半分少女のヒーローアカデミア
休日明けて翌週の月曜日、今日も今日とて普通に学校だが……
「凄かったよなぁ!昨日のエンデヴァー!」
「あぁ、脳無にぶっ倒された時には肝冷やしたけどよ。最後は、勝利とガッツのスタンディング!……くぅぅ!漢だぜッ!」
「さすがNo.1だよね。」
「ホークスも凄かったよ!」
「イケメンだし!」
「『速すぎる男』の異名は伊達じゃねぇよな!」
昨日起きた脳無による博多市街の襲撃事件、そしてそれを解決したエンデヴァーとホークスの話で教室は持ち切りだった。エンデヴァーの活躍は、新たなNo.1に相応しく、オールマイトにさえ引けを取らなかったと思う。
私もエンデヴァーの戦いには胸打たれるものがあった。ただ同時に世間が「今の」ヒーローを見てくれるようになったのが嬉しい。あの日の混乱の最中、逃げることも忘れ、自分の思いの丈を語った通称「見ろや君」のおかげだ。ネット上では既に彼の言葉は話題になっている。反応も概ね肯定的なものばかりだったしね。
エンデヴァーの評価が変わっていくことに謎の誇らしさを覚えていると、遅れて教室に入ってくる人がいる。轟くんだ。
「轟くん、エンデヴァーの容態は?」
「あぁ、命に別状はないそうだ。」
「そっか、良かった。」
「自慢の父ちゃんだな!轟!」
「……そうだな。」
轟くんが肯定してる……
良かったですね!エンデヴァー!
あ、この足音は。
「おい、チャイムはとっくに……」
『………』
「よし。」
ギリギリセーフで着席完了、相澤先生のご登場だぞ!
「いつまでも浮かれてないで少しは自覚しろ。仮免許とは言え、お前らはもう公にヒーロー活動が出来る資格と責任を与えられている。そのことを忘れるな。……とは言え、2名ほど仮免講習で補習中の者もいるが。」
「……ケッ!」
爆豪はこんな態度だが、轟くん伝いに補習の進み具合を聞くとかなり順調らしい。このまま行けば順当に仮免許は貰えそうだ。そもそも実力を発揮出来れば2人の越えられない壁ではないし。
「今後、授業もギアを一段上げていくからそのつもりでいろ。さて今日のホームルームだが──」
相澤先生が言葉を切ったところで、教室内が警告灯の赤い光と警報音に満たされる。
〈緊急訓練、緊急訓練!想定、雄英高校敷地内にヴィランが侵入、ヒーロー科1年A組出動要請!コスチュームに着替え、現場に急行してください!〉
なるほど、今日はそういうパターンか。やる気が湧いてきたぜ。最近は実戦形式が少なくて体が鈍ってたところだ。
立ち上がって軽く肩を回す。みんなも用意はいいみたい。少し前までは抜き打ちの訓練なんてドタバタしてたが、仕上がってきたのかもね。
「ヒーロー科1年A組!出動だ!」
『おぉ!!!』
※ ※ ※
「グラウンドβにヴィランが侵入、現在判明している情報はそれだけだ。訓練であろうとも、俺たちは全力でこの任務に当たり遂行する!」
コスチュームに着替えて現地に集まる。グラウンドβに黒煙が上がっているが、飯田くんの言う通り「ヴィラン侵入」以上の情報はない。突発的事件を想定した実戦に近しい状況設定だ。
「まずは状況の把握からですわ!偵察班の皆さんはお願いします。」
早速、八百万さんが索敵能力に長けた口田くん、耳郎さん、障子くんに指示を出す。何が起きているのか分からないと始まらないからね。
「北東約900メートル、断続的な破壊音!」
「イヤホン=ジャックの報告地点に爆煙を確認!ビルが川に向かって倒壊、火災が発生している。周辺にヴィランは視認できない。」
「了解した。まずは現場の消火活動が必要だ。」
「分かりましたわ!」
偵察班からの状況報告を受け、八百万さんが「創造」を使い始める。いつぞやのプール組がタライでしばかれてたが些事だろう。ていうか、そのタライはどこから持ってきたの?
「時間がありません。消火班を編成して現場に向かってください、インゲニウム!」
「消火班か……ショートくん、アモルファスくん、来てくれ!」
「分かってる。」
「お任せあれ。」
「俺も行こう。」
「俺も!」「僕も!」
委員長からの指名を受け、八百万さんの用意したリヤカーに乗り込む。簡単に用意出来る乗り物で、飯田くんが引くにはピッタリだけど、それで運ばれていく私たちは中々に緩い絵面になりそう。
まぁいいか。火災と来れば私の個性が火を吹くぞ、水だけど。
「大変!川に流されてる人がいるって!」
「なんだって!」
「私たちの出番よ、グレープジュース。」
「おぉ!」
「よし、救助班も現場へ先行しよう!」
口田くんから新たな情報が入り、梅雨ちゃんと峰田くんが合流してくる。
え、このリヤカーに7人!?
「インゲニウム……ゴー!!!!」
はっっや!?落ちる落ちるーーーー!
あっという間に加速したリヤカーから慣性でぶっ飛ばされそうになった。安全バーなしのジェットコースターかと思った。その甲斐あって現場に一瞬で着いたけど、そこで本当にぶっ飛ばされた。受け身取り損ねてたら顔面から行ってたよ?危ない。
「ショートくん、頼む!」
「任せろ。」
「あ、え!!!」
「……ッ!」
言葉を挟む間もなく、火災は大氷塊に覆われ鎮火してしまった。
終わっちゃった……
う〜、悔しいけど飯田くんの判断が的確か。あそこまでの規模となると、轟くんに分があるからなぁ。いや、できるけどね?やろうと思えばね?
轟くん程の瞬発力は……はい、ないです。
「こっちは終わった。要救助者はどうだ?フロッピー。」
『見つけたわ!』
悔しがるのはそこそこに、梅雨ちゃんからの報告で川へと向かう。
「どこだ?フロッピー!」
「あそこよ!」
言われて目を凝らすと、中ほどをプカプカ流れる人影、が……
「アッハハハハハ!何故だが知らないけど、流されちゃってるんだよね〜!」
「ミリオさん!?」
「どうしてここに!」
「休学中のはずでは?」
「なんでだろうね〜、まずいね〜、ハハハハハ!」
笑ってる場合か!桃の持ちネタに命張りすぎでしょ!桃太郎じゃないんだぞ!?
正直、救助対象として全く心配にならない人選だけど、雑に川へ投げ込んで平気な人もあの人くらいだ。さっさと引き上げよう、このまま流されたら途中の崩落した橋にぶち当たる。
「流れを止めて時間を作る!救助は誰か任せた!」
「おいらが行く!投げ飛ばしてくれツクヨミ!」
「分かった。」
「私もお願い、シュガーマン。」
「おう!」
後ろで2人を投げる準備をしてる間に、私は川に手を付けて流れを掌握しにかかる。
仮免試験の時みたいに、操る必要はない。水が無くなったら川底に落ちて危ないし。
シンプルに、ミリオさんまで一直線で水流を支配下に……
──捕まえた!
その場に渦を作るようにしてミリオさんを取り囲む。さすがに上流からの流れに押されるが、スピードは格段に落ちた。
「行っけぇぇぇ!!!」
風切り音と共に梅雨ちゃんたちが射出される。そのまま峰田くんはもぎもぎで橋の崩落を防止、梅雨ちゃんが舌で絡めとってミリオさんは引き上げられた。
「偵察班、ヴィランの捜索状況はどうだ?」
『ダメだ、まだ発見できない。』
「そうか、了解した。」
こっちはある程度落ち着いたが、肝心のヴィランは発見出来てないらしい。障子くんたちの索敵能力が優秀とはいえ、グラウンドβは無駄に広大、手こずるのも致し方ない。
「そちらも引き続き頼──爆発!?」
「氷結で塞ぎきれてなかったのか!」
「ガス管でも爆ぜた?」
何か可燃物に引火したようで、対処したはずの火災現場から再び火の手が上がる。
こんなこともあろうかと、川の水流を掌握し続けていました!
「八百万さん!そっちで消火できる?」
『延焼は防ぎますが、火災が激しくそこまでは!なので消火班にお任せします!』
「了解!」
八百万さんとの通信を切り、土手へと駆け昇る。遠くに延焼を防ごうと奔走するA組が見えた。
あの分だと直ぐに終わりそう。こっちも派手なの準備しとかなくちゃ。
「ここをこうやって……よいしょ!」
支配下に置いた一定の水流を捻りあげるようにして纏める。水の柱が重力に逆らって形成されていくのは中々に爽快だ。最近は水の個性でデカいの使ってなかったし。
「飯田くん、向こうの退避終わってるー?」
「待ってくれ……よし、大丈夫だ!」
「オ…ッケー!」
目いっぱいの圧力をかけて放たれた水流が、街ごと火災を飲み込んで行く。あれだけ燃え盛っていた炎も見る間に鎮火していった。
「やるなぁ!アモルファスくん!」
「どもども。」
「あれって他に頼らなくても出来んのか?」
「出来なくはないけど……疲れる。」
「一長一短か、なんでも良いようには行かねぇな。」
「ね?」
体力を消耗するか、時間を食うか、場合に寄りけりだ。どっちも今後の課題ということで。
「ふぅ。」
これで一件落着と行きたいけど、訓練の想定は「ヴィランの侵入」だし、まだ気は抜けない。しかしヴィラン役なんて誰が買って出たんだろうか?
『気をつけて!何かが接近してくる!』
耳郎さんからの警告に緊張が走る。
んん?あの浮いてるの波動さんか!
『波動先輩だけじゃない、天喰先輩も来てるぞ!』
「まさかビッグ3がヴィラン役とは!」
「ピンキーが人質に……」
「ここからなら背後に回り込める。」
「行こう!」
揃って駆け出す。別行動組に2人が集中してる今が好機だ。
……ってまずい!!!
「全員警戒!ショートは氷壁!」
「……ッ!」
私たちが動いたのを見逃さなかった波動さんから攻撃が飛んでくる。反射的に轟くんの防御が間に合ったが、波動の威力に耐えきれず目の前で崩壊してしまう。
貫通こそしなかったけど、あのデカさの氷塊を難なく砕けるって……
悠長に走ってる暇はなさそうだ。
ビッグ3の2人に気を取られてる間にも事態は動く。
『あああ!?通形先輩また落ちやがった!お前らこっちヘルプ!』
崩落した橋の近くで水飛沫が上がる。ミリオさんを追って峰田くんたちも飛び込んだようだ。
「インゲニウム、行くか?」
「あぁ!人命優先、波動先輩は緑谷くんたちに任せて我々も救助に向かおう!」
「分かった。」
「動き出しは私が撹乱する。背後は任せて。3カウントでいくよー!3!」
私の合図に全員が用意に入る。
飯田くんはもちろんのこと、轟くんたちにも素早い移動手段はある。が、スピードに乗る前に隙を突かれたらたまったもんじゃない。ここは私が援護すべき。
「2!1!ゴーー!!!」
掲げた右手から大量の水蒸気を炸裂させ一帯を包み込む。煙幕から出る瞬間が危ないが、そこまでの加速にこの隠されてる時間は十分すぎる。
ビッグ3は任せたよ、みんな!
※ ※ ※
呑気にドンブラコしてるミリオさんを追って助けて、勝手に落ちて、また追いかけるを繰り返す。
この人を落ちないようにするには、下手に動けなくすればいいということにやっと全員が気づいた頃には、ミリオさんは4回目くらい落ちていた。
〈訓練終了、訓練終了!〉
グラウンドβに訓練終了を告げるアナウンスが流れる。
「はぁ、終わったーー」
「みたいだな。」
「あぁ、そうらしい。」
梅雨ちゃんの舌に絡め取られながら笑い続けてるミリオさんが恨めしい。一連の流れで何となく今回の訓練は、先輩たちがA組を鍛えようとしてくれてたのが察せたけどさ。色々耐性があるからって言っても冬の川に飛び込むのはちゃんと寒いですよ、先輩……
『まだだッ!』
誰かのインカムが拾ったか、爆豪の声がこっちにも聞こえる。
まだだって、もう終わりじゃないの?
『テッメェ!さっき手抜いたな?』
「落ち着きたまえ爆豪くん!何をそんなに興奮してるんだ!」
『……ナメた真似してんじゃねぇ!!!』
「てんで聞いてないな……」
何があったか知らないけど、めちゃくちゃな剣幕で怒鳴る爆豪はもう誰の声も聞こえてない。
『演じてようが!先輩だろうが!ヴィランはヴィラン!俺の、敵だァァァ!』
はぁ……
『死ねぇぇぇ!!!』
遠くに大爆発と謎の髑髏な煙が空に浮かぶ。どっちの先輩が殺られたのかわかんないけどご愁傷さまです。
「なぁ、爆豪のアレは何とかなんのか。」
「なってたらアイツの親は苦労してないよ……私もね。」
「全く!ヴィラン役とは言え、訓練相手の先輩を嬲るとは……!」
「爆豪ちゃん、今日は夕飯までに帰って来れるといいわね。」
「ははは、そうだね。」
梅雨ちゃんの言葉に曖昧に笑う。
──少なくとも職員室行きは確定だろうな。