オリキャラをどうやって揺さぶるのかずっと考えてます。それを乗り越えさせたらもっと良いキャラになるかなと思って。
お気に入り1000件ありがとうございます!まさかここまで入れて貰えるとは思ってなかったので感激です。
半分少女のヒーローアカデミア
サー・ナイトアイを先頭に、地下施設を最短距離で駆け抜ける。道は入中のせいでぐっちゃぐちゃだけど、アイツはもうぶっ飛ばしたからこれ以上荒れる心配はない。ミリオさんが先行してから既に数分、もう治崎たちと会敵してると見ていいだろう。それにしては物静かなのが気がかりだが……
「ここだ。」
一見、壁に見えるところでサーが止まる。私はとうの昔に地下の構造なんて訳分からなくなってるが、ここがゴールらしい。途中に治崎の部下らしき組員も倒れていたし、その周辺に治崎がいると踏んだのか。
「デク、この壁を。」
「はい!」
サーが緑谷へ壁を壊すように指示を出す。入中戦で見せたのと同じくスマッシュで蹴り砕いた。
先にあったのは……
「治崎ッ…!」
今まさにミリオさんへトドメを刺さんとする治崎の姿があった。すんでのところで緑谷くんが殴り飛ばし、何とかそれを妨害する。
「ナイトアイ!要救助者の確保を!アモルファスはそっちを手伝え!」
「分かりました!」
相澤先生が抹消でオーバーホールの発動を制限、その隙にミリオさんのもとへ駆ける。その途中、視界の許す範囲で周囲を確認して、彼のとてつもなさに驚愕した。
治崎を追い込んだだけじゃない。側近と思われる組員を2人も撃破、途中の奴も含めたら3人だ。急ごしらえ丸出しの空間はオーバーホールで地下を弄られた証拠。退路を絶たれ、数も劣勢、応援も直ぐには来ない。その中で壊理ちゃんを無傷で守り通した。
……凄い、凄い!
私たちの先輩は誰よりも強く、誰よりも気高くヒーローを証明して見せたんだ。
「壊理ちゃんは……後ろに、います。」
「……もう大丈夫。凄いぞ、凄いぞ…ミリオ!」
サーがミリオさんと壊理ちゃんを抱きとめる。彼がかけた言葉は、愛弟子が成し遂げたことへの深い称賛があった。
状況は変わった、壊理ちゃんはこちらにいる。ミリオさんは戦闘不能だが、担げば撤退はできる。相澤先生の個性で牽制し続ければ、残り1人になった治崎は追いすがれない。別行動中のヒーロー、警官が駆けつければ、さすがに奴も手詰まりだ。
「起きろ!玄野ォォォ!!!」
先生と緑谷くんの2人がかりで対処していた治崎が部下の名を叫ぶ。そっちに目をやれば、倒れていた白フードの男から針が伸びているのが見えた。そしてその針が先生の右腕を掠める。
な、あいつッッ!
……じゃない。落ち着けバカ!ヒーローに怪我は付き物、一々気を荒立てるな。考えるべきは玄野の個性だろ!
頭を振って苛立ちを追い出す。玄野って奴も資料に載ってた。個性はクロノスタシス、時計の針みたいな髪で相手を刺すと動きを非常にスローにできる。動き出しならそれを遅く、動いてる最中ならその動きを遅くし、行動はキャンセルできなくなる。
行動がキャンセル出来ない……?
それが狙いか!?不味い、抹消が消える!
「サー!抹消が!」
「見えている。ミリオは私が運ぶ、君はこの子を。頼んだぞ。」
「任されました!」
間違っても落っことさないよう壊理ちゃんをしっかりと抱きしめる。と同時に復活したオーバーホールで一瞬にして辺りが針地獄と化した。
一つ一つがコンクリートでできた極太の針だ。まともに当たれば重傷どころか致命傷になりかねない。自分の身は最小限に守りつつ、壊理ちゃんが傷つかないことへ意識を最大に回す。
回避先を次々と潰してくる制圧攻撃は恐ろしい。今まで経験したことのない攻撃に冷や汗が流れた。そしてほぼ全部を紙一重で避けられてる自分に自分で驚いてる。
──もう一本来る!?
「……あ、あっぶな〜。」
最後の1本は首元ギリギリだった。少し掠めて出血してるが、ちょっと紙で切ったくらいの深さだ、大したことない。自分のいない領域に無理やり引き上げられる感覚は最悪の一言だが。
しかし簡単に地形を変えるレベルの個性を行使できる相手は厄介だ。これを見てると入中なんて可愛いものに思える。オール・フォー・ワンといい、なんで馬鹿みたいな大技放てる奴が尽くヴィランなんだ。治崎、お前は工事現場で働け。薬品ごっこで遊んでるよりよっぽど世のため人のためだぞ。
事態は一時停滞してる。針の奔流は止まり、オーバーホールが発動する気配はないが……
「音本、ほんとによくやってくれたよ。……お前なら俺のために死ねるだろう!?」
治崎がブツブツと独り言を吐いたあと、そこに奇妙な爆発が起きる。
攻撃…じゃない。謎の発光と大量の煙?奴が何かしたのか。
「ルミリオン、お前は確かに俺より強かった。だが、やはり全ては無に帰した。」
シルエットが浮かび上がり、やがて煙は晴れる。そして疑問は氷解した。
「さぁ、壊理を返して貰おうか……」
現れたのは異形の腕を生やした治崎の姿。それを見て何をしたのか嫌でも理解させられる。
「アイツ、部下を──」
──部下を取り込んだ!?
異変が起きる前に治崎は音本に触れてた。自分たちを分解、修復して合体したってことか。傷も治ってるし、目的のためなら仲間の命も使い捨てるなんて。
「悲しい人生だったなぁ、ルミリオン。壊理と俺に関わらなければ、個性を永遠に失うこともなかった。」
「……は?」
個性を、失った?……撃ち込まれたのか!個性消失弾の完成品を!?
でもミリオさんが銃弾を受けるとは思えない。避けるなんて簡単だろうし、そもそも透過の個性には無力だ。いざとなったら使ってくる可能性も考慮してたはず。
一体どうやって彼に弾を食らわせた?どうやって……
透過の隙を突くのは難しい。ならミリオさんがミスをしたんじゃなくて、撃たれざるを得ない状況に持ち込まれたということ。それが合っているとしたら。
くそっ、そういうことか。
「この、卑怯者め……」
分かった、攻撃を無効化できる彼がなぜ銃撃を受けてしまったのかを。
壊理ちゃんを庇わせたな!?
ミリオさんが彼女を傷つけるなんて許すはずがない。自分への攻撃は透過で躱せても、それで誰かの壁になることは出来ない。だから取り返しのつかなくなることを承知で、彼は個性を解除した。ミリオさんの優しさに付け入った卑劣な手だ。
「関わらなければ、夢に罹ったままでいられた。失ってなお粘って、そしてその結果が仲間を巻き込み、全員死ぬだけなんてなァァ!」
治崎が動き出す。増えた腕でも個性を使うなんてふざけてるな。奴の素早さに対して、こっちは動く用意ができてない。
……派手にかますしかないか?
タイミングを測り、個性を発動しようとしたところで、緑谷くんが乱入してきた。破った針の拘束をそのまま、その欠片を持って治崎へ突貫する。
けど届かない。完全に彼の動き方は奴に見切られている。圧倒的実力差の前にはワン・フォー・オールのパワーを持ってしても、むしろ動作が直線的で読まれやすいか。
全員生きて帰る。そのために必死に治崎の動きを観察する。どうにか隙を見つけたいと、より一層集中しようとして体にかかる重みが増えた。
「……サー?」
「………」
彼は何も言わない。ただ無言で私にミリオさんを預ける。
「こいつの相手は私がする!!!」
「させるか。」
サポートアイテムの超質量印が飛ぶ。サーは既に駆け出していた。
命令されずとも、意図を理解し覚悟を決める。サー・ナイトアイはここで治崎を押しとどめるつもりだ。命を捨てるなんて考えていないと思うけど、危険な賭けであることには変わりない。なら私ができる最大限の手助けは一つだけ。
一刻も早く2人を連れて、この場を離脱すること!
「デクはルミリオンと壊理ちゃんを!アモルファスを助けろ!」
「了解です!」
サーの指示を受け、入れ替わりに緑谷くんが飛んでくる。2人がかりなら何とか移動できそうだ。ミリオさん、体大きいし。
「加山さん、2人の状態は?」
「壊理ちゃんは無事。でもミリオさんの傷が深い。ここじゃ手当て出来ないし、個性消失弾に撃たれたのが本当ならどんな副作用があるかも分からない。すぐにでも医者に診せないと。」
「心配いらないよ。余裕、だよね……結局悲しませてしまった。」
「……移動します。」
壊理ちゃんはずっと震えている。自分が救かるという希望より、救かろうとしたからミリオさんが傷ついたと責めているのかもしれない。
そんなことはないと言ってあげたいが、とにかく余裕がない。緑谷くんが繋げてくれた通路から脱出しないと……
壊理ちゃんの足が止まる。
「……もう」
「壊理ちゃん?」
「もう、いいです。……ごめんなさい。」
「………」
震える声で、大粒の涙を浮かべて壊理ちゃんはそう言った。
言葉が出ない。
謝らせてしまった。彼女は何一つ悪いことはしていない。ただ悪意に翻弄されただけだ。それなのに自分が全ての不幸の原因だと言わんばかりの表情をしている。
否定したいと思うのに、それを形にする言葉は喉につかえたままだった。
……後回しにしたくはない。が、この場でゆっくり話すことも出来ない。安全が確保出来てから壊理ちゃんとしっかり話そう。
怯える彼女に繋ぐ手をまた少し力を入れる。移動しよう、サーが稼いでくれた時間を無駄にしたくない。
「加山さん……サ、サーが……」
「サーが、どうしたの?」
目の前の緑谷くんは驚愕の表情に固まっている。信じられないものを見たとでも言うような。
彼の見てる先を振り返る。
「うそだ……」
腹部に針が貫通し、左腕を引き裂かれたサー・ナイトアイがいた。
「サァァァーー!!?」
ミリオさんの叫びが木霊する。
致命傷だ。
助からない。
死
どうして
頭痛がする。視界が歪む。
地面が存在してるのかさえ不確かだ。
また何も出来なかった?
「──さん!」
「………」
「加山さん!」
「……ッ!み、緑谷くん?」
肩を強く揺さぶられた衝撃で意識がはっきりした。
「先輩と壊理ちゃんを頼んだよ。」
「待って……」
「今動けるのは僕たちしかいない。2人を守って。」
「ダメだよ……緑谷くんッ!」
飛び出して行く彼に私の言葉は届かない。すぐに治崎との交戦が始まった。
いち早く冷静さを取り戻したのは緑谷くんだった。捨て鉢ではなく、危険を承知で少しでも全員の生存確率が高くなるベストを選んだ。ヒーローを背負うに相応しい精神力。
それに比べて私の体たらくはなんだ。何がヒーローだ、何が手を掴むだ。私が折れてちゃ何の意味もない。
大事な友達たちに気合い入れて貰っただろ。足りなかったか?この腑抜け!
「ッ〜〜〜!」
思いっきり自分の顔をぶん殴る。痛い。
でも
「……すっきりした。」
壊理ちゃんの手を引き、ミリオさんには肩を貸す。
2人を安全な場所まで逃がす。そして緑谷くんのところへ戻る。
戻ったら今度は……
──治崎をぶん殴って、ふざけた夢も終わらせる。