半分少女のヒーローアカデミア   作:Akafuku2000

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約2週間ぶりの投稿です。忙しくて腰据えて書く時間が取れない。筆も進まない。でも丹精込めて書きましたので、楽しんでいただけたら嬉しいです。


半分少女とインターン7

半分少女のヒーローアカデミア

 

来た時とは打って変わって静まり返った廊下を進む。ただその歩みは遅遅として進まない。

 

理由は至極単純、私の筋力がミリオさんの体重に負けてるから。

 

体に鉄でも入ってるのかってくらい重い。重傷でほとんど脱力してるからなのも大きい。それでも力を振り絞って足を動かしてくれてるから、全体重を背負うよりは負担が軽かった。

 

「もうちょっと……もう、ちょっと!」

 

あと少し行けば、分かれた刑事さん達と合流できる。大人の手があれば、ミリオさんも早く移動できる。緑谷くんも必死に戦ってるはず。壊理ちゃんが救かるのも、緑谷くんが無事かどうかも私の頑張りにかかってる。体力は私が一番有り余ってるんだ、足を止めるわけにはいかない。

 

汗で滲む目をそのままに、歯を食いしばって踏み出す。

 

そして不意によろけた。

 

「ぐ、ぁあ……」

「ごめん……足が……」

「だい、大丈夫、です。」

 

やっぱり傷が深すぎた。足の踏ん張りが効かなくなったミリオさんに押し潰されてしまう。

 

うぅ、重い……

 

巻き込まないよう咄嗟に壊理ちゃんの手は離せたが、私が手を着く暇がなかった。受け身も取れず、ミリオさんの体重をフルで受ける。強かに胸を打ち付けてしまった。肺の空気が一気に押し出され、肋骨に響く痛みが全身を駆け抜ける。

 

「退いたら、背負って移動します。」

「いや、2人で行ってくれ。壊理ちゃんも加山さんと行くんだ。彼女だけじゃない、何十人って人が君を救けようと動いてる。だから大丈夫なんだ、壊理ちゃん!」

 

この作戦は壊理ちゃんの保護が最優先だ。彼女を連れて逃げることとミリオさんを置いて行くことは天秤にかけるまでもない。こうやって悩んでる時間が全て治崎への利となってしまう。

 

『お前のせいでまた人が死ぬぞ!』

 

痛みから回復し、ミリオさんの下から抜けようとして、聞きたくもない声が廊下に響く。

 

……治崎の声だ。

 

でもどういうこと?ただの大声じゃない。仮にそうだとしても、こんなに離れたところではっきり聞こえるはずがない。しかもこの脳にビリビリ来る嫌な響き方。

 

個性が絡んでる、けどオーバーホールじゃない。だとしたらなんだ?大きな変化と言えば音本と融合したことだけど……

 

音本の真実吐きか!問いかけた相手の本音を無条件に引き出す個性。

 

まずい……壊理ちゃんはだいぶ参ってる。そこに個性の力が乗った言葉は痛いほどに染みるはずだ。早いとこ抜け出さないと向こう側に引っ張られる。

 

『これが望みなのか!壊理!!!』

 

「………」

「ダメ、壊理ちゃん!戻っちゃダメ!」

「そんなこと、望んでない……」

「待って!!!」

 

壊理ちゃんは治崎のところへ戻ることを選んだ。

 

 

 

腸が煮えくり返る。

 

壊理ちゃんのせいで死んだ人なんていない、少なくとも治崎の元ではそうだ。彼女が自分の意に沿わない行動を取るたびに見せつけながら人を殺し、罰を与えてきたんだろう。一つ一つ希望も感情も摘み取るように。

 

身動き取れないくらい雁字搦めに縛り付けておいて、何かあれば「お前のせい」

 

……バカも休み休み言えよ。

 

全身に力を入れて、完全に脱力してしまったミリオさんの下から抜け出す。鉛みたいに重い。もっと鍛えておけばよかったとくだらない後悔をした。

 

「ミリオさん、悪いですけど置いていきますね。」

「気にするなよ。今じゃ、俺が一番足でまといだ。」

「治崎をぶっ飛ばしたら、すぐに壊理ちゃんたちと戻ってきます。」

「あぁ、頼んだぜヒーロー。」

「……はい!」

 

ミリオさんを後ろに残し、今来た廊下を再び駆ける。個性を使って一息に飛ぶように動けば、あっという間に壊理ちゃんの背を捉えた。

 

見えないけど、奥に治崎、手前に緑谷くんって感じか。ギリセーフ、かな?

 

もう一段階、強く踏み込んだ。

 

『……ならお前はどうするべきだ?』

「戻る──」

 

 

「──そんなことしなくても大丈夫。」

 

中へ入ろうとした彼女の手を掴んで止める。

 

あともう少しというところで乱入してきた私に治崎の腹立たし気な視線を頂戴する。

 

「離して、ください。」

「離さないよ。」

「もういいんです。私が戻れば、みんな傷つかない。」

 

彼女の中ではそれが一番の答えなんだろう。でも口には出さないが、私はそれは無いと思う。自分の計画を暴き、これからというときに邪魔された。本部は壊滅、部下もほとんどを失った。そんな治崎が壊理ちゃんを回収できたからといって大人しく引き下がるか?

 

もちろんノーだ、絶対に私たちを許さない。最低でもこの場にいる者は抹殺される。壊理ちゃんが戻っても彼女の望む通りにはならない。だから引き下がるわけにはいかない。

 

しかし壊理ちゃんの言葉は、治崎にとって喜ばしいものだったらしい。

 

「そうだよなぁ!自分のせいで他人が傷つくより、自分が傷つく方が楽だもんな。ルミリオンで芽生えかけた淡い希望が砕かれた。気づいてるか?壊理にとって最も残酷な仕打ちをしてることに。」

 

自分の意の通りに動こうとする壊理ちゃんが愉快でたまらないって声だ。

 

「お前たちは求められてない。」

 

やはりコイツとは相容れない。壊理ちゃんが笑って生きていけるようになるために、治崎には退場してもらおう。

 

「そうだとしても……君は!泣いてるじゃないか!」

「ヒーローの本質は余計なお節介、こういう出しゃばりは上等なんだよ。」

「2人で救けよう!加山さん!」

「おうともさ!」

 

やってやろうぜ!ヒーロー、デク!

 

揃って治崎に構える。そして

 

「……って天井!?」

 

唐突に崩落した地下に出鼻をくじかれた。

 

 

※ ※ ※

 

「リューキュウ!?2人とも!」

「なんで上から!?」

 

びっくり。なんか敵連合まで降ってきてるし……

 

いきなりリューキュウとお茶子さん、梅雨ちゃんが上から降ってきたのには驚かされたが、よく考えればありえない話でもない。治崎の無理やり行った地形操作、地上での戦闘、地盤が耐えきれなくなってもおかしくないな。

 

しかしそのことに拘らってる時間は無い、今は壊理ちゃんだ。

 

「私たちは壊理ちゃんの方に行くから!」

「ナイトアイの保護、頼む!」

 

動けないサーのことをお茶子さんたちに任せ、走る。

 

しかし同様にこの事態から復活した治崎に行く手を阻まれた。地面を打ち上げ、壊理ちゃんを抱えて地上へと上っていく。

 

「治崎ッ!……させるかァァ!!!」

 

ワン・フォー・オールを今できる最大限引き出してるらしい緑谷くんが、一足先に壊理ちゃんの元へ飛んだ。

 

負けてらんないな。

 

ぶっつけ本番で、どこまでやれるか。でもやらなきゃ治崎には勝てない。

 

今では息をするようにできる個性操作に、一段と深く沈み込む。

 

この炎は赤いだけじゃない。

 

 

 

──炎の温度を……限界まで引き上げろ!!!

 

「纏炎・白ッッ!!!」

 

足に純白の炎を纏い、地面を一気に爆ぜさせる。いつも以上の激しい水蒸気爆発だ、得られる加速力は比じゃない。今まで出したこともない温度の炎に、体が内から焼かれる。普段なら泣き出してしまいそうなくらいの激痛、終わったあとの反動は予想がつかない。

 

でも怯まない、恐れない。

 

落ちてくる瓦礫を薙ぎ払って、ひたすら上へ上へと進む。

 

遠かった緑谷くんの背が近づき、その先の壊理ちゃんを目に捉えた。

 

「……ッ!」

 

ミリオさんのマントを手に、こちらへ身を乗り出す姿が見える。

 

それを見て、思わず叫んだ。

 

「おいで!!!」

 

治崎の手から離れ、空中に飛ぶ。彼女は自らの意思で救かることを選んだんだ。

 

自由落下してくる壊理ちゃんを2人でキャッチする。悲しい程に軽い体だが、それでも伝わってくる体温の確かさがあった。

 

「やっと捕まえた。」

「もう、離さないよ。」

 

ようやく、ここまで来たぞ。

 

でも奴はそれを許さない。

 

「返せーッッ!!!」

「執拗い男は嫌われるよ!」

 

治崎も死にものぐるいだ。もう壊理ちゃんがどうなろうと構わない。オーバーホールは死んでさえいなければ無傷に戻せる。彼女諸共、潰しに来るだろう。

 

けど、それを受け入れてやる言われはないね。

 

「デクは回避に専念!露払いは私がやる!!!」

「了解!」

 

緑谷くんの方が小回りが効く、彼に壊理ちゃんを守ってもらうのがいい。私はさらにそれを守る。手数も速さも向こうが上、来る攻撃を凌いでもキリがない。なら基点を潰すしかないだろう。

 

速さだけなら私だって迫れるはずだ。

 

足に限定していた纏炎を全身に広げる。負荷はさらに増すが、火力はそれ以上になる。

 

「そう来るよね!」

 

思っていた通り、足場にしていたコンクリートが棘に変化する。

 

凄まじい速度……それを砕くのが私の役目。

 

熱を指先に集め、圧縮し、一点にして放つ!

 

「行けッ!」

 

私が放った炎は一筋の熱線となって空を駆ける。白い閃光、棘を生み出していた箇所を確かに撃ち壊した。

 

よっしゃ、作戦成功!壊したところからは棘は出てこない。これをこのまま続けるだけだ。治崎も私たちを追って飛び降りてる。個性で操る物がない以上、奴は落下し終わったらそこまで、決着は落ちてる間につく。

 

順調に棘を無力化しつつ、横目で緑谷くんを見る。彼は私が壊し損ねたものも利用して器用に空中を飛び回ってた。相変わらず器用さの塊だ、子供1人抱えながらあんな曲芸師も真っ青な動き、いつどこで身につけたんだか。でもあれなら安心出来る。

 

そろそろ治崎も近い、思いっきりぶん殴る用意を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい???」

 

空が見える?はい。

 

落下してる?確かに。

 

さっきまで地下にいたよね?その通り。

 

「どうなってんのーーー!!?」

 

気づいたら空高く放り出されてた。何が起こったかさっぱり分からない。とにかく状況を把握しようと近くを見回して、傍に緑谷くんを見つけた。

 

「緑谷くん何起きてるのこれ!?」

「ごめん!多分コントロールがブレた!」

「なるほど!」

 

飲み込めないがとりあえずそういうことで置いとこう。

 

ま、まぁ察するに危機的な状況で、それを何とかしようと焦っていたところ、うっかりワン・フォー・オールの全力を出してしまったと。多分そんな感じだと思う。全盛期のオールマイトと同等の力、そりゃ瞬間移動みたいに吹っ飛ばされるわけだ。ていうか圧倒的すぎて吹っ飛ばされたと認識する暇もなかった。

 

しかし、そうとなれば緑谷くんは反動で骨がぐちゃぐちゃに折れてる。このまま落下させたら彼は地面のシミになっちゃうな。

 

「緑谷くん、着地は私がするから任せて。」

「うん、ありがとう。」

「じゃ、ちょっと失礼。」

 

彼の真下に移動し、纏炎を解く。しっかり抱えたのを確認して、足から一気に水流を放出した。水蒸気ほどの爆発力はないけど、パワーと安定感はこっちの方がある。速度を殺しながら出力を微調整して、なんとか地面に着地できた。

 

「ふぅ、上手くいったね。緑谷くんも骨大丈夫……ってどこも折れてなくない?怪我も治ってるし。」

「え?…ほんとだ、どこも痛くないや。加山さんも派手に個性使ってたのに何ともなさそうだよ?」

「わっ!私もじゃん!火傷してないし、熱も籠ってないし。」

 

これは一体……?

 

治崎の個性ならできそうだけど、そんなことあるわけないしなぁ。脳内麻薬ドバドバで痛みは飛んでも傷が治るはずがないし。

 

……まさか

 

「壊理ちゃんの、個性?」

「確かに、それしか考えられないね。」

「うんうん。」

 

彼女の個性は巻き戻し的ななにかだと考えてる。個性因子を「巻き戻し」て無個性にする、それなら個性破壊弾なんてものの理屈も通る。思い返せば音本と融合したはずの治崎が元に戻ってた。巻き戻しならそれも合ってる。

 

凄い個性だ、それでいて恐ろしくもある。私たちに今起こったみたいな肉体時間を巻き戻すだけでもハイリスクハイリターンだ。戻しすぎたら若返り、最終的には消えてしまうだろう。でも使いこなせば、きっと役に立つことも多い。

 

まぁどう使うかは、これから壊理ちゃんが決めることか。

 

「とりあえず一旦、壊理ちゃんは安全なところに隠そうよ。……緑谷くん?」

 

考え事を中断して、緑谷くんの方へ振り返った。でも様子がおかしい、うずくまって、そして苦しそうにしている。

 

何が起きてる!?

 

「体が、内から引っ張られるみたいだ……!」

「いきなりどうして………ッ!わた、しも、うぁ!」

 

私も同じ症状に襲われ、そこに膝をついた。

 

内に引っ張られる……確かにこれは、言い得て妙だね。熱いのに寒い、見えない何かに引きずり込まれるような、言葉にできない苦しさがある。

 

……考えたくないが、心当たりは1つしかない。

 

「力が制御できてないんだ……」

「……ッ!加山さん避けて!」

「うわっ!」

 

緑谷くんに警告されて慌てて飛び退いた。私たちがさっきまでいたところに叩きつけられるようにして現れた大きな手……治崎か。

 

どこまでも諦めの悪いやつだ。

 

「拍子で発動できたものの止め方が分からないんだろ?壊理!」

「無駄にでっかくなりやがって……」

 

また部下を取り込んで穴を登ってきたらしい。今度は力技で戦おうって感じか?

 

「そのまま抱えていては消滅するぞ。触れるもの全てが無へと巻き戻される。呪われてるんだよ、そいつの個性は。俺に渡せ、分解するしか止める術はない。消えたくなかったら壊理を渡せ!」

「絶対に嫌だ!壊理ちゃんは僕の折れた足を痛みすら感じる前に治してくれた。……とっても優しい個性じゃないか!」

「そう、壊理ちゃんは優しい。この子も、誰だって呪われて生まれる人なんかいない。呪いをかけるのはいつだって周りの人間だ!履き違えるなよ、治崎廻!」

 

さぁ、最終局面だ。

 

壊理ちゃんの巻き戻し、もう触れてない私にもまだ効いてる。彼女を背負ってる緑谷くんはもっとだ。制御できてない個性には少し困ってしまうが、それでもやりようはある。今の効果は肉体時間の巻き戻しだ、なら戻るよりも早く体を壊し続ければ均衡は取れる。

 

大博打もいいところ。でも壊理ちゃんの力があるからこそ、本気のさらに先を使えそうだ。

 

「纏炎──」

 

さっき纏った白炎よりも高く。私の炎、その真骨頂を見せてやる!

 

「──蒼ッ!」

 

自分で発する熱に周囲が陽炎に包まれる。

 

足元のアスファルトは既に溶けた。

 

体調は絶好調、どこも熱くないし、痛くない。

 

それと同時に緑谷くんからも今までない力の高まりを感じた。彼も同じ結論にたどり着いて、ワン・フォー・オールの全力を使い続けることにしたらしい。

 

最高じゃん!

 

「……壊理の力は個性因子を消滅させ、人間を正常に戻す力だ。個性で成り立つ世界を、理を壊すほどの力。壊理の価値も分からんガキに!利用出来る代物じゃないッッ!!!」

 

巨体が動く、大きすぎる腕が振り下ろされる。しかしそれが到達するより前に緑谷くんは動いた。分かっていても動き出しすら見えない超スピード。そしてそのスピードを出せるだけのパワーを秘めた蹴りが治崎を捉える。

 

「そりゃオールマイトがナンバー1なわけだ……」

 

ゴムボールでも蹴飛ばすような軽さで治崎が天高く打ち上げられる。知らない人が見たら自分の目を疑う超展開にちょっと呆気に取られた。でもそれを見てボーッとしてる訳にもいかない。普段なら使わない炎の噴出によって、彼らが飛んで行った上空まで移動する。

 

「派手にやってるやってる。」

 

治崎の奴、緑谷くんに釘付けだな。しかしあの体、ワン・フォー・オールを受けても原型を保ってるあたり、かなり耐久力に優れてる。今の緑谷くんでもちょっと時間がかかりそうだ。殴っても肉の壁が厚すぎて、本体まで威力が伝わりきらない。

 

こっちも時間制限があるし、短期決戦で行こう。

 

「目の前の小さな正義だけの、感情論のヒーロー気取りが!俺の邪魔をするなァァァ!!!」

 

大振りな攻撃、それでもかなり速い。普段なら対応が難しいが、緑谷くんは軽く避ける。

 

……いい感じに隙ができたな。

 

「緑谷くん!一発で決めて!!!」

 

治崎との間に入って指示を飛ばす。遠すぎるけど、動きが止まったし分かってくれてそう。

 

さてさて私の役目を果たしますか。

 

治崎の肉の厚さと骨の太さは厄介。せめて手足を切り離して本体を守れない状態にしなきゃならない。私の炎ビームじゃ、あのデカさと厚さを一瞬で切断するのはちょっとキツイ。でも何とかできそうではある。

 

切る方なら水流で試したことがある。それを炎でやってみる。高圧水流を刃のように鋭くする、その形態変化を炎に応用すれば……

 

両手を左の腰に添える。あんま意味は無いが、まぁカッコつけだ。

 

「お前……そこを退けッッ!!!」

 

肉体を再構成した治崎が迫る。

 

──好都合だ。

 

「炎刃、抜刀ッ!」

 

溜めた炎を刃の形にして放出、一息に治崎の手足を切り飛ばした。

 

「目の前で泣いてる小さな女の子を救えないで……みんなを救けるヒーローに!」

 

私の横を深緑の突風が吹き抜ける。

 

かましてやれ!ヒーロー!!!

 

「成れるかよぉぉぉ!!!!!」

 

 

英雄の拳が治崎を貫いた。

 

 

※ ※ ※

 

地上に戻り、事態は静寂。治崎は気を失ってるみたいだ。

 

私の方は特に問題なし。個性の反動と壊理ちゃんの巻き戻しが幸運なことに綺麗に打ち消しあった。残存してた巻き戻しの効果も感じられない。蒼炎状態なんて一瞬でも発動したら消し炭になってるだろうし、中々危ない橋を渡った。

 

「はぁ、なんとかなっ……」

「がぁぁ!?くっ、あぁ!」

「緑谷くん!?」

 

やばい!巻き戻しの力が増してる!ワン・フォー・オールで体を壊すスピードを上回ったか!?

 

どうしよう!とにかく早く引き剥がさないと……

 

「っぁぁああ!?」

 

うっかり触れたのは間違いだった。

 

ミスったーー!不用意に近づいちゃいけないやつだったこれ!最初に触れた指先からでもさっき以上の勢いで個性が侵食してくる!

 

巻き戻しが強すぎて動けない……くっっそ、やっとここまで来たのに!

 

「あああああっっっ!!!」

「このっ!治崎、まだ!」

 

死力を振り絞った治崎が再構成した手を伸ばしてくる。3人とも動けない状況、最悪だ!

 

 

 

……って、来ない?

 

巻き戻しが効いたのか。なんとか目を向ければ、治崎と部下が分離されていくのが見える。前者の方はお茶子さんが上手く捕まえてくれた。

 

ナイス!って言いたいところだけど、このままじゃ。

 

戦闘を終えたヒーローと警察が地上に戻ってくる。でも誰もこの事態に手出しができない。みんなからしたら何が起きてるのか分からない以上、下手に触れないし、そしてそれは正解だし。

 

──あぁ、相澤さんが居たらなぁ……

 

なんて弱音を吐いたとき、巻き戻しの奔流が止んだ。

 

伝わってくる慣れ親しんだ視線の元を辿る。

 

そこには黒づくめで無精髭、伸び放題の髪をそのままにした人。

 

またボロボロになって……

 

 

でもやっぱり、最高に私のヒーローだ。

 

 

 

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