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半分少女のヒーローアカデミア
死穢八斎會への強制捜査は終結した。無事なヒーロー、警察たちは状況把握と事態の収拾に当たっている。負傷者は既に病院へ搬送、私も搬送された側だ。
と言っても私は壊理ちゃんの個性によって無傷の状態に戻されてる。お医者さんの方としても診るべきところはないと、早々に診察は切り上げられた。
服を着直し席を立とうとしたところで、診察室に声がかけられた。
「加山、終わったか?」
「終わってますよー。今行きますね。」
診てくれた先生に一礼してから廊下へと出た。外には相澤先生と……緑谷くんも一緒だったらしい。
戦いの終わった脱力感か、沈黙が続く中で相澤先生が口を開いた。
「大事なところで居てやれなくてすまなかった。」
「そんなことないですよ。最後、相澤先生がいなかったらどうなってたか……」
思い返すのは治崎との戦闘が終わった直後のこと。巻き戻しの力が増大する壊理ちゃんに緑谷くんは巻き込まれてた。私も不用意に接触したために同じく巻き戻しにやられるところだった。事故のようなもので、壊理ちゃんに何の非もないが、自分たちが消えてたかもしれないというのは肝を冷やした。
相澤先生が抹消を発動してくれてたから助かったけどね……
でも先生は玄野にやられてたし、梅雨ちゃんが連れて来てくれなきゃ本当に危なかった。
私がこっそり冷や汗かいてる横で緑谷くんは先生に他の人たちの安否を聞いている。切島くんは打撲に裂傷、天喰さんとファットは骨折、刺されたロックロックも内臓は傷ついてなかったそうだ。ロックは一応私が応急処置してたから大事ないのは安心する。
「あの、壊理ちゃんは?」
「まだ熱も引かず、眠ったままだ。今は隔離されてる。」
「隔離…面会もできないですか?」
「お互いの安全を考えたらね……」
「そうだな。彼女の人を巻き戻す個性、不意に発動してしまったら俺以外に止める手立てがない。緑谷は全身を破壊、加山は焼き続けることで拮抗したらしいな。だが、それをできる人間はそう居ない上、巻き戻しがさらに強く発動したら対処できん。」
その通りだなぁ。普通、自分以外で発動系の個性はオンオフできないし、巻き戻しに拮抗しようとしてもその場凌ぎにすぎないのは、緑谷くんのことを見ててよくわかった。人との接触は慎重にすべきだ。相澤さんに会うまで病院吹っ飛ばしまくってた私が言うのだから間違いない。
階を移り、そのまま話は続く。……向かってる先は
「人にしか作用しないのを見ると訓練も気軽にできない。未知数な力で、精神的にも不安定、隔離しておくのはあの子のためでもある。」
「なんかちょっと私に近いですね。」
「全くだ。またお前みたいな子の面倒を見ることになるなんてな。」
「あはは……」
相澤先生は少し疲れたような顔してた。緑谷くんは気まずそうな顔してる、ごめん。
「まぁ色々と話したが、言いたいのは壊理ちゃんの個性には頼れないってことだ。受け入れるしかない。」
「………」
そう言って先生は目的の部屋の前で止まる。開いた先にいたのはバブルガールとセンチピーダーだけでなく
「オールマイト?リカバリーガールも、なんで。」
「……私が呼んだの。だって、サーいつもオールマイトのこと……」
バブルガールは泣き崩れる。センチピーダーはそれに寄り添っていた。
ここはサー・ナイトアイの治療室だ。
「手の施しようがなく。正直、生きているのが不思議なほどです。」
「こうなってしまっては、私の治癒ではどうにもならないな。」
「……残念ですが、明日を迎えることは叶わないでしょう。」
病院の医師とリカバリーガールの両者がもう無理だと断ずる。それほどにサーは瀕死の重傷。いや、さっきの話を信じれば、本来は既に死んでいる傷なんだろう。
腹に大穴が開いていた、重要な血管も臓器も全て貫いて。誰が見ても致命傷だった。私だってあの時、サーが即死しなかった幸運に少なからず驚いた。もしくは彼の精神力が並外れているのか。
「ナイトアイ。」
「オールマイト……最後でようやく会う気に?」
「返す言葉が見つからないよ。私は君に酷いことを。」
掠れた弱々しい声は、否応なくサーが死の淵にいることを知らせてくる。
「ずいぶん畏まってるじゃないか。私は貴方を恨んじゃいないよ。貴方に幸せになって欲しかっただけだから。抗うと決めてくれたなら……」
「君も抗ってくれ!私にこれまでの償いをさせてくれ……!」
「償いなどいらないさ。貴方が殺される未来を変えたくて、その術を探ってきた。しかしずっと、どうにもならなかった。……だが緑谷と加山が今日見せてくれた。」
サーは語る。彼が無計画に予知することを避けてきた理由を。それはやはりオールマイトの死の未来だった。象徴であり、憧れであるオールマイトを死なせないため、何年も抗っていたらしい。そしてずっと未来を変える手段は見つからなかった。
けれど未来は変えられると示して見せたのは緑谷くんと私、だとサーは言う。
「考えるにエネルギーなんじゃないかと思うんだ。疑念のない確かなビジョン、未来を望むエネルギー……きっと彼らだけじゃない、みんなが強く信じて紡いだ、そのエネルギーが加山に手渡され、緑谷に収束し放たれた結果なんじゃないか。」
「未来は、変えられるんですね。」
「そうだ、未来は確定などしていなかった。オールマイトの考えは変わった。私はそれで十分、ただ心残りは……」
少しサーが言い淀む。彼の心残りは。
「サー!!!」
傷だらけの体を引きずってまで駆けつけてくれた愛弟子、ミリオさんだ。
「生きてください!死ぬなんてダメだ!!!」
「ミリオ、辛い目に遭わせてばかり……私がもっと」
「貴方がッ!教えてくれたから強くなれたんだよ!貴方が教えてくれたから今生きているんだよ!俺にもっと教えてくれよ!!!」
私は目を伏せた。
いつも笑顔、それが素であり、それをモットーにミリオさんは過ごしている。そんな彼が私たちの目も気にせず泣き腫らしている。とても直視出来なかった。
涙で顔を濡らしたミリオさんにサーは手を伸ばす。
「大丈夫、お前は……誰よりも立派なヒーローになってる。この未来だけは変えてはいけないな。だから笑っていろ。」
サー・ナイトアイ、生涯最後の予知……
「元気とユーモアのない社会に、明るい未来は……やって、来ない。」
それが彼の最後の言葉。
無慈悲な心電計の音、それがサーは息を引き取ったと告げる。
そうか、これが人が死ぬってことなんだ。
……すごく暗い気分、胃に鉛でも入ってるみたい。
黒く粘ついたものが胸に広がった。
※ ※ ※
明けて次の日、ほとんどのインターン組は退院する運びとなった。私と緑谷くんは怪我がなかったから当然として、切島くんたちもリカバリーガールが治癒してくれたおかげで、すっかり元気になっている。傷の深いロックロックや何本も折れてるファットガムはもう少しかかるらしい。
しかし……あまりよく眠れなかったな。病院が苦手っていうのもあるけど。
荷物をまとめ、制服に着替えてロビーへと降りる。その途中で緑谷くんとすれ違った。
「あれ、緑谷くん忘れもの?」
「あ、いやぁ、その……」
「んー?」
荷物も持たず急いだ様子で歩いているものだから、忘れものかと思ったけど違うっぽい。一瞬見えた思い詰めた感じの表情、うーん。
「通形先輩に話が、あって。」
「……へぇ。」
「う、」
私は彼に向かってる半眼する。ちょっと読めたぞ、状況が。
ミリオさんは検査入院だ。個性破壊弾で撃たれたんだから、異常がないか諸々検査しなくちゃならない。そして彼は今、無個性になっている。つまりまぁ、何の因果か中学時代までの緑谷くんと同じ体質なんだよね。
治崎相手への圧倒的活躍、無個性にされても折れなかった精神的強さ、どれをとっても今の緑谷くんよりは上と言わざるを得ない。さて、そんな人を見て緑谷くんはどう思うか。彼はワン・フォー・オール次代継承者、あのオールマイトに象徴たる力を継ぐに相応しいと認められた男。でも自分より相応しそうな人を前にして揺らがずにいられるのか。
そんな弱気が昨日から黒くモヤモヤしてささくれた胸に引っかかった。
緑谷くん、君ってさ……
「ミリオさんに譲る気?」
「ちょちょ!ここでその話は!」
「ぼかしてるから聞かれても何の話か分からないって。……で、話は戻すけどさ。先輩は受け取らないんじゃない?」
「それは……でも、先輩だったら!」
「たらればを言ってもしょうがないよ。それに先輩がヒーローになるの諦めるって言った?……ねぇ、ミリオさんはきっと前を向いて頑張ってる。君が挫折したのを押し付けちゃダメだよ。」
「………」
しまった……
個人的な苛立ちプラス緑谷くんらしくないところを見て、ズケズケと言い過ぎちゃった。しかも感情的には苛立ち8割、八つ当たりじゃん。
でもヒーロー目指して足掻いていた彼が、それを手放すなんてことを言うのは弱音であっても認めたくなかったのも事実。
あー、ほんとよくないぞ、私。
下を向いて深く息を吐く。
「なし、今のなし。」
「そんなことないよ。正論、だと思うし……」
「だとしてもほとんど私の八つ当たりだった。私が知った顔してごちゃごちゃ言うより、ミリオさんと話した方が色々はっきりすると思う。引き止めてごめんね。」
「……わかった、先輩のところ行ってみるよ。それとありがとう、加山さんの話、結構響いたよ。」
「それはなしって言ったじゃん。……忘れて忘れて、さっきの話は。」
まっすぐに見つめてくる緑谷くんを見れず、私はそっぽを向いて手を振る。それに彼は苦笑して、「また後で」と言って去っていった。彼が角に消えて見えなくなるまで見送ったあと、また1つ息を吐く。今度はため息だ。頭を振って踵を返す。
なんでこんなイライラしてるんだろう、私……
1階に行けば予定通り、相澤先生がいた。
「お待たせしました。」
「あぁ。他の奴はまだ来てない。かけて待ってろ。」
「わかりました。適当に待ってます。」
集合に今しばらくかかるらしい。先生に言われた通り、近くにあった待合席にかけて待つ。
「………」
「…………」
お、落ち着かないな。別に沈黙が苦手な訳じゃないけど。先生の方から何度か視線を感じる。何か言いたいことがあるのかな?とはいえ、私から話すこともないし……
微妙な雰囲気が30秒、1分と過ぎていく。段々いたたまれなくなってきて、誰が来てくれないかなぁと思い始めた頃、先生がやっと口を開いた。
「加山……いや水穂、言いたいこと、相談したいことはないか?」
「相談?特にないけど。」
「本当か?このインターンは多すぎる程に色々なことがあった。昨日から顔色が良くない。他の生徒も見るに似たような様子だが、お前は特に目に留まった。」
「……生徒の贔屓は良くないよ。」
「かもな。」
いつの間にか目の前に来ていた相澤先生は、しゃがみこんで私に視線を合わせようとする。でもやっぱり先生とも目は合わせられなかった。
そこまでされると曖昧に濁すことも出来ず。できる範囲で答えを絞り出す。
「言いたいこと…はある。でも言えない、私の中で言語化できてないから。モヤモヤしてるけど、理由がよく分からない。」
「そうか。……俺も急ぎすぎた。寮に戻ってゆっくり休んだ方がいい。そしたら考え事も纏まるんじゃないか?」
「うん、そうする。」
そう返事してやっと先生の目を見れた。先生の目に写る私はどんな顔をしているんだろう。やっぱり血色の悪いしょぼくれた顔をしてるのかな。むにむにとやって表情筋を解す、ちょっとマシになった?
しかし自分でも分からない感情っていうのは辟易する。原因不明だから、どう抑えたらいいのか。緑谷くんは優しいから笑って許してくれたけど、自分の不機嫌を周りに当たるのは良くないことだ。……はぁ。
とりあえず早く寮に帰って部屋に引っ込みたいなぁと思いつつ、緑谷くんを待つ。しばらくすると切島くんが来て、それに遅れて緑谷くんも戻ってくる。
でも結局、警察の事情聴取でまっすぐ帰れなかったんだよね。
※ ※ ※
「3人ともー!」
「おぉ!麗日!梅雨ちゃん!」
お茶子さんが後ろから元気よく声をくれる。私たちと同じく2人も帰りが遅くなってたらしい。
「麗日さん達も今戻って来たの?」
「うん!」
「リューキュウの事務所で色々手続きがあったの。」
「こっちもだよ。」
「あの聴取は長かったねぇ。」
「確かに……」
こんな時間まで警察の事情聴取に付き合ってた私たちは、お互いにしみじみとする。向こうも仕事だから仕方ないって分かってたし、聴取の人もあんまり学生を拘束するのも良くないってできるだけ手早くやってくれてたみたいだけど。……まぁ、それにしたって長いものは長かった。日が暮れてるんだもん。
「何だか、久しぶりに帰ってきた気がするね。」
感慨深そうに言うお茶子さんの言葉にみんな頷き合う。何はともあれ、私たちは無事に帰って来れた、それを喜ぼう。
ちょっと懐かしさすら覚えるエントランスのドアを開けると
「……帰ってきた。奴らが帰って来たーーーー!」
峰田くんを先頭にA組の面々がドタドタと駆け寄ってくる。状況を見るに、みんなして待ってくれてたのか。私たちが「ただいま」を言う暇も無く、次々に心配の声が飛んでくる。八斎會の報道を見て、私たちが何してきたかも知るところらしい。
……嬉しいけど、少し恥ずかしいな。
「まぁ、とにかくガトーショコラ食えよ。」
「神野の時といい、今回といい!お前ら毎度すげぇことになって帰ってくる!怖いよ!いい加減!!!」
「ご、ごめんね。」
神野で奪還に動いた2人と攫われた私に、上鳴くんはそれはもう心配してくれる。でも確かにクラスメイトが事ある毎に事件の中心にいるのは気が気でないよね。逆の立場なら私だってそうだ。
「この度も心配をおかけしました。」
「何その言い回し!?俺のハートはそんなに毛深くねぇんだ。もっと労わってくれよ!??」
「善処しま……がふっ!?」
彼には冗談っぽく返すのがいいかなと適当にやってたら、今度は葉隠さんに抱きつかれた。葉隠さんの抱きしめる腕と横の2人に挟まれる圧力が絶妙な具合で私の首と肺を締め上げる。
ぐ、ぐるじい!?ギブ!ギブギブ!!!
「お茶子ちゃん!梅雨ちゃん!水穂ちゃん!無事で良かったよーーー!」
「あ、ありがとう。」
「ケロ……」
「そろそろ、やば……」
「水穂ちゃん白目剥いてる!?ごめーーん!」
一瞬ブラックアウトしかけたが、完全に落とされる前に葉隠さんは離してくれた。ふぅ、なかなか刺激的な体験だった。
首を擦りつつ、新鮮な空気を急いで取り込む。その最中でもみんなの心配は留まるところを知らない。しかしそれを飯田くんが止めた。
「みんなーーー!心配だったのは分かるが、落ち着こう!報道を見ただろう?あれだけのことがあったんだ、静かに休ませてあげるべきだ。それが級友というものじゃないか。体だけでなく、心もすり減ってしまっただろうから……」
心かぁ。うん、ちょっと……疲れちゃったかもね。
こういう時、上手いこと場をおさめるのは飯田くんの長所だ。心配してくれてるのも本当だから、それを否定しないように話してくれる。
「飯田くん、ありがとう。でも…大丈夫。」
そう言って薄く笑いかける緑谷くん。昼間とは全然違う表情だ。まだ元気がないけど、八斎會での色々をあの後飲み込んだのか。やっぱりすごいなぁ。
私が緑谷くんの強さに感心してると、その言葉を受けた飯田くんはゆらりと振り返る。
「……じゃあいいかい?」
「う、うん?」
謎の断りを入れたのも束の間、彼は緑谷くんの方へスタスタ歩いて来て。
「とっっても心配だったんだぞ!俺はもう!君たちがもう!!!」
「うわわわわ!」
がっしり緑谷くんの肩を掴んでブンブンに揺さぶった。彼もずっと私たちを心配してくれたか。
それからは飯田くんの話の甲斐あって、心配ムードはトーンダウンした。お茶したり雑談したりと落ち着いた雰囲気になってる。私も八百万さんの入れてくれたお茶貰おうかな?お嬢様だけど、お茶を入れる作法とかもなってて凄く美味しいし。
って思ってたら居ないだろうと思ってた人に視線が行った。いつもの癖で吸い寄せられるようにそっちへ足が向いた。
「おい、かっちゃん何不貞腐れてんだ?心配だったからここいんだろ?な、素直になれよー。」
「心配してくれたんだ?」
「してねぇ。俺がたまたま居たところにテメェらが集まって来たんだろうが。……俺は寝る。勝手にやってろ。」
「え、早くね?老人かよ。加山もかっちゃん居ないと寂しいよなぁ?」
「うん、さびしーい。」
「……突っ込まねぇぞ。俺は暇じゃねぇんだ。」
キレ芸というツッコミもくれず、爆豪は去ってしまう。つまんないのー
さらに加えて轟くんまでも寝るといい始めた。彼も付き合いのいい方じゃないけど、それにしたって引っ込むのが早い。その事もつまんないと思ったが、耳郎さん曰く、彼らの仮免講習がもう始まってるらしい。明日も忙しくなりそうだから早々に寝ることにしたのか。ならしょうがないな。
2人も寝ることだし、話もそこそこにして私も抜けようかなと考えてると、爆豪の歩みが止まった。
「おい、クソメッシュ。」
「ん?」
「テメェが何見たか知らねぇけどよ。その不景気なツラ見てるとこっちにも移んだよ。とっとと寝て明日出直して来いや。」
「人の顔を不景気とか言うない。」
「知るか。」
それだけ言い残して、今度こそ爆豪は部屋に戻って行った。
ちくしょー、あの才能マンめ。人の悩みをあっさり見抜くな。なんで気づいてもらえて、心配してもらえてどこか嬉しくなってるんだ私は!
……でも、そうだなぁ。今晩は昨日よりは寝られそうだ。