過去編の小話を書いてみました。今までは本編に繋がるところだけを書いていたので、こういうオマケ的な話を挟んでみたかった。多分、今後も思いつく限りは書くと思います。今回もですが、思いついたら書く、というスタイルで小話はやってくので、他の描写とは矛盾が出るかと思いますがご容赦ください。
半分少女のヒーローアカデミア
とある日の休日、私は家の掃除がてら自室の本棚を整理していた。こまめな掃除はしているが、こういう細々としたところは疎かになってしまう。気づいたときに綺麗にしないと埃が積もる一方だ。
埃を払い、種類や順番がバラバラになっている本は整頓していく。読書が好きなので、今時の中学生にしてはそれなりの冊数を持ってると自負している。決まった好きなジャンルはないので割と雑多だ。小学生のときに読んでいた子供っぽいものから、少し大人向けな小難しい推理小説なんかもある。ホラー小説も好き、本物(疲れた相澤さん)を知っているので、作り物だと分かっている小説は純粋に文学として楽しめる。
「ん?……うわ〜懐かしい。どんな話だったかな……って危ない危ない。」
昔、繰り返し読んでた小説を見つけ、思わず開きそうになった。この手の掃除で1番恐ろしいのは、手に取った本をちょっとだけのつもりで開いて、そのまま読み込んでしまうことなのだ。
終わったら読もうと本棚に戻した時、その隣へ他とは装丁の異なる一冊を見つける。
「これ……」
掃除の妨げになるから戻したところなのに、我慢できず手に取ってしまう。この本はそれだけ特別な物だった。別に奇書や珍書といった変わった本じゃない。
普通の文庫本より大きく、分厚くはあるけど。
「日記の……それも一冊目だ。」
表紙にただ日記帳とだけ書かれている。しかし、そこへ添えられるように書かれた日付は私が相澤さんに引き取られた頃、雄英にやってきた頃のもの。
「リカバリーガールに書きなさいって渡されたんだよね。」
調子は良くなったとは言え、経過観察を要した私に彼女がくれたのがこれだった。その日の体調と三食の内容、一日にあったことを書くように言われたのだ。小さかった私は律儀に守っていたと覚えている。頻繁ではないが、今でも印象的なことがあった日は書いてたりする。
「……あの頃は大変だったなぁ。」
昔を懐かしみながら1ページ目を開いた。
※ ※ ※
小話1『カロリーバーとカロリーバー、そしてカロリーバー』
3月4日 晴れ
今日から相澤さんとくらします。お父さんお母さんと住んでた家はなくなりました。すごくさびしくて悲しいです。でも相澤さんとくらすのは少し楽しみ。新しい家は変わったにおいがします。しんちく、っていうってネズミの先生が言ってました。校長先生はえらいらしいです。相澤さんがペコペコしてました。
体調
ちょっと熱いです。相澤さんはつかれたからって言ってました。
ごはん
朝昼夜カロリーバーとゼリーでした。ボソボソでした。相澤さんはすきみたいです。
※ ※ ※
1日目が終わった。初めて書いたから内容が少ない。今思い出すともっと色々あったはずなんだけど、子供の語彙力じゃ書ききれなかったか。
やっぱり生まれ育った家を出なければならないというのは、子供ながらに辛かったなと思う。思い返せば、私は実家から物を持って来れなかったんじゃなくて、持って来なかったのだった。
両親を思い起こさせる物が身近にあると哀しくなってしまうと分かっていたから。
必要最低限のものは周りの大人が選んでくれたが、本当にそれだけだった。他のものや家財は雄英の立ててくれた代理人が処分したり、売却して私の財産としてくれたらしい。新米教師が連れてきた見知らぬ子供に随分手厚くしてくれたと思う。一生かけても返しきれない大恩だ。
にしても、この時の私は割と楽観的だな。まだ10歳にもなってなかったはずだから、新生活にあれこれ不安を抱けというのも無理な話かもしれない。それでも呑気に部屋の匂いが変わってるとか書いてる。日記にはないが、根津校長との初対面でデカイぬいぐるみだと思って抱きついてたりしたっけ。
「うん、あれはびっくりした。」
ぬいぐるみが喋ったと思ったら、自分から動くんだもん、そりゃビビる。相澤さんの元にすっ飛んで行って、足にしがみついて隠れたし。
「でも、この食事はないよねぇ……」
カロリーバーとゼリー、しかも三食全部とか。今では信じられない内容に頬が引き攣るのを覚える。病院食でももっとまともなのが出てたのに、相澤さんは何も感じてなかったというのだから恐ろしい。私もそういうものだと思って受け入れてたのがダメだった。美味しくないとは思ってたが。
「色々あったからしょうがないか。」
子供のくせに人生絶望してたとかではない。ちゃんと喜怒哀楽はあったし、感性が死んでたわけでもない。ただ、落としたものが多すぎて無頓着になってた自覚はある。
そのせいで、食事を含めたあらゆることに2人して「教育」されることになったんだけども……
※ ※ ※
「イレイザー、こりゃなんだい?」
突然、家にやってきたリカバリーガールに正座させられ始まった会話。雄英での生活が始まって2週間、少し新生活に慣れてきたところでこれだ。
床に置かれた日記帳を見る。水穂が婆さんに言われて書いてるものだな。目の前でソファに腰掛けた婆さんがしかめっ面してる理由と日記帳の関係がさっぱり分からない。一応サボってないか見てるが、水穂は疎かにしたこともウソを書いたこともないはずだ。
「なんだと言われても理解しかねます。」
「……重症だね。」
「水穂がですか?」
「お前さんだよ……」
俺が、重症……?至って健康体のはずなんだが。
リカバリーガールは頭が痛そうに額に手を当てている。全く話が見えてこないな。
「おばあちゃん頭痛いの?」
「ありがとう、大丈夫さね。まだイレイザーと話があるからお前さんは本でも読んでおきな。」
「わかった。」
「良い子だね。」
2人の会話が終わるのを座して待つ。婆さんは水穂の頭を一撫でしてから俺の方へ向き直った。さっきよりも目付きが鋭い。
「イレイザー、毎日毎日カロリーバーとゼリーを水穂に食べさせてるね。同じものばかり……どういう神経してるんだい。」
「ずいぶんなことを言いますね。味は毎回違います。」
「はぁ………私はこの子の前じゃなかったらお前さんを引っぱたいてたよ。」
「引っぱたく。」
なぜ、なぜ俺はこんなにも怒られているんだ?
「あのね、水穂はまだ子供、育ち盛りなんだ。お前さんと違って日々に必要なカロリーも栄養素もたくさんある。」
「それは分かってます。足りない分はサプリメントで補いますよ。」
「……そういうところが重症だって言ってるんだよ、イレイザー」
リカバリーガールの表情が険しくなった。俺はどうやら地雷を踏み抜いてしまったらしい……
「いいかい、食事は「教育」だよ。教師のアンタがそれを疎かにしちゃいけない。」
「教育……」
「そうさね。食事を通して子供は食べること、作ることの楽しさ、食というものへの感謝を学ぶんだ。それは最も基本的な情操教育、この子に今一番必要なものじゃないのかい?」
「………」
ピシャリと言われてしまった。遅まきながらリカバリーガールの言わんとすることが分かる。教育者が教育を怠っていた、それも最も身近な、自身が大きく責任を背負う子供の。
たかが食事ではない。なんという体たらくだろう。
まだまだ半人前とは思っていたが、これほど己の未熟さを恥じたのは久しぶりだ。
「どうやらわかったみたいだね。」
「……はい。」
「そう気落ちすることもないさね。初心者なら誰だって失敗くらいする、そういうときに私ら年長者がいるんだ。」
「ありがとう、ございます。」
「いいんだよ。これからはちゃんと一緒にご飯作って食べて……そうだね夕食なら今日あったことをお互いに話してみるんだね。」
「そうしてみます。」
「よろしい。」
そう言ってリカバリーガールは今日初めて優しい顔を見せた。もう言いたいことは伝えたと足早に帰ろうとする彼女を玄関まで見送る。扉が閉まり、杖をつく音が遠ざかってから俺は大きくため息を吐いた。
リカバリーガールが来てくれなかったら、俺は今の食生活に何も疑問を抱かなかった。彼女の言う通り水穂はまだ多感な時期だ、周りの影響を良くも悪くも素直に受ける。俺が信奉する合理性は必ずしもこの子のためになるとは限らない。
不合理さ、地道な遠回りが与えてくれる多彩な経験こそ、幼い子供には必要か。
「相澤さん、怒られちゃった?」
「……ん?」
服の裾をクイクイと引かれる感触に振り返る。そこには本を小脇に抱えた水穂がいた。ずいぶん熱中して読んでいたが、俺を心配して様子を見に来てくれたらしい。
「大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だよ。リカバリーガールがくれた本、面白かったか?」
「うん!」
嬉しそうに本を胸に抱く水穂を見て、何とも言えない気持ちになる。愛らしくも思うが、それ以上に申し訳ないと思った。
本当にまだまだだな……
もっとしっかりしないといけない。水穂を引き取ったのは俺の身勝手だが、そうした以上は果たす責任がある。この子が自分で胸を張って生きていけるように育てる責任が。
だがしかし困った。飯を作れと言われても俺の部屋には食材どころか、まともな調理器具も調味料もない。冷蔵庫があるだけ俺にしては上等とも思うが、これはそもそも職員寮の備え付けだ。今から諸々を用意するわけにもいかない。……ここは素直に人に頼るか。
「水穂、今日は食堂に行こう。」
「食堂?……あ、ランチラッシュのご飯食べれるの!?」
「そ、そうだな。」
「やったーーっ!」
ぱぁっと顔を綻ばせ大喜びする水穂に若干気圧される。確かにランチラッシュの料理はプロの店で出てくるようなクオリティだが……外食に行ける子供というのはこんな感じなのか?
子供を理解するのは難しいと思ったところで答えを突きつけられる。
「晩御飯はボソボソじゃないんだね!」
「………そういうことか。」
水穂……お前、普通にあの食事嫌だったんだな。
ついでにランチラッシュから簡単なレシピでも聞くか……
※ ※ ※
「ふふ、あの時の相澤さんのしょんぼりした顔、面白かったなぁ。」
私が相澤さんと同じ合理性の塊みたいな食事をしていたことにリカバリーガールから雷が落ちたことがあった。大人が大人に怒られているというのは子供にしたら新鮮でびっくりした。いつも固い表情をしてる相澤さんが見るからに落ち込んでたので可哀想って思ってた。今となってはレアな表情すぎて笑っちゃうけど
あの日からというもの相澤さんはしばらく料理を頑張っていた。無い時間を削って不慣れな台所に立つ姿……残念ながら打率はあまり良くなかった、と思う。現状、私が料理だけじゃなく、あらゆる家事を担っていることを見れば結果はお察しだろう。
確か、いつからか私もランチラッシュが開くお料理教室に混ざるようになったのが全ての始まりだった。段々と私のできることが増えていき、相澤さんの料理スキルを上回ってしまったのだ。大人と子供では飲み込みの早さが違うねとランチラッシュに言われ、相澤さんの眉間のシワが3割増しになってたのを覚えてる。
思い返せば悲しい現実すぎる。相澤さんだって頑張ってたのに……教師をしてヒーローをして私の世話もして、そこから更に家事を覚えろというのがそもそも酷な話ではある。体は1つしかないし、時間は有限なのだ。丸一日、ほとんど暇してる私の方が上達速度が早いのは当然。決して相澤さんが不器用なわけじゃない。
1年経つ頃に適材適所だと言って自分を納得させてた姿は見ていて申し訳なくなったけど……
※ ※ ※
小話2『雄英の怪』
9月20日 曇り
最近、お勉強ばかりです。お勉強は嫌いじゃないけど、そればっかりは面白くないです。あんまり私は外に出られないって相澤さんが言ってました。よくわかんない。
体調
今日はずっと平熱でした。
ご飯
朝はご飯とお味噌汁、焼き魚にしました。魚はちょっと焦げちゃいました。お昼はおにぎり、シャケです。晩ご飯はカレーにしました。甘口です。
※ ※ ※
「お、この頃か……」
時間は一気に飛んで9月の日記に入る。私が三食を全部作るようになった時期だ。まだ最後の抵抗として洗濯物は自分で回してたが、既に掃除も私がやるようになってた頃。
「立場の逆転早かった。」
大人の意地か、中々、私に全部を任せてくれなかった。保護者が世話してる子供に世話されるのは……うん、確かに辛い。「嫌になったらやめていいからな」とよく言われてた。今でもそうだけど、小さい時から私は家事が嫌いじゃなかったし、割と楽しんでた。新しいことを覚えるのは面白いし。
でも楽しんでたにしては、日記内の私は少し不満気な様子だ。勉強も昔から好きな方だったはずだけど……インドア派でもあったしなぁ。流石にずっと家の中だとつまらなかったんだろうか?
「どうだったかな?」
うーんと首を捻り、この頃の自分が何を思ってたか思い出してみる。
※ ※ ※
「ねぇ、知ってる?」
そんな口調で話されるのは、そう噂話。
ゴシップネタ、真偽不明な誰かの噂、都市伝説、etc……
そして今回の話題は都市伝説、学校の怪談。
「……最近、子供の影が出るんだって。」
よくある学校の七不思議。
踊り場の鏡、開かずの教室、トイレの怪、音楽室のピアノ、それに似た怪談が雄英高校にもあった。先進的な部分が大きいこの学校で、怪談という非科学的な話は、本来ならあまり流行らない。科学、学問の徒であるサポート科や経営科はもちろんのこと、日々をカリキュラムに忙殺されるヒーロー科には、噂話にうつつを抜かす暇はない。普通科でさえ、全国でも有数の偏差値を叩き出す学科である。
しかし、噂は立ち消えることなく、根強く広まっている。それは怪談にしては多すぎる目撃情報にあった。時間帯を問わず、学年、学科、クラスを問わず、必ず誰かしら見たことがあるという。
曰く、早朝に登校したら昇降口に消えていく人影が正門から見えた。
曰く、授業中なのに生徒でも先生でもない人が敷地を歩くのを見た。
曰く、放課後に人がいないはずの教室から誰か覗いていた。
曰く、夜に忘れ物を取りに来たら、廊下の曲がり角に子供が消えていった。
曰く、曰く、曰く……
そして、それは『青白い髪をした女の子』だったと誰もが口を揃える。本物か分からないが、「何かいる」と雄英生の多くが確信していた。
※ ※ ※
「ごちそうさまでした。」
手を合わせ、空になった弁当箱を片付ける。食後の心地よい満腹感が体を弛緩させる。今日も美味かった。
……俺が誰かに弁当を作ってもらう日が来るなんてな。
普通なら独身男に春が来たと思われるが、実態は大きく異なる。確かに同棲している女性に作ってもらってはいる。まだ10にもならない女の子、自分が保護しているはずの、と注釈を付けなくてはいけないが。……さすがに色々と情けなくなってくる。
「おう、イレイザー!昼は終わったのか?」
肩を叩き、馴れ馴れしく話しかけてくるのは、元同級生現同僚。
「相変わらずやかましいな、マイク。」
「そういうなよ!今日はあれだろ?作ってもらったんだろ?見りゃ分かるぜ。」
「……まぁ、な。」
「そんな渋い顔すんなって!俺は羨ましいぜ?家帰ったら温かい飯が出てくるってのは。」
「お前、わかって言ってるだろ。」
「HAHAHAHAHA!」
誤魔化すな、肩を叩くな。
「あー、そうそう!それで思い出したんだがよ。聞いたか?最近、生徒がしてる噂話。」
「噂話?なんだそれ。」
「女の子のお化けが出るらしいぜ。」
「意味がわからん……いるわけないだろ。」
「それがそうでもないらしいんだわ!」
そう言ってマイクが語り出したのは、雄英に「女の子のお化け」が出るという噂。普段、部外者が敷地内にいることはないし、万が一迷子や悪戯で入ってきた子供がいたとしても守衛が正門で対応している。ましてや校舎にまで見知らぬ子供が歩き回っているというのはありえないのだが……
多い、多すぎる。学校中のありとあらゆる生徒から目撃談が上がっているのは不自然だ。ただの作り話とは思えない。敷地のどこかに知られてない抜け道があるのだとすれば大問題になる。
校長にでも進言しようかと考え、マイクの話を途中から聞き流す。しかし、その中で零れた一言は聞き捨てならなかった。
「……マイク、お前今なんて言った?」
「ん?あぁ、その女の子が青白い髪してたってとこか?」
「そうだ。それ、間違いないんだな?」
「俺は見たことないから知らねぇけど、見たっつう生徒はみんなそう言ってたぜ。」
「そうか……」
唐突に目眩と頭痛がしてきた気がして眉間を揉む。
確かに雄英に見知らぬ子供がいるというのはありえない。ありえない、が俺は1人だけ心当たりがあった。常に雄英にいて、出歩こうと思えば出歩ける噂と合致した特徴を持つ子供に。
──水穂か……
間違いがあってはいけないと、1人で出かけないように言い含めていたんだがな。
「どうしたイレイザー、寝不足か?」
「いや、噂話の正体がわかってな。」
「おいおい、んなの誰かの作り話に決まって……」
「水穂だよ。」
「あ?」
「お化けの正体は水穂だ。」
「…………お前、婆さんにどやされるぞ。」
「やめろ、余計に頭が痛くなる。」
リカバリーガールに正座させられ懇々と説教されたのを思い出す。いい歳してあんな情けない目に遭うのは懲り懲りだ。
しかし、水穂が俺の見てないところで抜け出してたとはな。子供の考えは分かりかねるが、そこにはちゃんと子供なりの理由がある。ましてや水穂は約束を破るような子じゃないだろう。
恐らく、俺の監督不行届だ。
何かストレスを溜めるようなことがあって今回のことが起きた。帰ったら話を聞いてやらないといけないな。
※ ※ ※
「……ふぅーーー」
あぁ、思い出した。
日記を閉じて、眉間を揉む。やらかしの記憶で頭痛くなってきたな。
この頃の私に何があったのかと言うと、日記にある通り外へ出られないのが大変不満だったのだ。理由ももちろんある、夏まで大人しくしていたのにも関係してる。
確かそれはよくある季節のニュースなんかで、夏休みシーズンの話題が上り、私と近い年頃の子が楽しそうに遊んでいるのを見てしまったから。そうなると今まで気にもしていなかった自由に出歩けないことに不満が出てくる。なんでみんなは外に出られるのに私は出られないの?、と日々悶々としていた。
しかし、相澤さんとの「1人で出歩いてはいけない」という約束がある。いつも忙しいので、ワガママを言ったら困らせると思った私は1つ妙案を思いついた。
要は、出かけてもバレなければいい!
……なんて子供らしい浅はかさ、恥ずかしい。
相澤さんは教師の仕事で雄英にいたとしても生徒に付きっきりか、机仕事でほとんど職員室にいると知っていた。教師というのはそういうものだと聞いていたから。なので、私は相澤さんの目がないであろう時間に目星を付けて雄英内を徘徊することにしたのだ。
自称完璧な作戦にウキウキしながら雄英を歩き回っていたが、どこであろうと意外と人の目はあるもの、バッチリ生徒に見られていたわけである。そこから「女の子のお化け」という噂が広まり、最終的にそれを耳にした相澤さんにバレてしまった。
約束を破った私にその理由を聞きに来た相澤さんの姿は、今思うと胸が苦しくなる。人の信頼を裏切ったことには違いないから。まぁ、当時の私は完全に爆発した不満で泣いて喚いて、相澤さんを大変困らせたんだけども。
でも、抜け出したことへの怒られは発生したけど、相澤さんは定期的に私を外に出してくれるという提案してくれた。それこそは、今なお続く個性訓練。子供をあやすのにはちょっと味気なさすぎるが、改めて考えると割と合理的な気もする。私をおいそれと外に出せないのは個性が不安定だからで、私が不満を募らせたのは幼少期特有の有り余るエネルギーを発散する先がなかったからだ。だから個性訓練は、私を外に出すという目的を果たしつつ、個性の制御を学ばせ、適度に体も動かせるという一石三鳥、まさに合理的。
「おかげで中学校には通えてるわけだからありがたいよね。」
面白い出会いもあったし、ごねた昔の私はもしかしたらファインプレーだったのかも。
いや、生きた爆弾みたいな体でフラフラ出歩いてたの反省しろって?
……はい。
「っと、一旦ここまでしなきゃ。」
懐かしくてついつい読んじゃったけど、掃除の途中だった。続きは終わってから読もう。
閉じた日記を机に置き、私はまた本棚の掃除に戻る。
次はどんなことが書いてあったかな?