでいると、玄関が開き相澤さんが帰ってくる。

 

「ただいま」

「おかえりなさい、相澤さん。カバン持つねー。」

「いい、それより帰ったら個性の訓練って話してたろ。待ってるから着替えて来い。」

「わかった。」

 

相変わらず合理主義の相澤さんに荷物持ちを断られ、私は自分の部屋に引っ込む。個性訓練はwelcomeだし、して貰えるだけありがたいんだけど、少しは休んで欲しいなぁ。謎目線で心配しつつ、いそいそと運動着に着替える。

 

身につけるのは市販のジャージとかではなく、個性使用に耐えうる一級品だ。一介の中学生に与えるには過ぎたものなので、最初は要らないと言ったのだが、必要経費だって予備含めて相澤さんが用意してくれた。

 

パッと見、冷血なように見えて気配りというか、優しさ満点ないい人な相澤さんには頭が上がらない。

 

 

 

 

「着替え終わりました!」

「……早かったな。じゃあいつもの運動場に行くぞ。」

「はーい」

「伸ばすな……」

「…はい」

 

適当な返事を窘められた……。

若干眉間にシワがよった相澤さんの隣に並び歩く。

 

 

 

「今日は具体的にどんな訓練?」

「あぁ、主に炎の方の訓練だな。水の方はかなり扱えるようになってるから、炎も同じレベルで操れるようにしたい。」

「うへーー、熱いし炎って不定形だから難しいのに……」

「だからこそだ。火炎系の個性ってのは、ひとつ間違えれば周りに被害を出しかねないからな。」

 

訓練の内容を聞いて少しテンションが落ちる。何年も自分の個性と付き合ってきたけど、やっぱり炎は慣れたとはいえ体に合ってないし、使うとなると神経使うので苦手だ。

 

感情が高ぶっても炎が暴発しなくなったのは、それほど昔のことじゃないから、これでも結構苦労してる。今でも油断すれば体に熱がこもっちゃうし。

 

口には出さなくても嫌だなー嫌だなーオーラを出しながら、運動場へ向かう。あー足重……

 

 

 

 

 

 

運動場に着いた私は、軽く柔軟をしてから相澤さんの合図で個性を使用する。

 

まずはダミーを混ぜた的に炎をぶつけて、一つ一つ燃やしていく訓練。的の数、位置はランダムで、1回ごとに距離まで変わるので、適宜出力を調整して放たなくちゃいけない。当然、ダミーに当てたらやり直し。

 

始める前に目標は10回連続成功と言われたのだが、中々難しいので、7回、8回成功したあたりでミスってしまう。

 

「もっと集中しろ。的の大きさは同じだから、炎の範囲を乱さず、距離を見極めて打て。」

「はいぃ……!」

 

 

 

 

 

 

たっぷり15分ほどかけて、何とか10回当て切るとすかさず次の訓練を伝えられる。

 

「今からボールが、飛んでくる。それを炎で防御しろ。ちなみに全方位から飛んでくるので、当たったらこれもやり直し。」

 

言うが早いか、知らぬ間に設置されていた機械から容赦なくボールが発射される。

 

「ちょちょちょ!カウント!ダウン!くらいあっても!いいんじゃ!ないんですかーーー!」

「咄嗟の個性使用にこそ精密さが求められる、乗り越えろ。Plus ultraだ。」

「私、雄英生じゃないんだけど!!!」

 

雄英高校の校訓を盾に不意打ちを正当化してくる相澤さんに抗議しながら、迫り来るボールを片っ端から燃やして防ぐ。

 

段々、見てから個別に撃ち落としてたら間に合わなくなってくるので、炎を壁のように出したり、自分を覆うようにして被弾を回避する。

 

「あっちち!髪焦げた!」

「自分を燃やすな……。炎を出す位置、放出する方向に気を配れ、無闇に使ってたら終わるより先にお前が黒焦げだぞ。」

「縁起でもないこと言わないでください!っち〜!」

 

範囲の大きい炎を制御するのは苦手なので、何度か炎が掠って焦げる。

 

 

 

───────

─────

───

 

「……ハァ、ハァ、おわっっったー」

 

何セットか続けてボール回避をして、ようやく訓練が終わる。最後の方は炎の操作がブレてきて当て損ねたり、燃やし損ねてアツアツのボールに激突したりしたので、何回もやり直した。

 

「おつかれ。炎の操り方は悪くなかった。個性で防御しろとは言ったが、体を使って避けられるボールは炎なしで対処してたのも良い判断だったよ。」

「ありがとう、ございます。」

「ただ、やはり後半は制御が雑になってた。バテてたな。体での回避、炎での防御、これを使い分けつつ、それを継続する体力はまだまだこれからだ。」

「あい〜〜」

 

相澤さんからのアドバイスを聞きながら、自分の水で作った水風呂で体を冷やす。私の水の個性は炎を使うとお湯になってしまうので、これはあらかじめ用意してたものだ。

 

炎の連続使用で相当な熱がこもっていたようで、水風呂はあっという間にぬるま湯になる。

 

「あち〜」

「そろそろ上がれ、完全に体冷やすのは家でシャワー浴びろ」

「わかりました〜」

 

蕩けてしまって生返事の私を、相澤さんは捕縛布で釣り上げると、そのままズルズルと引っ張って行く。限界まで炎を使うとフラフラになってしまうので、引っ張ってもらうと歩かなくていいからラクだ。

 

「……おい、引きずられてるのに寝るやつがあるか。自分で歩け。」

 

 

 

 

あわよくば家までと思ったけどダメでした。

 

* * *

 

「ふぃ〜冷却完了〜」

 

シャワー(もちろん水)で体を冷やし終わった私は、部屋着に着替えて、リビングに戻る。相澤さんは、さっき用意して置いた夕飯を食卓に並べて待っていてくれた。

 

「さっぱりできたか?今日は強めの負荷をかけたから不調があれば言ってくれ。」

「うん、ありがとう。大丈夫だから、ご飯食べよ?」

 

朝と同様、揃って手を合わせて食べ始める。……うん、煮物味付け、今日もバッチリ。

 

食事中に会話することもあまりないので、黙って食べ進めるが、今日は私からも相澤さんに話があるのだ。いつ言い出そう。

 

 

 

……よし、

 

「相澤さん、進路なんだけど」「水穂、お前の進路だが」

「「あ、」」

 

被ってしまった。

 

「あーー、朝言ってた話ってのは進路ことか。」

「うん」

「そうか……どうしたいんだ?」

 

食べる手を止めて、相澤さんが話を促してくれる。

 

 

 

「私、雄英に行きたいです。」

 

 

 

 

───────

─────

──

 

「雄英のヒーロー科で、ヒーローを目指したい。」

 

私の言葉に相澤さんは、驚いた様子もなかったが、直ぐに言葉も返ってこない。気まずい沈黙が流れて、ちょっといたたまれなくなってくる。

 

 

「……ヒーローになりたいか。俺は正直、お前がヒーローを目指すことに消極的だ。別に無理とは思わない。けどな、お前を取り巻く状況は特殊だ。ヒーローを目指す過程でいつか必ず過去と対峙することになる。それに打ち勝てるかどうかだ。」

「私も、昔のこと思い出したら今でも怖いよ。雨の日だって落ち着かない。けどヒーローになりたい。」

 

私の抱える問題を指摘し、心配してくれる相澤さんの目を真っ向から見つめる。怖いものは怖い、それでも恐怖を飲み込んで、成りたいものがある。

 

少し間をおいて、また相澤さんが口を開く。

 

「それは、父親もヒーローだったからか?」

「それもあるよ、小さい時にしたお父さんとお母さんとの最後の約束だし。……でもそれだけじゃないよ。」

「なんだ?」

「私はね。相澤さんみたいなヒーローにもなりたい。ヒーローになるのはお父さんたちとの約束。けど目指すのは相澤さん、ううん、イレイザーヘッドみたいに全力で人を助けられる人になりたい。」

 

私の言葉に、相澤さんの目がちょっとだけ見開かれる。あまり表情筋が仕事しない人なので、ここまで分かりやすいなら結構驚いてるっぽい。

 

「おれか?」

「そうだよ。あの時、私を離さないでくれた相澤さんの姿が私のオリジン。」

「……はぁ〜、わかったよ。頑張れ、入試に関しては俺はお前のことを手伝えん。筆記も実技も実力次第だ。」

「大丈夫、必ず受かるから待ってて。」

 

雄英高校に行くことを相澤さんに強く約束する。

 

 

 

──うし!やるか、目指すは雄英高校ーーー!

 




加山水穂のイメージです。想像はもっと薄い青髪に赤のメッシュが入ってます。轟冬美の髪に似てます。

【挿絵表示】


イメージ画像の生成は「Picrew」を使用させていただきました。
https://picrew.me/ja/image_maker/2057386
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