半分少女のヒーローアカデミア
天喰さんと分かれ、私たちは再び廊下をひた走る。入中に地下を操られてしまったが、サー・ナイトアイはある程度構造を把握出来てるっぽい。ちょっとしか予知で見れなかったのに迷いなく走ってる。
「天喰先輩、大丈夫かな?やっぱ気になっちまう。」
「うん……」
「大丈夫だって、天喰さん強いよ。いつもはオドオドしてるけど。」
天喰さんへの心配を切島くんが零す。
まぁ、心配なのは分かる。パッと見、強そうにも頼りになりそうにも見えないから……人は見かけによらないを体現する人だよね。
「自分も環に背中預けたんやろ!なら信じて任せるのが男の筋やで!」
「先輩なら大丈夫だぜ!」
「逆に流されやすい人っぽい!」
「心配だが、信じるしかねぇ!」
「サンイーターが作ってくれた時間、1秒も無駄にできん!」
「しゃあ!コラァ!」
相変わらず切島くんはわかりやすい性格してる。人の言葉をそのまま受け取れる素直さがあるというか。そういうところが彼の良いところなんだよね。見てて気持ちが良い。
「妙だ、入中が何の動きも見せて来ないのは変だ。」
「そういえばグネグネしません。」
「何の障害もなく走ってるこのタイミングで、邪魔をしてこないとなると相手は地下全体を正確に把握して動かせるわけじゃないのかもな。上に残った警官隊もいる。もしかするとそちらに意識を向けてるのかもしれん。」
「把握できる範囲は限定されていると?」
「あくまで予測です。やつは地下に入り込んで操っている。同化したわけじゃなく、動き回って見たり聞いたりしてるとしたら、地下を操作するとき本体が近くにいる可能性がある。」
「それならやりようはありますね。」
「あぁ。」
相澤先生も同じ考えだったか。入中と地下は別々、個性を使うには中を移動しないといけない。正確に位置を把握するためには、どこかで本体を晒すはず。
「我々の邪魔をしようと、そこで目なり耳なり本体が覗くなら見ることができます。」
「だとしたら次に狙われるのは……イレイザーッ!壁が!」
壁が蠢いて、相澤先生を捕らえる。後ろを走る先生に警告を出すが間に合わない。
やっぱり先生を狙ってきた!クッソ、気づくのが一手遅かった!抹消を失えば、入中を直接叩くしか手が無くなる。時間が1秒でも惜しい今、それは致命的になりかねないぞ!
「イレイザー!」
「ファット!?」
飲まれる寸前で、ファットが相澤先生を突き飛ばして入れ替わる。プロヒーローどちらを欠いても痛いけど、入中を的確に止めるには先生の方が向いてる。それを天秤にかけてのファットの判断か。
……って切島くんは?
「イレイザー、切島くんがいない!」
「なに?」
「切島くんならファットと一緒です!ファットがイレイザーを庇ったとき、彼が脂肪に飲まれるのを見ました!」
「……そうか。ファットといるなら危険は小さいが……」
「すまないがイレイザー、彼らの心配をしている時間も余裕もない。我々は先に進まなくては。」
サーの言うことが正しいか。ここでファットたちの心配をする暇はない。これ以上、戦力を削られる前に入中を倒して地下迷宮を止めるのが先決だ。
柔と剛、2人はいいコンビかもしれない──
「また地下が動いてる!?」
「ロックロック!」
「リーダーぶるない!この窮地、元はと言えばあんたの失態だ!……デッドボルト!」
ロックロックが壁に手を当て、1つ動作をするとその周辺ごと地下の動きが止まる。今のは彼の個性「施錠」か、触れたものをその場に固定できる個性。固定の強制力が入中の支配力を上回ってて良かった。
「こっちへ!!この辺はもう動かねぇ!狭さは言うなよ!セキュリティマックスのデッドボルトだと、そう何ヶ所も締めれねぇ!これが俺の限界範囲!」
彼の用意した安全圏へ急いで駆け込む。入中が動き出したのは厄介だけど、奴を倒すチャンスも同時にやってきたということだ。やってやるぞ。
「締めてねぇところからまた来るぞ!」
「……スマッシュ!!!」
前方から迫ってくる壁を緑谷くんが蹴り砕く。彼のシュートスタイルも随分様になってきた。私も負けてられないな。いつでも全力の水流を撃てるように、常時溜めておこう。
緑谷くんが先陣を切り、先へと歩を進める。こういう時、切島くんや天喰さんがいればもっと楽だったんだろうけど、いない人に頼っても仕方がない。
……次が来る!
「緑谷くん、右に避けて!」
「…ッ!うん!」
「行けッ……!」
放った水流が迫る壁を中央から抉り、押し返す。材質が普通のコンクリートで助かった。これで一旦は凌いだ。スマッシュの連続で緑谷くんも息切れしてるし、交代交代でやった方がいい。お互いに体力は温存したいからね。
砕いた先に残る壁が再びこちらに伸びてくる。
「執拗い!」
向こうもブーストが続く限り、操るコンクリが尽きることはない。でも同じ手を何回繰り出してきたって私たちで簡単に防いでやる。ジリ貧なのはお前の方だぞ、入中……
「な、壁が……」
「開いた?」
飽き飽きするくらいにコンクリで攻撃してきた入中の手が止まる。地下を操られ狭苦しかった廊下が、1つの部屋くらいには大きく開いた。
「なんのつもり……あぶっ!」
「デク!」
「うわっ!?」
意図の読めない行動に一瞬気を取られた瞬間、天井から降りてきた壁に危うく潰されるところだった。飛び退くのが遅れてたらぺしゃんこになってた。緑谷くんも先生がギリギリで引っ張ってくれたからセーフ。閉じる前に見た感じ、他の人も怪我した様子はなかった。
「すみません!」
「気にするな。しかし何故今さら分断を……」
「気味が悪いですね。」
入中は今まで私たちを直接殺すことにこだわってた。分断しようとしてくることはあっても、ここまで少人数に分けられはしなかった。作戦を変えたんだろうけど、どうしてそうしたのかが気になる。
『おい、みんな無事か?』
『ロックロックの声、壁は厚くないか。我々を動きやすくしてでも分断したということは、それを補って余りある策があるということ。気をつけろ、来るぞ。次の一手が!』
サーの声に周りを警戒する。入中の個性を使えば、出入口を作るくらいは簡単だろう。そこから別戦力が投入される可能性もある。今ここで自由に動かせる実力者がウロウロしてるとは思いたくないが、相手は裏社会の人間である以上、こちらの知らない人員が引き込まれててもおかしくはない。
奴らの仕掛けてくる手はなんだろうかと考える。そんなとき壁越しに呻き声が微かに聞こえた。
男性の声だ、大人の。音源はどこだ、聞こえた方向が間違っていなければ……ロックロックの方か!
「向こうから声しましたよね!?」
「あぁ、ロックどうした!」
「2人とも、退いてください!」
その声とともに緑谷くんが壁を蹴り砕く。その先に居たのは、
「ロックロックが2人!?」
「偽物が急に現れて襲ってきやがった気をつけろ!」
血を流し倒れてるロックロックと私たちに警戒を促したもう1人。彼も味方にも分身系の個性はない。彼の言った通り、どちらかが偽物なのは明白だが。倒れてる方に相澤先生と近づいて様子を窺う。動く気配はない、背中の傷が深いようで出血も多い。
──あれ、この傷?……刀傷だ!
思い切りグサリとやられてる。問題なのは当のロックロックが刃物を所持していなかったこと!神野と雄英の資料で見たぞ、刃物使いで変身の個性を持つ敵連合の一味。
「お前、ロックロックじゃないな!」
「緑谷、下がれ!」
「うわ!トガヒミコ!?」
抹消が発動し、偽物の正体が明らかになる。ロックロックの姿が泥のように溶け、中から現れたのはやはりトガヒミコ!
……サーの読みが外れたか。八斎會と敵連合は友好関係にないとされていた。状況証拠だが、死人が出るほど派手に抗争してた組織が手を組んでるなんて普通は読めない。もう出てきちゃった以上、対処するしかないけど居るのがトガ1人とは思えない。最低もう1人はいると見ておいた方がいい。
「トガ!そうだよトガです!覚えててくれた?また会えるなんて嬉しいなぁ!出久くん嬉しいなぁぁ!」
どういうわけか彼女は緑谷くんにゾッコンらしい。私たちには目もくれず、一直線に彼へと斬り掛かる。
「ここまでだ!トガヒミコ!」
「……邪魔です。」
相澤先生に捕縛布で捕らえるが、彼女は意に介さない。動きの制限される中、曲芸じみた身のこなしで、先生への方へと飛んだ。ロックロックも刺したであろうナイフが振りかざされる。
──させないよ。
指先から水流をトガの手に目掛けて放つ!
「いたっ!」
「あなたたちに先生を傷つけさせるなんて絶対許さないから。」
ナイフこそ取り落としたが、やはり華麗な身を捻って退避していく。逃げた先も入中に阻まれた。壁の向こうを睨む。同じ相手に家族を傷つけられる、そんな失敗は二度としたくない。
ただ、あそこで威力を絞ったのは甘かったな。同じ年頃だったから少し躊躇した。もう敵連合は一介のチンピラじゃない、例え重傷を負わせてでも仕留めないといけなかった。
「助かった、アモルファス。」
「イレイザーが無事で良かったです。でも手加減しちゃいました。」
「……お前の個性なら手を吹っ飛ばすくらいはできた、か?」
「う、」
「ヒーロー活動は殺し合いじゃない。ヴィランであっても極力無傷で捕らえるのが基本だ。奴らも人間、更生することだってできる。極端な手段ばかりに凝り固まると道を誤るぞ。」
「……はい。」
「分かったらデクと一緒にロックロックの止血。トガは血を使う、ナイフも回収しろ。」
「分かりました!」
窘められてしまった。身内のことになると、どうにも頭に血が上りやすいのは悪い癖だな。個性だって制御できるようになってきたんだし、感情も平静を保てるようにならないと。自制心自制心。
トガのナイフを拾い、ロックロックのもとへ移動する。
「……出血が多い。緑谷くん、救急セット持ってるよね?」
「持ってるよ。ガーゼに包帯とテープとか、あと消毒液もある。」
「それ出しといて、私は服を切るから。」
「分かった…ってトガヒミコのナイフ。使っても大丈夫なの?」
「大丈夫だと思うよ。血を使う以上、変なものは塗らないだろうし。炎でこうやって……」
「火炎滅菌か、便利だね。」
「でしょ?」
ロックの血をガーゼで拭い、水で洗ったら炎で炙る。消毒液をかければ大抵の雑菌は問題ないだろう。あとはコスチュームを割いて傷口も消毒すれば、ガーゼで抑えて、包帯を巻くだけだ。
「応急処置終わりっと。」
「アモルファス、ロックの様子はどうだ?」
「一応出血は抑えました。塞いだわけじゃないし、傷の深さも診断できないので早く医者に診せた方がいいです。」
「そうだな。向こうの警官に預けよう。」
そう言って相澤先生がロックロックを担ぐ。まだ意識が朦朧としてるみたいだし、加えてあの傷で歩かせるのは酷だ。敵連合も今は襲って来ないし、壁ぶっ壊してサーたちと合流しないと……
『キエエエ!!!』
また来た!塞いでいた壁も消え、地下が無尽蔵に動き出してる。めちゃくちゃだ、さっきまでは潰そうとしたり、穴開けて分断したりして来たのに!
今の声を入中だとするなら、なんか完全にブチ切れてる。こっちは何もしてないんだけど……ブーストしすぎて意識飛んだか?とりあえず声が近いってことは、本体もすぐ側にいる。
どこだ、どこにいる?
『キエエエエエエッッ!!!』
「……見つけたッ!」
天井に開いたあの穴!声が反響しまくってるけど、音源はそこから聞こえた。暗がりから見てるなら目も暗さに慣れてるはず!
「止まれ!」
『ギィヤァァァァ!!?』
穴に炎をぶち込んでやった。奥から悲鳴が聞こえる、焼かれたか目が眩んだか。とにかく攻撃の手が少し緩んだ。
「緑谷くん!穴掘り任せた!」
「うん!……スマッシュ!!!」
緑谷くんのスマッシュが穴を大きく蹴り砕く。私たちを散々翻弄した入中の姿が顕になった。
「やっと姿を見せたな。」
「しまっ……」
抹消が発動し、入中の個性が消える。やっと地下迷宮が終わったのだ。無抵抗に落下していく奴を完全に捕らえるために動く。そう動こうとして、地下に聞きなれない声が響いた。
「ごめんな、ヤー公。やっぱり好きにさせてもらうわ!」
「「ばーい。」」
「トガ、トゥワイス!」
やっぱりまだ居たか敵連合!でもあの口ぶりからして敵連合と八斎會は完全に決裂したと見ていい。入中もそれにキレてるところをサーにノックアウトされた。
もっと引っ掻き回せただろうに、そうしなかったのは元々あまりやる気がなかったのかな?死柄木が八斎會に近づくために形だけの協定を結んだとか。不気味だが、厄介な勢力が撤退してくれたのはラッキーだ。
入中は拘束され、少し考える時間もできた。
「いいように使われてしまったようだな。しかしこれで生き迷宮は終わった!」
「生き迷宮が終わったのはいいが、これじゃ前後も分からない。」
「壊理ちゃんの部屋への方向なら私が把握している。」
「入中、このぐちゃぐちゃ元に戻せ、早く!……っておい!」
縛られてる入中へ、刑事さんが命令するが奴はそれに応えない。目が血走り、息も荒い。
「クスリの効果切れでしょう。ファットガムの見立て通り、入中に今までの力は無い。」
「しかしまだトガとトゥワイス、敵連合がどこかに潜んでいるはず。」
「……トガ、トガ…トゥワイス!許さねぇ!裏切りやがってぇぇ!」
「他の連合メンバーはどこにいる?」
「知るかッ!必ず見つけ出してやる!連合の奴ら全員ドタマかち割ってやる!!!キエエエッ!」
「ここにいるのは、その2人のみということか。」
クスリの影響もあるとは言え、相当頭に来てるらしい。八斎會側は連合に上手くしてやられたのか。人をだまくらかすのが相変わらず得意だ。
しかし連合か、素直に撤退してくれてたなら一旦それでいい。あれだけはっきり裏切ってるなら手を組んでくることもない。だけど、八斎會と関係なく敵連合の思惑で襲って来る可能性はまだ捨てきれない。
警察もヒーローも連合の行動を考慮した動きをしなければいけないから、考え中と言ったところ。そんな中、ロックロックが口を開く。いつの間にか意識が戻ってたみたいだ。
「何を立ち話してんだ!無視して進め!連合のことは警察に任せりゃいい。俺たちの最優先事項は何だよ!!!」
「確かに、それが最善か。」
「どのみち、入中の拘束で誰か残んなきゃなんねぇし。俺は小娘のせいで、これ以上飛んで跳ねてはキツイ。分かったらとっとと足動かせ!ここまで来たらあと一息だろ!行け!!!」
「……ッはい!」
ロックロックが発破をかけた。今ここでグダグダ考えてる時間が無駄だと、多くのヒーローと警官が作ってくれた一分一秒が惜しいと。嫌味な人だと思ってたけど、そうじゃないらしい。
──彼の言う通り、足を動かせ!
「必ず救け出します!!ロックロック!」
「傷が開くから動いちゃダメですよー!」
走れ、壊理ちゃんはすぐそこだ。