2月中旬からは頑張って更新速度上げていきますので、今年もよろしくお願いします。今日は3話更新です。
半分少女のヒーローアカデミア
文化祭当日、学内開催ではあるが雄英は例年に劣らない大盛況ぶりを見せている。そんな盛り上がりの中、控え室となったA組の教室に私たちは集まっていた。
「そろそろだなぁ!緊張してきた〜!」
「明鏡止水、落ち着きましょう上鳴さん。」
「明鏡止水……」
「つか爆豪、Tシャツ着なよ。せっかく作ったんだから。」
「みんなで思い出作ろうよ〜かっちゃん。」
「うぜぇ……クソメッシュは冷や汗ダラダラなんどうにかしろや。」
本番はもう目前、みんな揃ってソワソワソワソワしている。私もさっきから嫌な汗と足の震えが止まらないよ、たすけて。
「ダンスの衣装もバッチリ!既製品に手加えただけだけど。」
「スカートくしゃくしゃになっとるよ?」
「エロけりゃいい!」
「平常運転すぎる。」
峰田くんのいつも通りすぎる発言にスンってなる。彼って意外と本番に強いタイプなんだよな。普段の俗っぽさからは想像出来ないくらい胆力がある。そのおかげでちょっと緊張解けた。いつもならもぎもぎが再生しないくらいまでちぎってたかもしれない。
「そういえば緑谷の姿が見えないな。朝からいないとは思っていたが。」
「それがよ常闇、青山に使うロープ買い直すつってホムセンに行ってんのよ。」
「それは……大丈夫なのか?既に本番まで1時間を切っているが。」
「近場にあるらしいけど、でもそれにしちゃ遅い気がすんな。」
言われてみれば上鳴くんの言う通りだ。件のホームセンターは調べたら往復に
30分くらいの距離だったし、緑谷くんがこんな時に道草食ってるとも思えない。だとしたら確かに妙に戻ってくるのが遅い。最近は朝練もしてたみたいだから出発に多少遅れが出たとしても、そろそろ戻ってこないと色々まずいな。
と言ってもここで遅れてる理由を考えても仕方ない。さっさと連絡でもして、どこにいるかくらい聞いた方が手っ取り早いか。
「水穂ちゃん、誰かに電話かしら?」
「うん、緑谷くんがちょっと遅れ気味だから。」
「そうね、連絡がつけば安心できるわ。」
「だね。」
カバンから取り出したスマホを手に彼の連絡先をタップする。耳に当て向こうが出るのを待った。
数回の呼び出し音、でもそれが取られる気配はない。そしてさらに数回鳴ったあと、電話は不在着信として途切れる。
「出ない、ね。」
「心配だわ。緑谷ちゃん、何もないといいけれど。」
「うん……」
その後も2、3回かけ直したが、どれも緑谷くんが出ることはなく、私は釈然としないながらもスマホを閉じた。
みんなと一緒に頑張ってたし、壊理ちゃんとの約束もあるのに彼がそれをすっぽかすなんてこと絶対にありえない。電話も気づいたらすぐ出る人だ。そんな緑谷くんが未だ戻って来ず、連絡もつかない。不自然、だと思う。最悪なパターンは、連絡も出来ないくらいのトラブルに巻き込まれたとかだけど……
でもなぁ、それほどの騒ぎが起きたら雄英にも知らせがあるはず。そもそもここら一帯はプロヒーローが何時でもいる雄英高校のお膝元だ、何かしてやろうって奴はヴィラン隆盛と言ってもいるとは思えない。文化祭のために普段以上の警戒態勢を敷いてる今、事を起こせる力があって思想も尖ってるのは敵連合くらいだ。アイツらも死穢八斎會の一件以降は動きがないし、死柄木ももう雑な作戦を仕掛けるような奴じゃない。
ただ買い物が遅れてるだけ、ならいいんだけどなぁ。
「大丈夫かな、緑谷くん。」
一度閉じたスマホのトークアプリを開く。彼とのトーク画面を眺めても既読はつかず、返信も来ない。
私の心配を他所に時間はさらに過ぎて行った。
※ ※ ※
A組の出番まで5分前、会場となっている体育館は超満員だ。内容の話題性もあるけど、ここまで集まるとは期待値が高すぎて怖い。
「思ったより人集まってるよ!」
「朝からご機嫌な連中だぜ……」
「楽しみにしてくれてんだよバカチン!」
私たちは既に準備万端で舞台袖に控えている。向こうの熱気も凄いが、こっちの緊張感も青天井、それ以上にやる気も十分だけど。
……ヤバい、ビビりすぎて喉カラカラ!
「デクくんはまだ!?」
「この期に及んで何しとんのじゃ!スットロが!」
「もう始まるのに……!」
肝心の緑谷くんの来る様子がない。彼抜きだとダンスも演出もかなり変更せざる得ない。そんな時間も用意もないよ!?
あぁもう!さっさと戻ってこんかい!
「──ごめん!遅くなった!!!」
開始寸前、それぞれの位置に着くのも合わせてあと1分もないというところで緑谷くんは転がり込んできた。
「全く何をやっていたんだ!……準備はできているな?」
「うん!」
「よし、全員配置に着くぞ!」
飯田くんの号令で各自の持ち場に移動する。
暗転、そしてブザーと共に舞台の幕が上がった。
『来たあああ!』
『1年、頑張れーー!』
『どんなもんだ!1年!』
『八百万ーーー!』
大歓声だ。普通に過ごしてたら味わうことのない注目。
ゴクリと喉を鳴らす。
A組として彼らの期待に、私として壊理ちゃんの期待に
──応えなくちゃならない。
耳郎さんの息を吸う音が聞こえる。
再び暗転して
「いくぞコラァァァ!」
爆豪の声がこだます。
「………雄英全員、音で殺るぞッッッ!!!」
BOOOOM!!!と爆風が会場を包む。腹の底まで響く大爆破、掴みはバッチリ!
タムを合図にA組の舞台が始まった。イントロの迫力は十分!
練習に練習を重ねた振り付け通りに体を動かす。自分で精一杯だけどダンス隊の息は合ってる。バンド隊も音はズレてない、誰も外すことなく演奏出来てる。
前奏が終わる。
「よろしくお願いしまァァす!!!」
ここからは我らがボーカル、耳郎さんの出番が来る!
私も合わせて中央に向けて飛び上がる。反対側から飛んで来た三奈さんの手を掴んでくるりと位置を入れ替えた。そのままお互いが始め立っていた場所に着地すれば完璧だ。
──What am I to be?
──What is my calling?
──I gave up giving up, I’m ready to go!!
耳郎さんの歌声が響き渡る。練習のとき以上に熱の込まった力強い歌は、観客の心を鷲掴みにしている。
私も最初のデカイのは上手くできた。次まで共通パートを全力で踊る。
センターの位置を賜ってはいるが、私ばかりが主役なわけじゃない。ダンス隊のみんなが舞台を入れ代わり立ち代わり動いて回る。飛んで跳ねて、バッと動いてグッと止まる。三奈さんが教えてくれたダンスの基本、緩急の意識がクオリティを何段階も引き上げてくれる。
やがて演奏はサビの終わりに差し掛かり、そこで緑谷くんと青山くんが動いた。ど真ん中へ駆けて行った2人はガッシリと腕を交差させ、その勢いのまま青山くんが高く打ち上げられた。
回転とともに発射されるレーザーの雨は、青山くんの口癖のように会場を煌めかせる。
『レーザーだ!』
『人間花火かよッ!!!』
会場からまた大きな歓声が沸き立つ。緑谷くんのパワーと青山くんのレーザーを合わせた人間ミラーボールは大ウケだった。人をこんな派手な演出照明にしてしまうなんて、演出隊の発想力は底知れない。これから更に演出を仕掛けてあるんだから驚きだ。
レーザーを打ち終えた青山くんの着地を尾白くんがサポートして2人は決めポーズ。緑谷くんは次なる演出のために舞台袖へと捌けていく。
短い間奏から曲は2番に入る。バンド隊もかなり集中力を使ってるはずだけど、演奏は澱みない。そして「私たち」はそろそろ例のパートだ、気合い入れてけ!
──Am I doing right?
──Am I satisfied?
──I wanna live my life
女子組が真ん中に集まって縦列に踊る。一瞬、暗くなった間にサークル状に分かれる。その中央にスポットライトが当たれば
──like it’s meant to be, Yeah !!
ドヤ顔を浮かべた峰田くんの登場、ここからは彼のハーレムパートだ。
演奏も進み、2回目のサビが近づいて来る。演出隊が考えた次なる大仕掛けの発動だ。
──Tried all my life
──I’ve tried to find
──Something that makes me hold on and never let go
──ohhhh!!
観客たちの上を縦横無尽に瀬呂くんのテープが走り、それを覆うように轟くんの氷結が足場を作る。用意された舞台だけに捕らわれない第2、第3のステージが現れた。そこに八百万さんの銀テープが打ち上がれば、会場は最高潮の大歓声に包まれる。
ダンス隊だって負けていない。サークルが広がり、周りを女子組が囲む。私は峰田くんとその中に、彼の相手役をする。ここで取り入れたのがあえて曲の雰囲気から外れる社交ダンスの動き。しかし重要なのは私たちの役割が逆なことだ。私が男役をし峰田くんが女役をする。そして締めに私のリードで彼がオーバースウェイを決めれば、会場にドッと笑いが起こった。
この決めを合図にダンス隊は会場中に散っていく。みんなにも割り振られた演出があるからだ。特にお茶子さんと梅雨ちゃんコンビによる観客の空中浮遊は目玉になる。
──さて、私も正念場だ。
2番のサビが終わる手前の頃、私は三奈さん、葉隠さんの3人でステージに残った。
舞台端から駆けて来た葉隠さんを三奈さんと待ち構える。組み合った手で葉隠さんの足裏を捉え、思いっきり打ち上げた。メインステージとなったバンド隊の斜め上には別のステージが設けられている、そこを目掛けて。
「イエーーイ!!!」
見事に着地し、観客へピースする葉隠さんに歓声が沸いた。でも私たちはそれだけで終わりじゃない。今度は2人で舞台端に移動し、互いに中央に向かって走る。決められた位置に来たところで、三奈さんがジャンプして私は逆立ちの構えになった。
ここはスムーズさが大事、もたついたら一気にダサくなる。根性見せろ、私!
飛んだ三奈さんが私の足に一度着地する。その負荷を支え、勢いを利用して足を曲げた。そしてそのまま2人の蹴る力を合わせて、次は三奈さんが空中のステージへと飛び上がる。
「どうだーーー!!!」
葉隠さんと同じく綺麗な着地を三奈さんが披露する。それにまたもや歓声が上がった。次に魅せるのは私の番だ。
足元で水蒸気を炸裂させて宙に舞う。視界が反転し、最高点に達したところで構えた右手から高圧水流を連射した。狙うのは予め設置してあったサッカーボール程の氷塊たち。テープに沿って連なるそれらを正確に撃ち抜いて、会場へ氷の結晶を降らせた。
ステージの照明が反射してキラキラと氷の粒が降り注ぐ中、私も着地すれば3度目の歓声が沸き上がった。
ふぅ、何とか上手くできた……
ダンスの練習に合わせて、さっきの大道芸染みた動きも練習しないといけなかったし、足場のない空中で氷を撃ち抜くなんて前日の合わせでやっと成功したレベルだ。演出隊がガンガン新しい案を思いつくからそれに応えるのはキツかった。でもみんなの盛り上がりを見れば、その出来は一目瞭然かな。
「じゃあ練習通りに!」
「ダンス隊メイン組!」
「張り切っていこー!」
今一度、互いに気合いを入れて私たちは踊り始める。共通パートに並行して練習したメインパートは頑張った甲斐あって滞りなくこなせてる。バンド隊も演出隊も他のダンス隊だって順調みたいだ。
演奏はラスサビへと入っていく。
そんな締めに向かう大一番の中、微かな疑問が心に染みを落とした。
──People will judge for no reason at all
──Yea they might try
──To say your dreams dumb…don’t listen
──They may look down on me and count me out
──I’m going my own way
──They may look down on me and count me out
──I’m a hero, I’ve got music
ダンスに必死ながらも脳裏の片隅でふと考える。
私は腹の底から笑えているかと。
このライブは雄英生の全員に楽しんでもらおうと企画されたものだ。ストレスの原因になっている私たちが逆にそれを発散させる機会を用意したいと。その目標を目指してA組は一丸となって取り組んだ。それを今、全力で披露して観客はみんな楽しんでいるように見える。そしてA組も楽しんでいる。私だってそうだ。
でもどこかで冷めた目で見ている自分がいる。溶け込めていない自分がいる。これまでの人生で同じ歳の人と何かを楽しむ、それは私にとって得がたいものだったはずなのに。
観てくれる人に向けるのは絶対に笑顔、それがバンド隊とダンス隊にあった暗黙のルールだった。誰が言い始めた訳でもないけど、どれだけ演奏が大変でもダンスがキツくても苦しい顔を見せちゃダメだって。
だから思う。私の笑顔は張り付けたようなものじゃないか?と。
サー・ナイトアイからの手紙が過ぎる。ヴィランを殺したい程に憎んでいる私が、ヴィランなんてどうなろうと知ったことじゃないと思ってる私が。
──本気で笑えているのか?
音が遠くなった気がした。
──Hero too
──I am a hero too
──My heart is set and I won’t back down
──Hero too
──Strength doesn’t make a hero
──True heroes stand up for what they believe
──Yea I’ll be !!!
演奏はラスサビに入った。観客も後ろ目で見える耳郎さんも最高の笑顔だった。観客の中には斜に構えた人がいた、耳郎さんは大好きな音楽をヒーローらしくないと気にしていた。でももう気にしている人は誰も居なかった。会場の熱気にみんなが飲まれている。
「………」
それを見て頑張って上げていた口角が下がる感覚があった。半端な気持ちを抱いている自分が場違いのように思ったから。
けれど叱咤して笑顔を保つ。半端だっていい、嘘だっていい、取り繕った笑顔でも届けたいと思える理由を心の真ん中に置く。これはA組としてじゃなくて、私としての譲れない理由だった。笑い方を忘れてしまった子に笑って欲しいという思い。
「壊理ちゃん……」
小声が思わず漏れた。
あの子は見ていてくれているだろうか。どう感じているだろうか。楽しんでくれているだろうか。
会場を見渡して壊理ちゃんを探す。きっと来ているはず、ミリオさんと見ていてくれてるはず。
──Hero too
──I am a hero too
──My heart is set and I won’t back down
──Hero too
──Strength doesn’t make a hero
──True heroes stand up for what they believe
いつの間にか必死な気持ちで会場中を探す中、一角を常闇くんの黒影が包むのを見た。それは元々あった演出プランの1つ。そして私はそこへ自然と目が惹き付けられる。
──So wait and see……
暗闇が晴れ、その中にミリオさんに抱えられた壊理ちゃんを見た。
「笑ってる………笑ってるッ!!!」
壊理ちゃんが笑っている。遠くからでもそれだけははっきりと見えた。目を輝かせて、頬を紅潮させて、大きく笑っている姿が。
意識しないと涙が零れそうだった。救われたような気持ちになった。これはA組が頑張った成果だ、それでも私にも誰かを笑顔にできるということが嬉しかった。こんな私を見て笑ってくれた壊理ちゃんに泣きそうだった。
──I have met so many heroes in my life
──Gave me the strength and courage to survive
──Gave me the power to smile everyday
──Now it’s my turn to be the one
──to make you smile
曲は後奏に入った。演奏が、ダンスが終わる。A組のライブは大成功だ。
私も最後の最後に思いっきり笑うことが出来た。みんなとやる文化祭は凄く楽しかったし、壊理ちゃんの笑顔は飛び切りの成果だ。
そして
──サーの課題にも答えは出た。