……無理やりだ。
半分少女と対抗戦1
半分少女のヒーローアカデミア
雄英高校の保健室、消毒液の香り漂う清潔な一室。
私は椅子に腰掛け、ガックリとうなだれていた。
「午後の演習は諦めな。」
「どうして……どうして……」
あまりに無慈悲すぎる一言だ。
右腕にはめられた硬ーいギプスを擦る。
「そりゃ、右腕がポッキリ折れてるんだから無理さね。」
「でもリカバリーガールなら治せるじゃないですか!」
「だってあんたのは完全骨折だよ?もちろん私の個性なら完治させられるけど、結局体力を削るから運動なんて出来やしないさ。」
「が、頑張れば何とか!」
今日の、今日のヒーロー基礎学だけは欠席したくない。対面のリカバリーガールに縋る。そんな私に彼女はため息を一つついて向き直った。
「まぁ、若いから昼まで大人しくしとけばある程度動けるようになるだろうね。それでも万全とはいかない、本調子じゃない奴が出張って来て足を引っ張るつもりかい?ましてや今日あるのは普通の演習、緊急事態でもないのに。」
「うぅぅ……」
「悔しいのは分かるけど医者としては許可できないよ。恨むなら自分のドジを恨みな。そして反省すること。」
「……はい。」
もう話すことはないよ、とリカバリーガールに退室を促され、私はとぼとぼ歩きながら保健室を後にする。
「はぁ、しくじったなぁほんと。」
なんで私が右腕をポッキリやったのかは、今朝まで遡る。
※ ※ ※
「ふんふんふーん♪」
今日も今日とて素敵な授業日和、午後からはヒーロー基礎学もある。だが、今回のそれはいつも以上に特別なのだ!
「A組、B組の対抗戦かぁ。B組とやり合うのは体育祭以来だし。」
ヒーロー科1年同士で実力をぶつけ合う。楽しみすぎて鼻歌の1つも出てしまうのはしょうがない。
「……でさ、それが超面白いのよ!」
「分かった分かった。お前の蘊蓄は。」
教室に向かって階段を登っていると何人もの生徒とすれ違う。その中で雑談しながら降りてくる男子生徒が何となく目に付いた。何やら盛り上がっているみたいだけど、他科の人なので面識はない。特に気にすることもなく登り続ける。
「お前ちゃんと前見て歩けよ、危ねぇから。」
「大丈夫だって……うぉ!?」
「ほら言わんこっちゃない、って後ろ!!!」
「きゃああ!」
注意されていた方が案の定段差を踏み外し、これまたタイミングの悪いことにその前を歩いていた女の子にぶつかってしまう。後ろからの衝撃にその子は抵抗する間もなく、バランスを大きく崩すのが見えた。
「……ッ!」
咄嗟に飛び込んで体を抱きかかえる。私が受け身を取れなくなってしまうが、首を引いて頭だけは守る。背中に2人分の体重がかかったけど、落ちた高さが大したことなくて思ってたより軽い衝撃で済んだ。
「あ、危なかった──」
「うわあああ!?」
「ちょ、追加!!?」
私が起き上がるよりも早く、転けた男の子の方も落ちてくる。抱えてる子をどかす暇もなかったので、何の考えもなく手を伸ばす。
──それがいけなかった。
「ッ!?あ……ぁあ!!!」
差し込んだ右腕が鈍い音を立て、そこが燃えるように熱くなる。
痛〜〜ッ!折れた!絶対今の折れた音した!!!助けた子の体と階段の位置が絶妙過ぎる。綺麗すぎる流れでボキッていった!!!
「ね、ねぇ、あなた大丈夫?」
「折れました……」
「折れた!!?ちょっとそっちもいつまでもたれてるの!」
朝の雄英高校、その踊り場がにわかに騒がしくなる。私たちだけじゃなく、物音や怒鳴り声を聞いてなんだなんだと野次馬が集まってきた。
もう痛すぎて逆に落ち着いてきた。誰かがリカバリーガールを呼びに行ったのを横になりながら眺める。
「今日は……遅刻だなぁ。」
ま、遅刻じゃすまなかったんですけどね。
※ ※ ※
というわけで、現在地は運動場γである。対抗戦の会場はここだ。
そして私は見学だ……
「ついにこの時が来たーー!ワクワクするねぇ!」
「葉隠、寒くないの?」
「めっちゃさむーい!」
「根性だね。」
「私も冬仕様!かっこいいでしょうが!」
「いいなぁ……」
冬用のコスチュームに着替えたA組が段々と集まってくる。
「さすがに寒くなってきたからね。」
「入学時と比べると、だいぶみんなのコスチュームも様変わりしてきたな!」
「飯田、それで夏耐え抜いたの凄いよなぁ。」
「いいなぁ、いいなぁ……」
私は制服……
「あ、かっちゃんも変えてる。」
「あぁ!?文句あんなら面と向かって言えや!クソナードがッ!」
「そのスーツ、防寒発熱機能付き?汗腺が武器のかっちゃんにとってとても理にかなった変更で素晴らしいと思……」
「褒めてんじゃねぇ!!!」
「爆豪うるさい。」
「はっ、腕折ったマヌケの声は聞こえねぇなぁ?」
「がるるるる!」
喉笛噛みちぎるぞ。この爆発さん太郎がよォ……
「おいおい、まぁ随分とたるんだ空気じゃないか。僕らをナメているのかい?」
「あぁん?」
「来たな。ワクワクしてんだよ。」
「フッ、そうかい。でも残念、波は今僕たちに来てるんだよ。」
砂煙の向こうからゆったりと歩く集団、その先頭に立つ人物。
この高慢ちきで嫌な喋り方をするやつは1人しかいない!
「さァ!A組!!!今日こそ白黒付けようかァァ!!!」
出たなB組、物間寧人!
「まぁ?文化祭以来、A組の悪目立ちの状況は変わりつつある。しかもしかも?対抗戦の当日にィ!ドジ踏んで腕を折ったァ!なっさけない頓馬いるらしいんだよねぇぇぇ!!!」
「があぁぁぁ!お前ぶっ飛ばす!!!」
骨折した腕の事も忘れて物間に掴みかかる。
お前は私を怒らせた。バースデーケーキのロウソクのように綺麗な火を灯して焼いてやる!!!
「火葬まできっちりやってあげるから感謝しろ!!!その後は水葬だッ!……ぐぅ!?」
「嫌だねぇ、これだから野蛮人は……カハッ!?」
「お前ら黙れ。」
首元にするりと伸びた捕縛布にお互いの動きが止まる。
あ、相澤先生!?
ちょ!あの!首!!!これ首が締まって、締まってるから!!?
「今日は特別参加者がいます。」
「しょうもない姿見せないでくれ。」
私たちが大人しくなったのを見計らって先生たちが話を始める。し、死ぬかと思った。
……何やら今日の演習はヒーロー科以外から参加者がいるらしい。
「特別参加者?」
「倒す!」
「女の子?」
「「一緒に頑張ろうぜ!」」
いつもはないことなので特別参加者が誰かはみんなも気になっている。
「ヒーロー科編入を希望してる──普通科C組、心操人使くんだ。」
そう紹介されて現れたのは何時ぞやの心操くんだった。ヒーロー科編入希望か。格好こそは体操服だけど、謎のマスクに……あれは相澤先生の捕縛布じゃん。
はっはーん。最近、先生が誰かとコソコソしてたのはそういうことか。
「会話すると洗脳されちゃうんだよね。」
「初見殺し……」
「でもさ、緑谷かかったけど解いてたよな?」
「体育祭のときそんな事あったね。」
「正直、まぐれ破りだけどね。」
「ふーん?」
はぐらかすような雰囲気の緑谷くんに視線を向ける。
まぐれ、ねぇ。
「心操、一言挨拶を。」
相澤先生が心操くんに挨拶を促す。体育祭の頃は相当切羽詰まってたみたいだけど、今の彼はなんて言葉を話すのか。
「心操人使です。体育祭で何名かは接したけれど、拳を交えたから友達とかそんなスポーツマンシップ掲げられるような気持ちのいい人間じゃありません。俺はもう何十歩も出遅れてる。悪いけど必死です。俺は立派なヒーローになって個性を人のために使いたい。この場にいるみんなが超えるべき壁です。馴れ合うつもりはありません。」
最後によろしくお願いしますと言って彼は締めくくった。尖ってこそはいるけど、体育祭みたいな険はない。騎馬戦で尾白くんたちを一方的に利用したり、緑谷くんを怒らせて蹴落そうとしたりしてた頃とは変わったみたいだ。直接やり取りしてない私でもそう感じるなら、あのとき相対した2人は尚更だろう。
「おぉ、ギラついとる!」
「引き締まるな。」
「まるで初期ろきくんを見てるようだぜ。」
「そうか?」
「あぁ。」
「ふふっ、初期ろきくんね。」
似てなくはないね、確かに。
※ ※ ※
「では演習の説明を始める。今回はA組とB組の対抗戦、舞台は運動場γの一角だ。双方4人組を作り、1チームずつ戦ってもらう。」
ブラキン先生からの説明が始まる。私は見学だけど一応ルールは頭に入れている。ちゃんと全試合見て、見学は見学なりに糧を得ないとね。
「心操を加えると42名、A組が1人見学だそうですから41名ですか。この半端はどう解決するのでしょうか?」
「心操を2回参加させる。A組、B組のチームそれぞれに1回ずつ。つまり5回中2試合は5対4の訓練となる。」
「そんなの4人組が不利じゃん!」
「元々は心操がどちらに入っても5対5になるよう調整する予定だったんだがな。ほぼ経験のない心操を4人組に組み込むのも不利という判断でもある。」
「すみません。腕折ってすみません。」
余計な手間を増やしてすみません……
「5人チームは数的有利を得られるがハンデもある。状況設定はヴィラングループの捕縛に動くヒーロー、4人捕まえた方が勝利となる。」
4人チームは全滅でアウト、5人チームは……なるほどなるほど。捕まえた判定は自陣の「激カワ据置プリズン」に入れたらOKか。ポップな見た目の割に懲役が約10万年って……
「4人捕まえた方……ハンデってそういうことか。」
「あぁ。慣れないメンバーを入れること、そして5人チームでも4人捕まったら負けってことにする。」
「お荷物抱えて戦えってか。クソだなッ!」
「ひでぇ言い方やめなよ……」
「いいよ、事実だし。」
「徳の高さで何歩も先に行かれてるよ!」
自分が格下だと思ってる相手への発言が相変わらずだね。先生が鍛えてたなら足だけ引っ張って負けるなんてことにはならないと思うけど。捕縛布の扱いに慣れるのは流石に数ヶ月じゃキツイだろうし、個性を伸ばして秘策を持ってきてると見るべきか。マスクも気になるし。
対戦カードを決めるため、みんながクジを引いていくのを眺める。結局、心操くんは1試合目の梅雨ちゃんチーム、5試合目の物間チームに入ったらしい。どちらもブレーンになる人はいるし、特に物間は人を上手く使うだろう。嫌味な奴だが、参謀として抜群に頭が切れるのは疑いようがない。
相手が決まった1試合目のチームがそれぞれ配置に着くため、運動場内に散っていく。
「洗脳」という強力なカード、どちらの組にも属さない唐突に配られた手札を如何に活かせるか。そこが勝敗の分かれ目になるな。
「では第1試合!──スタートッ!!!」
ブラキン先生の合図で開始のブザーが鳴る。
どっちのチームが勝つか楽しみだ。もちろん応援してるのはA組だけど。
でもやっぱり
「私も出たかったなぁ……」
治ったら受け身の練習しよ。