気づいたらもうこの作品を書き始めて一年以上が経ち、話数も50話を超えてました。途中で辞めるつもりありませんでしたが、ここまで書けるとも思ってなかったのでびっくりしてます。毎話読んでくださる皆さんがモチベーションになってます。
半分少女のヒーローアカデミア
とうとう始まった死穢八斎會の強制捜索、わらわらと湧いて出てきた組員を押しのける。障害となっている組員たちの対処は他のヒーローに任せつつ、突入隊は一直線に屋敷へと進む。
「火急の用や!土足で失礼するで!」
人の壁を抜け、屋敷に押し入る。八斎會とヒーロー、警察の大混乱となってる門周辺に対して、中は嘘のように人が居ない。嫌に偏った人員配置だ、やはり本命は地下か。
「怪しい素振りどころやなかったな!」
「俺はだいぶ不安になってきたぜおい。始まったらもう進むしかねぇがよ!」
ロックロックの言う通りだ。始めてしまった以上、私たちは止まるわけにはいかない。治崎らを捕え、壊理ちゃんを保護するまでは進み続ける。
「どこかから情報が漏れてたのだろうか。妙に一丸となってる気が……」
「八斎會施設周りをヒーローが探ってたことは、さすがに気づかれてたかもしれませんね。」
「だったらもっとスマートに躱せる方法を取るだろ。意志の統一は普段から言われてるんだろう。」
「杯を交わせば、親分と兄貴分に忠義を尽くす。肩身が狭い分、昔ながらの結束を重視してんだろうな。この騒ぎ、治崎や幹部が姿を見せてない。今頃、地下で隠蔽や逃走の準備中だろうさ。」
「忠義じゃねぇや!そんなもん!子分に責任押し付けて逃げ出そうなんて男らしくねぇ!」
日陰者だからこそ、同じ仲間は身内として大切にする。上は下の面倒を見て、下の者はそれに応える。もし治崎が彼らを切り捨てたのだとしたら、それはもうヤクザですらない。ただの新たなヴィラン組織だ。
違法なドーピング剤、個性破壊弾なんてものをばら蒔いて何をしたいのかは分からない。死穢八斎會を在りし日のヤクザとして復権させたいのなら、そんなことに手を染めた時点で八斎會は既に意義を失っている、と思う。
「ここだ。」
長い廊下の途中、掛け軸が壁に飾られた場所でサー・ナイトアイが止まる。
一見何の変哲もない飾りに見えるけど、彼がここで止まるということは……
「この下に隠し通路を開く仕掛けがある。」
そういうことだ。
予知で見た手順を辿って、サーが板敷きを押さえる。すると普通の壁に見えたそこが横へスライドし、通路が開かれていく。
「忍者屋敷かっての!ですね!」
「見てなきゃ気づかんな。まだ姿を見せてない個性に気をつけましょう。」
緩慢な動きで開いていく扉が、ようやく人の通れるほどの隙間を作ったとき、中から組員が3人飛び出してきた。
「なんじゃあ!テメェらァァ!」
「……ッ!バブルガール、1人頼む!」
玄関ので大方全員かと思ったけど、きっちりここにも人を残していたらしい。あわや戦闘になりかけたが、センチピーダーとバブルガールの素早い対応で、即座に拘束される。
めちゃくちゃ速い……私が組員の姿を認識した時には、もう2人は動いていた。構える間もなく、センチピーダーが2人捕え、バブルガールが残る1人を床に押さえつけてしまった。これがプロの現場、サーのサイドキックたる人たちの実力。
第一印象のせいで、バブルガールのことサポートタイプなのかと勝手に思ってました、すみません。
「追ってこないよう、大人しくさせます。先に行ってください!」
「わかった。……行くぞ!」
「すぐ合流します!」
サーの号令で全員が一気に地下への階段を駆け下りる。
いよいよ敵の本丸が近い、気を引き締めないと。
「……って行き止まりじゃねぇか。道合ってんだよな!?」
「説明しろ!ナイトアイ!」
角を曲がった先には、あるはずの廊下がなく、ないはずの壁があった。サーの読み間違いなんてことはないから、治崎の細工だろうか?届出もなしに地下施設を作れるくらいだし。
「俺、見てきます。」
「ルミリオン先輩、待って!またマッパに……」
「大丈夫。ミリオのコスチュームは奴の毛髪から作られた特殊繊維だ。発動に呼応し、透過するようにできている。」
「へー、便利ですね。」
コスチュームってそんな作り方できるんだ。私のも耐火性能あるけど、劣化は避けられないからなぁ。私もやってみようかな?でも毛髪を使うとなると相当量必要になると思うし、髪をバッサリ切られるのはちょっと嫌かも。
土壇場ながら緊張感ないことを考えていると、壁に顔を突っ込んでいたミリオさんが戻ってくる。
「壁で塞いであるだけです!ただかなり厚い壁です。」
「治崎のオーバーホールなら、こういうことも可能か。」
「小細工を……!」
「来られたら困るって言ってるようなもんだ!」
「そうだな!」
真っ先に緑谷くんと切島くんが動き、壁へ大穴を開ける。超パワー、硬化の威力の前には生半可な素材じゃ太刀打ち出来ない。
「さぁ、進みましょう!」
穴を潜り、奥へ進む。その一歩を踏み出した足に妙な感触があった。
「地面が揺れ……なんかぐにゃぐにゃしてる!?」
「道がグネって…!」
「変わっていく!」
地面だけじゃない。壁も天井も地下を構成する何もかもが、うねって曲がって形を変えていく。不規則に変わる構造に立っているだけで精一杯だ。揺れる波の上にいるかのような味わったことのない感覚、本格的に個性で仕掛けて来た!
「治崎じゃねぇ!逸脱してる。考えられるとしたら本部長の入中だ!奴の個性は物に入り込んで操る「擬態」、コンクリの中に入って生き迷宮となってるんだ!」
「規模が大きすぎるぞ!奴が入り、操れるのはせいぜい冷蔵庫の大きさまでと資料にあったろ!」
「かなーりキツめにブーストさせれば無い話じゃないか。しかし何に化けるか注意しとったが、まさかの地下!こんなん相当体に負担かかるはずやで。イレイザー!消されへんのか?」
「姿が見えないと無理です!」
プロヒーローたちでさえも、ここまで大規模に無茶をやらかすとは予想出来なかったらしい。場はちょっとした混乱に包まれてる。このまま足止めされれば、治崎たちを取り逃がす。その前に地下ごと押し潰されるかもしれない。そういった焦りが、一人一人に伝播していく。
──今できることを考えろ。
私が熱を伝えれば入中の行動を鈍らせるくらいはできるか?……無駄か、多分操ってるコンクリを熱しても奴にダメージはいかない。同化じゃなくて、着ぐるみを着てるような状態って考えた方がいい。地下全体を着てるとしたら、的確に入中本体を叩かないと。全部を熱したっていいけど、それだと私とサポートアイテムが持たない、失敗して動けなくなる可能性大だ。
出し惜しむつもりもないが、さすがに今じゃない。あぁ、ダメだ。全然思考が纏まらない。
「どれだけ道を歪めようとも、目的の方向さえ分かっていれば!俺は行けるッ!」
「ルミリオン!」
「先輩!」
「ミリオさん……」
ミリオさんたちの声に顔を上げる。
……いつの間にか俯いちゃってた。全く、このくらいで下を向いてるなんてヒーローらしくない。私の背中には4人分の気合いが乗ってる。1人で焦って、しょぼくれてるなよアモルファス!
「スピード勝負!それを奴らも分かってるからこその時間稼ぎでしょう。先に向かってます!」
壁を抜け、走り去って行くミリオさんの背中を目で追う。彼の透過であれば、あらゆる障害物を無視して一直線に治崎のところへ向かえる。今の状況で自由に動けるのが彼しか居ない以上、任せる他ない。
とりあえず私たちは入中を止めないと……
「うわっ!?」
唐突に地面が開き、その場に居た全員が階下へと落ちた。思いっきりお尻を床に打ち付けて、ジンとした痛みが骨まで伝わる。
いつつつ……今のは入中の仕業か。形を変形させるだけじゃなくて、穴を開けるのも塞ぐのも自由自在、厄介すぎる。これでまた動きにくくなった。サーが見たのは地下施設全域じゃない。壊理ちゃんがいる部屋への最短ルートとその周辺のみだ。1階違いだからそこまで迷うとは思いたくないけど。
「おいおい、空から国家権力が落ちて来やがった……不思議なこともあるもんだ。」
眼前に入口のときとは別の新たな3人組。入中が落としたのは、こいつらをぶつけるためか。しかし少人数すぎる、こっちはプロヒーローと警官隊のチームだぞ?余程の個性を持っているのか、捨て身の覚悟で足止めするつもりなのか。どっちにしろ面倒くさそうだ。
「よっぽど全面戦争したいらしいなぁ。さすがにそろそろプロの力を見せつけて──」
「そのプロの力は目的のために。こんな時間稼ぎ要員、俺一人で十分だ!」
ファットガムが一番に相手しようとして、天喰さんがそれを遮る。
ひ、1人……天喰さんの実力、私よく知らないんだよなぁ。そりゃビッグ3だし、あのミリオさんの隣に立てる人だから弱いはずなんてないんだけど。ずっとオドオドしてるところしか見たことないから……
「何言ってんすか!?協力しましょう!」
「そうだ協力しろ?全員殺ってやる。」
「こいつ窃野だ!銃は使えん、ヒーロー頼む!」
「なんだバレてんのか、まぁいいや……暴れやすくなるだけだ!!!」
資料にあった窃野という男が、刀を振りかぶる。
「ならないぞ、刀捨てろ!」
「……ッ!?使えねぇ!」
やっぱり向こうは殺る気満々みたいだ。個性「窃盗」を持つ窃野が相澤先生に止められる。他の2人も資料に載ってた奴ら、強い個性だけど先生がいるなら対処出来る。
「銃弾も刀も俺の体に沈むだけや!大人しく捕まった方が身のためやぞ!」
「そういう脅しは命が惜しい奴にしか効かねぇんだよ!」
「イレイザーが抑えてる今なら武器が使える!観念して投降しろ!」
ヒーローも警察も戦闘の構えを取る。しかし警官が銃を撃つ間もなく、天喰さんの再現したタコ足が窃野たちを絡め取り、投げ飛ばす。投げるだけじゃなくて、それと同時に銃や刀まで奪ってしまう器用さだ。
「こいつらは俺が相手します!ファット事務所でたこ焼き三昧だったからタコの熟練度は高まってるし、以前撃たれたことでこういうものには敏感になってる。」
「でも先輩!」
「こいつらは相手するだけ時間の無駄だ!何人ものプロヒーローが、この場に留まっている状況がもう思うツボだ。イレイザーを筆頭にプロの個性は、この先に取っておくべきだ。蠢く地下を突破するパワーも拳銃を持つ警官も。ファットガム!!!俺なら1人で3人を完封できる!!!」
本気……?たった今のでも天喰さんの強さは、その片鱗が見えた。再現の精度、扱いの上手さ、別生物との切り替えの滑らかさ、どれを取っても彼の卓越した個性が分かる。それでも数というのは強さだ、実力の高い人でも人数差を覆して勝つのは難しい。数の劣勢を単独で撃破し得るのは、ヒーロー社会広しと言っても、ほんのひと握り中のひと握りだと思う。
でも天喰さんは勝てると自信を持って言ってる。少ない付き合いでも、この人が臆病なくらい慎重な人だと分かる。勝てるか分からない戦いに意味もなく飛び込む人じゃない。
……なら信じる、べきだろうか。
「……行くぞ。」
ここは天喰さんに任せる、ファットはそう判断した。彼のボスはファット、この人が決めたなら従うべきだ。ベテランのプロヒーローが部下を信じた、私はそれを信じる。
「おいおいおいおい!待て待て……ッまた使えねぇ!」
「天喰、3人を見ておいた。効果のある間に動きを止めろ。」
相澤先生が抹消の置き土産を残して、私たちは部屋を出る。
「皆さん!ミリオを頼むよ、アイツは絶対無理するから。助けてやってくれ!」
「はい!後輩の底力見せてやりますよ!」
去り際にグッとサムズアップする。任せといてください、ミリオさんだけに無理なんてさせませんよ。
「ファット!先輩1人残すなんて何考えてんすか!」
「お前んとこの人間だ。お前の判断に任せたが、正直不味いんじゃねぇか?」
「……アイツの実力はこの場の誰よりも上や!ただ心が弱かった、完璧にやらなあかんっちゅうプレッシャーで、自分を押し潰しとるんや!そんな状態でアイツは雄英のビック3に上り詰めた。そんな人間が!完封できると断言したんや!ほんなら任せるしかないやろ!!!」
「私、天喰さんとファットを信じます!」
「よう言うた!」
天喰さんが勝てると言った、ファットがそれを信じると言った。
だとしたら私は私のすべきことを!